第二十四話 化け物
私達は今、ローラント王国に来た時と同じ・・・いえ、それよりもさらに豪華な馬車に乗って、学園への道を進んでいます。
馬車の中では、真貴ちゃんに新しい魔法を教えてもらったり、ローラント王国で購入した本を読んだり、みんなでトランプ(のような)もので遊んだりして過ごしています。
もちろん、真貴ちゃんとイチャイチャしたり、ティアちゃんの着替えを見てハァハァしたりもしています。
けれど、ローラント王国を出てから数日たったある日、私達が馬車なのかで何時ものように楽しく過ごしていると
『助けて』
『助けて』
という声が、何処からともなく聞こえてきました。
「真貴ちゃん、ティアちゃん、今何か聞こえませんでしたか?」
「私には何も聞こえなかったです」
「リタさん、一応この馬車防音もあるので外の音はほとんど聞こえませんよ?」
どうやら、二人には何も聞こえてないようです。
おかしいですね。
『助けて』
『助けて』
『死んじゃう』
『死んじゃう』
空耳かと思いましたが、やっぱり聞こえます!!
それも、かなり切羽詰まった声です。
「真貴ちゃん、やっぱり聞こえます。近くに誰かいないか調べてくれませんか?」
「リタがそういうなら少し調べてみます」
真貴ちゃんは、そう言って周囲を探ります。
『助けて』
『助けて』
『王様』
『王様』
『死んじゃう』
『死んじゃう』
また聞こえました!!
しかも、今度はかなりはっきりとです。
・・・・・・・・・!!?
真貴ちゃんが驚いた顔をして、立ち上がります。
「な・・・なんでしょう?すごく不安な感じがしてきました」
どうやら、声は聞こえなくても、ティアちゃんも何か感じ取ったみたいです。
「リタ、かなり拙いのがいるみたいです。少し行ってきますね」
真貴ちゃんはそういうと、馬車から飛び出していきました。
「す、すいません。少し馬車を止めてください」
ティアちゃんが馬車を慌てて止めます。
馬車から降りると、そこは森林近くの道でした。
「みなさんは少しここで待っていてください」
「しかし!!」
「これは命令です!!」
馬車から降りた私とティアちゃんは、御者の人と護衛の人をここで待機するよう命令して、真貴ちゃんを追いかけ、森林に入っていきます。
護衛の人まで待機を命じたのは、馬車を守ってもらうためと、私達が全力を出した時に巻き込まないためです。
真貴ちゃんを追いかけて、しばらく行くと、水色の髪をした少女が一人倒れており、少し離れたところで、真貴ちゃんと・・・なんでしょうあれは?『化け物』が戦っていました。
その『化け物』は体長が3メートルほどあり、7つの足で立ち、頭のようなものはあるのにそこに目や口などの部位は1つもなく、体中から触手のようなものが無数に生えていて、全体が腐っていてすごい悪臭を放っています。
そう、腐っているのです。
この世界では腐るなんてことは、ありえないことなのに、です。
化け物が動くと、腐った体の一部が飛び散り、それに触れた木が枯れていきます。
周りを良く見れば、真貴ちゃん達が戦っている場所より先の森は、見渡す限りすべて枯れています。
これはもう、魔物や魔族なんて生易しい物ではありません。
ティアちゃんも気持ち悪そうに口を押えています。
「ティアちゃんはこの少女をお願いします。『エクスプロージョン!!』」
ティアちゃんに水色の髪をした少女のことは任せ、『化け物』と中級の爆発魔法で枯れている森林の中に吹き飛ばすと、私は真貴ちゃんに合流します。
「真貴ちゃん、こいつはなんなんですか?」
「こいつは『世界を崩壊させるもの』です。こいつは通常の手段ではまず倒せず、放っておけば、ほぼ確実に世界が壊れます。死神の最重要任務の一つに『世界を崩壊させるもの』の討伐が明記されているほどです」
わかってはいましたけど、かなりやばい奴みたいですね・・・っと『エレメントクリスタル』
私に向かって触手のようなものが高速で伸びてきたので、結界を張って防ぎます。
その隙に、真貴ちゃんはまた『世界を崩壊させるもの』に向かっていきます。
私も真貴ちゃんに続いて、追撃しようと思いましたが、全ての属性を防げるはずの結界が、腐って解けていっていることに気づき、慌てて結界を破棄、その場から離れます。
ひ、非常識なやつですね、さっきの魔法もあまり効いている様子はありませんし。
こうなったら大魔法で仕留めます。
「星の生命たる灼熱の炎よ
黄昏る真紅の龍となりて
我に従い全てを焼き尽くせ
ドラゴニックフレア!!」
私が魔法を唱え終わると、百メートルはある、炎の龍(西洋の竜ではなく、東洋の龍です)が現れ、『世界を崩壊させるもの』に襲い掛かります。
それをみて、真貴ちゃんも私の所まで避難してきます。
ドーーーーーーーーーーン
ゴォォォォォォォォォ
『世界を崩壊させるもの』と共に、枯れた森林が焦土と化します。
・・・・・あれ、これってもしかしてやばい?
私はその光景を見て、冷や汗をかきます。
「真貴ちゃん、もしかして私やりすぎました?」
「いえ、この程度では『世界を崩壊させるもの』には、たいして効いてないはずです」
真貴ちゃんの言葉を聞いて、焦土と化した森林を見ると、確かに大きなものが蠢いていました。
私は絶句して声も出せません。
「リタ、時間がないので、簡単に作戦を言います。詳しい説明は後でしますので、今は言うとおりにしてください。まず・・・・・」
作戦の説明が終わると、私はティアちゃんの所にいったん戻り、真貴ちゃんは再び『世界を崩壊させるもの』に向かっていきます。
ティアちゃんは焦土と化した森林の方を見て、呆然としていましたが、私が呼びかけると、すぐに正気に戻ってくれました。
「ティアちゃん、真貴ちゃんから作戦を聞いてきました。私も詳しいことはよくわかっていませんが、今は言われたようにしようと思います」
「わ、わかりました」
私は返事を聞くと、まず『亜空間』を大きめに開きます。
「ティアちゃん、『循環魔法』を使用しながら、『亜空間』の中にこの周辺にいる精霊をできるだけ多く誘導してください。精霊魔法を使う要領ですればできるそうです」
「はい」
ティアちゃんが返事をすると、風のようなものが『亜空間』に向かって吹き始めます。
しばらくすると、息が少し苦しくなったような感じがしたので『魔力循環』を強めます。どうやら、うまく精霊を誘導できているみたいです。
それを確認すると、私は水色の髪をした少女をみます。
真貴ちゃんは「精霊が少なくなっても、あの少女のことは気にしなくて大丈夫です」と言っていましたが、少し心配です。
いえ、いまは『世界を崩壊させるもの』を倒すのが先決ですね。
「ティアちゃん、私は真貴ちゃんに加勢してきます」
ティアちゃんが頷くのを確認すると、私は真貴ちゃんが戦っている場所の近くまで行きます。
「真貴ちゃん、お待たせしました。攻撃開始します・・・・・『ファイアストーム!!』」
私は、真貴ちゃんに一声掛け、炎の渦で敵を攻撃する、持続時間が比較的長い魔法を放ちます。
私の声を聞いた真貴ちゃんは、『世界を崩壊させるもの』から少し離れ、鎌を大きくすると、魔法の範囲外から攻撃をし始めました。
その鎌、ただでさえ大きいのに、さらに大きくなるんですね。
『エレキテルフィールド!!』
私は炎の渦が弱まってくると、次は電撃がほとばしる空間を作り出す、持続時間が長めの魔法を放ちます。
そう、私は真貴ちゃんに「リタは持続時間の長い魔法を、属性を変えて途切れないように打ち続けてください」と言われていたのです。
良く見れば、『世界を崩壊させるもの』は真貴ちゃんが攻撃するたび、少しずつ、小さくなっているようです。
それから約1時間、『世界を崩壊させるもの』は50cmくらいまで小さくなっていました。
「そろそろいいですね。『イレーズ』」
真貴ちゃんがそう唱えると、巨大な鎌が輝き、それで切った周辺の場所・・・『世界を崩壊させるもの』を中心に空間が歪み、私の魔法ごと、その部分だけきれいに消滅しました。
倒した・・・のでしょうか?
「ふぅ、疲れました。今日はもう寝たいです」
真貴ちゃんは鎌をしまって、私の所に戻ってくると、そう言いました。
どうやら、倒したようです。
「真貴ちゃん、お疲れさま」
「リタもお疲れさまです」
私達は労いあい、ティアちゃんの所に戻ります。
「ティア、倒しましたのでもういいですよ」
「ティアちゃん、お疲れさま」
「つ、疲れました・・・」
ティアちゃんは精霊の誘導をやめると、その場に座り込んでしまいます。
相当疲れたようですね。
「真貴ちゃん、それで、この子は誰ですか?」
私は、水色の髪をした少女について、真貴ちゃんに尋ねます。
「リタ、その子は『水の精霊王』です。『世界を崩壊させるもの』に襲われていたので、助けました」
「「せ、精霊王ですか!?」」
私とティアちゃんは声を合わせて驚きます。
精霊王とは、精霊たちの生みの親であり、精霊たちを束ねるもので精霊と契約している人たちから、その存在は確認されていますけど、誰も見たことがないという幻の存在です。
「そ、それで、大丈夫なんですか?」
「大丈夫・・・とは言えないですね。放っておいたら存在を維持できなくなります」
それって、すごくまずい状態じゃないですか?
何で真貴ちゃんこんなに冷静なの!?
「ど、どうしましょう!!」
「リタ、慌てないでください。今すぐどうにかなるというわけではありませんし、対策も考えてあります」
そういうことですか、さすが真貴ちゃん、ちゃんとそこまで考えてあったんですね。
でも、そういうことは先に言ってほしいです。
すごく慌ててしまいました。
「それで、どうすればいいんですか?」
「まずは、リタの作った『亜空間』に連れて行きます。今、その『亜空間』の入り口付近はティアのおかげで精霊がたくさんいるはずです。なので、『精霊王』にとっては、ここよりずっといい環境になっています」
そういえば、『亜空間』開けっ放しでしたね。
真貴ちゃんの言うとおりさっそく、『精霊王』を『亜空間』内に連れて行きましょう。
私は水色の髪をした少女・・・『精霊王』をお姫様抱っこすると、『亜空間』に入り・・・・・。
「ねぇ、真貴ちゃん。『亜空間』の中って入っても大丈夫なの?」
「入口が閉じてしまわない限り、問題ないです」
「もし閉じちゃったら?」
「戻るのに苦労します。さいわい、今ここはリタの魔力が充満していますので、戻れなくなるということはないですから、安心してください」
どうやら、大丈夫なようです。
何か複雑な気はしますが、気のせいということにしましょう。
「っと、わわ!!」
『亜空間』に入った私は、思わずそんな声を上げてしまいました。
なぜなら、中には重力(?)がなく、体がふわふわ浮いてしまったからです。
しかも、中は真っ暗で何も見えま・・・いえ、私が前に入れた『素材』や『エターナアクア』の入っている『水槽』が遠くに浮かんでいるのは見えます。
どうなっているのでしょう?
「リ、リタさん、真貴さん、真っ暗です!!」
ティアちゃんが慌てたように言います。
「ティア、落ち着いてください。地面がないので暗く見えるだけで、光はちゃんとあります。私やリタはちゃんと見えるでしょう?」
なるほど、そういうことだったんですね。
私も聞きたかったのでちょうどよかったです。
『いいね』
『いいね』
『暮らそう』
『暮らそう』
『王様来た』
『王様来た』
そんなことを話していると、私が馬車の中で聞いたのと、同じ声がどこからともなく聞こえてきました。
「こ、この声が聞こえます」
「これは・・・精霊の声ですね。さっきリタが聞いたという声はこれですね」
今回は、真貴ちゃんとティアちゃんにも聞こえたようです。
「なんでさっきは私にしか聞こえなかったんでしょう?」
「基本的に精霊の声は聞こえるものではありません。さっきは『精霊王』が危なかったので周りの精霊たちが一番強い人・・・一番潜在能力の高いリタに助けを求めたのでしょう。今、聞こえるのはこの『亜空間』がリタの魔力で溢れてる・・・いえ、リタの魔力で出来ているので、精霊が異常に活性化しているからです」
「精霊が活性化・・・それって悪いことではないんですよね?」
「はい、むしろ体調がよくなっているはずです」
「あ、そういえば、何となく疲れが取れてきているような気がします」
悪いことではないのなら問題ないです・・・っとそれより『精霊王』のことでした。
「真貴ちゃん、それで、どうすればいいんですか?」
「リタの魔法で水を大量に出してください。『精霊王』をその中に入れておけばそのうち回復します」
「わかりました」
『アクアファウンティン!!』
私は魔法で小さな池ができるくらいの水をだします。
もっとも、池のようになるのではなく、目の前でぷかぷか浮いてるんですけどね。
さっそく『精霊王』をその中に入れます。
なんとなく、『精霊王』の表情が柔らかくなった気がしました。
その後、私達は『亜空間』からでて、馬車の所に戻ると、御者の人や護衛の人が大騒ぎしていました。
なんでも、なかなか私達が戻ってこない上、大きな炎まで上がったので、何人かが探しに行ったのですが、途中で息が出来なくなって引き返したそうです。
そこからは、『すぐに近くの町に戻って救援を呼ぶべき』という人と『もうしばらく様子を見る』という人と『私達のことはあきらめてさっさと逃げる』という人の3つに分かれて言い争っていたそうです。
最後の人たちの気持ちもわからないではないですが、助けくらいは呼んでほしい物です。
馬車に入った私は、さっそく真貴ちゃんに今回のことを色々聞きたかったのですが、「もう無理です。寝ます」といって寝てしまいました。
ティアちゃんも、「私も寝ます」といって寝てしまいましたので、私も寝ることにします。
惜しむらくは、私も疲れていたのですぐに寝てしまい、真貴ちゃんとティアちゃんの寝顔を堪能することも、クンカクンカすることも、頬ずりすることもできなかったことです。




