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いざ新世界へ

「じゃあこの椅子に座って!」

叔父は意気揚々と案内する。

「はいはいはい座って!」

「どうぞどうぞ座って!」

勝星は叔父の目をじっと見つめながらゆっくりと一文字一文字はっきりと言った。

「暗くて狭くて牢屋みたいです」

「この自由な空間でこれから思う存分ゲームができるねーすごいねーうれしいねー」

「なんか隠してないっすか?」

「何を言う!僕は隠し事と嘘が大嫌いさ!」

勝星はただただ真顔で叔父を見つめる。いざというときにダッシュで逃げる心構え、そして両手をすぐに動かせるように肩へ力をいれる。

「そう緊張なさんな、座りなよ」

勝星は叔父から目を離さずにゆっくり座る。

「うんうん。コントローラー持って」

「こうっすか?」

「うんうん。そこの女の子に話しかけて」

「○ボタンですか?」

「うんうん。上の選択肢を選んで」

「終わったらどうするんですか?」

「上の選択肢を選んだ後に他の子に話しかけて上を選ぶか下を選ぶか、その次の子に話しかけて上を選ぶか下を選ぶか、最初の子で下を選んで次の子に上、下、上下上下上下上下上下上下上下………」

「ああもうわかりました!!いいです全部やればいいんですよね!」

「うんうん。それが終わったらマップA-2で同じことをする」

勝星は言葉を失った。

「これがチェックシートね」

「トイレ!!」

「この部屋には簡易トイレがあります」

「なんで作っちゃうんだよ!!」

「あ!そうだ飲み物を出さなきゃね!」

「……。」

叔父は小さくドアを開けすぐに閉じる。2秒ほど後に『ガチャ』という音がする。

「おい!」

「大丈夫すぐに戻るから」

勝星はそっと椅子を立つと、こっそりドアの横に背中を合わせる。

ドアノブが動く瞬間を息をひそめて待つ。

ゴクリ……。



「こっちだよ!!」

「うわぁ!!」

「ジュースはこの小窓から渡すよ!ハハ!何か必要なものがあったら言ってね」

「早速ですが休暇が欲しいです」

「10日以内に終わるといいね!」

バタン!!

「…………まじ……?」


ため息を一つ。

「ちょっと本気出すか」

椅子に座って目を閉じる勝星。

目を見開いた途端に指先が器用にも高速で動き始めた。

画面のテキストが一区切りつくたび、右手はペンを拾い上げ、音の速さでシートにチェックを入れる。そして息つく暇さえなく手をコントローラに戻すのだ。その洗礼された無駄のない動きには神が宿ったのではないかと思わされる瞬間さえある。


―30分後—

「あーーーーーー死にそーーーー」

勝星の動きは老人のそれになっていた。

瞳は画面の一点を見つめるのみ、口はやや開き気味である。

「さすがにもう5時間はやったろ、休憩しようかな」

勝星はチェックシートをペラペラめくる。

「もうちっとやろうかな……」

―さらに1時間後—

画面に金髪お嬢様風の生徒が映る。

「私!この学園の生徒会長ですわよ!……うざいな。このテンションで話されたら血糖値上がるわ」

―さらに1時間後—

画面に金髪お嬢様風の生徒が映る。

「私!この学園の生徒会長ですわよ!……おまえ何回目だよ。もういいよマジで」

―さらに1時間後—

画面に金髪お嬢様風の生徒が映る。

「私!この学園の生徒会長ですわよ!……もういいから」

―さらに1時間後—

画面に金髪お嬢様風の生徒が映る。

「私!この学園の生徒会長ですわよ!……いやほんともういいから」

―さらに1時間後—

画面に金髪お嬢様風の生徒が映る。

「私!この学園の生徒会長ですわよ!……あーーーーあーーー」

―さらに1時間後—

画面に金髪お嬢様風の生徒が映る。

「私!この学園の生徒会長ですわよ!……あははははははは!!」

―さらに1時間後—

画面に金髪お嬢様風の生徒が映る。

「私!この学園の生徒会長ですわよ!……生徒会長ちゃんかわいいおーぐへぇぼくちんを叱ってぇへへ」

―さらに1時間後—

画面に金髪お嬢様風の生徒が映る。

「私!この学園の生徒会長ですわよ!……せいとかいちょうちゃんがめんからでてきてよー」

―さらに1時間後—

画面に金髪お嬢様風の生徒が映る。

「私!この学園の生徒会長ですわよ!………………。」

―さらに1時間後—

画面に金髪お嬢様風の生徒が映る。

「私!この学園の生徒会長ですわよ!……ふふ。ふふふふ。」


後の小窓が開く。

「勝星、お弁当持ってきたよ」

勝星は言葉は発さず椅子を180°回転させた。

「勝星、良い表情になったね」

表情筋が全て垂れ下がって30歳ほど老けていた。

ゆっくり立ち上がって小窓まで一歩一歩踏みしめる。

お弁当を受け取ろうと両腕を伸ばす。

「気を付けてな。今のお前は全身の力が抜けているからしっかり掴むんだぞ」

勝星の手は震える。勝星の頭の中でファンファーレが聞こえる。

冷え冷えのごはんを滅茶苦茶な箸の持ち方で何とか口に運ぶと自然と涙が出た。

「叔父さん……俺……やりますよ。絶対。」

「そうか……!」

「絶対終わらせますから、待っててください!」

勝星は表情筋を蘇らせ、口をニィっと広げ、親指を立てて見せた。




―30分後—

画面に金髪お嬢様風の生徒が映る。

「私!この学園の生徒会長ですわよ!……あはははははははは!」

と大声を上げた途端うって変わってズンと頭を下げた。

「やべぇ。マジで気が狂いそうだ」

「もう無理だよー。帰りたいよー」

今度は突然勢いよく顔を上げる。

「叔父さーん!!もう無理です!!ギブアップです!!SOSです!!やめます!!」

声は虚しく響く。

―さらに1時間後—

画面に金髪お嬢様風の生徒が映る。

「私!この学園の生徒会長ですわよ!……あ……あ……あー」

気が付けば当初の10分の1のスピードになっていた。

「あ……あ……あー……ああ……あ、あ、あ、あ、あ、あ」

「あ……あ、あ、やばいやばい寝ますねますあー、あ、あ、あ、あ」


勝星は目を閉じた。

次に勝星の意識が戻った時、そこは芝生の上だった。

360°建物に囲まれている。制服を着た男女が建物内を行き来している。

勝星はまず足元の芝生の感触を確かめる。しばらくの間、なにも考えずにただ目の前を通る人をひたすら眺めていた。次第に教科書や上履きや制服についてる校章などに視点が行きつく。

「学校……」

ぼそりと言った。

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