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5 恐竜がいて、サハラ砂漠がないんだけど

 さて、魔法以外で元の世界と最も大きく違うのが生物だ。何と、アフリ大陸など赤道付近には進化した恐竜が生き残っているのだ。


 人間と比較した精密なデッサンを見ると、白亜紀のヴェロキラプトルやティラノサウルスっぽい。

 ただし、本来はせいぜい大型犬くらいだったはずのヴェロキラプトルっぽいのは1m80cmくらいで、ちょっと人間に近い感じだ。ヴェロキラプトルは大絶滅の前に滅んでいて、大きさもだいぶ違うので、もしかしたらヴェロキラプトルの子孫ではないかもしれないが某映画で観たヴェロキラプトルを人間っぽく進化させた感じなのは間違いない。

 ティラノサウルスっぽいのは、手が発達した2m50cmくらいの恐竜型巨人といった感じで、より恐竜っぽい。たぶん実物を見たら、おしっこをもらしそうなくらい凶悪な姿だ。


 どう見ても恐竜で、それが数千万年かけて進化してきている。でも、哺乳類なら数千万年あればとんでもなく進化している。そう考えると、進化の度合いが極度に遅かった感じだ。

 まあ、ワニなども大絶滅を生き延びてきたけど、そのころと大きく変化していないし、そこが哺乳類と爬虫類の違いなんだろうか。


 この世界では単に『魔者=まもの』と呼ぶので、これからは魔者と呼ぶことにしよう。


 

 この世界アトランで魔者が生き残った最大の理由を推測してみた。


 6600万年前の白亜紀、ユカタン半島に落下した隕石によって絶滅したはずなのに生き残っていること、そして、影響が大きかった南北ロロ大陸には魔者がいないことを考えると、隕石が元の世界よりも小さかったのか、その時代の恐竜がすでに魔法が使え厳寒期を生き延びたか。

 どちらにせよ、人類への脅威として存在していることには間違いない。


 でも、恐竜の子孫が存在するなんて…。


 ヴェロキラプトル、ティラノサウルスは、白亜紀の恐竜だから、クレタシアス・ワールドなのかな。


 ちょっとロマンを感じたけど、それは間違い。


 人と魔者が出会うと、人はいたぶられて殺されるだけだそうだ。生きたまま手足をもいだり嚙みちぎったりして、泣き叫ぶ声を聞いて大笑いするって。

 絶対に出会いたくない。


 人間と魔者は思考回路が全く違うため、相容れることは全くない。話し合いなどできないため、共存する地域はなく住み分けがはっきりしている。


 よかった。


 蛇足だが、この魔者のおかげで、地球とアトランは星としての基本構成は全く一緒、一卵性双生児なのに歴史が大きく違ってきている。


 赤道付近に人類が存在していないせいで、0の概念が伝わってくることなかった。地球では300年ほど前にヨーロッパに伝わってきた0の概念が、エウレプで認識され始めたのは数十年前。

 何と家庭教師の先生が数学において近年最大の成果だと胸を張って話したときは笑いそうになったのは秘密だ。



 元の世界だと地球儀と呼ばれるアトラン儀。この世界自体もアトラン。大西洋はアトラン洋。ユーラシア大陸はアトラン大陸。

 わかりやすいのか、区別しにくいのか。


 そんなアトランで、元の世界と激しく違う地形が1つある。

 


 アフリ大陸にはサハラ砂漠は驚くべきことに存在しないのだ。


 アフリの地中海沿岸は聖万象教会を母体とする聖カルタガ国があり、エウレプと交流があってアフリ北部の情報が入ってくるから確実なことだ。


 聖カルタガ国から南部、つまりサハラ砂漠の方を見ると、高さ7000メール級の山脈が連なっている。広大な山脈があることや地形の変化で地球と気象条件が大きく違ってきており、ハドレー循環による亜熱帯性高気圧の影響を受けていないようだ。

 地球のサハラ砂漠のあった地域の周辺ではエウレプと同等の降水量があり、そのため、アフリ北部は緑豊かな地で、小麦の大産地となっており、エウレプの食糧庫と呼ばれている。

 

 現在は地球で言えば小氷期。ミニ氷河期ともいう寒冷な時代に入っている。元の世界でのグリーンランドのヴァイキングの移住者たちは、この小氷期に入って全滅している。

 しかし、エウレプでは魔法での力とアフリ大陸からの食料供給、ロロ大陸との交易、教会の助力などで餓死者は出ていないようだ。飢えがないため争いもそれほど起こらないという好循環を生んでいる。

   

 さて、アフリ大陸のこの山脈の中央には山々に囲まれるように広大な内海があり、サハラン海と呼ばれている。サハラン海は南部のアトラン洋、地球でいうギニア湾につながっているのではないかと思われている。


 サハラン海が内海と思われる理由としては昔、探検家が調査したことが基になっている。

 大洋と同じような濃度の海水であること、海で見られる魚が豊富にいたこと、そして北側は直径1000キールほどの円状であることを確認している。


 南側の様子へは魔者を恐れて進めていなかったが、小氷期に入った今、少しずつアフリ大陸の南側の地域の探索が広がっており、サハラン海は南に行くにつれて、しずくのように少しずつ狭まっていることなどがわかっている。


 そのため広大な塩湖ではないかという説もあるが、多くの学者はアトラン洋につながっていると考えている。


 

 俺は地球の世界地図を思い出し、リビアやアルジェリアの南側に山脈があって、緑豊かな地が広がり、ニジェールやナイジェリアを通ってギニア湾まで海峡みたいに通じていているのか…と、アトラン儀の空白地帯を見ながら想像してニヤニヤしていたら、ベスやケイトに気持ち悪がられた。


 誰か共感してほしい…。



 

 さて、身近なことに視点を戻すと、俺たちの家族は領主である父のもと、石造りの大きな城館に住んでいる。居住性の高い城ってとこだろうか。

 フランスのソーミュール城を小さくしたような外観だが、城の周りには城壁が作られ、マッケンゼン城とよばれている。


 城を中心に領地は広がっている。領地全体は、城を起点に大人が歩いて4時間ほどの距離というから、道の悪さを考えると大雑把に言えば半径15キールくらいか。

 城から6キールほど離れて、城を囲むように6つの小集落と塔がある。ここには主要な騎士たちが住んでいる。


 さらに東方には、東方からの侵略に備えて2つの小さな要塞が置かれている。


 黒海までは他領をわずかに挟んで20キールほど。ちなみに黒海は今の世界でも「黒海」なのだ。

 黒海で捕れた魚を食べることも多い。アジやイワシ、カレイ、ムール貝など日常的に食べる。イカやタコも捕れるようだが食べる人はいない。

 その話を聞いたとき、大人になって自由に動けるようになったら必ず捕って食べよう、そしてその美味しさを広めようと固く心に誓った。

 

 地球の中世ヨーロッパの城主支配圏であるシャルテニーと同じようなものだが、支配面積は数倍広い。



 地球の中世ヨーロッパでは、「祈る者」「戦う者」「働く者」の3身分が確立していったが、アトランでは「祈り与える者」「戦う者」「働く者」、そして「司る者」の4身分となっている。



 「祈り与える者」は聖職者だ。


 人々は収穫や売買の利益の10%を救いの教会か聖万象教会に納めている。

 どちらも壮大で豪華な教会などつくらないため、救いの教会はその浄財を医療や飢饉のときなど人々が苦しんでいるときに惜しみなく出している。一方、聖万象教会は魔獣対策や交通路の安全対策のために支出している。

 つまり、救いの教会は内部へ、聖万象教会は外部へと人々からの浄財を使っていることを誰もが知っているため、ほとんどの人は進んで納めている。教会への税は一種の社会保障制度ともいえるため、多くの人々は聖職者に対して深い敬意をいだいている。


 まあ、人間なので不正をする者も当然いる。しかし、ばれた時には周りとの人間関係は悲惨なものになったり、商売だと取引が停止されたりする。そんな目に合うのはわかっているはずなのに繰り返し起こるのはこの世界でも人間の欲深さを感じる。



 「戦う者」は支配層である貴族と、騎士や従者たちだ。


 騎士は貴族に準じ、魔力があり魔法が使える限り、騎士家を代々継いでいく。

 従者たちの多くは農民の子で、魔力を持ち魔法が使える者たちだ。


 領地の従者の半分は軍事訓練をしながら領地の治安維持を行っている。残りの半分は、騎士たちの次男・三男らをリーダーとしてロマーニャ王国内だけでなく、他国の争いの場に傭兵として渡り歩いている。1年ごとに交代しながら、力をつけ、得た報酬は無税で自分のものとできる。

 傷ついて戦闘ができなくなったり、年老いた者たちは、領地内でさまざまな職業につけるようにするのが、領主である父の仕事の一つだ。


 このようなことができるのも、元の世界の中世ヨーロッパの封建制度とまったく同じ制度があるからだ。それは、領主や君主と主従関係を結んでいた封臣は、出陣にあたって決まった日数を超えて自費で従軍する必要はなく、また、制限日数を超えると、領主は特別な手当てを出さなければいけなかったことだ。


 ロマーニャ王国では年間30日。他の国もだいたい似たような感じだ。つまり、長い争いになったとき、領地の軍は一定期間を超すと非常にコスパが悪いものになっていくのだ。


 これはユングランド内で長期の戦いが起こらない要因の1つにもなっている。


 そこで、突発的な兵力として計算できるのが傭兵たちだ。ユングランド各地での紛争に雇われることで、領地にいる過剰な人力を活かし、外貨を獲得し経済を活発にし、領内の戦力も格上げしていく。


 ロマーニャ王国では最近、このマッケンゼン領のシステムが急速に真似られてきているようだ。俺の父って、すごいじゃんと思っていたら、それはすべて母が考えたものだったようだ。ふだんは虫も殺さないような、柔らかな雰囲気の母が急に怖くなった。



 「働く者」はほとんどの領民だちだ。


 最も多いのは農民。彼らには基本、住居移転の自由はない。自作農が2割、残りは農奴だ。もっとも農奴といっても、帝政ロシアの農奴とは雲泥の差であり、「祈り与える者」の保護のおかげで、不作であっても飢えて死ぬことはない。


 意外と多いのが商工業者。黒海や東方とロマーニャ王国の首都クルテイアとを結ぶ交通の要所であり、マッケンゼンの領地内は整備され安全な場所が多いということで、宿、野営地(領地軍駐屯所の側などにあり、宿に比べれば安い使用料金を取る。街道沿いでは定められたところ以外での野営は禁止されている。)などがとても人気らしい。


 交通量が多いということは、様々な面での需要があるということだ。それが商工業が発展し、たずさわる者が多いことに繋がっているようだ。


 そして、元の世界と大きく違うのが「司る者」の存在だ。


 これは特に優れた大規模魔法を使える者たち。王家はこの「司る者」の中から婚姻の対象を探す。この司る者は基本、貴族からしか出現しない。たまに騎士階級から出現することもあるが、「働く者」から出現することはまずないらしい。


 「司る者」たちは、魔法を強力な武器や大きな事象として使える。


 「司る者」たちはごく少数で、ロマーニャ王国内では数十名しかいないらしい。マッケンゼン領内にいる「司る者」は、我が母と騎士団長だけだ。 

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