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Only You!  作者: 羽衣
2/14

一話 新たな生活



木枯町立第二高等学校。



それが、俺の新たなる学び舎だ。



俺はこの町の事を全く覚えていないからか、徒歩十五分の道のりを一時間かけて登校するハメになった。




あの時親父に見栄を張って、一人でたどり着けるなんて言わなきゃ良かった。






そのせいでこの町を散々歩き回った末、二高に着いた。




最初は職員室に出向き、教師の方々に挨拶をしに行ったのだが、何分遅刻気味なのだからどうにも視線が痛い。




かなり余裕を持って家を出ていなければ、いきなり指導をくらうところだったな。




そんな訳で、これからクラスメートになる予定の人々の元へ、俺は行進することになった。






はじめに片山とかゆう男子教師、しかも半世紀とちょっとを過ごしたであろうおじいちゃんが、俺の紹介をしてくれた。




こんなじじいが俺の担任とは、神様も酷なことをする。




美人な女性で、若くて、生徒とほとんど見分けがつかないちょっと天然な人を、俺は夢見ていたのに……………。







そんなギャルゲーにしかないような設定はさておき、俺からも自己紹介を手短に話してやった。




こういうのは適当なことを淡々と語るに限る。




下手にウケを狙ったりして大惨事になった奴を、俺は数人知っているからな。






で、そのじじいに指定された席に着席し、朝のHRが始まった。







何やら宿題を提出しようと、みんながざわざわして歩き回った時だった。




「よっ、転入生」






軽々しく喋りかけてきたのは、割と顔がかっこいい目の男だった。




俺が今までモテなかったからかもしれないが、イケメンは好きではない。



だから無視していると、そのとなりにいる、今度はかわいい女子が話しかけてきた。






「こんにちは、私水野ってゆうの、よろしくね」




俺は美女は大好きなのでこちらには返事をしてやる。






「皐月 柊一だ。よろしく」




水野なる女子は俺に優しく笑いかけている。






「泉 涼太、今日からお前の親友だ。よろしくな」






せっかく俺が初恋に目覚めようとしていたのに、それを邪魔するとは。




だがまた無視するのも可哀想なので、適当に

「うん」と言ってやった。







取りあえず二人、友達ゲッチューだ。






その日は入学式とかもあったので、午後には家に帰宅できた。






校門を出て、今度は無事に家にたどり着けるかと悩んでいた時、後ろからキレイで透き通った声が飛んできた。




「あの〜〜〜〜……」




振り向いてみれば、そこにはとても美しい女の子が立っていた。




一瞬ゾクッとしたね。




神様はまだ俺を見捨ててはいなかったのか!




ギャルゲーでいうヒロインの登場だ。しかも二人目か!?







「…………なに?」




俺はなんとも思っていないような声で答えた。



動揺すると恥ずいからな。






「柊君……だよね?覚えてる?昔よく遊んだんだけど…………」




俺の名を気安く呼ぶとは、男子なら殴ってるぞ。

かわいいからいいけどね。




「悪いけど……どちら様??」




「もう〜〜!やっぱり忘れてた!!」




その女の子は顔を膨らませ、プンプン怒っている。




「妃奈だよっ、神谷 妃奈!」






ひな?どっかで……って確か幼なじみか…………?







「ああ、妃奈か………そういや昔よく遊んだな」




俺は親父に言われた事をそのまま言ってやった。



あまり記憶に自信がなかったからな。






「ありがと………あの約束、覚えててくれたんだね……」






………あの約束とは一体?



俺は約束の事なんかさっぱりだぞ。






覚えてるのは妃奈の家と俺の家がとなりだということぐらいだが。







「せっかくだから一緒に帰ろ。また同じ家何でしょ?」






なんで知ってるんだ?とか、約束って何だ?とか思ったが、ここはすんなり了解しておこう。




帰り道もうろ覚えだしな。







その帰り道での出来事なのだが、俺が

「妃奈」と話しかけると、顔を真っ赤にしながら

「はい………」と、敬語で答えるのである。




お前は新婚ホヤホヤの大和撫子な俺の理想の妻か、と言いたくなるような 態度をとるのである。




まあ、俺には幼なじみ萌とかそういう属性はないからなんとも思わないが。






そんな訳の分からん妄想をしているうちに、マイホームの玄関に着いた。




バイバーイみたいな小学校低学年レベルのさよならをしてから、俺はドアを開く。






「おっ、妃奈ちゃんと一緒に下校してきたのか?」




「そうだけど、それが何か?」






俺が答えると、親父は猫のような笑みを浮かべて消えていった。



怪しい………。






親父は今あんな感じだが、明日の朝、おそらくこの家にはいないだろう。


そんな仕事をしているのだ。






だから俺は今日から一人暮らしも同然だということになるじゃないか。




パラダイス…………!






夢にまで見た一人暮らし!




何をするにしても自由なあの………………………



ピンポーン






俺が狂喜していると、インターホンが雄叫びをあげた。




モニターを覗いてみると、そこには妃奈が立っていた。




「どうした?妃奈」




速攻でドアを開け、立ち尽くしてポカンとしている妃奈に聞いてやった。




「あの……お父さんが、今日一日泊まっていかないかって………あっ、ホラッ、おじさんすぐに仕事行っちゃうから」







それはウチに泊まりに来ないかというお誘いの言葉だった。




まあこれからずっと一人なんだし、一日ぐらいいいか。



妃奈もいるし。







と、言うことで妃奈の家、つまり神谷家に厄介になりに行く事が決定されたのだが、俺と妃奈には多少会話に齟齬そごが発生していたようだ。




俺が考えていた泊まりにいく、というのは夜になったらお邪魔になる事だと思っていた。




だが妃奈は、今すぐ来い、そして一緒にアフターヌーンを過ごそう、というものだった。






まあ結論から言うと、俺が今妃奈に連れられて駅前を巡回しているということにつながる訳だ。




あれから家に乗り込まれ、引きこもりを決行していた俺の腕にしがみつき、無理やり引きずり出されたのだ。






駅前といえば、電車に乗るかショッピングでもするかだ。




別段電車に乗る理由もないので、必然的にショッピングをする事になる。




「ねえ柊君、これから服を見たいんだけど、付き合ってくれない?」






俺の内心、

「はあ?めんどくさっ!!」



しかし俺の口は、



「いいよ、もちろんだ」




そしてやっぱりと言うべきか、服を見に行く事になった。







「………ねえ、柊君」




妃奈がレディースの服を物色しながら、少し寂しそうに呟いた。




「なんか柊君変わったね。なんてゆうか……すごく男の子っぽくなった」




そりゃ八年も経てば成長するだろう。




それに、もし俺が女っぽくなったら、目も当てられないような事になるぞ。






「やっぱり昔みたいに……仲良く出来ないのかな………」




妃奈の手が止まる。




「何言ってんだよ、俺と妃奈は昔から仲良いじゃないか。それは今も変わらないよ」






「……そうだよね、柊君は私の事妃奈って呼んでくれるし、……………でも」




ん?名前で呼ぶ?確かそんな約束があったようななかったような………と俺がもう少しで思い出そうとした時、妃奈がヤンキーみたいな目つきで睨んでいるのに気がついた。







「今日水野さんと話してた時ニヤニヤしてたでしょ……………浮気はダメ!」






浮気も何も水野さんと話してたのは一瞬で、ニヤニヤしてたつもりは……………あ、してたかも……。




でも妃奈とは恋仲ではないから浮気にはならん!




「もう……人の気持ちも知らないで…………」




「え?何だって??」






聞き取れない声で、または周波数で何か呟いたように感じたが、妃奈はこちらを一瞥してからプイッとそっぽを向いて店を出てしまった。




女性の心理とはフェルマーの最終定理より難しいのではと、たまに思う。




まあ家に着く頃には機嫌が直っていたので、良しとしよう。







その後は直接妃奈の家に帰り、そこで二人きりになってしまった。




妃奈の母親も確か昔に病死しているハズだ。







そんなヘヴィな話はさておき、何故か妃奈の部屋に連行された。







「柊君はさ、前の学校とかで好きな人できた?もしかして恋人がいたり…………とか」




はっはっはっ、好きな人こそいなかったが、恋人?そんな物、出来るはずがない。




一時人間不信に陥って、山にいた小動物にしか心を開けなかった時期があった事を話してやろうと思ったが、長くなるのでやめておいた。






「そんな人いないよ、俺は妃奈一筋だからな」




冗談のつもりだったんだが、本気にしてしまったのか顔が燃えるように赤くなってしまった。






「そっか……やっぱり柊君は変わらないね。その優しいとことか」






妃奈はにっこりと優しく微笑みかけてきた。




おいおい、そんな顔されたら勘違いしてしまうではないか。




俺の人間不信はそれが原因だぞ。



軽く話しておくと、昔、クラスでもなかなかカワイイ女子と仲良くなり、結構話したりするようになったのだ。




その女の子は誰にでも優しくて、俺も例外ではなかった。






そして、仲良く話している内に

「コイツ、俺のこと好きなんじゃねぇの?」みたいな気分になってきたのだ。




それが悪夢の始まりとも知らずに。






ある日突然、その女の子に話したい事があると呼び出されたのだ。




俺はもちろんスキップしながら待ち合わせ場所に向かったさ。






そして言われたのが、


「○○君との仲、取り持ってくれない………?」



ちなみに○の中には俺の親友とも言える人物が入る。






もう狂ったね。




俺への告白かと思いきや、仲を取り持ってくれだと?




半泣き状態で山へと走り、散々山の動物と戯れたり格闘している内に俺は確信した。






コイツらは俺を裏切りはしない、と。




それからというもの、俺の居場所は山だけになった。




程度にすると、近所の人々に『ターザン』とか、『もののけ王子』とか言われたくらいだ。






まあ、時の流れが俺を正常に戻したから良かったが、もしあのままだったらと思うとゾクッとするぜ。




と、俺のくだらない回想はここでストップしておこう。




思い出しているとまた野生の生活が恋しくなるからな。







「今日の夕飯なにが食べたい?」




新婚の夫婦なら、君が食べたいとか言うかもしれないが、俺が言うと魔神拳が飛んできそうだな。




「美味いもん」




抽象的に答えるのは俺の十八番だ。






その夜の夕飯は、俺のリクエストに忠実なとても美味いもんだった。




何かは言わんぞ、そこら辺は想像に任せるぜ。




無事にお泊まり計画を完遂し、俺がマイホームへの長い帰路(10メートル程)につこうとしたところで。




「柊君……いつでもいつまでも泊まってっていいんだよ?」






多分一人暮らしを余儀無くされている俺を心配しての事だろう。




うーん、こういう言葉は心にしみるね。







「ずっと世話になるのは悪いだろ、それに、俺が一人暮らし出来る年齢に達したからこの町に帰ってきたんだぜ?」




妃奈は悲しそうにうつむきながら、さっさと家に戻ってしまった。




おいおい無視かよ、イジメってのはそうゆうのがエスカレートしていくんだぞ。



イジメられた経験はないがな。



ともあれ家に戻ると、案の定親父はいなかった。




寂しいとかゆう有り得ない感覚はないが、やはり妃奈達とガヤガヤ騒いでいるとそれがなくなった時のギャップが激しいな。




しかし、いくら家が隣とはいえ、今から登校とはかなりおっくうだ。







それから二時間ぐらい経ったか、妃奈が呼びに来たので一緒に学校へと向かった。




教室に入ってから分かったが、妃奈は俺と同じクラスだった。



それを口に出すと魔神拳・双牙が地を這うことになるので言ってはないけど。






俺が席に着くと、例に習ってあの二人がやって来た。




美人な水野さんと、あのいけ好かないなんとか君だ。






「おはよう、ヒー君」




俺の耳がイかれているのか、本当に水野さんが俺のことをヒー君と呼んだのか。



どちらにしろ、その呼称に不満があるわけではないが………まあいいか。




「なんだよヒー君て、そんなの嫌だよな、柊」




貴様のような下郎に気安く『しゅう』と呼ばれるよりは百倍マシだがな。




「かわいいじゃない、柊なんて漢字あんまり見ないし」




やはり純粋な理由からそう呼ばれるなら悪い気はしないな。




「まあ好きに呼んでくれていいけどさ」






思えば俺のこの軽はずみな発言は、なんとか君が提案した『しゅう』も認めることになるな。



どうでもいいが。




「それより柊、俺の名前覚えてるか?言ってみろ」




心の中でお前はなんとか君と呼ばれているのに、本名なぞ知るか。




と、俺がなかなか言い出せないのに業を煮やしたのか、自分から名乗りだした。




「泉 涼太だぞ!ひらがなにすると、いずみ りょうただ!」






ひらがなにされても同じに聞こえるぜよ。




「ああ、泉だな。覚えとくよ」




泉と水野さんは気づいていないと思うが、今までの会話はクラス中の視線の的だった。




見知らぬ転入生の素性を知るため、といったところだろう。




斜め後方に陣を構えている妃奈だけは、さぞかし睨みつけていただろうがな。



それからなんとなく仲が良くなった二人も席につき、俺の夢をことごとく打ち破ったあのじじいが華麗に参上した。






そして事件は、皆が船を浮かべる昼休みに起こった………。




俺の配属された班は見事にみんなの嫌がるゴミ捨て役に任命され、昼休みに率先してゴミステーションへと向かっていた。



なぜ俺なのかというと、学校内部を素早く把握するためらしい。



だがゴミステーションは外にあるらしいので、単なるパシリだな。






とにかく外に出れば場所ぐらい分かると思っていたが、これが意外にややこしい造りになっており、学校敷地内で迷子になってしまった。




最近迷ってばっかだな、俺。






パンパンに膨らみきったゴミ袋を引っさげ、戻ることも出来ず、道を聞こうにも人っ子一人いないのだから困ったものだ。




妃奈にでも付いてきてもらったら良かったなと後悔の念を周囲の草木にぶつけていたその時、やっとこさ助け舟が現れた。




目の前を悠然と歩く一人の女子。




妃奈は髪を肩よりも少し長いぐらいしか伸ばしていないが、目の前の女子は腰に届こうかというほど長い黒髪だった。






俺の経験上、あんな後ろ姿をした女性は美人だね。




オーラが出ている。



そんな気がする。






「すんませーん」




ちょっと距離があるので聞こえないかもしれない。



そう思いながら叫んでみた。




しかし応答がない。



多分聞こえてないんだろうと思い、今度はさっきよりも大きな声で呼んでみる。






「聞こえてますかー?」




またもや応答無し………こうなれば実力行使しかないと判断した俺は、ゴミ袋をその場に置き、そそくさとその女子に歩み寄り肩をつかんだ。







「ちょっと聞きたい事が…………」




肩をつかんだ瞬間、その女子はキッと振り返り、俺を投げ飛ばした。




いや、投げ飛ばしたといえばあまりに無粋すぎる。




俺はキレイな弧を描き、柔道の技の一つである背負い投げを見事に喰らったのである。







ドシーン!!と、大きな地響きが起きたような錯覚にみまわれ、頭の上をヒヨコが乱舞していたその時だった。




背負い投げだけでは飽きたらず、完全に無防備な俺のボディへと剛・魔神剣を叩き込みやがったのだ、その女は。






おかげで俺は激しい嘔吐感と、キレイな川の向こうで手を振る母親が見えた(気がする)




何とか現世に舞い戻った俺は、やってしまったみたいな顔をしているその女を見据えた。







「な……なにを突然……」




あまりの痛みに、言葉が途切れ途切れになる。






「つい……でも、急に肩をつかむあんたが悪いんだからね!!」






なんだこの女。




残念だが俺の常識では、肩をつかまれただけで人をどついていい理由にはならんな。




俺の殴るぞ、は冗談だからいいがよ。




「だからって普通殴るか!?」




「殴るわよ、あんた夜道で会ってたら痴漢で訴えてるわよ」






な、なんという………。



まあ、今のは確かに俺にも非があったが、多少やりすぎたと思うぞ。




「……俺も悪かったが今のはちょっと……」




そこまで言って、急に言葉を遮られた。




「うっさいわねー。それより何?用があったんじゃないの?」




もういいさ………。



それは水に流せって事だろ……。




「………ゴミステーションにはどう行けばいい?」




こんな事を聞くためにボコれたと思うと馬鹿馬鹿しくなるな。






「それならこっちよ、お詫びに案内してあげるわ」




そんな感じでゴミステーションへと向かい、その道すがらに名前も聞いておいた。






彼女の名前は、西園寺 桜というらしい。




聞けばその西園寺、昔から柔道や空手を極めんとしたらしい。




素人に手を出すあたり、人間としてどうかと思うね。






話していれば、先ほどの仕打ちが嘘のようなやつだった。




俺の予想通り顔に関しては文句なしの一言だ。




お近づきになるには良い機会だったろうな。



ファーストコンタクトが最悪でなければな。




西園寺のおかげで無事にゴミを捨て、そのまま我がマイクラスへと帰還することが出来た。

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