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勇者の裏切りは突然に


大粒の雨が顔どころか地面に倒れ伏す自身の体に強く打ちつけてくる。


雨による寒さによって体が震えているのか、心の奥底にあったものが砕けたことで失意のあまりに震えているのかはわからない。


ただ全身に浴びている大粒の雨の冷たさと、それによって冷やされた地面の冷たさを背中で感じながらぼんやりと思う。


(雨は嫌いだ・・・)


どうして自分はこうやって倒れているんだろう?


どうして自分はこんなにも傷だらけなのだろう?


どうして自分の周りには魔物の死体だけでなく人間の死体も倒れているのだろう?


どうしてその人間の着込んでいる鎧には自分の所属していた国の騎士団の紋章が描かれているのだろう?


どうして周りには同じ鎧を着ている一団と魔物たちが囲いを作っているのだろう?


どうして?どうして?どうして?


ただひたすらに疑問が頭の中を埋め尽くしていく。ただただどうして?という疑問だけが頭に浮かんでは消えてを繰り返す。


なぜこうなったんだろうなと、地面に倒れる男──ソラは記憶を遡り始める。

























最初の頃はいつだったか・・・そう、あれは俺が7歳の時だ。


初めて魔力に目覚めると同時に吹き上がる自分の魔力の多さに驚き、そして暴走した。


暴走した魔力が辺りを吹き飛ばし、そして両親を、妹を、兄を、村のみんなを傷つけてしまった。


俺は自分の力が怖くなり、そしてみんなを傷つけたことへの自責の念に駆られ、自ら命を絶とうと村の近くにある断崖絶壁の崖のほうに向けて走り出したんだ。


その途中で師匠と出会ったんだ。たまたまこの村の近くにいた師匠は俺の膨大な魔力を感じ取り、異変を感じ取って近づいてきたらしい。


涙を流して駆けていた俺を見つけた師匠は、俺が崖に身を投げようとしていると判断し止めようとした。しかし暴走する魔力が師匠を傷つけようとした。


だが師匠はめちゃくちゃ強かった。それはもう無茶苦茶強かったのだ。


暴走する魔力はまるで触手のように師匠に伸び、襲い掛かる。しかしそれをなんら脅威と感じさせずに軽々と回避する。


いくつもの魔力球を創り出し、撃ち出すがすべて弾かれる。


そしてなぜか防がれたと感じてしまった俺の意思を汲み取ったのか、暴走する魔力がさらに師匠へと襲い掛かった。


槍のようになった魔力が突き刺そうとするが弾かれる。魔力の砲弾を創り出すも回避される。魔力の光線を撃つが受け止められる。


そして一気に接近した師匠は俺の体に特殊な封印術を刻み込むことで、俺の暴走を止めてくれた。


その後師匠は俺がまた暴走しては周りへの被害が甚大ではないから魔力を扱えるように鍛えてやると提案してきた。俺はその提案に頷き、その時から師匠と呼ぶようになった。


その後師匠を村のみんなや家族に紹介し、そして師匠の苛めともいえるほどの鍛錬が始まった。





15歳になった。あの頃にはもう師匠の流派もしっかりと使えるようになって魔力も安定させれるようになった。


正直師匠の鍛錬はめちゃくちゃしんどかった。


まずは自分の限界を知るべきだと魔力を暴走させられ、限界まで魔力を放出させられた。森が一つなくなった。


魔力がなくても戦えるようにと武術を習った。体に叩き込むのが早いとタコ殴りにされた。しかもこの武術魔力も使うからなにが魔力なしで戦う術だよと言ってやった。タコ殴りにされた。


魔法も教えてもらった。正直これは楽しかった。自分の知らない知識を増やすことはめちゃくちゃ面白いと思えたからだ。


気が付けば師匠と慕うのは俺だけではなく、村の人たち全員が同じように慕っていた。


師匠はそのまま村に住み込み、道場を開き、みんなに戦いの術や自分の旅の話をいろいろとしてくれた。


楽しかったなぁ、あの頃は。友達も妹も兄も、それに師匠や両親がみんなして笑顔を向けてくれていた。本当に楽しかった。こんな日々が続けばいいとさえ思った。


けどそういう日々っていうのは長くは続かない。なんでだろうな?ただ幸せで平和的な日々を過ごしたいだけなのに。


村はある日唐突に燃えた。


いや、燃えただけではない。燃えた。踏みつぶされた。連れ去られた。喰われた。弄ばれた。吹き飛ばされもした。


俺の住んでいた村は魔物の群れによって突然崩壊した。村が所属している国は戦争状態にあった。そしてたまたま村の近くが戦場となり、それが遠い森で生態を築き上げていた魔物たちを刺激した。


これによって魔物たちがその森から溢れ出し、周囲に襲い掛かったのだ。これは後から聞いたものだが魔物暴走(スタンピード)というものだった。


村の戦える者たちはみんなして抵抗した。でも数の力には無力だった。次々に村人は倒れていき、そして両親も目の前で消し炭に代わってしまった。


妹と兄は行方知れずになり、そして師匠は最後まで魔物と戦い続けた。でも魔力が尽き、体力も尽きてしまった師匠は俺を庇って死んだ。


俺も必死に戦った。でも両親が死に、妹も兄も見失い、そして目の前で師匠の命すらも散るところを見てしまった俺は何かが切れた。


そしてそれと同時に師匠の封印が解けたんだろう。気が付けば周りは全て荒野に代わり、魔物の姿は一体も残ってはないかった。


その後セント王国という自分たちの国と戦っていた国の救援団が到着し、保護された。


その時に俺は魔力の高さを買われ、騎士団で育てられることになった。


学園に入れられ、学問に触れることになった。


学問を学び、礼節を学び、そして歴史についても学びを深めていった。


そして三年ほどで学園を卒業し、騎士団に入団した俺はそのまま頭角を現していき、20歳になるころには部隊を一つ任せられるほどに成長していた。


魔物の討伐や護衛任務、僻地調査や闇組織の摘発などいろんなことをやった。いろんな人と出会い、そしていろんな人と別れを告げていった。


でも楽しかったしやりがいもいっぱい感じれていた。


けど若い奴が一気に台頭してくるのが気に食わない連中はどこにでもいる。学園でもいい顔しない奴は多かったが、騎士団の中ですらそれは起きていたのだ。


俺はそれに対してあまり歯牙には欠けていなかった。どうせなにもできはしないと。そう高をくくっていた。


23歳になりとある事件が訪れた。国一番の宗教である白聖教会の聖女様が神託を授かったのだという。


神託の内容はこうだ。




”近い内に魔王と呼ばれる存在が現れ、この世界を混乱に導くであろう


だが案ずることなかれ。世界を混乱に導くものが在れば、それを正すものも在る


勇者を探しなさい


勇者を見つけ、混乱を招く魔王を正すのです


さすれば世界は平和を享受することができるでしょう”



短い内容ではあるが、これが聖女の聞いた神託であったのだ。そしてその際に勇者である存在は俺であると言われたとのことであった。


突然勇者として崇められ始めた俺はその勇者としての責務に準ずるため、少数精鋭の仲間たちで世界中を旅することになる。


世界を混乱に導くであろう魔王を討伐するための旅である。


俺は旅をした。何か問題が起きていないか、いろんな場所に足を運び、そして事件を解決したり、人々を救う活動をしていた。


中には救えなかった命もいくつもあったが、それでも仲間たちとともに世界を旅し、そして魔王と呼ばれる存在を探していた。



そして一つの手がかりらしきものを見つけた。それは魔族という存在。


あまり知られてはいないが、遥か昔に存在していた種族であり、魔物と人の交配によって生まれた種族とのことである。


当時に凄まじいまでの迫害にあい、それに魔族が立ち上がって戦争を仕掛けたのだという。その際に生まれたのが魔王である。


魔王の力はすさまじく、人では手に負えなかったという。だが勇者と呼ばれる存在が魔王を倒し、この世界にまた平和を齎したのだという。


そんな昔話に登場する存在が未だに生きているのだという情報を得た俺たちは、そこに向かった。


その結果がこれである。


なぜか味方だと思っていた者たちに裏切られ、仲間だと思っていた者たちも実は裏切っており、俺は背後から刺される形になってしまった。


そしてどうやったかは知らないが、王国騎士団は魔物を操る術を手にしたらしく、それを使うことで俺は魔物に殺されたということにするシナリオだとのことである。


俺を殺すことにどんな意味があるのかはわからない。


だが裏切られた。その事実だけがソラの心に重く突き刺さる。


約二年ほど旅した仲間との間には信頼などはなく、元から裏切るための存在だと聞いた時には絶望したものだ。


それでも俺はまだ死ねない。死にたくない。


妹がまだ見つかっていないんだ。兄貴も見つかっていない。俺の村を取り返せてもいない。やり残したことがあるんだ。


ソラは心を奮い立たせ、震える体に喝を入れて立ち上がる。すでに二時間ほどたった一人で騎士団を相手に戦い続けているのにもかかわらず、まだ立ち上がるその姿に騎士団の騎士たちは怯えた表情を見せる。


しかし仲間だった四人の男女は当然だろうとばかりにソラに視線を送る。そして一人の魔法使いの女性が大規模な魔法を行使し始める。


それは騎士団に所属している他の魔導士や魔法使いも手伝うことで発動できる大規模魔法。その名は【地獄の業火(インフェルノ)】。黒い炎が範囲内に存在するすべての生命を焼き尽くすというものである。


発動と同時にソラを中心とした半径50mが黒い火柱に飲み込まれてしまう。凄まじい高熱の熱風と振動が周囲を囲んでいた騎士団と魔物たちに叩きつけられる。


黒い火柱は黒雲すらも消し飛ばす勢いだったが、消し飛んだ黒雲はまた元に戻り、雷鳴とともに雨をまた降らし始める。


黒い炎が治まった地面には、未だに燃える炎が所かしこに存在しており、その中心では全身から煙を放ちながらも少しの火傷しか負っていないソラが、悠然とその場で立ち尽くしていた。


流石の仲間だった者たちも先ほどの魔法を喰らって未だに立っていられることに恐怖を覚えるが、さすがに限界なのか膝をついたソラを見て、笑みを浮かべている。


(だめだ・・・ッ。視界が・・・霞む・・・)


ぼやけ始める視界をどうにか元に戻そうと自分の頬を殴ったソラは、頭を少し振ってからゆっくりとではあるが立ち上がり、そして仲間の四人を睨みつける。


(ガイ、メイリン、リーシア、ロドス。お前らはいい仲間だと思って、いたのにな)


「残念、だよ。お前、らには・・・な」


ソラの言葉にイラついたガイはそれに反論するように大きな声を上げる。


「うるせぇぞ死にぞこないが!!さっさと死んで俺様達の糧になりやがれ!!」


「そうね。早く死んで私たちのためになって頂戴。今までの二年間の人助けなんか正直吐き気すら覚えていたのだから」


メイリンも同調するように悪態をつき、魔法を唱える。凄まじい高熱の炎の球体がメイリンの頭上に現れる。


だがソラも抵抗しない存在ではない。ソラは勇者である。身体に光が纏われていき、光り輝き始める。


地面に突き刺さった剣を抜き放ち、右手で握りしめる。


(行くぞ、デュランダル)


まるでソラの問いに反応するかのようにデュランダルが光り輝き出す。そしてソラが上段に構えを取ると、刀身から光の奔流が放たれ、巨大な光の刀身へと姿を変える。


「【光の剣(リヒト・シュヴェルト)】」


光の斬撃が振り下ろされる。メイリンは炎の球体を急いで放ち、その後に防御魔法を唱えて幾つもの障壁を作り出す。


光の斬撃は炎の球体とぶつかり合うと、直ぐに切り裂かれて爆発してしまう。その爆風はメイリンの障壁に叩きつけられるが、その程度ではビクともしない。


しかしその後に叩きつけられた光の斬撃はメイリンの障壁の4つを破壊し、最後の1つの障壁がなんとか受け止めることに成功する。


幾つも障壁にヒビが入るが、何とか受け止めたメイリンは冷や汗を流しつつ安堵の息を漏らす。


包囲網を作っていた王国騎士団の指揮官の男が従えている魔物に指示を出し、ソラ目掛けて突撃させる。


ソラは先程と同じように【光の剣(リヒト・シュヴェルト)】を発動させ、今度は横薙に切り払う。光の奔流に飲み込まれた魔物はそのまま身体ごと消し飛ばされてしまう。


しかしまだまだ数はおり、恐怖を感じず魔物たちは足を止めずにソラ目掛けて突撃していく。


5体のウルフ種の魔物がソラに噛み付こうと飛びかかるが目にも止まらぬ速さの剣技によって粉微塵にされてしまう。


その後にゴブリンが何体も飛びかかっていくが、それら全てが一瞬で切り裂かれてしまい、その命を散らしていく。


オークが上段から力任せの一撃で棍棒を振り下ろすが、その棍棒をバターを切るかのように切り裂き、そのままオークの体を真っ二つにしてしまう。


そうやって次々と魔物たちが襲いかかってくる中、ソラは襲い来る魔物全てを切り伏せていく。


騎士団は援護とばかりに魔法を連発し始める。魔物ごと吹き飛ばす魔法の連続は、流石にソラも被弾してしまうことが増え始める。


着弾時の爆発によってソラが吹き飛ばされ、そこに魔物が殺到する。ソラは自身の周囲に障壁を張る魔法【聖なる領域(ホーリーフィールド)】を展開して耐える。


しかしそこにメイリンの【灼熱の雫(ヴェルメ・ゲリンゼル)】が上空より落とされる。


灼熱の業火を液状にして球状にしたものが指定した場所に出現させる魔法である。基本的に対象の上空に発動させることで対象の上空から灼熱の炎の液体をぶちまける魔法なのだ。


その魔法は群がる魔物たちの体を燃やして溶かしていき、さらにはソラの魔法すらも燃やしていく。


このままでは破壊されるとすぐに判断したソラは斬撃を放ち、その衝撃で降り注ぐ灼熱の液体を吹き飛ばすと、その際にできた斬撃の通り道を使ってその包囲から抜け出す。


そのまま包囲の一角に向けて突撃し、騎士たちに剣を突き立てる。


突撃してきたソラにすぐさま対応する騎士団だったが、ソラを捉えることができずに苦戦を強いられる。


見ていられなくなったガイとロドスが介入し、リーシアが回復魔法をかけて騎士たちの傷を癒していく。


ガイは拳闘士で、拳や蹴り技を使って戦う戦士である。自慢の肉体は生半可な魔法は通用すらしない。


ガイの拳がソラに突き刺さるが、デュランダルの腹でそれを受け止めたソラはその勢いを使って距離をとる。


そこへロドスが追撃とばかりに槍を突き出す。放たれる神速の突き。


凄まじい突きの連続に最初のうちは防いでいたソラの身体に傷が増えていく。このままでは分が悪いと感じたソラが目の前に光属性の障壁を作り出し、槍の一撃を一瞬だけ止める。


その障壁は間に入ってきたガイによってすぐに壊されてしまうが、その一瞬の間にソラは身体強化の魔法を自分の体に施し直し、大きく頭上に飛び上がる。



「【聖なる衝撃(ホーリー・バースト)】」



全方位に向けて光属性の魔力を帯びた衝撃が放たれる。囲もうとしていた騎士団員たちはそれによって吹き飛ばされるが、ガイとロドスはそれを意にも介さずソラに向かう。


ソラはデュランダルを構え、そして小さな声で呟く。


「【斬天(ざんてん)】」


放たれたのは一振の斬撃。しかしその動きは全く見えず、気が付けばガイの身体に斬撃の跡が刻み込まれる。しかしその肉体を切り裂くことはできずに、赤い跡だけがつくだけに終わる。


だが衝撃だけは受け止めきれずにそのまま後ろに吹き飛ばされるガイ。その横を疾風のごとき速さで駆け抜けるロドスは渾身の一突きを放つ。


放たれたそれをなんとか回避するが、ソラの左肩に槍の穂先が突き刺さってしまう。それと同時にガイが復帰し、一気に肉薄して拳を叩き込もうとする。


ソラは肩からくる痛みに我慢しながら右手でデュランダルを握る力を強め、そして魔力を一気に開放する。その場で【光の剣(リヒト・シュヴェルト)】が発動し、ロドスの体を押し退けつつガイの接近を阻む。


ロドスはその際に槍を手放してしまい丸腰になるが、自身の槍の名を呼ぶとソラの殻に突き刺さっていた槍が勢いよく抜け、そのままロドスのほうへと戻る。


その際に抜ける反動で体が前のめりになったソラはそのまま膝をつき、傷付いた肩に腰に備えている鞄からポーションを取り出し、直接振りかけて痛みを抑えようとする。


その隙を見逃さなかったメイリンは【大地の噴火(ガイア・ボルケーノ)】を発動させ、ソラの周囲10mの地面直下から灼熱の業火を噴出させる。


ソラの姿がまたもや炎で掻き消えるが、炎の中から光が飛び出してくると、そのままメイリンの目の前に着地する。


それは【身体強化(オグメンタ)】という魔力を身体の外側に纏わせ、鎧のようにすることで身体能力を向上させる魔法である。それを使ったソラは一気に炎の中から飛び出し、メイリンの前に躍り出たのだ。


メイリンは慌てず目の前に障壁をいくつも創り出し、自身とソラの間に水でできた球体をいくつも創り出す。


「【障壁(シールド)】【水球(アクア・ボール)】」


ソラがデュランダルを振るえば一瞬のうちに障壁は切り裂かれるが、メイリンが巧みに操作した【水球(アクア・ボール)】がいくつもソラの体にぶつかっていき、進行を妨げる。しかしその程度で歩みを止めないソラはデュランダルに魔力を纏わせていき、【光の剣(リヒト・シュヴェルト)】を発動させようとするが、それよりも早く自身の足が着いている地面がせり上がる。


急にバランス感覚が崩れたソラはそのまま上空に打ち上げられると、いつの間にか上空に待機されていた魔法が目に映る。


それは炎と水と風と土の球体が高速で回転しているもので、それを見た瞬間ソラの本能が警笛を鳴らし、防御の構えをとらせる。それよりも早く魔法を発動させようと、メイリンは魔法を発動させるための魔法名を唱えた。


「【自然の(ナトゥーラ・)四重奏(クアルテット)】」


四つの属性が混ざり合い、その反発力に指向性を持たせて一点に放出する魔法。反発し合った力はすさまじい破壊力を生む光線となってソラ目掛けて放たれる。


光の盾(リヒト・シルト)】を前方にいくつも発動させ受け止めようとするソラだったが、その程度の防御魔法では受け止めきれず、【光の盾(リヒト・シルト)】はすべて破壊され、ソラへと直撃した。


空中で大きな爆発が巻き起こり、しばらくすると黒煙を全身から吐きながらソラが地面に力なく落ちる。


それを見た騎士団と元仲間の四人は囲いを狭めていき、確実にソラの息の根を止めにかかる。


ソラはまだ意識を失っておらず、何とか立ち上がろうとするが力が入らずに立ち上がることができない。腰の鞄はまだ壊れてはいなかったが、そこに手を伸ばす余力すらも残っていない。


手にはデュランダルはなく、腕にも足にも力が入らない。万事休すの場面ではあったが、ソラは諦めることなく魔力を滾らせる。


「どうしてそうなってまで戦おうとするのかしら?本当に疑問だわ」


「やり・・・残し、が・・・あるんで・・・な・・・」


「リーシア!俺の傷を早く直せ!!さっさとこいつを殺して終わらせるぞ。なんかわからねぇが悪寒がしやがる」


ガイが急ぎ足でソラの前まで駆け寄りつつ、リーシアに対して早く自分の体についた傷を治せと命令する。リーシアは悩むような仕草を見せつつもガイに回復魔法をかけ、その傷を癒していく。


ガイがソラに近づくと、ソラの周囲に光の粒子が集まっていき、いくつかの光の球体を作り上げる。しかしそれらの球体はなぜか黒く染まり始め、ぼろぼろと崩れ落ちてしまう。


その現象に戸惑ったのは他でもないソラで、初歩的な魔法の発動に失敗したことに驚いていた。メイリンですらも驚きの表情を浮かべていたが、ガイはそんなことは関係ないとばかりに腕を伸ばし、ソラの首を持ち上げる。


気道が閉まっていき、ソラの口から苦悶の声が漏れる。


「じゃあな勇者。お前は目障りらしいから消えてもらうぜ。俺たちのためにな」


「く・・・ッそ・・が・・・覚え、て・・・ろ・・・」


ソラの意識が失われていく。


こんなところで自分の命は終わってしまうことへの絶望感。


家族を見つけられていないことへの後悔。


国のためにと今まで過ごしてきた自分への裏切りに対する怒り。


仲間だと思っていた者たちの裏切りへの悲哀。


そして許すわけがないと怒りに燃えつつ心に広がる復讐の思い。


これらが一気にソラの中に広がっていき、そしてとうとう噴き出る。


突如ソラの身体から黒い魔力が爆発的に放出され、ガイの身体を吹き飛ばす。吹き飛ばされたガイは受け身をとってすぐに体勢を立て直すが、目の前の現象に困惑する。


「メイリン!!なんだこれは!?」


「し、しらないわ!ソラに闇属性の魔力があるなんて聞いたことがない!!というより光の魔力を持っている人間が闇の魔力を持つなんてありえないわ!!」


そう突如ソラの身体から噴き出たのは闇属性の魔力。本来であれば光属性と闇属性は相反する力である。それらは決して混ざり合うことはなく、反発し合うのがこの世の摂理である。


その摂理を覆し、メイリンの目の前には光の魔力を纏っていた人物が突如として闇の魔力も纏っていることに理解が追い付かず、パニックになっているのだ。


その間にソラのほうは落ち着きを取り戻していき、いつの間にか傷付いた体はそのままではあるが、しっかいと二つの足で地面に立っていた。


そして瞑っていた眼を開いたソラ。それと同時に魔力が吹き荒れ、光と闇の魔力が同時に生み出される。


凄まじい魔力の衝撃に騎士団の面々は士気をどんどんと落としていき、次第にソラを本当に倒せるのかと思い始める。


「くそが!嫌な予感はこいつの覚醒だったのか!?」


覚醒とは、死の淵に立たされた時に極稀に起きる現象のことである。急激に魔力量が上昇し、普段は使えない魔法が使えるようになったりする火事場の馬鹿力のことである。


ソラが覚醒したことでメイリンは最大級の警戒を込めて【自然の(ナトゥーラ・)四重奏(クアルテット)】をまた構築し始める。


しかしそれよりも早くソラの魔法が完成する。


「【混沌の(ケイオス・)二重奏(デュエット)】」


光属性と闇属性の魔力が反発し合う力を一点に放出する魔法。その威力は魔力量によって変わってくる。膨大な魔力を使った白と黒の奔流が周辺全てを飲み込み、そして爆発する。


凄まじい爆発の後に残ったのは騎士団の半数以上が地面に倒れ伏す現状と、どうにか被害を抑えようとして防御魔法を張り続けたボロボロのメイリンと無事だった他の三人が残り、爆発の後にソラの姿は消え去っていた。














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