勇者は事後処理をする
ソラがオークロードと戦闘を繰り広げている最中、ソラが率いてきた部隊の副隊長をしているレイル=ガーディオはソラから共有された情報をもとに部隊を編成し、高魔力持ちの討伐に向かわせた。
指示を出し終えたレイルはそのまま目の前で死にかけているオークロードの首をはねると、すぐに都市中央へと向かい、先駆けとして生き残った街の人間と合流した部隊との合流を果たす。
「レイル副隊長!」
「状況報告を」
「生き残った人々の避難準備は完了しました!現在は未だに襲ってくる魔物の対処をしつつ副隊長率いる部隊の到着を待っていました!」
「よろしい。すぐに東側へ移動を開始。本隊と合流し街の人々の安全を確保してください。B部隊、C部隊、D部隊は避難の支援。A部隊はこのまま西側へ。私は南側へ向かいます」
「「「「了解!!」」」
部隊の人間はすぐさま行動を開始し、避難民の誘導を開始を始める。レイルは部隊と別れ、先に高魔力体の討伐に向かった部隊との合流を目指す。
数分ほど走ったレイルの目の前には、すでに息も絶え絶えな大きなコボルトが部隊に囲まれているところであった。
どうやらコボルトの魔力が特別高いわけではなく、その装備している武具が大きな魔力を秘めているようだった。
部隊のうちの一人がコボルトに飛びかかり、コボルトの槍をわざと受け止めると、それに合わせるように他の部隊の人間がコボルトの体に剣を突き立てる。
大きなコボルトは悲鳴を上げるとともにそのまま地面に倒れ伏し、動かなくなってしまった。
部隊の一人がレイルに気が付くと近寄ってきて敬礼をする。
「お疲れ様です副隊長!ただいま報告のあった高魔力存在の魔物の討伐を完了しました!」
「ご苦労様です。どうやらコボルト自体ではなくその装備している武具の力が強かったようですね」
そう言いながらレイルはコボルトの死体に近付き、装備していた武具に触れる。鎧には要所要所に魔法陣の様なものが刻まれ、槍には魔術紋と呼ばれる魔法陣を絵として再現したものが刻まれていた。
槍にはどうやら風の魔力を纏い貫通力を上げる効果。鎧には土の魔力を纏い、装備の硬度をあげる効果が刻まれているようだった。
しかし野良の魔物がこのような装備を獲得するのは珍しいと考えたレイルはコボルトの死骸を回収するように命じる。
そんなレイルの耳のピアスが光だし、それに触れたレイルの耳に西側の高魔力の魔物を討伐したことの報告が入る。しかしその報告の途中で報告が途切れる。
『なんだあいつ?すいません副隊長、なにやら怪しげなローブを纏った奴がいます』
「魔物ではなくローブを纏っているのですか?明らかに怪しいですね。捕縛できますか?」
『お待ちください。やってみま──なに!?』
突如として二か所で魔力が膨れがる。それと同時に北側で砂塵が大きく巻き上がる。その上空に先ほどの魔力が集まっていき、魔法陣を描き始める。
それを見たレイルはすぐさま連絡を取っている部隊の人間に指示を飛ばす。
「すぐに攻撃を開始!その魔術を妨害してください!!」
『だめです!魔力の発現を確認したタイミングで魔術を行使しているのですが凄まじい防御魔術で防がれていて妨害できません!!』
泣き言を聞きながらレイルの目の前で大魔術が完成され、砂塵の巻き上がった場所に業火が下ろされ、その周りを風の結界が覆いつくし爆炎を結界内に閉じ込めてしまう。
火属性魔術【業火の滝】。上空より業火の塊を滝のように直下に流し込み、直下の半径数十メートルを焼き尽くす魔術である。
風属性魔術【爆風の檻】。風属性の結界を創り出す魔術。
まず先に【業火の滝】が発動し、その後【爆風の檻】によって周辺を風の結界が塞ぎ込み、結界内で業火の渦が荒れ狂う。
これによって結界内に取り残された存在は荒れ狂う業火によって焼き尽くされるといった合体魔術である。しかしその結界を突き破って一人が飛び出し、その後その穴をつくようにもう一体の存在が出てくる。
レイルはすぐに目の前のローブの存在を始末するように部下に指示を出すが、それよりも早くローブの頭上に魔法陣が出現しいくつも雷撃が降り注ぐ。
どうやったかはわからないが、ソラがローブの魔力を探知し攻撃しているのだと気がついたレイルは別の場所でも魔術が発動しているのを確認し、そちらに向けて駆け出す。
数秒もしないうちに魔力のもとへ辿り着いたレイルは目の前で気絶したオークロードを魔術で浮かせているローブの存在を視界に収める。
『ふむ。感知能力の高い奴がまだいるのか。油断ならない部隊だな』
「貴様!その魔物をどうするつもりだ!!」
『答える必要はないな』
ローブの存在が去ろうとしたところで足元の空間をレイルは凍らせる。これによって動きを封じられたローブの存在だったが、急激にローブの存在の周囲の温度が上昇し、凍てついた個所を溶かす。
『実にいい氷魔術だ。それに無詠唱。座標も完璧だ』
「嫌味ですね。そういうあなたもどうやらかなりの使い手のようだ」
レイルの背中に冷や汗が垂れる。一瞬で自分の魔術を解除した目の前の存在の魔術技術の高さを認識し、止められるかどうかを考える。
『ふむ?どうやら合流の時間のようだ。すまないがこれで去ることにしよう』
そう言ってローブの存在の姿が陽炎のように消え去ってしまう。レイルは魔力の残滓を追おうとするが、多方向に魔力の残滓を確認でき、どこに行ったのかわからなくなってしまう。
その数分後、ソラからの連絡が入り、レイルは他の部隊と合流し街の中で残存している魔物の一掃に向かう。
半日が経過し、街の中を蹂躙していた魔物たちは一掃し、広場となる場所で仮設テントをいくつか敷設し、救護場所と避難場所が用意されていた。
この街の救援に来たのは”轟雷の勇者”率いる勇者部隊と呼ばれている”雷迅衆”である。構成員100名からなる部隊で全員が鍛え上げられた精鋭部隊だと言われている王国が誇る最強と名高い部隊の一つである。
独立部隊としての一面を持っており、所属しているカイセル王国が持つ騎士団とは違い、王国側からの命令権に従わなくてもよいとされている部隊なのだ。
そんな”雷迅衆”は現在救援に来たカイセル王国北東に位置するローザという街で、街の住人の救護活動と街の復興作業の手伝いを行っていた。
ローザの街のトップを務めているログサと呼ばれる男は現在、敷設されているテントの一つで”雷迅衆”のトップであるソラとその次点であるレイルと向かい合って座っていた。
「それで?今後はどうする予定なんだ?」
「現在は王都へ連絡を送り復興援助の要請をしているところです」
「それでしたらこちらに救援に来た際にすでに伝令は済ませてあります。先に準備を整えていただいているので明日には復興支援部隊が到着するはずです」
「ほ、ほんとうですか!?ありがとうございます!!」
そう言ってログサは頭を下げる。レイルは手を振って当然のことをしただけだと答える。それを見ていたソラはすぐに次の話題に切り替える。
「それで申し訳ないが今回襲撃について教えてくれないか?」
「は、はい。あれは一日前の事でした───」
ログサの話によると、突如として一日前に魔物の軍勢が森の中から軍勢を率いて現れたらしい。軍勢を率いていたのはソラが戦っていたオークロードであり、そいつが率いるオークとゴブリン、コボルトの混成部隊が突如として街に攻め入ったとのことだ。
最初の内は街の衛兵隊と冒険者たちによる共同戦線により防衛線は成功していたとのことである。しかし途中から現れた魔術師による攻撃によって防衛戦は崩壊し、起死回生を図って突撃した冒険者パーティーは全滅。そこからなし崩し的に街の中に入られ、ソラ達が到着した時の状況になったとのことである。
ソラはこの街で一番強かったであろう冒険者パーティーである”テンペスト”が全滅したことに驚きを隠せないでいた。
冒険者とは国に所属している騎士団や軍隊とは別で元は民間の開拓団が事業を広げていってできた組織に所属している人間たちの事である。
冒険者組合というものが組織され、現在では個人から組織にかけて自由に依頼をしてもらい、その依頼を冒険者組合に所属している冒険者たちが責任もって達成するのが仕事である。いわば仕事斡旋所でもある。
護衛依頼や採取依頼、開拓依頼や討伐依頼など幅広く携わっている。しかし依頼ごとに難易度が変わってくるため、組合の職員が厳正に依頼難度を審査し、それに応じたランク設定を行うのだ。
そのランクは冒険者たちにも適応され、依頼ランクに届いていない冒険者はその依頼を受けることができないのだ。
冒険者のランクは上からSランクとはじまり、Aランク、Bランク、Cランク、Dランク、Eランク、Fランクとなっている。はじめは全員Fランクから始まり、組合の設定した試験をクリアすることでランクを上げることができるのだ。
今回ローザの街にいた”テンペスト”はBランクの冒険者で一流の冒険者といわれる者たちだ。Bランクの冒険者でパーティーを組んでおり、ゴブリンやオーク程度であれば後れを取ることはない人たちなのだ。
しかし今回の戦いで”テンペスト”は全滅してしまったのだ。そのことをソラは悲しみつつ、Bランク冒険者パーティーを討伐した存在がいるということでもあった。
ソラが今回戦ったオークロードであれば並みのBランク冒険者であれば太刀打ちできないであろう。しかし”テンペスト”はAランクにも届きうると言われていたパーティーであり、その実力を知っているからこそ全滅したことが信じられないソラであった。
しかしソラの耳にはすでに”テンペスト”の亡骸を部下が発見しており、全滅したことは本当であることが確認できていたのだ。
「正直”テンペスト”が敗れるとは思っていませんでした。彼らであればあのオークロードを討伐してくれると信じていたのですが・・・」
「やはりあのオークロードが倒したんじゃないのか?」
「はい。遠目ではっきりとはわかりませんでしたが、全身をローブで覆っていた小柄な存在が二人ほど。その二人組により”テンペスト”と他の冒険者は蹂躙されたのです」
「隊長。やはりそのローブの存在は」
「俺も対峙したあいつらだろう。かなりの実力者だった。魔術師としての格は奴らのほうが上だ。あの規模の魔術は俺じゃ組めないからな」
ソラは魔力量だけは優れてはいるが諸事情により魔力の放出量がそこまで大きくなく、自身の魔力を使った大規模な魔術を苦手としているのだ。
そんなソラの特性を知っての事か、あの時のローブの存在はソラのことを”魔力に愛されない勇者”と表現したのだ。魔力はあってもそれを十全に扱うことができなければ宝の持ち腐れである。
「大規模魔術を行使しにくいだけで格まではそこまで差はないでしょう。あなたの本領は接近戦なんですから」
レイルは笑いつつもそう答えると、ソラは肩をすくめる。
「だがまぁ大規模魔術を自由に使えるのはかなり羨ましいよ。さて、ではお伝えしていた通り復興支援の許可と土壁作成の許可、両方頂いても?」
「えぇ、構いませんよ。むしろ願ってもないことです。よろしくお願いします」
ログサは頭を下げるとソラとレイルは立ち上がり、その場を立ち去る。2人はそのまま自分たちのテントの中へと戻ると、中で忙しなく動き続ける“雷迅衆”達が目に留まる。
テントの中は様々な機材と魔導具が所狭しと設置されている。空中には魔力で映し出されたスクリーンが表示されており、そのスクリーンには幾つもの文字が浮かんでいる。
そこには様々な情報が記載されており、随時新しい文章が増えていく。
「魔導回線は繋がってるようだな。王都への情報共有は出来ているか?」
「既に報告済みです」
「支援部隊はどうなっている?」
「現在近隣都市3箇所にて支援部隊を編成中。編成完了までに1日。最短でもそこからさらに1日で到着予定です」
「時間がかかるようだな。部隊編成の人員補充が難しい理由があるようだな。冒険者組合にも使いを出せ。あそこなら個人でも救援に来てくれる奴らがいるはずだ」
「了解しました。直ぐに人員を選定し近隣への伝達を行います」
ソラは自身の左腕につけてある腕時計型の魔道具を触り、空中にスクリーンを浮かばせる。
同じように文字が刻まれた操作盤も浮かび上がり、それを叩きスクリーンに映し出される映像を操作していく。
そこには支援部隊の編成が遅れている理由が様々な情報を元に記載されていた。
「王都近郊でのスパイ活動?近隣諸国に妙な動き・・・。きな臭い情報がかなり書かれているな」
「特にこの近隣諸国の動き。確かに怪しいですね。特にこのアルメイヤ王国。我々カイセル王国をずっと目の敵にしている国なだけあり、軍事的な動きをしていればかなり目立ちますね」
「傭兵を色々雇っているようだな。魔族との諍いもあるというのに人同士で何やってるんだろうな」
ソラは王国所属の情報収集担当のものたちが集めた情報から、アルメイヤ王国に雇われた傭兵たちや傭兵団のリストを確認していく。
その中にはいくつか知っている名前もあり、これだけ大規模に動いているということは何かしら大きな動きを見せることだろうと考えているのが、王国上層部の意見である。
ソラはそういう揉め事は王国騎士団の仕事だろうと判断し、他に情報はないかと探すがいくつか目に留まるものはあるものの、今すぐ確認するものでも無いと判断した。
「情報収集は随時続けておいてくれ。3日間はこのままこの街に滞在する。追撃部隊と追跡部隊はどうなっている?」
「残存する魔物は追撃部隊により全滅。逃げ込んだところから奴らのアジトらしきものも確認済みです。現在は殲滅戦に移行中とのことです」
「アジトか。あのローブの存在の情報が残されてるかもしれん。情報収集できるように喋れるやつは捕まえて尋問させろ」
「了解しました。そして追跡部隊の方ですが現在は魔力の痕跡を追跡中とのことです」
「向こう側にバレている様子はあるのか?」
「動向までは確認できないとのことです。距離を置いて追跡を続けています。現在は北東方面へ移動中です」
レイルはその報告を聞いて自分の目の前のスクリーンに地図を表示させる。北東と聞いて王国北東側の地図を表示させる。
「この方角であればイーストリア山脈ですかね」
「潜伏するには丁度いいな。あのレベルの魔術師だ。かなり名のある組織か別の存在が出てくるかもしれないな」
「何にせよ情報次第ですね。追跡部隊には頑張ってもらいましょう」
レイルはそのまま情報収集を開始し、ソラはピアスを操作し、部下たちに指示を出し始める。
「各員に連絡する。これより昼夜問わずに復興支援を行う。ローテーションはいつも通り行え。生存者の救出を最優先に行うように。俺もすぐに現場へ向かう」
そう言い残し、ソラはテントの外へと出ていくのだった。




