三話 正義の奉仕者
その後、俺と桜の仲は急接近………とはいかなかった。
俺が間違って西園寺とでも呼ぼうものなら、コンパスやハサミといった殺傷能力の極めて高い物を投げつけて来るのだ。
これはもはや罪だぞ?
そしてそんなある日。
「おい柊、お前今度の休日空けとけ。てゆうかどうせヒマなんだろ?」
俺は泉を殴ろうとする拳を制しながら聞いてやった。
聞けばその休日、とうとう埋め合わせの日らしい。
確かあいつ、アブナい事言ってた気がするんだが……。
まあどうせくだらない事だろうし、忘れるか。
しかし時が流れるのは意外と早く、遂に埋め合わせ当日になってしまった。
「よし、着いたぞ」
泉は腰に手を当て、高らかに宣言した。
そこは駅前の駅から六つほど離れた、俺にとっては未開拓の土地だった。
周囲にはメイドや半獣人(頭部にケモノの耳を装着している超獣だ)がうろつき、一般人かと思いきや手にしているカバンに何かのキャラがプリントされている。
そう、ここが泉の縄張り、オタクのメッカだ。
「では早速、例の場所へ向かおうか」
泉の後を追いかけ、謎の土地を開拓していった。
泉が指定したメイド喫茶とやらはそう遠くなく、五分ほどで到着した。
道すがらの会話に困ったものだ。
やれバーサーカーは命持ちすぎだとか、葛木は手に強化かけるとセイバー超えるとか、話に付いて行けん。
それはともかく、カランという喫茶店らしい音を鳴らして入店する俺と泉。
だが俺は見逃さなかった。
店名が
「喫茶じゃすてぃす」だった事を。
「お帰りなさいませ、御主人様」
店内に入った途端、一列に並びかしこまっているメイドさん。
どのメイドさんも美人であるのは、店内に客が充満している事と深い関係があるに違いない。
「あっ、涼様だ〜〜!」
奥から小さなメイドさんが現れ、パタパタと駆け寄ってきた。
「来てくれたんですねっ、涼様」
「ああ、この店が心配でね。みんなは奥かい?」
「はいっ!みんな涼様のお帰りを待っていましたっ!それで……となりのカワイイ男の子は?」
それは俺のコトか……。
ぬう、自分より背の低い娘にカワイイなどと……。
何たる屈辱。
「こっちは俺の親友、柊一だ。コイツなら危機を救ってくれるに違いない」
お前と親友になった覚えは無いがな。
「皐月 柊一です。どうも」
「は〜い、柊様ですね〜」
柊様と名付けられた俺は、泉と共に喫茶店の奥、裏方の方へ案内された。
案内された部屋にはまた新たなメイドさんが4人もおり、どれもみな美人さんである。
「じゃあみんな、先ずは自己紹介から」
泉はそう言うとなかなかの広さを誇るこの部屋で自己紹介が行われた。
最初は案内してくれたあの女性だ。
「アリスで〜す。ちなみに年齢はヒ・ミ・ツ」
別に聞いてねぇよ。
「イリスです。お見知り置きを」
おお、今度はマジのメイドさんだ。
清楚な感じの黒髪ロング。
「ハリス、同じく年齢は言えん」
ついお前はメイドか?と聞きたくなるような切れ目の女性。
桜を見てるようだ。
「…………マリス」
……って終わりかい。
えらく簡潔だなおい。
「ユリスですわ。期待しておりましてよ、柊一」
金髪カールのクルクルだ。
まさに西洋的だな。
「では、柊に来てもらったワケを話そう」
そうだ、俺はまだ何故ここにいるかを知らないんだ。
「実はここ最近、メイド狩りというのが問題になっていてな。柊にはそれを解決して貰いたい。作戦内容や、解らない事があったらイリスに聞いてくれ。俺は情報収集に行ってくる」
そう言って、泉はまたどこかへ消えてしまった。
一人にしないでくれよ、不安なんだから。
「では、作戦内容をご説明致します」
黒髪美人さん(イリスだっけ?)が一歩前に出てきた。
「私たちにはメイドを派遣し、御主人様のお好きな場所で御奉仕させていただくシステムがございます。そしてそのシステムを利用したメイド狩りが、最近問題になっているのです」
「それでその……メイド狩りって何ですか?」
恐る恐る問いかけてみた。
「メイド狩りっていうのは、メイドを派遣させて、エッチなコトしたりする事なんですよ。最悪この業界から消えちゃう娘もいるんですから」
これにはアリス(?)が答えてくれた。
「早い話が、そのメイド狩りをしている者達を、お前を囮にして炙り出そうというワケだ」
なるほど………ってちょっと待て。
何故俺がそんな犯罪ギリギリな事件に首を突っ込まねばならんのだ。
「メイド狩りは本格的な捜査が必要な為、警察も動いてはくれません。そこで、柊一様と涼太様に摘発をお願いしたいのです」
イリスさんは仰々しく頭を下げ、お願いしてきた。
あのメイドとは思えん女性ならともかく、こんなか弱い人に(予想)頭を下げられてはな。
「……別に引き受けてもいいですが、具体的にはどうするんですか?」
パッと頭を上げたイリスさんは、ひまわりのような笑顔を向けてくれた。
「柊一様に女装していただき、その者達に近寄ります。不埒な狼藉を働かれた瞬間、その者達をひっ捕らえる。それだけでごさいます」
わあ、この人簡単に言うやぁ。
疑問1 俺が女装してバレないとでも思ってるのか?
疑問2 俺、かなり危険じゃないか?
疑問3 あの切れ目の女(名前何だっけ?)にやらせればいい。
疑問4 何故、泉が動かない?
疑問5 俺にコスプレの趣味はない。断じてない。
以上が俺の気の進まない理由だ。
疑問5についてはあくまで俺の意見だがな。
「あのですね、イリスさん」
俺が諭すような口調で喋り出すと、イリスさんは目をまん丸にした。
「百歩譲って俺がバレずに接近出来たとしても、確実にその相手を捕獲する保障は何処にあるんです?一度バレたら、同じ策は使えないですよ?」
「変装については問題ありません。柊一様は中性的な顔つきですので、何とかなります」
なるほど、問題が一つ解決という訳だ。
にしても俺は中性的な顔つきなのか?
それに、いくら中性的だからといって完璧な女装をするなどメチャ困難だろう。
「涼太様から、『柊には武に優れ、容姿も端麗という最強の友人がいる』と聞いていますが?」
………なるほど、そういう事か。
泉よ、貴様は俺が思っていた以上に下郎のようだ。
俺だけに危険があるならまだいい。
だが、あいつに危険が迫るのはいただけない。
「それは俺の一存で決めれる事じゃない。場合によってはこの件から手を引くかもしれない。一度その友人に聞いてみます」
「では、表で涼太様をお待ちになられては如何ですか?出来る限りのお持て成しを致しますので」
俺は半強制的にイリスさんに連行されていった。
向かう場所はもちろん、今現在客の充満している店内だ。
カウンター席に案内された俺は、心細さに堪え忍びつつひっそりと座っていた。
「御注文をお伺いしてもよろしいですか〜?」
いきなりのオーダーに驚いてビクついてしまう俺。
「そ、それじゃあ、何か適当に持ってきて下さい………」
メニューに目を通せばほとんどの料理に『萌え萌え』という単語が引っ付いていたので、選ぶ気になれなかった。
「おまかせですね〜。ただいまお持ちいたしますぅ〜」
軽やかに去っていったその女性は、数分後に帰ってきた。
「お待たせいたしました〜。『萌え萌え夢卵のオムライス ドリンク付』になりまぁす」
その女性が持っているトレイにはケチャップとドリンク。
普通ケチャップなんてのは最初から乗っかってるモンだろ。
それに何故ストローが二本?
「私『まりあ』っていいます〜。ご主人様のお名前は〜?」
「あっ、皐月っていいます………」
トレイをカウンターに置いた後も居座り続けたその女性、まりあは、いきなりケチャップを握りオムライスにグニグニと文字を描き始めた。
さ……つ…?
ああ、『さつき』と描きたいのか。
最後の『き』がかなりいびつだ。
「はいっ!完成です!後はここに萌え萌えパワーを………」
言い終わらない内にその文字をスプーンで混ぜまくってやった。
当然文字は薄く引き伸ばされ、原型を保っていない。
「で、でわっ!一緒にこのドリンクを仲良く………」
ストローの封を開けようとするメイドよりも早く、ドリンクを一気に飲み干してやった。
残念だったな、メイドさん。
俺にメイド属性が無い事を見極める目と、客よりも早く動く素早さが、キミには足りなかったのさ。
火中天津甘栗券でも会得する事だ。
「で、ではごゆっくり……」
すごすごと下がっていくメイドを尻目にかけつつ、オムライスを切り崩ししにかかった。
全て食べ終わり、それから五分ほどで泉が帰還した。
とりあえず店を出てブラブラ歩きながら話をしていった。
「お前……桜を利用するつもり何だろう?」
「おっ、話が早いな。お前を助っ人にした理由の大部分が、それだ」
俺は、深くため息をついた。
「桜に話を持ちかけるのも大変だし、もしも桜が危なくなったらどうするんだ?」
「そのためにも柊がいるんじゃないか。西園寺を導き、時には盾になる。言うなればナイトだ」
ああそうかい。
桜のための捨て駒になれと。
俺が身を削れば万事丸く収まる、と。
これが埋め合わせか。
俺と妃奈の仕出かした事はそんなに重罪なのか。
いや待てよ?
桜は尋常ならざる強さを持ち合わせた身。
当然俺の守護は必要無く、俺は桜をその気にさせるだけでいい訳だ。
一肌………脱ぐか。
翌日…………。
昼休みに桜と遭遇した俺は、体育館裏でこれまでの経緯を話した。
先ずは遊園地の事を話し、そこから埋め合わせに付き合わされた今の事…。
途中で不機嫌そうな顔になったが、鉄拳を繰り出すわけでもなく最後まで聞いてくれた。
「なるほどね……話はだいたい分かったわ」
諭すように口を開く桜。
「泉君の友達を助ければいいんでしょ?女の子に悪さするなんて許せないし、私が懲らしめてやるわ」
拳を前に突き出し瞳が爛々と輝いてはいるが、手加減を忘れずにな。
お前の拳は人を殺めかねん。
「当然、あんたはは私にお礼の一つでもしてくれるんでしょうね?」
おいおい、最近埋め合わせやらお礼やらが多いな、俺。
「泉に頼まれた事だけど……よし、礼の一つはしよう。一つだがな」
それを聞いた桜は何やら不敵に笑った。
ああ、何か企んでるな……。
「明後日くらいに祝日があったろ?その日に作戦決行だ。ちゃんと覚えといてくれよ」
「分かってるわよ。それよりあんたこそ、途中で逃げ出したりしないでよ」
俺は男だし、森で鍛えた超自然的武術を会得している。
背丈が同じくらいの仔熊なら互角に戦えるぜ。
それに何より、変態共に臆さぬ勇気がある。
これも野生の中で手に入れた経験の一つだ。
人間相手にボコボコにされたのはお前が初めてだからな。
お前との戦闘だけは未だに怖い。
そんなわけで無事桜に話をつけた俺は、次に泉の所に向かった。
奴には説明してもらいたい事が山ほどある。
教室に戻ると、やっぱり奴は居た。
「おい、泉」
机に突っ伏している泉をたたき起こす。
「ん、柊か……。どうだ、西園寺は説得出来たか?」
「もちろんだ。それより泉、問題が一つある。場合によっては作戦は失敗するし、俺とお前は命を落としかねん」
すると泉は首を傾げ、何の事か分からんような顔をした。
すでに対策があるのか、それともただの馬鹿なのか。
その答えを求めるように俺は恐る恐る聞いてみた。
「………西園寺 桜に、メイド服を着させるつもりか?」
泉は口を大きく開き、目をニ、三度パチパチとまばたいた。
「俺はメイド関係の事は一切話してないし、ただ不埒な狼藉を働く変態を痛めつけてくれって頼んだだけだ。あいつが素直にコスプレしてくれるとは思えん」
「………西園寺に関する事は全て柊に一任する」
それだけ言うと、そそくさと教室から出て行った。
なるほど、ノープランか。
まあいいさ。
俺も女装するらしいし、桜も我慢してくれるだろ。
――――そして時は経ち、とうとう作戦決行当日となってしまった。
泉は先にあの喫茶店に行っていて、今は桜と二人で電車の中だ。
桜はオシャレな格好をしているものの、やはり戦闘を考慮してか動きやすい服装になっている。
こうして黙って大人しくしていれば見とれてやってもいいものを。
電車は例の場所に停車し、俺と桜はワンダーランドに足をつけた。
「こ、ここは………?」
目をまん丸にしている桜の目線の先には、魔法のステッキにネコミミの女の子。
やっぱり最初の反応はこんなもんだよな、普通は。
「メイドや魔法使いは無視してくれ。泉から地図もらってるから、早く行こう」
桜はコクコクと頷き、俺と一緒に不思議の国の猛者共の群れへと突入した。
俺もこの場所にはなかなか馴染めず、早足で目的地に向かう。
「……やっぱり男って、こういうの好きなんだ……」
桜が目の前をよぎるゴシックさんを見ながら呟いた。
「それは違うぞ桜。これらは一部の男の趣味であって、男子全般の好みではない」
これだけは訂正してもらわんとな。
俺の知る限りここを住処にしているのは泉だけだ。
「へぇ……。じゃああのメイド、どう思う?」
桜が少し遠くにいるメイドさんを指差した。
「メイド衣装は可愛いと思うぞ。でも、だからといって『萌え』の意味は分からん。似合ってたらそれはそれで良いもんだろ?」
ちなみにこれは、恐らく世間一般の意見だ。
正直、もし彼女にネコのミミでも生えていようものならば俺は、確実にそのミミを引きちぎるだろう。
引きちぎった後シュレッダーにかけ、燃やし尽くしてから地下に埋蔵してやる。
そんなもんだ。
「似合ってたら……か………」
桜は意味ありげな顔をしている。
出来ればメイド服は気に入って欲しいものだな。
後で俺が殴られる可能性やボコボコレベルに大きく関わるからな。
そんな感じで足を進めたせいか、割と早く喫茶
「じゃすてぃす」に到着した。
集合場所を見てまたキョトンとする桜を横目に、一度来ている俺は扉を開いた。
カランとベルの音がして、やはりと言うべきかあの洗礼を受けた。
「お帰りなさいませ―!ご主人様―!!」
一斉にしゃちほこばるメイドの群れに、桜は一段と驚いた。
こんな桜を見る事が出来るのなら、ここを集合場所にしたのは正解だったかもな。
初々しい桜もこれはこれでよろしい。
「あ、あのー……泉さんはどちらに………?」
一列に並ぶメイドさんに聞いてみたが、どれもみな分からないようだ。
「………こっち」
奥で手招きをしている少女が、そう呟いた。
もちろんメイドさんだ。
確か、あの五人組の内の一人だな。
名前はナントカリスに違いない。
俺と桜はそのちっこい少女について行った。
案内されたのは見覚えのある、あのだだっ広い部屋だった。
やはりあのメイド一族は勢揃いしている。
そして少し離れた所で悠々とイスに腰掛けている―――――。
「ご足労感謝する、我らが救世主」
総司令官のごとくふんぞり返っている泉の姿があった。
「では早速西園寺には作戦内容の説明を、柊にはメイクを」
泉の一言であの金髪カールが俺の腕をつかみ、またさらに奥の部屋へと連行された。
「フフッ、メイクのしがいがありますわ」
ああ、そうか……。
今から女装するんだな、俺………。
しかもメイドに……。
どうせならあの清楚メイドさんにメイクして欲しかった気もするが、それだと桜に悪いな。
大きな化粧台に座らされ、鮮やかな手つきで俺を女へと変換していく金髪カールは、終始真顔だった。
その間に、作戦の最終確認を行っていた。
メイドに扮した俺と桜で変態をおびき出し、即座にどつき回す。
この手の奴らは一度ボコにされると、周りの奴らも手を出しにくくなるらしいし、要は最初が肝心だ。
戦力に関しては問題ない。
俺は一応常人よりは武芸に秀でているし、桜に至っては真剣に武術を学んだリアルな武人だ。
俺は兎も角、桜に対抗出来うる人材などそうそう居はしないだろ。
ま、普通に戦えばの話だけど。
そんなこんなで割と女寄りな顔へとモシャスした俺は、次に衣装を借り受けた。
当たり前なのだが、メイド服だ。
まさかこんなに近くでお目にかかるとはな。
全然嬉しくないけど。
メイド装束とカツラを片手に、俺は更衣室へと向かった。
更衣室と言っても、試着室のような個室が二つ並んだ簡易だが。
俺とは違う方向から、桜もやって来た。
どうやら説明は済んだようだな。
俺の顔を見るなり急に笑い出しやがったが、そこは気にせず速やかに更衣室へと入室した。
更衣室は二つピッタリと並んでいるワケで、壁の向こうは早ければ私服、グッドタイミングなら裸、遅ければメイド服の桜がいるんだな。
「柊一、覗いたら殺すから」
誰が貴様の裸なぞ見たがるか。
桜の裸を見たまではいいが、その後目に映るのはお花畑と死んだお袋だ。
さすがにそれは切ないだろ。
でも、隣でゴソゴソと音をたてるのは止めていただきたい。何かと気になる。
俺は着ていた衣服を剥ぎ取り、メイド服に目をやる。
「…………桜」
俺は視線を動かさず、手も動かさないまま呟いた。
「桜はこの仕事、嫌じゃないのか……?」
「うーん、メイドになれって聞いた時はびっくりしたけど、今は別に嫌じゃないわよ」
俺が聞きたいのはそんなコトじゃないんだがな。
「そうじゃなくて、もしかしたら危険な目に遭うかもしれないんだぞ?当然相手は男だろうし」
それを聞いた桜は、フンと鼻で笑った。
「私はそこらの男に負ける程弱くないわよ。それはあんたが一番知ってるでしょ?」
ま、そりゃそうだけどな。
でも俺はどうも引っかかるんだ。
あの時の妃奈の言葉―――
(桜も女の子……か)
俺はメイド服に手をかけ、上からすっぽりと被った。
「……もし怖くなったりしたら迷わず俺の後ろに隠れろよ。俺の出来る限り守ってやる。俺だって盾にぐらいはなれるからな。ま、そんなコトは万に一つもないのかもしれないけど」
桜の手が、ピタリと止まったようだ。
今まで聞こえていたゴソゴソという音が消え失せている。
「勝手に桜を巻き込んだのは俺達だし、桜にはケガとか怖い思いはさせたくない。これは俺の義務だからな、拒否すんなよ」
俺が話し終わると同時に、またゴソゴソと音が聞こえてきた。
「……わ、私だって格闘技やってるんだから、素人のあんた一人くらい守ってみせるわよっ!拒否なんかしたら殴るからねっ!」
「……果てしなく矛盾してるとは思うが、その言葉はありがたく受け取っとくよ」
メイド服を完全に着用した俺は仕上げにカツラを装着し、扉を開いた。
同時に桜も姿を現した。
完全なメイド姿で。
情けないことに俺は、桜のメイド姿に見とれてしまった。
「あ、あんまりジロジロ見ないでよっ!」
桜はそう言っているが、コレばかりは致し方ない。
頭の両サイドで束ねられている黒髪。
リボンでそれぞれくくっているのが可愛らしいカンペキなツインテール。
ロングスカートの下にガーターベルトが着用されていることを切に願う俺だが、あまりジロジロみるのはやっぱりよそう。
今殴られてHPを削っては、今後身が持たない。
それに今桜はハイヒールだ。
かかとを使った蹴りでも喰らったりしたら………。
あの世逝きだね。
「かなり似合ってるぞ。こんなに可愛いメイドがいるなら、メイド狩りをしようと思う変態の気持ちも分からんでもないな」
ねぎらいの言葉をかけた俺は、あのメイド一族の元へと戻る。
「………似合ってる……」
「おーい、桜。ボーっとしてたら放っていくぞ」
俺が歩き出したのに石化している桜を呼ぶと、キッとこちらを向いた。
「ちょ…待ちなさいよっ!」
桜は少し笑いながら走り寄ってきた。
慣れないハイヒールに苦戦しつつも必死に走っている。
みなさん、初めまして。毎回後書きを書こうと意気込んではいるものの、何故かいつも忘れてしまう今日この頃。さて、初めての後書きということなので、まずお伝えしたい事が一つあるのです。お気づきの方もいるとは思いますが、この小説には多々某RPGの技が出現致します。大抵のキャラクターが一番最初に覚えてる、アレですね。まあ他にも幾つか登場しますが、挙げていてはキリがないのでこのあたりにします。この技、何かと桜が使用していますが、正直一部無理がありました。例えば剛・魔神剣。いくら魔神の技だといっても、剣はマズかった……。普通に考えれば魔神拳自体不可能ですがね。と、残念ながら文字数超過のため、この続きはまた次回!