始まりの封筒
七瀬透は普通の少年だった。
よく全ての分野において平均的だと自分を評価する人間がいる。だがそれはあくまで自分に見えていないだけで、大抵の場合は何か優れている分野というものが存在するものだ。容姿や学力は並でもスポーツは得意。学力や運動能力は並でも容姿は優れている。とまあ『普通』な人間などいないのである。
ただ、透は例外だった。
容姿は中の中。学力は全てのテストで平均点。体力テストの結果は校内平均よりわずかに高く、全国平均では見事なまでの標準値。
他人に嫌われるでもなく、過度に好かれるわけでもない。
努力をしてもうまくいったり、うまくいかなかったり。
普通。他人が透を表現しようとしたら、その言葉が真っ先に出てくるのだ。
普通などありえない。一人ひとりが違う人間なのに、普通という言葉は当てはまらない。にも関わらず、誰もが透を普通だと言う。
それは、ある種の異常だ。
だからなのか、それとも単なる偶然なのか。七瀬透の運命は、高校一年生の夏、夏休みも終盤という時期になって大きく動き出すことになる。
きっかけは、一通の封筒だった。
◇ ◇ ◇
透はいつものように郵便受けの中に入っている物を取り出し、玄関の扉を開けて中へと入った。
「ただいま~」
奥から母の返事が返ってくる。リビングに向かう途中で手に持ったチラシやら広告をめくっていると、一通の封筒が目に入った。
「七瀬透様? 俺宛じゃないか。塾からの勧誘か何かか?」
封筒にわずかなでっぱりがある。勧誘のおまけで消しゴムでも入っているのだろうか。
テーブルの上にちらしや広告を置き、手紙の封を破る。塾に入るつもりはなかったが、もらえるものはもらおう。そう考えて手のひらに中身を落とす。
「……なんだこれ?」
出てきたのは消しゴムではなく、指輪だった。
螺旋を描くような銀色のリング。中央に添えられた赤色の石。光に当てられ輝く様はとても美しく数秒の間目が離せなかった。……高そうな指輪だが、なぜこんな物が封筒に入ってるんだ?
カサリと、遅れて封筒から紙がゆっくりと落ちてくる。封筒に指輪を入れなおし、代わりに紙を引っ張り出した。
入っていた紙は二枚。
一枚目の紙には一行だけしか記されていなかった。
『七瀬透様。貴方は創造聖戦の参加者に選ばれました』