勇者は闇組織とともに
「それじゃまずはこの書類にサインしてほしいんだよね」
そういって差し出されたのは上質な羊皮紙と魔力を帯びた文字が書かれた書類だった。
「契約魔術だな。流石にしっかりしてるな」
契約魔術とは文字を媒体にして書かれていることに対して対象となるものが了承してサインすることで効力を発揮するものである。主に大事な契約ごとや秘密裏な契約を結ぶときに使用される。
この契約魔術だがもし契約内容に反する行為をした場合、契約魔術に最初に刻まれた内容のペナルティーが科される。
ものによっては対象の魔力や命を奪うものも在るという。
今回の契約魔術はもし契約に反した場合、その者がこの組織で過ごした記憶を奪うというものである。
ソラは契約内容に目を通していき、不備がないかを確認していき、そして自分の名前と自分に血を契約書類に記す。
これにて契約完了である。
「ようこそ”奈落の庭”へ!君のことは歓迎するよ元勇者君?」
「強調するなぁ。まぁいいや。早速だけど情報網使って俺の情報調べてほしいんだけど。まずは今現在の俺の扱いともしわかるなら今後の王国の動きかな」
「おっけー。まぁそれに関しては昨日ソラがここに来た時点で調べさせてるんだけどね。普通に考えて勇者である君を殺そうとするなんてよっぽどのことがないとやんないよ?しかも神託までされてるはずでしょ?正気じゃないよ」
「神託のことは秘密だと思うんだけどな・・・。まぁそのほうが話は早いか。一応魔王とか魔族についての情報も集めといてほしいな」
「あ、魔族ならいるよ。情報も入ってきてるし」
まさかの情報が転がり込んできたソラは身を乗り出してそれを聞き返す。
「魔族!?本当に存在するのか!?」
「いるよ?まぁ動き出してるのは結構最近みたいだけどね。魔族のことは割と詳しいけど聞く?」
ソラが頷くと、クロは丁寧に説明し始める。
魔族というのは魔物の因子を取り込んだ人間種のことで、別に魔物と交配して生まれたわけではない。遥か昔の技術によって魔物の血液や細胞を取り込み、それに適合したのが魔族なのだそうだ。
魔物の力を手にすることにより膨大な魔力と魔物の特性を引き継ぎ、人の身で扱うことができる種族である。しかしその戦闘能力の高さから徐々に警戒されていき、そして廃棄処分がかかったのだそうだ。
勝手に作られ勝手に廃棄と決めつけられたことで反発した魔族はそのまま反旗を翻し、暴れまわったのだそうだ。
魔族の起源については全く違うが、大筋はほぼ言い伝えと一緒の通りである。しかし魔族は現代までも未だに存在しており、とある国を隠れ蓑にして生活しているのだという。
「その国がここか」
ソラはクロがスマチで出した地図に表記されている国の名前を覚える。
神聖国ロウ。黒の神ノワールを信仰しているものが国を運営しているところだ。国家で黒の神ノワールを信仰しているため、この国に移住するためには黒の神を信仰しなければならないと言われている。
黒の神とは神代の時代に存在した黒という存在全てを司る存在だ。主に闇属性の持ち主の多くがこの神を信仰しており、稀にではあるが加護と呼ばれるものを授かるのだという。
「国に根付いてるとは思わなかったな」
「そもそも魔族は黒の神を信仰しているからね。情報を集める過程でたまたま見つけたんだよね。これ写真ね」
画面をスクロールすると一人の男が目に入る。黒い修道服に身を包み歩いている姿だが、額には羊の様な角が生えているのが目に映る。
「ちなみにこの写真撮った子は消されたよ。あそこの国防諜技術高すぎるんだよね」
「あの国の情報は全然入ってこないから知らなかったぜ。ならとりあえずは情報はいいか」
「おっけー!じゃぁこれからの話をしよっか」
そういってクロは机の上にいろんなアイテムや書類を置き始める。
「なんだこの豆みたいなの」
「それは簡易カプセル。中にはキャンプキットが入ってる。もし野営とかする場合にそのカプセルの上部を押して地面に投げると簡易的なテントがでてくるの」
「まじか!?なんだそれ!?聞いたことねぇぞ!?」
「うちが独占してる技術だからねぇ。あ、これも他言無用だよ?契約に書いてるでしょ?」
「ちっ、思ってたより独占してるもの多いだろ?めんどくせぇ」
「まぁまぁ!とりあえずこれは絶対に手放さないでね。小型のスマチと転移のロザリオ。このスマチはこのスマチを小型化したもの。あ、あとこのイヤホンもね。これスマチと連動しててこれを耳につけてるだけで通信ができるから」
「まじですげぇな」
ソラはクロから渡されたスマチを起動する。するとスマチに一瞬魔力が吸収され、スマチがソラを登録者として認証する。そしてイヤホンを耳に取り付け、いつでも通信が取れるようにする。
「これでいいか?」
「ばっちし!あとで通信状態の確認はするとして、あとはこの転移のロザリオ。これはうちの本拠地に帰るための装置だからなくさないようにね」
「転移魔術が刻まれたロザリオか。にしてもよくここまで小型化できたもんだな。これもあれか?」
「そ!うちの開発部の発明だよ!」
どうなってんだよここの開発部、とソラが困惑の声を漏らす。明らかに王国の開発部門よりも優れた開発技術を持っていることが分かる。
「お前らどうやってここまでのものを揃えたんだ?明らかに異常だろ」
「まぁ気になるよねぇ。ま、うちのトップに会えばわかるかもね?」
そういってクロは微笑む。どうやらここで話す気はないということだろう。まぁ会えばわかるというのであれば、その時になったら聞けばいいと考えるソラは、今後どうするかを聞き始める。
「なら今後の動きは?」
「騎士団は君を探してるはずだよね。情報は入ってきてないけど騎士団の動き的にレム荒野近辺の街を虱潰しに探してるみたいだし、まずは君を隠さないとね」
「ならこの転移のロザリオでさっさと本拠地にいけばいいのか?」
「それでもいいんだけどできれば騎士団の動きをある程度翻弄させたいんだよね。そのためにはソラがここから国境を越えて別の国に行ったっていう風にしたいんだよね」
「なるほどな。追撃部隊を出させて国内から騎士団を減らすわけか。その結果この国での活動もしやすくなるというわけだな」
「そゆこと!ついでにこの国境都市の警備もある程度潰してほしいなって思ってるんだけど、どう?」
「ついでにやることじゃないだろ・・・」
ソラはあきれながらクロの言葉を聞く。ただそれをすることによってどういうメリットがあるのかも理解できる。だからソラはその申し出を受けることにする。
まずはこの国境都市の警備状況ではあるが、最近は国境付近でいざこざは起きていないためそこまで戦力は配備されてはいない。
ただし国の玄関口ではあるためそれ相応の騎士が常駐してはいる。この南の都市には元第三騎士団副団長である男が警備隊長に就任していた。
年齢の関係上現役のまま過ごすことに限界が来たところ、国境警備隊の話が回ってきて就任したとのことである。
元々現場でバリバリにやってきた経験があるため、怪しい存在はすぐに見つけ出し、今までで一番町の治安は良いとされている。
そんな治安のよくなった街で暴れろと言われ、少しばかりソラは躊躇してしまう気分になる。それを見越してか、クロは別に文字通りに暴れろというわけではないと答える。
「多分国境門を越える時に顔を見せないといけないからそれで情報が上にまで行くはず。それだけでも騒ぎになるはずだからその成果だけで十分だよ。でも拘束されたりしたら暴れたほうがいいかな?捕まったら殺されるでしょ?多分」
「ま、だろうな。それで国境門出た後はどうする?今度こそロザリオ使えばいいのか?」
「いや迎えをよこすからその人と一緒に次の街に行ってもらうことになるかな。行先はその時のお楽しみってことで」
「なるほどね。とりあえず騒ぎを起こしたほうがいいってのはわかった。三日後に騒ぐと面倒なことになるだろうし二日目の朝に行動を起こすわ」
「おっけー!それに合わせてこっちも騎士団対策しておくね!見つかると厄介なものとか多いしさ!」
そう言って今後の動きを煮詰めていく二人だった。
クロと話し合いをし、そのあとに各国の情報や夕飯をご馳走になった次の日。問題が起きる。
「なに!?今日にでも先遣隊がくるってのか!?」
『うちの隠密衆からの情報だから確かみたい。どうやら馬に強化魔法かけて強行軍ですごい速さで向かってるらしい』
「もしかして俺の顔がばれたのか?だとしたらさっさと行動に移さないとまずいな」
『いやむしろ動かないほうがいいかも。どういう理由で強行軍に及んでるかわからない以上下手に動くのはまずいよ。一旦裏町のアジトに集合しよう』
「了解だ」
ソラはすぐさま準備をして宿を飛び出す。外に出ると慌ただしく憲兵なども動いているため、どうやら強行軍で騎士団がやってくることは聞かされていなかったのだと考える。
ソラは路地裏にすぐに向かい、そのまま裏町にあるアジトへ向かうのだった。
アジトに入るとすでにクロは待機しており、他にもこの街で活動している奈落の庭のメンバーがそろっていた。
「とりあえず騎士団がこの街に来ます。それも今日中に。何らかの急ぎの目的があるとみて間違いない。心当たりのある人はいる?」
「そこの元勇者様が目的じゃないんですか?」
一人の男がそう答えるが、クロは首を横に振る。
「だとしたらいつバレたかって話になるよ。それにバレてるんだったら元勇者を捕まえるのにあれだけの騎士団の数でどうにかできるわけがない。せめて騎士団長クラスを三人は引き連れないと無理でしょ」
「俺はどんな化け物だよ」
えっという顔で他のメンバーがソラを見る。ソラはなぜそんな顔をされるのかわからないといった風になるが、それぞれが聞かされている話を呟いていく。
「盗賊団の砦を一人で潰したって聞いたぞ」
「帝国の奴隷組合も一人で乗り込んで帝国貴族の腕利きの護衛団すべて倒したって聞いた」
「なんなら帝国十天の一人倒したんでしょ?やばいじゃん」
「ドラゴンとも相打ちになったって聞いたよ」
「ドラゴンの話は眉唾だろ。ドラゴンなんか人の身で抗えねぇよ」
「人じゃないんじゃない?」
「お前ら初対面のくせに滅茶苦茶言いやがるな」
ソラが怒りを露わにしながら魔力を溢れ出そうとする。それを見てクロが慌てて間に入ってくる。
「ちょ!魔力はだめだよソラ!でもこの噂話ほとんど本当のことでしょ!うち知ってんだからね!」
「ちっ!物知りが。まぁ事実だから仕方ない」
盗賊団のアジトは攫われた学園の友人を救うために強襲を仕掛け、そのまま拠点を制圧したのだ。正面から挑み、賞金首の首すらも持ち帰った話である。
奴隷組合の話は仲間と一緒に突入しただけである。一斉摘発するとのことで戦力が欲しかったのだそうだ。その際に名のある傭兵団と戦い、それを打ち破ったのだ。
その際に帝国十天と呼ばれるガイアス帝国と呼ばれる世界最大の軍事力を誇る国の十人いる最強の戦力の一人と戦い、打ち破ったのだ。どうやら奴隷売買で金儲けをしていたらしく、その場に居合わせたため戦うことになったのだ。
その際に戦場となった町は崩壊しているが、それはまた別の話である。
ドラゴンと戦ったことはあるが、ソラ自身はあまりそのことについて語ろうとはしない。だがいずれまた出会うときがあればリベンジをすると本人の口から出ていた言葉だ。
「まぁ以上の話から分かるだろうけどソラを捕縛するにしては戦力が不足している。なのに強行軍でここまでやってきたということは別件のはず」
「あ、もしかしたら”鴉”関連じゃない?あいつら確かなんか大きな荷物を仕入れたって言ってたわよ」
「荷物?」
鴉というのは奈落の庭とは別の闇組織で、主に非合法の品を扱う組織である。帝国で潰した奴隷市場もこの組織が仕切っていた。
「てことは奴隷か?」
「だとしても騎士団が動くほどじゃないと思うんだけど」
「高貴な人間が奴隷になってるんだったらもう少し穏便な作戦にするだろうしね」
そう言って話していると、一人の人間が会議室に入ってくる。
「大変だ!騎士団の奴ら表通りの俺らの店を検分し始めやがった!」
「なに!?!?」
「うっそもしかして目的ってうちらのところなの!?」
まさかのことに全員が慌てる事態となり、すぐさま表の店全てに連絡を入れ、裏町のほうにもすぐに逃げる準備をするように伝える。
こういうときに備えて避難用の場所が地下に用意されており、見つかったらダメな書類などをもって組織の人間が地下へと逃げ始める。
「まさか我々が目的とは。どうしますかクロさん?」
「とにかく何が目的なのかまずは探らないとね。うちの組織の情報が目的なのか、それとも別の何かがあるのか」
クロはそう言って他のメンバーに指示を出していく。他のメンバーも指示に従って、自分の店や部下に通信をつないで指示を出していく。
そして至る所から続々と情報が入ってきて会議室に情報がまとめられていく。ホワイトボードが用意され、そこにインクで情報が記載されていく。
「検分されてるのは全部で五か所。事務所内まで入ってきて中を覗いてるし大分本格的だね。一応検分許可証は本物だしこっちとしても断ることはできない」
「断ったらよこしまなことを考えていると判断されますからね」
「問題は何を狙っているかですね。検分されている連中曰く書類をかなり熱心に確認しているみたいですよ」
「書類・・・なにかしらの搬入履歴でも探してるのかも。最近のうちの搬入リスト送って!それと搬送リストもお願い!」
クロが中心となって指示を出し、それに他の人間も従って慌ただしく動く中、ソラは落ち着いた様子でテーブルの上のコーヒーを味わっている。
(なーんにもわかんねぇし俺は指示があるまで待機だな)
新参者であるため人の名前も組織の連携とかも何もわからないため、今は状況を外から見極めようとしているのだ。
そんなことを考えているとスマチが震える。どうやら先ほど頼んでいた搬入リストと搬送リストが送られたようだ。
ソラはそのファイルを開き、どんなものを仕入れたりしているのか目を通し始める。
(よくできてるなこの資料。一目見ただけでどこから仕入れてるとか搬入品目まですぐわかる。おまけに取引額まで)
ソラはホワイトボードに視線をやる。そこには検分されている五か所の拠点の名前が記載されており、そして搬入リストに載っているその五か所の拠点に共通の事項がないかを探し始める。
すると搬入している商会がその五か所は同じことが分かる。ほかの拠点や店には別の商会が出入りしており、そちらでは未だに検分が行われる様子はない。
ソラは近くにいた事務員に声をかける。
「なぁあんた。このブルドグ商会ってのはどういう商会なんだ?」
「え?あぁここですか?運搬専門の商会ですよ。自身で商品を売買するのではなく運搬する人間を派遣する商会です。うちも何件か絡んでいますよ?割と便利だとかで」
「運搬商会か。なぁクロ、この五か所の拠点だが全部このブルドグ商会ってのが入り込んでるけどそこが何かしたとかないのか?例えば禁止項目の密売及び運搬とか」
ソラの発言にこの場の空気が変わり、すぐさまブルドグ商会について調べ始める。すると数分もたたないうちに最新の情報が入り始める。
どうやらソラの予想通りらしく、密輸禁止項目の商品を運搬していたことが発覚したのだという。そのことから他にも同じ犯罪に絡んでいるもしくは同犯がいる可能性を考え、今回の検分に及んでいるとのことである。
クロはすぐさま搬入リストを確認し、密輸禁止項目の商品が入っていないことを確認し、安堵の息を漏らす。
「とにかくこの検分で変にうちの事勘繰られてもだめだから下手な動きはしちゃだめだよ」
「いやこれを機に俺は動くぞ。丁度いいから少し暴れてくる」
そう言ってソラは立ち上がる。するとクロは慌ててソラに駆け寄り、止めようとする。
「でも掻き回さなくてもいいんじゃない?うちの取引で問題はないわけだし」
「騎士団がこのまま何日居座るかわからないし、そのまま勇者捜索任務なんて受けたらそれこそ虱潰しにされるぞ。だったら目立つように外に出て行くさ。そのほうが組織のためにもなるだろ」
ソラの言葉には特に反論する場所がなかったため、クロは少し悩んだ後頷き、事務の一人に声をかけ、一つの箱を持ってこさせる。
その箱をソラに渡すと、クロはソラに開けるように声をかける。ソラは言われるままに箱を開けると、その中には一つの石が入っていた。
「魔鉱石?」
「残念もっといいものだよ?それは神器の欠片。うちの自慢のアイテムの一つだよ。うちのボスからのプレゼントだって」
「まじ?」
神器の欠片とは神が造った武器の一部であり、人の身では扱うことのできない神器を人の身で扱えるようにするために削り出したものである。
神器一つで凄まじい力を持つが、それを人の身で扱えば神器の放つ膨大な力の奔流によって四肢が爆散してしまう。
それをどうにか人の身で扱えるようにまでもっていったのが神器の欠片とよばれるものである。
欠片だけになるため本来の神器としての力は失われてしまうが、その代わりに装備者に見合った武器へと変化し、そして共に成長していく武器へとなるのだ。
ゆくゆくは神器へと返り咲くと言われているが、その領域まで行ったものはいない。ちなみに元々ソラが握っていたデュランダルも神器の欠片によって生み出された武器である。
あの時は勇者だったため、正義を執行するために必要なものを欲していた。だからこそあのような白い剣が生まれたのだ。だが今回は闇組織に所属し、そして復讐心や憎悪といった感情も芽生えてしまったソラ。
闇にも染まり、光も知っている勇者の力に呼応したのか、神器の欠片は胎動をはじめるとすぐに溶け始める。そしてソラの体に急にスライムのように張り付き、体の中へと吸収されていった。
そしてソラの身体が一瞬だけ淡く光り輝くと、そこには何も握りしめていない唖然とした表情のソラが立っていた。
「え?神器の欠片消えたんだけど」
「えぇ・・・うちも初めて見たこんなの・・・え?なくなったの?これ?」
「あ、もしかしてデュランダル造ったことあるからか?神器の欠片って二個目も作れるのか?」
「知らないよそんなの!神器の欠片ってめちゃくちゃレアなんだから!神代の遺物なんだよ!?」
二人はぎゃあぎゃあ騒ぎながらもこの部屋を後にする。部屋に残った残りのメンバーは現状できうる対策を考えつつ、それの指示をとb成すことに集中するのだった。




