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君と迎える朝

とんとんとんっ、とんとんとんっ


六久(ろくひさ)さーん、起きてくださーい」


とんとんとんっ、とんとんとんっ


規則正しいノック音に混ざり、優しい声が部屋に響く。


「んっ……」


「六久さーん。今日は1限からなんですよねー?また遅刻しちゃいますよー?」


落ち着きと暖かさを含むその声は、青年のもののように聞こえるがわずかに高く澄み、幼子のようにも聞こえる。声の主は誰かを起こしているようだった。


六久と呼ばれた男は寝返りをうち起きようとするが、その柔らかな声が耳に心地よいのか再び微睡みの世界へと誘われていた。


「ぅん……あと五分」


「六久さん!!もう、だめですって!!」


夢見心地に言いながら、六久はもぞもぞと緩慢な動作で布団を口元まで引く。


対称的に、六久を起こす声はわずかに大きくなり焦りを表していた。


「仕方ないですね…えいっ!!」


可愛らしい掛け声とともに、ピピピピピピピ!!と大音量のアラームが鳴り響く。


「うわっ!?」


突然の流れ出した音に驚き、六久は布団からがばりと跳ね起きた。


半ばパニックの頭は状況を認識できておらず、きょろきょろと頭ごと視線を動かし六畳間からアラームの音源を探しだそうとした。


「あ、六久さんやっと起きてくれましたか!!」


無邪気に喜ぶ声に反応し、六久は声のしたほうを向く。


そこには、アラームの音源とともに、六久を起こした存在があった。アラームはすでに止められていた。


「……おはよう、美月(みつき)


「おはようございます、六久さん!」


挨拶に満足してか、美月と呼ばれ、先まで六久を起こしていた存在は満足そうに微笑み挨拶を返す。


そして、伸びをしてのそのそと布団から這い出る六久に、再び美月の柔らかな声がかけられる。


「六久さん、夜中にメールが二件来ましたよ。あと手帳アプリのアップデートもありました」


「えー、またアップデートしたの?そのアプリやめようかな…」


「はい、予定を分類するアイコンが導入されました。アンインストールしますか?」


「んー…いいや、別にそのままで」


「はーい」


のんびりと大学へ向かう準備をしながら、六久は美月の声に応じる。


簡単に身嗜みを整え、朝食を済ませると、男は再び鞄の中身を確認した。これは以前に忘れ物をした際に美月から提案されたもので、面倒と思いながらも習慣化したものだった。


他愛ない話を交わしながら六久が鞄の中を再確認し全ての準備を終えると、美月から再度確認の声がかかる。


「六久さん、忘れ物ありませんか?」


「うん、大丈夫そう」


「そうですか。では大学へと行きましょう!」


「…嫌だなあ」


はぁ、と小さく溜め息をつく。しかし、美月はそんなものは意に介さないのか、瞳を輝かせるだけだった。


「六久さーん、早く早くー!」


「わかったよ……美月は元気だね」


「えへへ……僕、鞄でゆらゆらされるのとか、外の景色を少し覗き見るのとか、好きなんです」


「ふーん、そうなんだ」


「そうなんです!」


元気一杯に返事をする美月に、六久も思わず笑みを溢す。


何よりも大切な携帯端末を鞄に仕舞おうと、その画面越しに呼び掛けた。


「じゃあ、行こうか、美月」


「はい!」


画面の向こうにある無邪気な笑みに満足しながら、鞄に携帯端末をそうっと入れる。


独り暮らし用のアパートの扉を開き、六久は大学へと向かっていった。

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