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7 魔法、醤油、侵略

 この世界では10人に1人くらいは何らかの形で魔法が使える。多くの者はマジックレベルというか小規模なものであり、戦いに使える魔法が使えるのは  魔法が使える者の中で10人に1人くらい。つまり全人口で言えば100人に1人くらいでしかない。その中でも、実戦で効果的に使える者はさらに少ない。


 遺伝的影響が大きいらしく、貴族はほぼ全員が魔法を使えるし、後継者となるためにはどんな魔法であれ魔法が使えることが必須だ。

 

 メイドのベスやケイトは騎士爵家の娘で魔法が使える。それも魔法が使える人々の中で上位に入る。

 俺の護衛も兼ねながら礼儀作法や教養を身に着けている最中だ。将来は俺の側近の妻や俺の子の乳母兼護衛となり、マッケンゼン家を支えるよう教育されている。そのため、メイドとはいえ彼女たちの父親たちである騎士と同格の扱いをされているようだ。

 

 

 ベスは火系統の魔法が使える。


 発火は、出力の高い電子レンジのような感じで温まり、いきなり、ポッと燃える。なので、火種があるとすごく簡単に燃えるが、湿った木を燃やすのはすこし時間がかかると愚痴っていた。

 

 それよりも恐ろしいのが、対人での戦いだ。他の者から聞いた話だと、元の世界風に言えば電子レンジに頭を突っ込んだような状態になるらしい。3メール以内は瞬時に、効果のある範囲は10メール以上とのこと。

 

 話を聞いていると火系統と言うより、電子レンジ系統じゃねーと思ったが、それは誰にも理解してもらえないだろう。

 

 聞いた後、想像したら怖すぎて、しばらくベスと目を合わせることができなかった。



 ケイトは水系統の魔法が使え、水を動かしたり、水を出したりできる。


 湿気が高いときほど好調だと話すので、洗ったばかりの洗濯物がある部屋を締め切って、水を出させ続けた。すると、みるみる洗濯物が乾いていく。

 つまり、水は無から出しているのではなく、空気中の水分を集めていることがわかった。人との戦いでも使えますよと、穏やかな口調で言われた。想像してみるとこれもめちゃ怖い。

 こちらの有効範囲は20メール以上あるようだ。

  


 母であるベアトリスは土系統と言われる魔法が使える。


 土砂を動かすことができるのだ。城壁を強化したり、崩したりしているのを見ると、どうやら分子間のつながりを弱めたり強めたりしているようだ。戦いで人にも使えるか聞いたときに、曖昧に笑ってごまかされたので、多分、人体にも影響できる魔法だ。

 

 土系統ではなく分子操作系統だろうと思ったが、今の世界では「分子」を誰も理解していないので、これも心の中にしまっている。



 父であるショーンは身体系統の魔法が使える。


 相手に作用するときは疲れ知らずの身体にすることができる、なお、副作用としてものすごい疲れの反動が出たり、へたをすると死んでしまうとのこと。そして、手が届くくらいの範囲まで近付いた相手を泥酔やひどい船酔いのような状態にすることができるらしい。


 これは身体系統と言うよりも、アドレナリンなどの体内の内分泌をいじっているのだろう。



 これらの魔法はイメージをより鮮明にしていけば、さらに強力な力になる。

 俺は両親やベスたちとの会話の中に、なるべく平易な言葉で、イメージしやすいように繰り返し話していった。


「グフタフ様の言う通り、体の中のものをとにかく速くこするイメージでやったら、オオカミの喉が一瞬して焦げていました」


「私も、体内の内臓などの位置を意識しながら水分を抜くと一瞬で倒せました。熊の目の水分を抜いたら熊がのたうちながら悲鳴を上げていました」

 ベスやケイトがうれしそうに話してくる。


「グフタフの言う通り、名に見えない小さな粒のつながりを引きちぎったり、ひもでくっつけたりするイメージでやったら、今までより魔力の消費が少なくて、しかも速くなったわ」


「俺は…変わらんぞ」



 現代医学レベルの基礎知識がなければ体内ホルモンや内分泌液ってイメージできないよね。



 さて、俺がどのような魔法が使えるようになるのか楽しみだ。




話は変わり、何と、醤油や豆板醤などの調味料があるのだ!


昔、東方から攻め入ってエウレプ東部を蹂躙した騎馬民族がもたらしたものだ。その騎馬民族や東方の国々での圧政を逃れてきた人々や捕虜となった騎馬民族の兵士たちのなかに調味料を作れる者たちがいたのだ。

その子孫は数世代を経て奴隷身分から平民身分となり、今ではマッケンゼン領も含め、エウレプ各地に店まで開いている。彼らの作る料理は元華料理と呼ばれ、大きな都市では元華街まで作られている。


成平としての記憶が戻ったころ、ステーキに醤油とバターを垂らして、ぐふぐふと笑いながら食べていたら、家族にドン引きされた。


 マッケンゼン領の気候は冬はかなり低温になるが、その時期を除けば過ごしやすい。

 


 しかし、問題は多い。


 まず、東からは騎馬民族が絶えず侵入してくる。

 ロマーニャ王国の東側にはキプシャシア王国という国があるが今はかなり弱体化しており、その隙間をついて侵入してくるのだ。そのため大規模なものではなく、盗賊のように小規模でゲリラ的に襲ってくる。引いてきた馬に積めるだけの物資を奪ったら、すばやく東へ逃亡するので捕まえるのが困難だ。


 でも幸いなことに、物資を奪うことが主目的なので、意外と人的被害が少なく、奪われる物資も全体から見たらそれほど多くはない。一番の被害は時として若い女性をさらっていくことだろう。

 移動速度が速く、果てしなく逃げていくこともあって、ロマーニャ王国もキプシャシア王国も討伐にあまり力が入らない。うるさいアブのような扱いだ。




 東からは20年ほど前に大規模な侵略もあった。


 極東の大国であるオゴタイ・カン国の軍勢が侵略してきたのだ。それまで繁栄を誇っていたエウレプの東方のキプシャシア王国は最初、抵抗の意志を示したため国土の8割を蹂躙され壊滅的な被害を受けた。

 

 10万人を超えるオゴタイ・カン軍は、キプシャシア王国の王都を占領した後、軍を3つに分けた。王都に留まり後方支援をする軍3万、北側から進む主力軍6万、黒海に沿って南側から進む遊撃軍1万だ。

これは西方のエウレプの国々との戦いのとき、南北から挟み撃ちに合わないようにするためと思われた。


 このころになるとキプシャシア王国の状況を知ったエウレプの各国は軍をまとめ出撃の準備をしていた。


徹底抗戦を示したロマーニャ王国を含むエウレプ東部のロシャ帝国、モルデ公国、ロマーニャ王国では侵略された地域すべてで街は破壊され、略奪された。侵略された地域では、逃げ遅れた若い女性や子どもたちは奴隷として連れ去られ、残った人々はすべて殺された。


すべて…だ。



オゴタイ・カン国を建てた民族は遊牧民であり、定住する人々はいなくてもいい存在と考えていた。ましてや、抵抗の意志を示す人々を後に残して進むと後背の心配をしなくてはいけなくなる。それくらいなら全てを無くして進めばいいという考えだった。



わずか2か月余りで、北ではロシャ帝国は首都まで陥落し、オゴタイ・カン軍はポルスカ公国に迫っていった。

南では、モルデ公国を滅ぼした軍勢は、ロマーニャ王国の東半分を蹂躙し、王国の滅びの日が見えてきていた。


そのようなときに、ポルスカ公国ではエウレプ連合軍が駆けつけ、オゴタイ・カン軍との戦いがおこった。

エウレプ連合軍の重騎兵を中心とした12万人とオゴタイ・カン軍の騎馬兵を中心とした6万人が、ポルスカ公国の黒き森で激突した。


エウレプ連合軍は重騎兵を魔法で防御し、矢を防ぎながら、じっくりと攻めていき、ここぞというときに鉄製の重い鎧を着た重騎兵で一挙に攻めていく戦法だった。重量のある重騎兵のため、馬は短い距離と時間しか動けない。


対して、オゴタイ・カン軍の騎兵は。革と革の間に薄い金属がはさまった軽い革の鎧。重騎兵をおびき寄せ、分断し、重騎兵の乗る馬が疲れて動けなくなったところで、風魔法で威力を高めた矢を打ち込み、馬を殺して移動手段をつぶした。



エウレプ圏内の中での戦いでは、戦う装備をした従者は別として、軽装で騎士たちの身の回りの世話や物資の運搬を行う従者たちは民間人として扱われ、戦いに巻き込まれることはなかった。

しかし、オゴタイ・カン軍にはそのようなことは通用しない。重騎兵の従者たちは後方にいたが、彼らは真っ先に潰された。


動けなくなった重騎兵を囲み、いたぶっていく。水も食料もなく、重い鎧をつけた騎士たちは急速に消耗し、やがて動けなくなっていき降伏していった。


生き残った斥候たちによれば、戦いが終わったとき、降伏した重騎兵を中心とした者たちの半数以上はまだ生きていたらしい。


エウレプ圏内では戦いで降伏した者たちは、身代金と交換で生還できる。高位の者ほど身代金を出せるので、無駄な抵抗をせずに降伏しようと考える。


 しかし、オゴタイ・カン国にはそのような慣習はない。

 彼らには「富や税を差し出す者」と「すべてを滅ぼすべき敵」しかないのだ。重騎兵たちは滅ぼすべき敵でしかない。

 

 戦いが終わり静けさが戻ってくるはずの戦場で、その後、悲鳴が鳴りやまなかったという。


 黒き森の戦いでは、戦いの参加したエウレプ連合軍の7割近くが戦死した。12万人のうちの7割近く、つまり約8万人が戦死したのだ。



黒き森の戦いで勢いづいたオゴタイ・カン軍は、さらに西方へ向かうと思われた時、突然、オゴタイ・カン軍が波が引くように撤退していった。


数年後、わかったことだが、オゴタイ・カン国で疫病が大発生したこと、その疫病のどさくさにまぎれ皇帝が暗殺されたこと、さらに暗殺に乗じて皇帝の跡目争いがおこったことなどが重なり、撤退したのだという。


 

 さらに、侵攻のくわしい背景がわかってきた。


 オゴタイ・カン国の北方、地球でのシベリアには強力な魔法が使えるマンモスがいる。そのため、ただでさえ人が住むには厳しい環境でもあるため進出する意味はない。それでも、オゴタイ・カン国が西方進出前には北方に遠征し、その遠征軍は全滅したようだ。 


 東方はいくつかの島国があるだけで、あとは巨大な魔物が生息するという広大な海が広がっており、島国を攻略してもその先はない。その島国は属国として存在が許されているようだ。これは地球での日本のことだろう。


 南方は人類の天敵ともいえる魔者たちが住んでいて、間に位置するいくつかの小国は緩衝国として残している。


 つまり、オゴタイ・カン国が領土を広げるには西方にしかなく、エウレプへと攻め入ってきたのた。

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