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勇者は逃亡計画を練る


とある山に突然人が現れる。電撃の様なものが体から放たれており、周囲の草木を電撃が焦がす。その電撃は次第に落ち着いていき、そして電撃は消え去ってしまう。


その人物は大きな木の幹に背中を預け、体を休ませる。その人物とはソラで、【混沌の(ケイオス・)二重奏(デュエット)】を発動させると同時に今まで誰にも見せていなかった雷属性の魔法を使うことでその場から離脱し、逃走することに成功したのだ。


なぜ使ってこなかったのか?それは勇者とは光属性を使う存在だということを定着させるために国王より命令されていたからである。


そのため最初の頃は戦い方を大幅に変更せざるを得なかったため、とても苦労したことを思い出すソラは、腰に備えていたであろうデュランダルに手を当てるが、そこにはデュランダルはなく、デュランダルを収めていた鞘しか残されていなかった。


流石に逃げる時にデュランダルを回収できなかったソラは、自身の得物を失ったことを嘆く。しかしいずれ自分の手元に戻ってくるだろうとソラは思い直し、まずは自身の体を癒すことを始める。


腰の鞄の中に手を入れ、その中から一枚の巻物を取り出す。それを広げると、その巻物には何らかの紋様と文字が描かれいる。それは魔術紋と呼ばれるもので、魔力を帯びたインクで特定の紋様と文字を描くことで作ることのできる魔術と呼ばれるものを発動することができる巻物である。


魔術とは魔法と違い、紋様や文字によって発動させる魔法とは別の体系の魔力行使手段である。魔法はイメージ力と言霊を大事にしており、人それぞれのオリジナルのものが多く存在している。


その点魔術とは既存のものばかりが存在してはいるが、魔力を込めれば誰でも発動させることができるという便利さを持っており、どちらもそれぞれのメリットが存在している。


ソラが取り出した巻物には回復魔術の紋様が刻まれており、それを起動するための言霊をソラは唱える。


「【癒しの光】」


ソラの身体が淡く光り輝き、そして肩の怪我の部分に光が集中していく。するとゆっくりではあるが傷口が再生していき、徐々に傷が治されていく。


そのまま幹に体を預けたソラはこれからどうすべきかを考え始める。


(とりあえずどこかに腰を据えないといけないよな・・・ただ王国からは出ないといけないが、どうやって国境を抜けるか)


セント王国からまずは脱出しなければならないとソラは考えるが、どうやって国境線を超えるべきか考える。


まずは国境付近の街に赴き、どうにか裏の人間に今コンタクトをとるしかないと考える。金に関しては問題はなかった。ソラの腰につけている鞄は空間魔術の刻印が刻まれており、通常の何倍もの拡張空間になっているのだ。


そして自分自身が思い描いたものを取り出せるようになっており、その中からいくつかの金貨を取り出したソラは、資金面は問題ないと考えると、次は地図を取り出し、自分がいるであろう位置を探し始める。


左腕を動かしたときにまだ肩が治っていなかったため、痛みを感じつつも地図を広げる。


「確か裏切られた場所は・・・レル荒野か。逃げた方向は南側だから・・・ここはレルの森か。確か国境にはここから2週間くらいだったな。遠いな」


歩いて二週間の距離に国境近くの砦となっている街が存在している。都市ザンメルというその場所は昔ソラが育った村があった場所に建てられたものだ。


元々所属していた国はすでにセント王国によって滅ぼされているが、そのことに対して何か思うことはない。


ソラはどうにか時間を短縮するための方法を見つけるが、あまりやりたくないなと顔を歪める。


それはレム荒野からレムの森まで普通であれば徒歩で2日ほどかかる距離を一時間ほどで移動した方法である。


これを使えば国境まで一日ほどで移動することができるが、この方法は体を酷使するため疲労と魔力消費が激しいのだ。


だが今は裏切られた詳細もわからず、更には今回のことが王国の主導なのか教会の主導なのかもわからない。


そもそも勇者という存在を裏切ってどうするのか?魔王という脅威が神託によって知らされており、勇者の力をもってしか討伐できないとも言われているのだ。


理由まではわかってはいないが、ソラにはその理由はなんとなくではわかっていた。そして自分の手の甲を見ると、白い剣と黒い剣が斜め十字に絡められた紋章が刻まれていた。


ソラは左肩を動かし、傷が癒されているのを確認すると、地図を確認しているときに近づいてきていた”アーマードボア”という鎧の様な外皮を持つ猪の首を魔法で落としており、その肉を調理し始める。


そして腹ごしらえを終わらせると、自身に雷属性の魔力を纏わせていく。


「さて、行くか」


魔力が纏われ、一瞬輝くと同時にソラの姿はその場から掻き消える。そして森の中には焦げた地面や木々が至る所に残されるのだった。






































南の国境都市ザンメル。セント王国には東西南北にそれぞれ要塞都市が存在している。その一つである南の国境要塞都市ザンメルは現在は戦争している国はないため、平和な街となっている。別の国からの商人も多く入り浸っており、この国の中でも有数の発展を広げている。


多くの人が歩いている大通りに、ソラが目元を仮面で隠して歩いていた。


すでにこの都市に到着して二日ほど経過しているソラ。到着指定知日派休息のために宿の中で休みをとり、そして二日目の今日に外に出て情報収集に努めていた。


そして幾つかの情報を受け取り、今は新聞という情報がまとめられたものを買い取り、オープンテラスの喫茶店で紅茶を飲みながら確認していた。


(勇者についてのことが何も書かれていない。どうするつもりなんだ?それに王国の北部では反乱がおきたのか。あいつら大丈夫かな・・・)


昔北に行ったときに出会った学園時代の友人たちを思い出し、無事か気になったソラ。記事には一部都市で反乱がおき、反乱軍が占拠しているとのことである。


どうやら現国王に反感を持っている反乱軍が起こしたことで、現在は王国騎士団が対応しているとのことだ。


(騎士団が動いてることは基本的に新聞には載る。ただあの時の騎士団のことは乗っていない。ということはあれは王室近衛騎士団ということになるかな?まぁあの鎧の煌びやかさは間違いなくそうだろうな)


基本的に王国の誇る戦力は騎士団と呼ばれる騎士という軍団で構成される部隊である。


各騎士団には団長と呼ばれる長が存在し、そして副団長や参謀長が存在し、そのあとに普通の騎士が所属されている。


騎士団は全部で七つ存在し、そしてそれとは別に近衛騎士団というものが存在し、これは王とその周辺を警護する騎士団とは別の指揮系統の騎士団である。


ソラを襲ってきていた騎士団はその近衛騎士団の装束を身に着けていたため、そのことが予測でき、そして近衛騎士団に命令できるのは王族関係者のみである。


(近衛騎士団はプライドが高いから自分の騎士団の鎧とは別の鎧を着るのを嫌がったんだろうな。それにしたって最近はやっぱ魔物の活性化の話が多いな)


元々ソラは活性化した魔物を討伐するために王国中を回り、さらには他国にも足を広げたりしていたのだ。


新聞には西側で町が一つ魔物の群れに襲われて壊滅したとあった。すぐに騎士団が殲滅しているとのことではあるが、最近は魔物の被害が上昇傾向にあるのだ。


ソラはある程度新聞の情報を頭に入れると、新聞をごみ箱へ捨てて喫茶店を出る。


そして街の中を歩いていき、路地のほうへと入っていき、狭い道をずっと進んでいくと表とは別で汚れた場所に辿り着く。


スラム街と呼ばれる場所で裏町とも呼ばれている。ここには主に貧困層の人間や犯罪を犯したもの、訳アリの人などが多く存在している場所だ。


このような場所は至る所に存在し、国境都市には特に他の街よりも大きな裏町がそんざいしているのだ。


そんな裏町に入ると、ソラはとある酒場へと足を運び、中へと入る。中に入るとカウンターに座り、酒を一つ頼む。


酒が二つ運ばれてくると、一つはソラの前に置かれ、もう一つは酒場の店主が持ったままであった。


「久しぶりだなソラ。元気だったか?」


「お前も変わらないようで安心したよミゲル」


ミゲルと呼ばれた強面の禿げ頭の男は、昔ソラが助けた男の一人で、現在は酒場のマスターと別の仕事もやっているのだ。


「それで?どうしてこんなところにいるんだ?仲間はどうした?」


「そのことで話があるんだが・・・」


そう言ってソラはとあるペンダントを机の上に置き、少しだけ底に魔力を込める。すると周囲に特殊な空間が形成される。それは目には見えず、そして魔力の認識すらも阻害する効果を持っており、傍目から見てもそこに魔力でできた結界が張られていることには気が付けない。


さらには防音にもなっており、音が外に聞こえる心配もないのだ。この空間が生成されたということは酒を飲みに来たわけではないと悟ったミゲルは目を細めてソラを見る。


「おいおいお前さんが俺を頼るってのはどういうことだ?お前さんには国お抱えの情報部門があるはずだろ」


「そいつらに頼めないから困ってるんだ。まだ情報が届いてなさそうだから教えておくとだな、俺は騎士団と仲間に命を狙われたんだ」


「はぁ!?!?!?!?」


あまりにもな情報に驚きのあまり大声を上げたミゲルは慌てて周囲に目を向けるが、防音結界を張っていることに気が付き、心を落ち着かせるように酒を一息に飲み干すと、ソラに視線を投げる。続けろと言わんばかりの視線にソラはここ数日で起きたことを話す。
















「なるほどな。命狙われてなんとか逃げれたわけだ。そんな情報は内には入ってきてねぇからかなり極秘な情報だろうな。ってぇともしかして近衛か?」


「多分な。見たことある鎧の紋章だったしな。ただ命を狙われる所以がわからないんだよな」


「そりゃおめぇ邪魔だったんだろ。お前さんは民には人気だ。しかも王様よりも、な。あの王様は自分よりも人気なお前さんをよしとは思っていないだろう。だから殺そうとしたんじゃねぇか?」


「そんなガキみたいな理由でか?だがありえないとも言えないのがまたショックだ・・・」


「んで今は逃亡中ってわけか。待てよ?そういえばあと三日ほどでここに騎士団がやってくるらしい。名目は魔物の討伐ってことだが最近ここらへんで苦戦するような魔物の被害報告は聞いてねぇんだが」


ミゲルはソラのほうを見る。ソラも頷いて酒を呷ると考えを口にする。


「俺の捜索かもな。レル荒野からレルの森を抜けて歩けばここに到着するしな。三日ってことは騎馬隊だろうな。ということは第三騎士団か」


「現国王派の騎士団だな。さっさと逃げなきゃいけねぇだろうがこの国の国境を抜けるには顔が割れちまう。そこで俺のところか」


「話が早いな。頼むミゲル。お前の力を貸してくれ。どうにか国境を抜けて他国に抜け出したいんだ」


「水臭いこと言ってんじゃねぇ。俺の伝手当たってやる」


「恩に着る」


そう言ってソラが頭を下げるとミゲルは慌てて頭を上げさせる。


「よしてくれや!お前さんには本当に世話になったんだ。命を助けられた。だからこれくらいはさせてくれや」


「お前のこと助けてよかったよ」


「はんっ!昔と違って冗談もよく言いやがる。今のお前さんのほうが俺は好みだぜ」


そう言って二人は盃をぶつけ合う。


ミゲルはすぐに紹介状を書いて、裏町のとある場所に行くように伝える。ソラはお礼を言うとその場を後にし、すぐに言われた場所に向かう。


向かった場所は裏町ではなく、なんと新聞を読んでいた喫茶店だった。ソラはまた喫茶店に入り、注文をする。


「コーヒーとボアチキンのサンドイッチ、それと個室は空いてるか?」


「コーヒーはホットかアイスどちらになさいますか?」


「店員のお任せで頼むよ」


「かしこまりました。個室は空いておりますのでご案内いたします」


そう言って喫茶店の奥の部屋に通される。そして個室に入るとすでにソファーに一人の女性が座っているのが見える。銀色の髪を腰辺りまで伸ばし、紅い瞳を持ち八重歯が目立つ少女がそこにはいた。


「君がミゲルが言ってた勇者君だね。初めましてかな?クロだよ。よろしくね」


かわいらしい笑みを見せる少女ではあったが、警戒が見て取れる。それもそうだろう。いくらミゲルという信頼できる人物の紹介とはいえ、王国お抱えの勇者を案内しているのだから当然のことである。


「”元”勇者のソラだ。よろしく頼む」


そう言って手を差し出すと、一瞬きょとんとしたクロは苦笑いを浮かべてその手を握る。


「流石に警戒してるのバレちゃったか。ごめんね?勇者が来るって言われてさー。流石にミゲルの紹介でも警戒しちゃうじゃん?」


「気持ちはわかるしいいさ。俺としてはこんなところにこんな強者がいるなんて知らされていなかったからそっちのほうが驚きだな」


そう言ってソラはソファーに腰かけ、目の前で紅茶を飲む少女──クロを見る。隠してはいるが明らかに膨大な魔力を身に宿し、その所作には隙の一つも見えない。もしここで得物を引き抜こうものなら一瞬で喉元に袖に隠したナイフを突きつけてくるだろう。


そう感じさせる存在が目の前に座っているのだ。ソラのほうこそ少しばかり警戒してしまう。しかしそれを悟らせまいと、目の前に用意されたコーヒーを飲み、一息つく。


「それで?国境を抜けたいんだって?どこに向かうの?」


「さぁな。とにかく一度この国を出て情報を集めたい。流石に何が起きているのかわからないからな」


「王国の情報なら王国で集めたほうがいいんじゃない?わざわざ出る理由は?」


「追撃が面倒。別に問題はないんだがずっと狙われてるのもしんどいからな」


なるほどとクロが頷き、黒い石板を取り出してなにやら指を何回もそこにあてる。そしてその石板をソラの前に差し出す。


「国境を越えるためにはこの山道を通らないとダメになるかな。ただ今こっちに騎士団が向かってきてるっていうから国境近辺が全部警備が強化されちゃってるんだよね」


「動きにくい状況ってわけか。確か三日後に到着だったよな?」


「そうだよー。ほんとめんどくさいよね。うちらの商売にも影響出るから嫌なんだよね」


「確かに迷惑な話だな。ところでこの石板なんだが・・・なんだ?地図が勝手に動くんだが」


そう言ってソラは石板に触れて指を動かすと、それに合わせて映っていた地図が一緒に動く。見たことない魔導具に驚いているとクロが教えてくれる。


「うちの開発した魔導具だよ。スマートタッチテル。略して”スマチ”。こうやってタッチして色んな操作ができるんだよ。最初は通信機能だけだったんだけど画期的な機能がどんどん開発されててね。今はこれ七代目」


「いや明らかに王国騎士団よりも高性能な魔導具なんだが。それを開発だと?お前もしかして結構な組織だな?」


「お?どうする?捕まえちゃう?」


「馬鹿言え。俺にメリットがないし何よりお前と戦うと面倒そうだ」


そう言ってソラは両手をあげて降参の構えをとる。クロもそれに笑みを浮かべて今後どうするかを話し始める。


「うちとしては協力してもいいかなって思ってるんだよね。正直元勇者のソラ君に恩を売っておきたいし」


「利子付けて返してやるさ。だがここから出た後のことが何も考えれてないんだよな。情報を集めようにも伝手がなさすぎる」


そう言って頭を悩ませるソラに、クロは何かをひらめいたのか、一つの提案をする。



「あ!そうだ!うちの組織はいればいいんじゃない?」


そう言ってクロは満面の笑みでソラに提案するのだった。


























一度宿に帰ってきたソラは、先ほど提案された内容を考えていた。


クロから持ち掛けられた話は確かに現状何も後ろ盾や情報、拠点すらも持っていないソラには願ってもないことであった。


しかし元々ソラは正義の存在という代名詞である勇者という存在だったのだ。そのため闇組織に所属することに抵抗があったのだ。


しかしクロの所属している組織に入れば得られるものは魅力あふれるものであった。


まずは組織に所属することで組織の仕入れてくる組織の情報を手に入れることができるということ。なんでも世界各国にパイプを持っているらしく、情報は随時入ってくるとのことだ。どんな些細な情報でも見逃さないといった様子らしく、これを使えばもしかしたら行方不明の妹と兄を探せるのではないかと考えたのだ。


さらには武器関連。闇組織ではあるものの部屋に飾られていた装備などを見る限り、かなり腕のいい職人がバックについていることが伺えた。今ソラは丸腰のため、装備面に関しては早急に更新したいところではあるのだ。

別に無手であっても問題はないのだが、さすがに何らかの装備はもっておきたいのだ。


そして姿を隠すことができるというのが特に大きかった。正直クロの所属している組織はかなり大きいはずなのにその構成員は知られていないだろう。ミゲルが構成員だったことにも驚きだが、あれほどの強者が隠れていたなど情報不足にもほどがある。

それらのことから情報統制能力の高さがわたったため、ソラは入ろうかどうか迷っていたのだ。


(正直入らないメリットがない。それにクロの組織に入ればもしかしたらあいつらにお礼参りができるかもしれない。流石にむかつくしな)


ソラは今まで仲間だった四人のことを思い出す。そしていつの日か必ずぶん殴ってやろうと考えたのだ。そのためにはまずは情報や拠点が欲しいと思い、そうなるとクロの提案を受けるべきだと考える。しかし良心が・・・。


そうやってソラは一晩駆けてベッドの上で悩むこととなる。


早朝になるとソラは昨日と同じ喫茶店に現れ、奥の個室に通される。少し待つとクロが現れソファーに座る。


「それで?考えは決まった?」


「抵抗感はあったがデメリットがない。断る理由もないしよろしく頼むよ」


そう言って最初にあった時とは別の意味で手を差し出すソラ。それにクロは満面の笑みを浮かべてその手を取る。


「よろしくソラ!これから楽しくなりそうだね!」


そう言って二人は笑い合うのだった。




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