151「魔人退治」
「盛り上がってるとこ悪いけど、時間はもうあまりなさそうよ」
んなっ。
マリンの言葉に背筋が凍った。
考えてみたらこんなところで悠長にくっちゃべってる暇はなかったんじゃないのか。
「ちょっと。そんなに泡食わなくったっていいわよ。第一、あのコウモリの魔人はまだ動けないでしょうね」
なぜに?
「ホラ、月よ」
んあ?
いわれて空を見上げると煌々と光を放つ月がお空に浮かんでいた。
「コウモリの魔人オズワルドは強い光に弱いのよ。だから陽の光のある日中は行動できない。真昼みたいな明るい月夜の今も同じ」
な、なんだぁ、焦らせやがって。
じゃあ、それほど急いで戻る必要もないんだね。
「けど、最初の襲撃の日みたいに月が雲で覆い隠されてしまえば、森の中は完全にアイツのテリトリーね。どっちにしろ急いだほうがいいと思う」
「わかった。諸々の話はあとだ。とにかくログキャビンに戻ろう」
「わたしも……つっ」
「おい、怪我してるじゃないか」
スカートに隠れてわからなかったがクローディアは太ももをザックリ切っていた。
うわぁ、痛そう。
あ、でも、ついてることにここには王宮魔道士という魔術のスペシャリストがいる。
さあ、異世界魔術の神髄でちちんぷいぷいとこの傷を治してくれや。
「足を切ってるじゃない」
俺の意向を無視してマリンは肩かけ鞄から軟膏と包帯を取り出すと手早くクローディアの傷を処置した。
え、あの、治癒魔術とかは……?
「なんでも魔術に頼るのはよくないわ。それに重傷でなければ、生物が本来持つ治癒力で治したほうがずっといいの。回復魔術ばかり使っていると抵抗力が弱くなるのよ」
あ、ふぅーん、そうなんだぁ。
「なによ、なんか文句あるの?」
まったくもってありません。
「いい? あたしは治癒魔術がちょーっとだけ苦手かもしれないけど、この手当だって感謝こそあれ不満に思われる筋合いはないわよっ」
いやぁ、なんも俺はいってないジャンかよ。
さては魔術関連でなにか嫌なことがあったな。
けど、マリンがいう通りなんでもかんでも頼ってちゃダメだよな。
「クローディア、ここは自分自身が持つ力で頑張るんだ」
「……余計なお世話よ」
がーん。
ぷいっされた。
まあいい。
俺は未来に生きる男久間田熊吉。
三日もすればヤなことぜぇーんぶ忘れることで有名なのだ。
まさにアウトプットの達人といえよう。
「余計なお世話ついでに。素手でオズワルドに立ち向かうのはお勧めしないわ。アレは上級魔術か祝福を受けた伝説級の武器以外じゃ効果は薄いわ」
マリンの言葉に右腕を掲げて笑って見せた。
「なによ」
「生憎といつも俺はこれ一本でやってきたんでね」
そうだ。
いつでも俺はこの腕一本で道を切り開いて来た。
だから、これからもそうする。
それが俺のやるべきことのひとつだった。
「そうね。それとアナタはここで隠れていたほうがいいわ。戻っても役には立たないし、むしろ足手まといよ」
マリンは杖の先を床板にトントン打ちつけながらクローディアのほうを向いた。
「おいっ」
なんちゅーデリカシーのないことを!
ハラハラしてクローディアを見るが、彼女は俺の予想とは裏腹に冷静だった。
「そうね。あなたのいう通り、わたしが戻っても彼の力にはなにひとつなれないわ。それよりもここでジッとしてササコマさまをお守りしていたほうがはるかにお利巧ね」
「ふぅん」
あわわ。マリンはなぜかつまらなそうな目でクローディアを見た。
なぜ、彼女たちはこの状態でマウントを取り合うのだろうか。
シロクマには理解できない行為だぜ。
とはいえ、病床のルルティナたちとそのほかのみなさんも心配だ。
俺とマリンはダッシュでおうちに帰宅する。
途中でマリンは背負っていた赤ちゃんをぽーいした。
「うぉい! なにしてるんだよっ。って、人形?」
雪の上にポイされた赤ン坊はたちまちのうちに木製の人形に早変わりした。
「魔術よ。アレはもう必要ないわ」
「そういや、なんで赤ちゃんなんて抱いていたんだよ」
「サンドリーヌ夫人が産み落としたのは双子だという噂があったの。夫人が亡くなり、関係者がクローディアを除いてすべて密殺されたあとになっては真偽の確かめようもなかったけど。わたしは何度か投獄中の夫人に面会したときクローディア自身を目にしたことがあったから、彼女の親友でうりふたつであったと調査書にあったエリカにわざと化けて、そのときついでにベビーも用意したの。もっとも彼女自身はなんら反応を見せなかったから、噂は噂だったみたいだけどね」
そういった理屈か。
いや、今は理屈はどうでもいい。
本当に知りたかったのはそんなことではない。
「――気づいてる? そろそろ来るよ」
マリンがいうように東から分厚い雲が奔馬のように駆け寄って来るのがわかった。
マズい。
ほどなく森に完全な闇が来る。
バケツの水に墨を垂らしたかのように。
ジワジワと闇が迫って来る。
息せき切って雪の斜面を攀じ登った。
「もうはじまってる……」
マリンの呟きを気にしてる状況じゃない。
近づくに連れ怒号と悲鳴が入り混じったものが大きくなる。
「遅かったか」
オランジェーヌの指揮する雪だるまゴーレムがオズワルドを必死に防いでいた。
いい難いな。
雪ゴーレムと名付けよう。
とにかくだ。
雪ゴーレムたちは手に手に槍を持って力戦しているが、オズワルドが翼を大きく打ち払うたびに粉々に砕けて吹っ飛んでいる。
「ああん、もうなにやってるのよー」
なるほど、オランジェーヌなりに考えたな。
彼女の操る雪ゴーレムは槍の穂先を松明にして、火を苦手とするオズワルドに対し善戦しているが、あの調子ではそれほどもつまい。
オズワルドが雪ゴーレムに気を取られているうちに、一気に距離を詰めた。
「おっしょい!」
かがり火に向かってショルダータックルだ。
「ぬわっ」
背後がガラ空きだったオズワルドは燃えた割り木の束に纏わりつかれて、一瞬バランスを崩す。
チャンスだ。
グッと腰を落として大地を踏み込み身を低くして右腕をしならせた。
こざかしい技術を捨て去った打撃力本意の必殺ベア・ブローだ。
鋼鉄製の鎧ならば折り畳んだ紙クズにしてしまう一撃も瞬時に五体を小さな黒い霧に変えるオズワルドには通用しなかった。
チクショウ。
「ようやっと参ったか下郎が。おまえがおらぬせいでテンションが下がり気味であったが、ようやく本気で遊べるというものよ」
俺の右ブローは確かにオズワルドの腰を真一文字に引き裂いた、
だが、物理攻撃はまったく通用しないのだろうかオズワルドは平気の平左だ。
ばっさばっさと宙に浮いているオズワルドに向かって火球と風の刃が矢継ぎ早に繰り出される。
ぼぼーっしゅぱぱーん、とオズワルドの身体に魔術攻撃が威勢よく炸裂した。
「クマキチさまっ」
「クマキチぃ」
ロビオラさんとリコッタだ。
「だから魔術攻撃であっても我には通用しないことがまぁだわからぬか」
「おまえ、ちょっと頭が焦げてるぞ」
「ぬわぁにい? あ、あぢゃぢゃぢゃぢゃっ」
リコッタの火炎弾で右後頭部がメラメラと燃えているオズワルドは一瞬だけ強烈に等倍したが、すぐさま火傷部を細かなコウモリに変化させたことでことなきを得た。
「へっへーんだっ。リコッタさまの魔術はすっごいんだからねっ」
「このエルフのガキがぁ!」
怒り狂ったオズワルドがリコッタ目がけて突貫するが、それを遮るように樹木の枝が無数に伸びてオズワルドの身体を瞬く間に拘束した。
「もじゃもじゃぼーんっ。ほら、おちびは早く逃げてっ」
「だーからー、アタシはおチビちゃんじゃないってーの」
オランジェーヌが行使した魔術でオズワルドの身体が拘束された。
しかし時間はそれほど稼げないだろう。
隙を衝いて俺はオズワルドのサイドを駆け抜けみんなと合流する。
「ねえ、クマキチ。無理すればあのときみたく巨大化できると思うケド」
オランジェーヌが囁いてくる。
「いや、オズワルドは泥竜と違って知恵がある。俺が巨大化した途端、空を逃げ回って魔力切れを狙って来るだろう。そもそも、ここにはまだ病人がゴロゴロしてるし巨大化を生かして十全に戦うスペースはない」
「そっか、役に立たなくてゴメンね」
「旦那ァ! 術が解けますっ」
矢を番えて警戒していたヨーゼフが余裕を失った声で叫んだ。
チラッとうしろを振り返った。
背後には遊撃隊を率いたディディエが馬上で厳しい表情をしている。
物理攻撃しかない遊撃隊を無暗に突っ込ませるほど頭に血は登っちゃいねーか。
けど、このままじゃ千日手だ。
それに初回は平気だったがあのバケモンはどんな病気持ってるかわかりゃしねェ。
考え込んでいるうちにオズワルドは身体を拘束していた樹木を力技でへし折り、地上の俺たちを睥睨して空で翼を羽ばたかせる。
「どうした。愚かなエサどもよ。小細工はそこまでか。ならば、今度は我から攻めさせてもらうぞ」
そういうとオズワルドは翼の羽ばたきで幾つものつむじ風を起こした。
クソ、だが我慢すればあの程度の風は耐えられるはず。
根性を決めて前進した俺を嘲笑うかのようにオズワルドの起こしたつむじ風は、あちこちに設置されたかがり火を飲み込んでゆく。
――違う、これはただのつむじ風じゃない。
「みんなっ。逃げろっ」
炎を飲み込んで真っ赤に燃えながら迫る風の熱気は凄まじかった。
雪だるま大会で作った雪像やかまくらを破壊しながらまっしぐらに進んで来る。
火災旋風だ。
「ギーハッハッ。逃げ惑うがよい、我が紅蓮の風に寄って散るがよいぞ!」
しかもオズワルドはこの小規模な火災旋風を操れるらしく、その方向はログキャビンを目指している。
あそこにはルルティナをはじめとした病人たちがまだ残っているんだ。
駆けた。
「こっちだコウモリ野郎! カタつけてーのは俺だけだろ。それとも弱い者イジメしかできねーのに魔人を名乗ってるのかよ、この腐れインポ野郎が!」
「き、キサマぁあああっ」
チョロいぜ。
予想通りに火災旋風の進路が変わった。
イチかバチかだ。
俺は身を丸めて姿勢を低くすると敵の虚を衝いて突っ込んだ。
四つん這いのまま野生を全開にして駆ける。
このスピードは俺の持てる全力だ。
――そして熱波のうずに飛び込んだ。
俺の名を呼ぶみんなの声が聞こえる。
大丈夫だ。
この声が聞こえる限り俺はどんなことがあっても戦える。
前へ。
炎を掻き分けて前へ。
前へ――。
前に出るんだ。
うずを踏破し跳躍した。
腹の底から叫んだ。
怒号とともに虚を衝かれ固まっていたオズワルドの顔面へと一撃を喰らわせる。
かすかに手応えはあった。
俺は転がりながら木の幹にぶつかると、すぐさま立ち上がった。
いや、立ち上がったつもりだった。
全身から毛皮の焼ける嫌な臭いが立ち昇っていた。
喉が焼けて呼吸が苦しい。
激しく咳をすると真っ黒な煙が機関車のように吐き出された。
「カスがぁあああっ。そんな奇襲攻撃で我を倒せるとでも思ったのかァ?」
クソ。
やつが分離する暇を与えず攻撃するのが唯一の賭けだったのに。
「だぁーが、イマイチだったな。ほぉら、おまえの攻撃は我の頬をかすめた程度だぞ。さあ、今晩のメニューは世にも珍しいエルムの白焼きと行こうか」
ダメだ、思ったよりダメージが大きい。
三〇秒、いや一五秒さえあれば態勢を立て直せるのに。
「旦那をやらせるかよーっ!」
後方にいたヨーゼフと仲間たちがブチ切れて突っ込んで来た。
支援するように遊撃隊のみんなも抜剣して駆けて来る。
「雑魚どもが。興が削がれるわ。お前たちの相手はこれで充分」
オズワルドがザッと片翼を上げて無数のコウモリを出現させる。
仲間たちは闇コウモリの対応に追われこちらまでたどり着けない。
「さぁ、調理の時間だぞ。覚悟はいいか?」
調子に乗りやがって。
オズワルドは小さくなった火災旋風をさらに巨大化させて、こっちに向かわせた。
万事休すか――。
ごうん
突如として空から爆音が響いた。
「な、なんだぁ?」
オズワルドが空を見上げる。
月を隠していた雲がいつの間にか異様な厚みを帯びゴロゴロと鳴り出したのだ。
同時に、ポツポツと雨が降り出した。
この季節は寒さのせいで雨は降る前に雪に変わるというのに、なぜだ。
手のひらに雨粒が当たる。
「あったかい?」
というか熱い。
ポットで沸かしたばかりのように熱い雨だった。
「なんだぁこれは、なんだァこれは? なんだというのだー!」
滝のような雨はみるみるうちに勢いを増した。
さらにはなぜか火災旋風をつけ狙うかのように、濁流の如く降り注いだ。
俺を苦しめていた火災旋風がマッチの火のようにたやすく消えた。
同時に、俺の身体全体がオレンジの光に包まれる。
あったかな湯船に浸かったような心地よさだ。
多幸感に包まれながら震えていると、あれほど身体中を苦しめていた火傷があとかたもなく消え去った。
「ヒールよ」
「マリン……か?」
「王宮魔道士さまが、なぜここに」
超絶VIPの登場にディディエ以下ロムレスの方々がポカンとしている。
マリンがパチッと指を鳴らすと世界が真っ白な光に包まれた。
――遅れて雷鳴。
無数の雷が雨のようにあちこちに降り来る。
おお、なんじゃああっ、これは。
見れば、俺たちを苦しめていた無数のコウモリたちが焦げ焦げになって雪の上に散らばっている。
「アンタは最後の最後まであたしにひとことも力を貸せと頼まなかった。この国ではレディをレディとして扱う紳士なんて滅多に見かけなくなったけど……。クマキチ、アンタは立派な紳士だわ。そういう男は黙ってても女が尽くしたくなるものよ」
「なぜだ、なぜ魔人である高貴な我の遊戯を邪魔するのだァ、ニンゲンの女よ!」
「はい、アウト」
光があたりに満ちて雷鳴が轟く。
オズワルドの絶叫が響き焦げ臭さが一層強まった。
マリンが雷光の魔術をお見舞いしたのだ。
カッコいいぜ。
ここで俺も男として一発かましたいところだが、いかんせん決め手に欠ける。
ぴくと俺のクマ耳が反応した。
雪を蹴りながら小柄な人物が近づいて来る。
雨はすでに止んでいた。
けれども降雨のせいで下はぬかるんでいる。
――そのぬかるみを気にせず、なりふり構わない勢いで転がるように女が駆けていた。
両手に長い棒を抱えていた。
なんども転んだせいであちこちは泥だらけだ。
「クローディア!」
倒れるように転がり込んで来た彼女を胸で受け止めた。
「これが必要なんでしょう、クマキチ」
「コイツは……」
ドワーフ族が秘宝として代々受け継いでいたとされる棒切れだ。
「だからいっただろクマ兄さん。いつか、必ずオイラが必要になるときが来るってよ」
そんなこといってたっけ。
「オイラは聖棒グングネル。魔族が相手なら燃えに燃えるぜ!」
聖棒グングネル。
ほかに打つ手がない限りコイツを用いるのが俺の運命なのか――。
「わたしがわざわざ持ってきたのだから、感謝して使いなさいね」
彼女の吐息が湯気のように立っていた。
この娘なりに無理をしたのだろう。
抱きとめるクローディアの太ももから熱い湯のようなものが流れ出していた。
傷口が開くのも厭わず、自分がやれることをやる。
「なら俺も期待に応えなくちゃな」
聖棒を手に取った。
初見では二束三文の粗大ゴミに思えた棒が青白く輝き出した。
コイツなら――やれる。
「うっ」
一瞬、奇妙なくらいまで聖棒を重く感じた。
譬えるならば極大の丸太を片手で持ったような感覚だ。
だが、俺の感じたそれは最後の立ち合いを前にしたプレッシャーだったのか。
次の瞬間にはスッと重さ自体が抜けて聖棒自体が消えてしまったかのように思えた。
「へっ、驚いてんだろクマ兄さん。オイラはあくまで実戦で本領を発揮するのさ。とりあえず振ってみなよ」
ぬうう。
だが、恥ずかしながらこのシロクマは武芸を知らぬ。
転生する前はただそこいらにいる兄ちゃんだった俺が上手く扱えるのかどうか――。
「ンなこたぁ気にしなくていいだよう。オイラは棒で兄さんは使い手。それがすべてさ」
ええい、ままよとばかりに聖棒を振るってみた。
型も基本も知らないので適当にブン回してるだけになるだろう。
そう思っていたのだが、俺の意志に反して聖棒は美しい軌跡を描いて空を動いた。
ふと気づけば俺を見ていたギャラリーたちが感嘆の声をドッと上げた。
なんだか――やれそうだ。
「馬鹿がぁ! そのような棒切れひとつで魔人たる我になにかできると思ったのか!」
「そいつは、やってみるまでわからんだろ」
聖棒はピタリと吸いつくように俺の腕に納まっている。
激高したオズワルドが頭上から爆撃機のように急降下して来る。
足場は極めて悪いが身体が異様なまでに軽かった。
むしろマリンのヒールで戦闘前よりも調子はよくなっている。
「だああっ」
駆けながら叫んだ。
素早く俺とオズワルドがすれ違った。
手応えあった。
痛烈な薙ぎ払いが決まった。
オズワルドは身体をコウモリ化してよけることができなく無様に地に這った。
凄まじい肉の重さと、やつの内部を粉々に砕く感触が手の内に残った。
「ぶほがっ。にゃ、にゃぜだ……」
身体をくの字に折ってオズワルドは口元から血潮を吐き出していた。
ぜっぜっ、とやつの呼吸音は荒い。
素早くジャンプして頭上で旋回させた聖棒を振り下ろした。
なんとかオズワルドは頭部の直撃をさけた。
だが聖棒はやつの肩を強かに打ち砕いた。
真っ黒な翼は根元から折れて吹っ飛んだ。
翼だったもの――。
それはぬかるんだ地面に落下し、雪と土とで混ざってわからなくなった。
小さなコウモリで形成されていたオズワルドの翼は細かな黒い煙となって蒸発した。
「なぜだ、なぜ我が愚かで下等なエルムごときにィ」
腰を落としてズンと突いた。
聖棒は半ばまでオズワルドの腹を貫いて止まった。
「あばよ愚かな魔人」
ずうっと聖棒を引き抜く。
黒い霧がさわさわと蠢き雪の上に散ってゆく。
両手でしっかり持って頭上にかざした。
「おまえは、一体」
やつの問いには答えない。
「今度からよ」
すでに自壊をはじめたコウモリの魔人に対して、情けも容赦もなく俺は襲いかかる。
「森でシロクマに会ったら逃げんだな!」
だが、テメェに今度はない。
必殺の聖棒の一撃はオズワルドの頭上から股下まで完膚なきまでに断ち割った。




