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63「復活のラロ」

 紆余曲折があったにせよ俺たちは熱さまシードを首尾よく手に入れることができた。


 そしてラロを蝕んでいたラジオル病を駆逐することにも成功した。やったね。


 投薬治療は抜群の効果を発揮し、あの絶望の夜から三日が経過していた。


 まあ、そんなこんなで。


 日常は俺たちの手の中に戻って来たのだった。

 するっとね。


 村で雑貨品の買い物を終えてアルティナと宿舎に帰還する。


 なんとそこには元気な姿で走り回るラロの姿が――!


「やっと捕まえたっ」

「うううっ」


 ルルティナに捕獲されていました。


 実際問題ケロケロっと完治していてくれれば保護者としてもなんら問題ないのだが、謎の風土病の残りカスは未だ身体に残っているようでラロの足元はフラフラとおぼつかない。


「こーら。まだ寝てなさい」

「やだよぅ。ラロ、もうあきたー」


「こ、こらぁ。あ、クマキチさまお帰りなさいませ。あ、こら、いたっ。痛いってば。お姉ちゃんのお顔引っ掻いちゃダメでしょお!」


「あきたあきたあきたよう」


 ルルティナは宿舎で寝たり起きたりするラロを懸命に看病しているのだが、親の心子知らずならぬ姉の心妹知らずといったところか。


 子供ってのはちょっとでも体調がよくなると病み上がりでもジッとしていられない生物なのだ。


 もう、動く走る飛び回るで手がつけられん。まだ女の子だからいいけれど、これが男の子だったらやんちゃ具合はもう考えたくもないほどだよね。


 ベッドの脇にはララとラナがちょこんと待機して三つ子メンバーであるラロの逃走を密かに助けようと画策している様子だ。


 ふたりの犬耳はぴこぴこ連動して動き、機を逃さぬよう大きな瞳が獲物を狙う狩人のように爛々と光っている。


 すごくかわいい。


「もうあなたたちもあなたたちよ。この子をお外に連れ出そうとしないの。ラロはまだ完全に治りきっていないんだから、誘っちゃダメ。お外で遊ぶのはせめて明日からにしなさい」


 てか、明日ならいいんだ。

 すごいな、ウェアウルフ族の回復力――。


 ルルティナは軽く腰をかがめながら人差し指を突き出し「めっ」とやっているが、三つ子ちゃんたちはどこ吹く風だ。


「えぇー」

「やだやだ」

「ラロ、もうへいきだもぅん」


「平気じゃないの。寝てなさい。もう」


 ルルティナがラロをベッドの上にころんと転がしながら窘めると、ララとラナは口をそろえて反論する。


 ラロもラロで唇を尖がらせて不平不満を口にすると、ああ、もうこの位置からでもルルティナの機嫌が斜めになってゆくのがわかるぜ。


 なぜならば彼女のしっぽはピンと高く上がり不穏な気を纏いながらもゆらゆらと蛇行しながらゆれているからだ。アルティナは危険な空気を敏感に感じたのか自分の犬耳を押さえてサッと俺の背に隠れた。


「ふかーっ。平気じゃないでしょっ。どんだけお姉ちゃんが心配したと思っているのよ!」


 ルルティナは犬歯を剥き出しにしてガーッと吠えた。

 離れてる俺の身体も反射的にビクンとなる唸り声だ。

 おお、怖。


「姉さん。ここは野中の一軒家じゃないんだから」


 たらいとタオルの替えを用意していたリリティナが恥じ入って頭を左右に振っていた。


「ふぎゃあああっ」

「にゃうおおおっ」

「ぎゃああああっ」


 叱られた三つ子ちゃんたちは一斉に大合唱。

 おう、胸に響くシャウトだぜ。


「はいはいはいはい、泣かない泣かない。泣いてもダメですからねー」


 だが、子守りに慣れているルルティナはほとんど気にする様子もなく、ラロを抱っこしてベッドに移したりとテキパキ作業を進めてゆく。やるね。


 てか、ちょっとかわいそうな気がするなぁ。もちろん病み上がりで走り回るのは賛成できないんだが。


「クマしゃまー」

「ねえさまがイジメるのー」

「やっつけてー」


 と、俺が同情の意を強くしていると三つ子ちゃんたちは飛び跳ねながら抱き着いて来た。


 いつものごとくベソをかいたまま顔を俺の体毛の中に埋めている。


 ああ、鼻と涙とよだれでベトベトにぃ……。


「な、なあルルティナ。そんなに怒らんでも」


「クマキチさま。どうせその子たち嘘泣きですよ。いいですか。泣きつかれたって絶対にお外へ出さないでくださいね」


「は、はい」


 ルルティナのあまりの気迫に俺がビビッてうなずくと、三つ子ちゃんたちのガン泣きがピタッと止まった。


 え、ええと。君たちどうしたのかな?


 ララ、ラナ、ラロは俺の身体から離れるとけだるげに髪をかき上げたりスッと視線をはずしたりして思い思いの方向へと散ってゆく。


 呆然とその場に突っ立っていると、隣にいたアルティナが慰めるように俺の手を握って来た。


「クマキチさま。ちっちゃくても女は女。自分の都合で涙なんていくらでも出したり引っ込めたりできる。そう簡単に騙されてはいけない」


 アルティナが上目遣いで「心配だなぁこの人……」というように諭して来る。


 やめてよ、確かに女関係のスキルは果てしなく低いけどさあ。


 シロクマは基本的に朴訥で純真なんだよ?

 女の嘘に傷つくのはいつも男なんですからね。


「ふぉふぉふぉ。若者は中々に騒がしいのう元気があって結構結構」


 女性という人生第一のミステリーに悩まされていると、頂上で出会ったオウル族のセネカがクマタウロスを引き連れ姿を現した。


 ルルティナはこの自称賢者を毛嫌いしているのか宿で出会うたびに逃げ回っている。


 今も俺の背に隠れるとしっぽを水平の位置に保ったままゆっくり振っていた。


「おやおや、これはこれは。儂としたことが随分と嫌われたものじゃて」


「あなたが会うたびに私の身体に触れようとするからですっ」


 というかこのセネカという老賢者にはこの部屋出禁だと伝えてあるのだが、あっさり無視されるのも慣れて来たな。


「てかさ、なんでアンタ山を下りたんだよ」


 咎めるようにキッと睨みつける。


 背後でルルティナが「そうですよ」と不満げにつぶやいた。


「ふぉふぉふぉ。儂はこれでも責任感が強くての。おまえたちが熱さまシードを手に入れたとしても、ラロという娘にキチンと正しく薬を処方できるかどうか心配でのう。義を見てせざるは勇なきなりというじゃろう。いや、この場合は薬の種を見つけました、はいさよならでは仏作って魂レズというか……」


「魂入れずだろ」


 なんだよレズって。意味が分からなすぎる。


「それに薬を煎じてくれたのはゴーチエさんだしな」


「ふぉふぉふぉ。若いな。なにごとにも表と裏があってな。まぁ、このような真理は歳を経た儂のような真実の探求者しかわからないことじゃが」


「いや、てか酒飲んで寝てただけだよな。しかも俺の名前のツケでさ。アンタなにしに来たんだよ」


 俺がそういうとセネカは窓際に移動して日差しに羽根をかざし目を細めてしわがれた声で物憂く託宣めいた言葉を放つ。


「青年よ。儂の星見によれば間もなくこの村に嵐が来る。備えるのじゃ」


 いや、今昼間だから星出てねーし。


 セネカは俺の追及に逃れることができたと勝手に勘違いしたのか、部屋の隅にあるゆり椅子に座ると舟を漕ぎ出した。


 アカン、やりたい放題だ……。


 こんな耄碌ジジィを相手にしていても全くの時間の無駄だ。そう思って耳の裏をボリボリ掻いていると所在なさげに立っていたクマタウロスが寄って来た。


「クマキチ、こ、これ」


 ん。なんだろうか。俺はクマタウロスがおずおずと差し出した木籠を受け取ると乗せられていた布をパッと取り去った。そこにはこの地方独特の発色をしたベリー系のフルーツが堆く積まれていた。


「オデからの、お、お、お見舞い」

「おお、悪いなわざわざ」


 クマタウロスは出自が出自だ。セネカ曰くそのあまりの異形さゆえに山へ捨てられた過去がある。詳しく聞いたところによるとクマタウロスが親に捨てられた素地には容姿の異形さよりも、どうも夫婦間のトラブルがあったそうな。


 つまりは通常のヒグマ系の姿をしたこの地方のエルムとマレーグマ系の容姿を持って生まれたクマタウロスは明らかに彼の母が旅のエルムと不義を行ってなされた証拠にほかならないのだ。


 アドリエンヌに聞いたがクマタウロスの両親は彼が棄てられたときと同じくして村を去っていた。


 ただ、俺が村の長老連にラロを救うためクマタウロスがいかに助勢してくれたかを力一杯説いたため、今では普通に村に住むことができるようになったので結果オーライってとこかな。


「ありがとうございます。いつもいつも」

「いや……オデは、オデは」


 ルルティナはフルーツの入った木籠を受け取るとニッコリと微笑んだ。


 能弁よりも誠実さと朴訥を好むウェアウルフの気風に合っているのかクマタウロスの評判は女性たちに上々である。


 今やかぶりものを取って素顔を晒しているクマタウロスであるが見慣れればどことなくユーモラスでかわいいしね。彼に関してはアニ村に根付いてさっさと嫁でも貰ってしあわせになって欲しいと願うだけだ。


「失礼いたします。クマキチさま、いらっしゃいますか?」

「はろはろー。元気―?」

「兄ィ。見舞いに来やした」


 と、今日も千客万来だな。戸口からはクマ巫女であるアドリエンヌとジュリキチ、それにロミスケが連れ立って姿を見せた。


「悪いな。何度も何度も足を運ばせて」


「いえ。隣村のお医者さまはちょうど体調を崩されているようでして。わたしのようなものでお役に立つのであればなんなりと。それにクマキチさま方はロミスケを救ってくだすった命の恩人でもあるのですから……」


 そういうとアドリエンヌはロミスケに運ばせた薬箱を開いてさっそくラロの診察にかかる。



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