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限りあるからこそ  作者: 白木蓮
第1部
9/11

平和の森公園03

 僕たちが挑戦したアスレチックは、スタート地点から色んな障害を進んでゴールを目指すものだった。順調に進んでいたが、網を張り巡らせた狭いトンネルの入り口で祥子さんは躊躇する。

「どうかしましたか? 早く行かないと後ろがつっかえます」

 祥子さんの背中から前を窺うように首を伸ばす。そのとき、僕の後ろに追いついた男の子が急かしてきた。

「お姉ちゃん早く行って~!」

 祥子さんは慌てふためいて振り向いた。ぎごちない笑顔をみせる。

「あ~、ごめんね。先に行っていいよ」


 順番を譲ると、僕たちが端に寄るのも待たずに、男の子は体を割り込ませてトンネルを進んでいった。続く女の子二人にも先に行ってもらう。

 縄は太くて丈夫そう、網目はまあまあ細かいので、下の池に落ちるなんてことはまずなさそうだ。それなのになぜ祥子さんは立ち往生するのか。


「どうしたというんですか。ここまで進んできて、高所恐怖症とか言わないですよね」

「違います。高い所は好きなほうです」

 言って、恥じらいがちに上目遣いする。お尻のほうに両手を回し、ぼそぼそ言う。

「このトンネル、四つん這いにならないと通れないでしょ。スカートだから見えちゃう」


「ああ、それで……」

 僕は顎に拳を当てて思案する。

「なら僕が先に行きます。それなら気にならないでしょ」

「でもそれだと」

 と僕の背後を気にし、

「後ろから来た人に見られちゃうし」


「それもそうか。なら戻ったほうがいいですね。せっかくここまで来ましたけど」

「え~」

 と今度はアスレチックの先を見通す。

「ここでやめちゃうと醍醐味の吊り橋を渡れなくなっちゃう」

 僕の代替案はことごとく却下された。パンツを見られたくないという気持ちは分かるが、狭いコーナーでいつまでもうだうだしてもらいたくなかった。さっきから何人にも先を越され、そのたびに邪魔っけな視線がおまけでついてくるのだ。


 腰に手を当て、片足に体重をかける。

「だったらどうしてそんなスカートを選んできたんですか。アスレチックに行く気だったんでしょう? ズボンにしてくればパンツが見える心配もなかったじゃないですか」

「そんなスカートって……。だってデートだから」

「え?」

 思わぬ発言に僕は眼をしばたたいた。祥子さんも眼を見開き、急ぎ両手で口を隠す。


 デート? デートってなんだ。恋人や好きな者同士がするあれか? 祥子さんはそういう意味合いに取って今日来たのか? 僕は――僕はただ何もすることがなくて暇だから誘ったわけだけれど。

 しかしどうだろう。暇だからという理由だけだろうか。祥子さんが女性だということは念頭にあったはずだ。これが男だったら誘っただろうか。のたうちまわるくらいに暇だったとしても、誘わなかったと思う。

 沈黙が流れる。僕たちはまた子供に抜かされた。それから、その子に連れ回されているお父さんらしき人に、突き出していた僕の肘がぶつかった。


「すみません」

「すみません」

 ほぼ同時に謝り、お父さんらしき人ははトンネルをくぐっていった。所在なくて、耳の裏をぽりぽりと掻く。

「ええと……、どうしよっか……」

 祥子さんは屈んでトンネルの縄に手を掛けた。

「わがまま言ってごめんなさい。私が先に行きます」


「だってそれじゃ見えちゃうかも」

 中腰になって彼女の肩に手を伸ばすが、トンネルをくぐっていってしまう。

「結城さんに後ろを守ってもらいます。それにこれなら――」

 祥子さんはあひる歩きで前進していく。けれどトランポリンのように弾む網の上だ。案の定バランスを崩した彼女は、前屈みにぺたんと両手を突いたようだった。

「無理かも……。やっぱり這っていくしかないみたいです……」

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