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誰もが振り返るふわふわとしたミルクティーブラウンの髪を靡かせ、愛らしいぱっちり二重の瞳を瞬かせ、ウライユ国の第二王女ミレーユは毎日楽しく暮らしていた。
15歳になったばかりとは思えない落ち着きがあり、優しく美しく、そして魔力がとても強く将来も期待されていた。
毎日の幸せに何も疑問を感じず、しかしそれに奢ることのないミレーユに周囲も好意を寄せていた。
ただ、その日は突然訪れた。
いつも通りの朝、ミレーユは自分でベットから起き、召使いに世話されながら朝の支度をするはずだった。
「おはようございま・・・え、ミレーユ・・・様?」
「おはよう、イシー。あら、驚いた顔をしてどうしたの?私の顔になにかついてる?」
「本当にミレーユ様ですか?まるで別人です・・・」
あまりに驚いた様子のイシーの態度を見て冗談ではないと感じ、急いで鏡を覗く。するとそこには。
「きゃああああああっ!何故ッ・・・!?」
そこには、昨日の夜とはまるで違い、醜く太った一人の女が立っていた。
そしてそれが自分と理解し受け入れることよりも早く、周りの態度が急変していった。
今まで優しかった家族、召使い、家庭教師の先生、庭師、コック・・・みんなが自分を蔑んだ目で見て、冷たい態度をとり、ひどい言葉を吐いた。
最初は耐えた。きっとみんな自分の外見への変化に慣れてないだけだと思い、耐えた。
しかし周囲の態度は良くなるどころか日に日にひどくなっていった。
次に、ダイエットを試みた。醜い自覚はあるが変化といえば、太ったのみ。痩せて、元の外見に戻ることが出来れば、みんなの態度ももとに戻るだけのはずだと思い、毎日汗水たらして運動した。しかし一か月後、挫折した。毎日どんなに運動し、食事制限しても、一キロも変わらなかった。
そして極め付けは、自分の最大の特技である魔法が使えなくなった。学べば学ぶほど上達が見える魔法が大好きだった。あと半年後に魔術学校に通うのも楽しみにしていた。そんな生きがいでもある魔法が使えなくなったことで、ミレーユに不安感が襲う。
これからの人生に、疑問を感じたことなかった。
そんな自分の地盤ががたがたと崩れていく。
周りに認めてもらおうという努力が尽きたとき、涙はもう出なかった。
そこに心優しい姫はもういなかった。
「太ってて何が悪いのよ!」
「魔法が使えなくて何が悪いのよ!!」
「誰に迷惑かけたのよ!!!」
「見た目が変わっただけでこんなに態度が変わるなんて、信じられない!!!!」
「出ていけ?結構よ!!!!!」
「こっちから出てってやるわ!!!!!!」
自分の部屋を出てから出会う人出会う人に文句を言い続け、城の門の前に仁王立ちし、「みんなだいっきらい!!!!!!!!」と叫んで石を投げ走ってそこを立ち去った。