◆5
結局師匠はその日の夜中に帰ってきた。
「あーーーーだりぃ」
「第一声がそれですか。お帰りなさい」
「お前が俺と同じ立場なら同じことを言うぞ。断崖絶壁をロッククライミングして薬草をとり、噴火寸前の火山に行って薬草をとり、温泉の吹き上げる高熱の湖の地底で薬草をとってきたんだからな…」
「ひえー。よく生きてますね師匠」
「そーだ、もっと敬え。そして生還を尊べ」
「ひえー。すごい。人間じゃない」
「おい、誉めてねぇだろそれ」
労いを込めて疲労回復用にブレンドしたハーブティーを出すと一気に飲み、そのままふらふらとソファに倒れ込んだ。
「布団で寝たほうがいいですよー」
「んー…」
頷いたと思ったら瞬時に消えた。転移魔法か。転移魔法は高等技術で、国の中でも使える人が限られる。さっきの冒険話といい、本当に自分の師匠は何者なのか。まぁ、自分も詮索されると困るしそのうち知れればいいが。
結局師匠が寝てしまったので、明日のお店の仕込みまでしてミレーユも眠りについた。
「こら起きろてめええええ」
「うるさいわね!!!!何時だと思ってんのよ!!!」
「4時だ!いつも起きてる時間だろうが!!!」
「ししょーが帰るのが遅かったから寝不足なんじゃない!」
「俺は何時に寝てもこの時間に起きれるぞ」
「それはもう年だからでしょ」
「なんだとてめええええ」
「てゆーか起きる!むしろ起きたからこの部屋からでてって!!!」
普段温厚なミレーユもこの時間だけは穏やかじゃない。寝起きに奇襲をかけられ罵声を浴びせられたら誰だってそうなると思いつつ、着替えて部屋をでた。
朝の仕込みを終え、朝食を食べ終わってからお互いに会っていなかった間のことを話した。
「湖のほとりに住んでる娘に惚れられちゃってなー。ついていくって聞かなくてなー。もてる男は辛いわ」
「昨日お店に来たイケメン金髪王子様見てから言ってほしいセリフですね。言えないでしょうけど」
「…おめーはほんっとにかわいくねぇな。図体といい態度といい…」
「ちょっと!体型は呪いのせいなんだからしょうがないでしょ!!!」
「どうだかなー。案外呪いが解けてもちょっとしか変わんないかもな。俺お前の前の姿とかしらねぇし」
「今に見てなさい!元に戻ったら家の姿絵持ってきてやるわ!!!」
「そんなことはどーでもいいんだけど、昨日来た客ってどんな奴だった?」
「散々あれこれ言っておいてどうでもいいですって!!!絶対持モテたなんて嘘だこいつ!!!あー昨日のイケメンに会いたいなぁ。イケメンさんはキレイなブロンドに青い瞳をしてて、身長は師匠より少し低いくらいだったから…180cmくらいかなぁ。風邪薬と咳止めを各50個、栄養ドリンクを店頭のを各5個、魔力回復のを30個ほど買ってくれたの。おかげで他のお客さん全然来なかったけどいっぱいもうかりました!」
「へー…」
なんだか考え込んでいる師匠を不思議に思いつつ、時計を見るとお店の開店30分前だった。
「ちょ、師匠!無駄な争いしてる場合じゃない!この続きは開店の準備終わってから!」
「はいはい、さっさとやってこい」
「あんたもやれ!」
事前にある程度の準備はしてあるので、急げば30分くらいで終わるだろう。まずいつお客さんが来てもいいようにお店の中の掃除から始める。掃き掃除をしている間は師匠へのストレスをゴミにぶつけまくっていたが掃除に熱中してくるとそんなこと忘れてどんどんやらなければいけないことをこなしていく。仕込んでいた薬を各々の容器に入れ商品を並べ、金庫から両替用のお金を持ってくる。鑑賞用のお花の水を変えるころに開店時間を迎えたが、まだお客さんが来る気配はない。
「師匠、こっちは準備終わりました」
「あぁ、あんがとな。ほら、不足してるっていってた薬いくつか調合終わったぞ」
「じゃあならべときますね」
たった30分の間に7種類もの薬を同時に調合する師匠。時には箒でぶん殴りたくなる憎い奴だがこういうところは本当に尊敬する。
「で、昨日までにつくった薬みせろ」
「はーい」
お客さんがいない間は店番をしつつよく薬の調合を見てもらう。早速昨日つくった物を見せるとゆっくりと見始めた。
「まぁまぁだな。ねばねば爆弾は個人的に好きだ。ただこれに使っている植物・アレキスは熱に反応して弾力が強くなるから破裂するとき熱を発するようにするともっといいぞ。あと閃光弾だが、ドラゴンは青い光に弱い。だから光の色を魔法で変えてやるといい。―――さて、最後は眠り粉か。お前の魔法はほんとユニークだな。発想がいい。だが、よくこんなの思いついたな。いつもの魔力の無駄遣いも抑えられてる」
「へへ、うまくいかなくて悩んでた時にイケメンさんがアドバイスくれたんです。うまくいってないのは魔力が足りてないからで、ここを節約すればうまくいくって!私今まで魔力が足りないっていう発想がないんで目から鱗がでるかと思いました」
「散々俺が言ってたじゃねぇか!」
「師匠の言い方じゃ真意が伝わってないんですよ!真意が!!!」
散々罵られたが、結果として全部合格点だった。むしろ師匠の口の悪さを考えるとべた褒めだ。嬉しい。口元のにやにやが抑えられないままタイミングよく入ってきたお客さんの接客を始めた。師匠は双子の依頼の毒薬に取り掛かるため奥の部屋に入っていった。強力な毒薬を作る為、結界をはり、中の毒素を外に出さないように調合を行う為こうなると一日出てこない。
今日はこれ以上何も教わることは出来なそうなので、店番をしつつ今まで学んだことの復習をすることにした。
その日、師匠はその日から出てこなかった。