『石仏と速記講習会』
掲載日:2026/10/21
あるところに、一人の浪人がいました。毎日することもないので、腹が減らない程度に散歩をするのが日課でしたが、ある日、散歩から帰ってくると、家の中に石仏が立っているではありませんか。誰かが置いていったのでしょうか。浪人は、持ち上げてみようとしましたが、ぴくりとも動きません。誰かが置いていったのではなさそうです。もともとあったのでしょうか。記憶にありません。隣の家に入ってしまったのでしょうか。いや、自分の家です。そうなると、もう、石仏が自分でやってきた、くらいしか思いつきません。とりあえず、自分の家に石仏がいらっしゃってもいいことは思いつかないので、お寺の和尚さんに相談して、引き取ってもらうことにしました。
お寺に新しい石仏がやってきたといううわさはすぐに広まり、転入生がもてるのと同じ理由で参拝客がふえ、金魚すくいの店や、飴細工の店が出て、本堂では速記講習会が開かれるなどして、大層にぎわいましたが、三月ほどすると、もとへもどりました。
教訓:転校生に引っ越し先を尋ねる、にわか親友も、よく見受けられる。そういう連中は、去る者日々に何とやらで年賀状すら出さない。




