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6 ファーストレディのドレス (2)


 ◇◇◇


「……見城さん」

 レンの右腕に体をすりよせるようにして、舞が囁いた。

「顔を向けないで。気付かれないように。

 気になる人が居るの……。

 怖い人。誰かを恨んでいて、痛めつけたいと思っているわ……。止めなきゃ」

「……何のことです……?」

 舞の言う通り、顎を動かさずレンは聞き返した。視線で、答えを探す。カバのプールを一歩一歩離れながら、この場に存在するらしい異様な気配を探る。

 狭い園内にしては盛況な、二、三十人の客がここに居た。だが、すぐに見分けがついた。

 仕立てのいいスーツを着て、ブランド物の時計を袖口に見せる裕福そうな若い男。連れはなく、檻の中をのぞくでもなくブラブラと歩いている。相当な地位にはいるらしい。だが二十代後半といった顔立ちには、紫月に比べれば世間知らずな甘さが見える。

 この場に居るには、違和感のある男だが、それまでだ。殺気があるわけでもない。ただ、時折、何者かだけを暗く濁った目で見据えている。

 舞がレンの袖を引き、教えた。彼女は先ほどから故意に、五歳ほどの女の子を連れた若い女の後を付けるようにして歩いていた。若い母親は、やややつれた顔色だが、はしゃぐ子供を見下ろしては幸福を噛み締めるように自分も微笑んでいる。羽織ったカーディガンは地味なものだった。

「私を、信じて下さい。見城さん……」

 舞がレンを見上げる。レンに触れた肌が、緊張で震えていた。レンは舞の体を押しやった。片手でその場に押し止め、自分一人、ゆっくりと進む母子を追いかけた。

 背後のスーツの男と、母子の間に割って入る。

 男の足音が近付いてくる。背中で測り、レンは歩みを緩めた。男が、真後ろで舌打ちを立てる。目の隅で横を振り返ったレンは、舞が置いてきたはずの場所から、駆け出すのを見た。

 また勝手な真似を……!

 だが、高まる殺気がレンを引き戻す。苛立ちながらレンを追い越そうとする男を見た。

 懐から拳銃が取り出されようとしていた。レンは鋭く足払いを食わせた。前のめりで地面に転がってもなお、男は前に拳銃を突き出した。

「よせっ!?」

 一発の銃声。周囲の全員に、恐怖と悲鳴を巻き起こした。

 レンは飛び掛り、手加減無しに男を歩道に組み伏せた。拳銃を握る右手を簡単にねじ上げる。男が情けない悲鳴を上げ懇願したが、構わず力を込めた。

「! お嬢さん!?」

 拳銃を奪い、勇敢にも加勢してくれる見学者の男たちに銃と襲撃犯を預け、レンは野次馬を分けるようにして舞を探した。

「大丈夫よ。もう大丈夫だから。

 驚かせてごめんね?」

 天使のように細いがよく通る声に、レンは安堵した。同時に、目を疑った。

「……なん……だ………?」

 少女は、怯えて泣き叫ぶ子供を抱き締めていた。レンの思考を止めたのは、うずくまる二人を包む白っぽい輝き。光の薄いベールが霞のように揺れていた。

 アテネの、強い日差しの下で。

 騒然とした中で、白い影に気付く者は無い。ただ一人目の当たりにするレンには、陽炎のようには思えなかった。

 それほどに確かな輝き。静かに消えていく光の霞の傍らで、若い母親がこちらを見つめ、呆然と立ち尽くしていた。

 舞は女の手に子供を預けた。ようやく正気を取り戻し、女は自分の子供を抱き締めさめざめと泣き崩れた。

 園の警備員が現れ、母子を慰める。犯人の方は、すでに連れ出されていた。

「……お嬢さん」

 ぼんやりと、疲れた顔で舞も立ち尽くしていた。

「あの子、かわいそう……。本当の父親に、命を狙われるなんて……」

 若い母親は泣きじゃくりながら、警備員に呟いた。別れた夫だと。理由はどうあるにせよ、あの男は人間として狂っている。危険な人間だった。

「病院に寄りましょう」

 レンは舞の肩を抱え、その場から連れ出した。苦い気分だった。少女の右腕外側にかすり傷があった。間違いなく、先ほどの銃弾が触れた跡に違いない。

 危険のない場所に、置いてきたつもりだった。なのに、舞は自分から飛び込んできた。

 レンが最も恐れていた行為を、全くの他人のために。そうして怪我を。その上、命を危険に晒したという以上の、強い疲弊感が彼女にはあった。

「それはダメ。兄さんに叱られるわ」

 ……それはそうだろう。当たり所が悪ければ、もっとひどい目に遭っている。

 そうして、レンもまたペナルティが課せられる。だが、そんなことは構わない。舞の血の気のない顔色が気に掛かった。

「少し早いけど、ブティックに行って下さい。あそこなら安心だと兄さんが言っていました。

 コロキナ通りの『カヴァラ』という店です」

 レンは頷き素早く少女を抱え上げた。驚きもせず、舞はレンに身体を預けた。

「……私、大丈夫です。少し休めば。

 自分のことは、よくわかっています……」

 何が彼女に起きたのか。自分の困惑を押し殺し、レンは先を急いだ。


 ◇◇◇


『カヴァラ』には、女主人が一人居た。

 シックなドレスが落ち着きを与えていたが、三十歳を越えた程度の若さが肌にあった。取り澄ました金持ち相手のせいか、彼女自身も高い鼻梁の、気の強そうな美人だった。

「眠ったわ。少し疲れているだけよ。

 すぐに連れてきてくれたから、手遅れにならずに済んだわ。ありがとう」

 女は真剣な表情で、レンに礼を言った。

 肉親のような物言いに、レンは女を見直した。血縁があるとは思えない。ブティックの奥に置かれた、客用のアンティークソファに彼は居た。売り場は狭いものだが、試着用も兼ねたこのサロンは、ゆったりとしている。

「お嬢さんとは、どういう関係なんだ?」

「? 私と? 私はただの女主人。彼女は大切なお客。先週、採寸に着てくれて初めて会ったわ」

 でも、と女は続けた。

「素直でいい子だから、とても気に入ってるの。あなたも好きでしょう? ここに飛び込んできた時には、あなたまで青い顔をしていたわ」

「仕事だからな。だが、倒れるほどハードスケジュールで動いたつもりはない。どこか悪いのか?」

「いいえ。ただの疲労よ」

「どうして分かる? あんたはただの女主人だろう?」

 女はマスカラをたっぷりと引いた睫で、レンを睨んだ。

「言い忘れたわね。私の名前はクローサ。

 こういう場合にも対処できるように、訓練も受けてるの。

 もう一つ秘密を明かすと、私はFISの関係者よ。この店も、FISのもの。

本当は、支部のガードレベルの人間には極秘なんだけど、あなたは特別に教えてあげるわ」

 レンは黙って女を見返した。信用しているわけではない。

「タイミングの悪いことをしてくれたわね。あれじゃ、ドレスから丸見えよ」

 クローサの嫌味に、レンは顔を背けた。

「生きていただけ感謝してほしいな。

 あとでボスにちゃんと躾ておいてもらおう。

 勝手に動いて、自分から危ない的になろうとした」

 視線に気付くと、クローサがレンを凝視していた。

「……あなた、まだ知らないのね。こんなにあの子の近くに居るのに」

「何をだ?」

「……でも、あの子に関わる人間は、みんなそうみたいね。口で説明されても、誰も実感できない。いずれ思い知るといいわ。あなたみたいに、頭の堅そうな男は、それが一番の薬ね」

 謎かけに飽き飽きしてレンはソファを立ち上がった。

「お嬢さんに会わせろ」

「私を信用していないの?」

「信用するもしないもない。部屋を確かめさせろ。それ以上は要求しない」

 寝室に案内され、レンは外へ開く窓、別の部屋へのドアを確かめた。最後に、舞が眠るベッドに歩み寄る。顔色はずいぶん良くなっている。

「さあ、御覧になって。FISの身分証よ。

 ベッドサイドのキャビネットには、アテネ支部長室とのホットラインがあるわ」

 差し出されたカードを一瞥して、レンは突き返した。

「これが偽物でないことをあんたのために祈ってやるよ。こんなものは初めて見た」

「? あなた、FISのメンバーではないの?」

「そうなんですよ、ミセス・クローサ」

 チャイムも無く、一人の男が戸口に姿を現した。

「連絡不行き届きで申し訳ありません。

 予定より早く、レディが到着なさったものですから、私からの連絡が後手に回りました」

 細身のスーツに薄いブリーフケース。肩までの長い金髪がトレード・マークのように優しい顔立ちに似合う男。

「お前……」

 物騒なピザ屋。セディア・ブルーノ。顔馴染みのFISの営業マンだった。ブルーノはベッドに歩み寄ると、舞の脈を取った。しばらく様子を見ると、満足してうなずいた。

「問題はありませんね。軽い緊張が続いたんでしょう。鎮静剤は?」

「投与したわ」

「それで十分でしょう」

 レンの問い掛ける視線に、ブルーノは答えた。

「医師免許も持っているんです。FISでは、多方面の資格を有していると自分自身の為にも、他人の為にもなりますので」

「さあ。これで舞のことは心配無いでしょ。

 今度はあなたの番よ。来て」

「何を」

「今夜のタキシードを決めるのよ。ピッタリのサイズがあればいいけど。ホルスターが隠せるデザインがいいんでしょう?」

「ああ……。勿論だ」

「無粋だけど、あなたのような職種じゃ仕方ないわね」

「ケンジョウ様。私が、レディのお側におりますので、ごゆっくり」

 そつなく言い添えるブルーノも、渋い顔をつくるレンを部屋から追い出し、ニッコリと微笑んだ。



「いい加減にして欲しいわね……!?

 あなたは舞の父親なの? ここは私の店で、私が主人よ。これ以上、口出しして欲しくないわ!?」

 上品さを保ちながら、キツイ視線と口調でクローサはレンに向き直った。

「絶対にダメだ。他の服は無いのか。無いなら店を変えるぞ。お嬢さん?」

 鏡の前に立つ少女は、素早く彼女の前に立ちはだかったクローサと、指先で彼女を呼ぶレンを見比べた。

「そんなことは許さないわよ」

「だったら、他の服を出せ。

 いいか? 分からず屋なのはそっちの方だぞ。お嬢さんが幾つか知ってるか? まだ十四歳だ。それをコールガールみたいな服を着せて。考え無しなのはそっちの方だろう!?」

「…………。わかってないのは、そっちだわ。

 夜のパーティーのドレス・コードはこのくらいが普通よ。おとなしすぎるくらいよ」

「小娘が背伸びをする必要はない」

「小娘じゃないわ。

 舞はFISのファースト・レディだわ!?

 ボスの妹よ。ボスのエスコートを受ける女性は、服装もレディである必然があるのよ!!」

 大声を上げて、すぐに息を切らすクローサの背後で、舞はレンに向けて肩をすくめた。

 古代ギリシャの彫像でみかけるような、たっぷりとドレープをとったロングドレス。ドレス・コードに忠実に、肩や胸のあたりの露出の多いデザインは、少女の華奢な肩を精一杯女性らしくみせようとしている。

 ただやはり、恥らうように舞は細い指先で胸元を押さえている。その手は、右腕の薄い傷を隠し、白いシルクの長手袋に包まれていた。

「……。胸が開きすぎだ。それだけは、なんとかしろ」

 レンが先に折れて、クローサもその点は気にかかっていたのか、素直に同意した。

 舞の長い黒髪に手を触れる。

「花のコサージュをたっぷりと付けましょう。

 今の季節にはぴったりだわ」

 アップにした黒髪にも、生きた花を散らして。

 ますますに、舞がアテネの女神に近付いていく錯覚をレンは覚えていた。


 ◇◇◇


「心配要らないわ。見城さん」

 勿論、そうだろう。お嬢さんには何の心配もない。気詰まりなのは、レン一人だ。

 周囲をとりまく上流階級の人々。高価なシャンパン。さすがに口をつけず、形ばかりに手にもったままだが。それが不満なわけではない。優雅に流れるピアノ曲。豪奢な白亜の邸宅。別世界に放り込まれたレンは、たじろいでいた。

 戸惑いを隠すサングラスさえ許されないパーティ・タイム。ドレス・シャツの襟が堅い。締め付けたベルトが、息苦しい。

 唯一、自分らしさが感じられるのは、ホルスターに装着した重み。鋼鉄の凶器の冷えた存在感だった。

 もう一つ、レンを和ませたのは、スニオン岬の素晴らしい眺めだった。落日には少々間に合わなかったが、夕暮れから夜へと、色彩を変えてゆく雄大な光景が眼下に広がっていた。腕を組んだ少女も気に入った様子で、海に面したテラスから、いつまでも離れようとはしなかった。

 慣れているはずの彼女も、こういった舞台は苦手であったらしい。次々と、誰かが声を掛け言葉を交わし、ようやく二人きりになると、小さく肩をすくめた。

「もうそろそろ、兄さんたちが到着するはずだわ。

 そうしたら。兄さんの大学時代の先輩で、FISの援助者の見城蓮さんです、と説明しなくて済むわ」

 小さく微笑む舞。レンは苦く唇を引きうなずいて返した。大丈夫だと。

 だが、腹にすえかねることも多い。

「やあ、舞? 素敵なドレスだね。君によく似合ってる。女神アテナみたいだよ。

 ところで……。先週のサントリー二島での日々は楽しかったかな?

 僕は、君と会えてすごく楽しかったけど」

 裕福な地位を鼻にかけた若い男。笑顔を絶やさず、柔らかい物腰。レンにとっては、弱い者だけを相手にしようとする軟弱な人間に見えた。

「……リストネル家の方よ。リストネルおじさまは父の古い友人なの、その甥ごさん」

 舞は、他の彼女に近付いてくる者と同じように、レンに小さく囁いてプロフィールを教えた。

「楽しかったわ。皆さんに、親切にしていただいて」

「そう。……それは良かった」

 はしゃぐように男は破顔した。

「とディ? あちらで、あなたを誰かが呼んでいますよ」

 レンが口を挟んだ。ボスの言いつけ通り、必要以上に舞に群がる虫を追い払う為だ。

 ちらりと甥は、レンが指す方を見た。

「……。今夜のパーティーのホストですね。

 君はみんなに気に入られている東洋の星だから。

 早く行った方がいいね」

 自分は近寄り憎いのか、残念そうにリストネルの甥は促した。

「それに。君のお兄さんも登場のようだ。……睨まれる前に、君と別れるさ」

「ごきげんよう」

 レンは丁重に若い男を送り出した。殊勝なレンの仕種に、舞は無邪気に笑う。

「早く行きましょう。ぐずぐずしていると、俺もあなたの兄さんに睨まれかねない」

「? どうしてですか?」

 ふんわりと、怪訝顔で舞が尋ねるが、答えず、先へとうながした。

 彼女にはわからないのだ。

 岬に舞い降りた女神を独り占めにしたために、レンは特に、若い男性客人たちから、時折鋭い嫉妬の視線を浴びていた。

 溜め息をつきながら、女性がこんなにも変化するものとは思わなかったと、胸の中でぼやいていた。



 FISのトップ、雪村紫月はブラック・タイにタキシードをぴったりと着こなし、最愛の妹を迎えた。背後に二人、FISの関係者らしき男を従えていた。

「レン・ケンジョウ? どんな気分だい?

 衆人の注目を集めるのは、気分のいいものだろう?」

 渋面を作るレンには構わず、この別荘の持ち主にしてパーティーの主催者、グランド・エルターニュのオーナーでもあるレオドス氏に、自分の先輩でありFISの出資者だと紹介し終えた男は、ニヤリと笑い日本語で問い掛けてきた。

 紫月の宝石は、壮年に達したレオドスと、レオドスの従兄弟だという政府高官の一人、エメダインという男とその夫人たちに囲まれ、にこやかに会話している。彼女はすでに、サントリー二島の日々で彼等と面識があるらしい。

「しっかりとしたお嬢さんで、助かりました」

 渋々、レンは本音で答えてやった。

「レディ・舞には、どんな人間でも引き付けられますからね。話術にも長けて、その上心優しい。素晴らしい人ですよ」

 褒めちぎるのは、紫月に従ってきた、背の低い眼鏡を掛けた若い男だった。

「本当は、人見知りの強い子なんだ。ただ、自分がここで何をすればいいのかよくわかってる。彼女は演じているだけだよ。僕の妹として。

 だからと言って偽りの姿というわけではなくて、一生懸命、自分の恐れを殺して、目の前の人間に向き合おうとしているだけ。そんな姿が、他人には快く思えるんだろうよ」

 ボス・紫月は、目を細めて妹を眺めながら、静かにそう言った。

「レン。君ももういい。疲れただろう」

 自分自身も、すでに飽き飽きとした目で、あたりを見回してから。

「交代だ。舞を連れてホテルに戻ってくれ」

 紫月が帰るように舞に告げると、彼女は不満な顔をした。

「また、おいでなさい。

 今度は雄大な洛陽を見に」

 人の良さそうなレオドスの夫人が、名残惜しむように舞に肩を抱いた。険しい顔立ちで日に良く焼けたレオドスも、目を細めている。従兄弟同士であるせいか、レオドスとエメダインはよく似た顔立ちである。やや年長のエメダインの方が、激情的で赤ら顔をしていた。

「ぜひ。それでは」

 優雅に会釈をして、舞は彼等と別れた。

「その前に。レディに、これを」

 眼鏡をかけた小男が、舞に宝石箱を差し出した。中には銀の透かし彫りが見事な、イヤリングとネックレス。紫月が、少女の首にネックレスをかけてやった。

「ありがとう。兄さん。でも、どうして?」

「期待させて悪いが、これはFISラボの試作品だ。ホテルに戻るまで、つけておいで」

「すみません。僕の試作品なんです」

 眼鏡を押し上げて、小男は断った。

「軽くて、とても綺麗ね」

「そうでしょう? その軽くするのに、苦労したんですよ」

 力説する研究員に、ボスは苦笑した。

 試作品。舞はこういうことに慣れているのか、まったく屈託がない。耳元でイヤリングを揺らし、喜んでいる。

「さあ。舞。帰りなさい」

 珍しく少女はためらい、その場を動こうとはしなかった。

「だって、兄さん。今夜は……」

「心配はない。狩野も来ている。役に立つかは解らないが、技術部門の天才、このメイヤーも来ているからな」

 一人紫月の影のように佇んでいた長身の男が、舞に会釈した。四十台半ば、穏やかな顔立ちだが、レンの目にはただの社長秘書には思えない眼差しをもっている。メイヤーとは眼鏡の小男のことか。

「ご安心下さい」

 狩野が、舞に微笑んでみせた。

「うまくやってみせるよ」

 紫月は舞の頬を指先で一度撫で、再びレオドスを囲む老獪な一団へと引き帰していった。





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