水曜日はイタリアンと魔王
お久しぶりです(*゜ー゜)vお待たせ過ぎてゴメンナサイ。活動報告のコメントで鋭気を養えたので本日中にあげられましたって、嘘じゃん日付越してる。
〇
ブラインドタッチで高速入力をしつつ、頭の中は沙織嬢をどこにエスコートするかを悩ませていた。週に二度さりげなく誘うのも無理が出てきていた。宮久保社長には毎度今日はどこに行くのかと詮索され、ニヤニヤと不気味な視線と、たまに社長室の扉の奥から寒気のする視線が気になる。誰か居るのかと尋ねると、「従兄弟がね遊びに来てるんだ。外回りの休憩がわりに立ち寄ってね」とにこやかに反された。怨念を感じるのは気のせいだろうか。無視できないというよりしてはならないと直感がささやく。今日も宮物産のビルに入る前からいつもの視線が俺に突き刺さっていた。探るような視線だ。
「お疲れ様です、休憩にコーヒーはいかがですか?」
声をかけて来たのは沙織嬢だった。今日の接客担当は沙織嬢なので声をかけても不信に思われずに会話を楽しめる当たり日。ついつい機嫌が上がっているのが自分でも判る。
「ありがとう、つい、入力しはじめると根を詰めすぎてしまってね。いいタイミングで声をかけてもらえるから助かるよ」
コーヒーを受け取り、一息つく。他の宮物産社員はセルフサービスだ。ここの会社に女子社員の茶酌み習慣はない。よって、俺だけが沙織嬢のコーヒーを飲めるのだが、何人かの男性陣から羨ましそうな視線が向けられた。
「伊藤部長は集中力がスゴイですね。でも、周りの声もちゃんと聞こえていて、もしかして並列思考とかできてたりしますか?」
ニコニコと世間一般的に使用されない用語で質問してきた。いや、確認だ。
「確かに言われてみるとそうかも、いつも複数の案件を抱えているから出来るようになっていたんだけど、どうしてわかったのかな」
「私の父が似たような行動をとるんです。その都度母が休憩させてますから、何となく判るようになりました。後で父に聞いたら並列思考というのを教えてもらったんです」
「すごいな、沙織さんのお父さんといえば、社長の従兄弟にあたるんだよね、宮物産に席を置かれていないのはどうしてなのかな」
調べても出てこなかった事を思わず聞いてみたくなった。あんなに優秀な人材なのに何故囲い込まないのかと疑問に思っていたのだ。変に探り過ぎるとこちらが逆に捕まれそうだ。いい機会なので直接聞いてみた。周りの社員達も興味を持ち、聞き耳を立てていた。
しばらく考えた後、少し照れ臭そうにこめかみを人差し指で掻きながら、答えてくれた。
「父と母って駆け落ち婚なんです。お爺様と大おじ様達に大反対されたみたいで、その時には私がすでにお腹に居たらしくて、大喧嘩して辞めてしまったらしいです。恥ずかしいことなんですけどね、趣味で始めた会社がうまく行ってたのでそのまま、仲直りしても再入社しなかったそうです」
「改めて、スゴイ人だね。一度お話を聞かせてもらえたらいい勉強になりそうだ。よければお会い出来るか聞いてほしいな。会社の名称を聞いてもいいかな?」
「後で父に聞いてみます、今日社長室に遊びに来てますから」
「ありがとう、期待して就業までの活力にするよ。それから、今日も終わったら食事に行かないか?友達に勧められたレストランなんだけど」
ひきつる頬を宥めながら微笑み、毎日では露骨過ぎるため水、金のみにしている恒例に為りつつある誘い文句を告げる。そして、あの刺すような視線の主を確定させた。あれば娘大好きな叔父と同類だ。敵に回せばほぼ無理だろう。紳士的に振る舞って調度いいくらいだろうな、真由美のダンナは婿養子にまで引き下がっていた。あの人の実家も会社経営していたはずだが、後継者は弟になっていた。俺は婿養子にはいけない。
「わぁ、どんなところですか?」
「イタリアンだよ軽く摘めるものが多いらしい。酒飲みのオススメだからワインも期待していいかな」
「行きます!伊藤部長に連れていってもらえる所いつも美味しいんですもん!あ、じゃあパパに言ってこなきゃ、では、まだ後で、失礼します」
満面の笑みで退場していく沙織嬢に手を振って、仕事に戻る。すると丁度席に戻ってきた栗林課長が声をかけてきた。
「イヤハヤ、華麗なお手並みですね。あの鉄壁の沙織さんすっかり餌付けされてますねぇ。おーい、聞き耳で終わらずに見習って励めば一人くらいはいけるかもしれんぞ!頑張れよ若者」
俺と沙織嬢の会話に聞き耳を立てていた宮物産社員は少しうなだれていた。栗林課長に目線で尋ねると、
「あいつら、沙織さんの鉄壁に負けて気付いてもらえてないんだけど、まだ未練あるみたいでなぁ、差し詰め伊藤部長は勇者二号ですね!」
「鉄壁ですか・・・、確かに、・・・・納得出来ますね。中々進展しないわけです。勇者一号はストーカーですので見習えませんから地道に行きます」
「鉄壁の後も控えてますからね~苦戦しますよ!」
「今も社長室に遊びに来てますからね、大きな盾、いや、掘りですかね?」
栗林課長がニヤリと顔を歪め、俺だけに聞こえるようにつぶやいた。
「あいつの掘りは深いぞ、勇者一号は嵌められて除外されてる。君の元婚約者殿も被害者だろうね~俺は奴の同期なんだ。気合い入れないときついぞ」
ポンと肩を軽く叩き、席にもどっていった。
思わぬ所にも伏兵が、暗雲立ち込め稲光をバックに沙織嬢の父上が立ちはだかる姿を想像してしまった俺は、本当にどこかの勇者になった気分だった。
とにかく今日のデバッグを終わらせ沙織嬢と食事に行って鋭気を養うことにしよう。
〇
沙織ちゃん鈍感過ぎて進まない。伊藤氏目線でダッシュかけた方が進むのかな~