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8 衛生環境と整えます

 元の世界で、妹の里美に中世ヨーロッパの不衛生さを話したことがあったが、この世界は中世ヨーロッパとは比較にならないくらい清潔だ。


 最大の理由はやはり宗教が絡んでくる。

 地球の古代ローマ後期での公衆浴場が混浴で風紀が乱れていたことと、それに宗教にからんで、中世ヨーロッパ初期では入浴は欲望や虚栄心を示す不埒なものとされ、しかもそのころ流行したペストなどの病気は肌を通して浸透してくると思われていた。

 キリスト教聖人は不潔さこそ神を敬う証くらいに思っていたようで、その話を読んだとき、本当に理解できなかった。


 古代ローマの上下水道のほうが千年以上たった中世よりも発達していたなんてどういうことだろうと思ったものだ。宗教の悪しき部分の弊害を感じる。

 

 しかし、今のアトランでは古代ローマにあたる帝国で培われた上下水道がそのまま発達している。宗教が健全であることも大きいし、魔法があるため、高位の水魔法が使える者のなかには、水の中に「身体に悪い何か」を感じられる者がいて、その成分を除けば腹を下したり、伝染病にかからないことを経験上知っているのだ。


 さらにもともとが混浴の風習がなかったために公衆浴場で風紀が乱れえることはなかった。もっとも個室の浴場はしっかりと発達しているらしいが。

 傭兵隊長が父ショーンに「街の視察も大切です。一緒に行きませんか。いい子が入ったんです。」と言ったことを侍女が聞いていて母に伝えたのだ。

 母は微笑みながら、「どこをねじ切ったらいいか、ご希望の所を教えてくださいませ。」と言いながら、父と傭兵隊長の下半身をちらりと見た。

 恐怖の表情とはこのようなものなのだと理解した。部屋にいた男性は全員、血の気が引いていたのは間違いない。

 

 さて、声を大にして言おう。マッケンゼン領では城を中心に街の中は下水道が通っているのだ。つまり、トイレは水洗なのである。とは言っても一回一回流す水が必要だ。さらに一日に一度大本の貯水池から水が流される。排泄物は沈殿池に集まられ、なんと微生物によって自然処理される仕組みになっている。

 古代インダス文明のモヘンジョ・ダロではすでに微生物による排泄物の分解は行われていたようなので、「なんと」というほどではないかもしれない。

上澄みの下水はある程度浄化が終わると川に流される。沈殿池は四か所あり、1つが満タンになると水分を抜き、ある程度乾燥させ、その沈殿物を農業に使用している。ちかくまでいくと臭うが微生物がいい働きをしているようで、思ったほどではない。


 残念なのはお尻は洗浄できないことだ。まあ、お尻の洗浄は日本を含めたアジアの一部くらいだというし、ようは慣れの問題で、初めから無ければ気になることはない。

 拭くのは小麦の藁でつくった更紙だ。細かく砕いた藁から作り自然乾燥させて押さえつけていないため、思ったよりもふっくらとして吸湿性もいい。


 さすがに農奴たちまでは普及していないようだが、平民たちは普通に購入し使用しているようだ。使用後の紙は下水道を詰まらせないためか流すことが禁じられており、使用済みの紙はまとめて農奴に下賜されているようだ。再利用するのか火つけなどに使用するのか用途はわからないが、この話を聞いたとき自分としてはあまり気持ちのいいものではなかった。


 他にも元の世界では一度失われた技術が継承されており、何とローマン・コンクリートもあるのだ。

 ローマン・コンクリートは特殊な火山灰と石灰石を組み合わせ、海水を混ぜることでさらに強化され自己修復機能すら持っている。

 コンクリートと言うよりジオポリマーに近いらしい。知識としては知っていたが、ジオポリマーって何だよと文系だった俺としては言いたい。


 欠点と言えば、極端な湿度変化に弱いようだが、ここマッケンゼン領は湿度の変化はそれほどない地域なので問題はない。

 凄いぞ古代ローマ。

 たいへんなのはマッケンゼン領では火山灰が産出されないこと。数百キロ離れた南部のわずかな地域から産出される火山灰があるらしい。その火山灰を黒海を通って運んできている。


 このローマン・コンクリートのおかげで水道橋や城はとても強固なつくりとなっている。


 でも、この火山灰。運んできたのを見てさわったら、鹿児島のシラスにそっくり。ローマン・コンクリートじゃなく、シラス・コンクリートじゃんと思ってしまったけど誰にも話せなくて、ちょっと残念だった。


 

 10歳になった俺。お祝いの席でみんなに宣言した。


「10歳になったので、僕は俺と言うようにします。」


「あらあら、無理をしなくていいのよ。」

「お姉ちゃんは思うんだけど、俺って言い方、かわいくないわ。グスタフには素敵な弟でいてほしいと思うのよ。」

「大人のふりをするなら、俺じゃなくて私じゃない。」

「やっぱり男は俺だよな。」

 母ベアトリス、姉ハンナとアグネタ、父ショーンが即座に反応した。


「くっ、俺だって。グスタフのくせに俺だって。」

 下の姉アグネタがめちゃ笑っている。


「おれ、おれ、おれー。」

 マルティンよ。サッカーの応援じゃないんだよ。思わず地球で応援していたチームのチャントを歌ってしまうではないか。


 成平としての記憶を取り戻した俺としては、もう僕と言うのは止めたいのだ。


「とにかく、今から俺です」


 なんかヤンキー漫画の題名みたいな宣言をした。最終的には、みんな、ハイハイ、大人のふりをしたいのね。思春期だから仕方ないわねみたいな感じで受け止めてくれた。


 まあ、貴族スコラに入ると『私』になるんだけどね。



 10歳になってしばらくして、俺は父にお願いをした。

「お父様、領主の命令で猫を全て殺した都市に黒死病が広がり半数以上の住民が死んだという話を聞いたことがありますか」

「ああ、聞いたことがある。それで」

「猫がいなくなるとネズミが増えます。そのネズミが黒死病を運んでいるのだと私は思うのです」


「そうかもしれないな。それで」

「猫を増やしましょう。我が街を猫の街にするのです」

「猫をどうやって増やすんだ」

「猫を保護するのです。子猫を産んだ猫が安心して過ごせる環境、食事を与えるのです。」


「そのために何をするんだ。」

「はい、農奴の子どもで、頑強でなく農業にも傭兵にも向かない男の子、家では必要とされない女の子がいるはずです。その者たちを雇います。子猫の保護、猫が増えて街にころがる糞の処理、ついでに街の清掃などをやらせます。衣食住を保障してやれば、給金はわずかでもいいでしょう」


「孤児院の子たちでもいいのではないか」

「我が領の孤児院の子たちの過半数は、騎士や傭兵の血を引いていると思われます。彼らの中で知や武に優れたものや魔法が使える者は教育し、文官や傭兵として我が領や他領で働けるようにします。他領に行ったら色々な情報も手に入れたり、繋がりが深まったりしますしね。 

 そうでない者たちも教育することでマッケンゼン家への忠誠を高めさせることができます」


「グスタフ、お前、何歳だ」

「お父様、つい先日、10歳の誕生日を祝ってくださったではなりませんか。まさか、お忘れですか」

「いや、そんな意味で言ったのではないのだが。よくわかった。20名ほどは入れる宿舎を用意してやろう。食事は衛兵向けの厨房で作らせよう。ああ、もちろん量も質も衛兵と同じにはしないぞ」


 わかってますよと心の中で返答する。


 地球の中世ヨーロッパでは、猫は魔女の手下ということで殺され、それがネズミの増加を招きペストが拡大した。魔法の力である程度抑えているとはいえ、この世界でも同様だ。

 地道にマッケンゼン領を猫のあふれる世界にしよう。街中に猫がいる街、ああ、なんて素敵なんだ。



 さあ、次は最強の『衛生兵器』だ。

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