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◆6

ブックマーク数が気づいたら600を越えていました!

ありがとうございます!


「ローズマリー!聞いてちょうだい!」

「まぁ、走ってはいけませんわ、ミレーユ様。相変わらずお元気ですね」

「私は元気が取り柄だからいいのよ!それより、前火傷したといっていたわね、見せてみなさい」

「火傷ですか・・・火傷の後は大変醜く、ミレーユ様にはとても見せられませんわ・・・」

「いいからいいから!ここには私たちだけしかいないし、脱いで脱いで!」

「きゃぁっ」

「まぁ・・・これはひどい・・・」


 ミレーユは思わず息をのんだ。一か月程前、ローズマリーが床掃除をしていた時に熱湯を持った他の侍女が転び、ローズマリーの背中に大きな火傷の跡が出来たのだ。しばらく休業していたが、仕事を休むと実家への仕送りが送れなくなるからと、早々に復帰していた。

 ミレーユは彼女の背中にそっと手を這わせ、そして包み込むように両手をかざした。


「お願い、お願いよ。こんないい子が苦しむなんて、私には耐えられないわ・・・」

「ミレーユ様・・・?」


 ミレーユの手のある場所から光があふれ、ローズマリーの背中が温かくなった。


「出来た・・・出来たわ、ローズマリー!背中を見て頂戴!」

「ミレーユ様、いったい何を・・・え!?傷が・・・!」


 鏡で自分の背中を見たローズマリーは、背中の傷がなくなっているのを見た後でぽろぽろと涙を流し始めた。


「火傷の傷が出来たとき、女として生きていくことはもう叶わないのだと、毎日泣きました。ここ一か月は働いていても本当に苦しくて・・・ミレーユ様、このご恩は一生忘れません。例え何があっても私はお使い続けることを誓いますわ」

「そんな、気にしないで頂戴。私はいつもお世話になっているお礼がしたかった、あなたの苦しんでいる顔が見たくなかった、それだけなのよ」

「それだけなんてことございません!私なんかの為に高貴なお力を使ってくださるなんて・・・ちなみに、つかぬ事をお伺いしますが、この治癒魔法もルシウス様に教わったのですか?」

「違うわよ。ルシウスは私に基礎的な魔法しか教えてくれないの。だから私誰にも内緒で本を読んで勉強したの。なかなかうまくいかなくて一か月もかかっちゃったわ・・・あなたが苦しんでいたのに、遅くなってしまってごめんなさいね・・・」

「とんでもありません・・・!それに、遅すぎるなんてことありません!まさか私の為に習得して下さったなんて・・・大変ありがたいです。そしてこのことを知っているのが私のみで本当によかったです。ミレーユ様、私と約束してください。治癒魔法が使えることは誰にも言わないと」

「え、なんで?まだ単純な怪我しか治せないけど、これが使えればもっと多くの人たちを救ってあげることが・・・」

「ミレーユ様のお考えは素敵ですし、賛同いたします。しかし、治癒魔法を習得出来る者は国でも数えるほどしかいなく、また稀少な存在なので狙われやすいのです。公表している方々はいずれも自己防衛のできる方々ばかりですが、今のミレーユ様にはそこまでのお力はないはず。どうか、ご自身を大切になさってください・・・」

「・・・わかったわ。あなたの忠告を聞きましょう」










 久しぶりに過去の夢を見た。最近見ていなかったのに。

 私のことをとても慕ってくれていた侍女・ローズマリーは日頃からとても良くしてくれていたけど、呪いをかけられた前後からそういえば見かけなかった。他の侍女に聞いたら実家でご不幸があったとか言ってたけど、元気かしら・・・


 当時の知り合いには最後に罵倒を浴びせられた記憶ばかりだから、最後まで優しかったローズマリーのことを思い出して気分が良くなった。いつもより少し早い起床だが、気分がいいのでそのまま起きてしまおう。


 今日の気分を考えていつもの作業用ワンピースではなく新しく買った青いワンピースを着る。すると気持ちお腹が苦しくて無性にイライラした。


「せっかく気分がよかったのに!本当に呪いには腹がたつわ!」


 私の魔力を封じる呪いと体形変化の呪いは複雑らしい・・・師匠も腕の立つ魔法使いだと思うが、師匠は魔法薬の方に長けているので、あまり魔法は得意じゃないと言っていた。今は魔法を教えてくれているけど、それなりに教えたら魔法に長けている人から魔法を教わったほうがいいとも・・・

 今の自分に魔法を教えてくれるような人がいるかも疑問だが、どちらにせよ、早く魔法を覚えて呪いから解放されたい。


 とりあえずいつもの作業用ワンピースに着替え、青いワンピースは拡大魔法を後でかけることにする。部屋を出て仕事場にいっても師匠の姿はなかった。







「いらっしゃいませー」

「こんにちはー。あら、今日もミレイちゃんがお店番なの?」


 常連のお客さんが来て体にいい薬草ティーを手に取りながら、世間話を始めた。


「師匠は今部屋に思ってお仕事中ですー。おかげ様で店番ですよー」

「あら、そしたら街にいったら?今隣国の王子様が来てるらしいわよ?お城に行く途中みたいなんでけど、とってもイケメンさんで、街の女子たちは今みんな夢中なの」

「へー。それは見てみたいなぁ」


 隣国といったらマルスかしら?と頭に顔見知りの王子を思い浮かべる。マルスとは年の近い王子というだけあって、小さいときから交流があった。国が違うので頻繁に会ったりしたことはないが、何かと交流会がある度に一緒に遊んだのだ。明るく活発なマルスは、ミレーユの兄のような存在だった。


「いいですねー。でも店番があるからなぁ・・・夕方くらいに行けたら、行ってみます」

「そうしなさい!ここにいると出会いなんてないからね、お師匠さんみたいに売れ残っちゃうわよ!」

「あはははは~」


 マルスには会いたいが、公務として来ているなら一人ではないだろう。今の自分の存在が隣国にとって、この国にとって、そしてマルスにとってどのような状況かわかってない以上迂闊に会う訳にはいかない。マルスならこの姿を笑ってくれるだろうな。そして、その後心から心配してくれるんだろうな。


 早くこの状況をどうにかしたい―――幼馴染の顔を思い浮かべて、溜息をつきながら魔法の勉強を始めた。
















 師匠はその日の夕方に部屋から出てきた。


「おい、聖水買ってこい」

「はい!?もう日暮れちゃうんですけど!?」

「おお、気を付けてな」


 こいつ、私が一応女子ってこと忘れたのか・・・

 しかし師匠はすぐにまた部屋に戻ってしまった。もう店をしめた私がまだ仕事をしている師匠に自分で買いに行けとも言えないし、仕方なく急いで余所行きの服に着替える。以前出かけるとき用に着ぐるみの代わりにつくってくれたマントを羽織り、身支度を済ませる。


「じゃぁ、行ってきます」


 今から急げば日が暮れる前に返ってこれる。ここらへんは治安がいいほうだし心配ないのはわかっているが、城から出たときのことを思い出すとまだ一人で慣れない街を歩くのは少し怖かった。





 


 街に出ると、いつもより少し賑わっていた。大きい通りの真ん中に出店が立ち並んでいる。


「なんでだろう・・・あ、今日隣国の王子が来てるっていってたっけ」


 隣国との関係は良好だし、歓迎ムードらしい。人込みは苦手だが、楽しげなムードに気分は高揚した。

 聖水だけ買いに行くだけだが、こうなったら他の買い物も少しはしたいので、出店で軽食を買い、つまみつつ足早に目的地に向かった。しかし残念なことにいつも行っているお店の聖水が売り切れていたので街の奥のお店まで行くしかなくなった。途中おいしそうなパンやベーコンを買ったり、お祭り騒ぎの街の雰囲気にすっかり飲まれていた。そのせいで、来るまでは警戒していた気持ちが薄れ、すれ違いそうになったとき人とぶつかってしまった。


「あ、すみません・・・」

「お、こっちもごめんねー!」


 その声に思わず反応するが、なんとか驚きを押し殺す。そのままお辞儀し、足早にその場を去った。




「マルス様、どうしました?」

「いや、今の声、どっかで聞いたことあったような・・・」

「あんな体形の娘、一度見たら忘れなそうですけどね」

「そーなんだけどさ・・・」







 なんとか聖水を買った頃には日は暮れてしまっていた。


「悪かったな、こんな時間に買い出し行かせて」

「いえいえ。お世話になっている身ですので」

「・・・素直すぎて気持ち悪いな、どうした」


 人間自分のキャパシティーを超えるといつもとは違う行動に出るものだ。自分の城を出たときは今までで一番怒った。しかし今回はびっくりしすぎて走って逃げてしまった。

 まだ心臓がドキドキしている。いざマルスに会うとなつかしさが込み上げて泣きそうになってしまった。

 小さい頃から同じ立場の隣国の幼馴染。相変わらず元気そうでよかった。


「ぶつかったんだから、気づいてくれてもいいのにな…マルスめ」


 恨み言を口にするものの、声は優しくなる。

 この日は昔を思い出し、布団に潜り込み泣いていたら、いつの間にか眠っていた。

2018/8/4誤記修正しました。

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