2 ダークマターって何? シューシュー言ってる人?
歴史好きな人たちに読んでもらいたいと願っています。
「おはよう、さっちん。さて、歴史を紐解く限り、人間は地球のガンだ」
「なりちゃん、朝からいきなり過激すぎる発言、ありがとう」
さっちんとは有田佐将、保育所時代からの友人だ。なので、高校生としていかがなものかと思いつつ、幼稚園時代の愛称でついつい話してしまう。
「いや、過激ではない。昨日、動物園でトラの赤ちゃんがお披露目されたニュースをやっていた。ナマケモノの赤ちゃんも生まれたそうだ」
「話が見えないんだが?」
「トラはかっこいいが、もっとかっこいいのがサーベルタイガーだ。そして、体長6メートル、そして、体重が8トンにもなったのが大ナマケモノ。彼らは1万4千年前には南北アメリカ大陸に住んでいたのだよ。わかるかね、さっちん」
「だから何なのよ。」
「そこに、グレートジャーニーと呼ばれる、アフリカからの人類の大移動で、アメリカに来た人間が彼らを滅ぼしたのたと言われている。まあ、環境の変化も大きいが、人間が絶滅の加速度を早めたと俺は思っているよ。人間さえ来なかったら、もしかしたらサーベルタイガー、大ナマケモノ、巨大なライオン、マンモス、熊くらいの大きさの巨大なネズミの仲間、それらが今、動物園で見られたかもしれないのだよ。すごいとは思わないか、さっちん。」
「巨大なネズミはノーサンキュー、いなくてよかったよ。人間ありがとう!だね。」
「ネズミと言ったが、カピパラみたいなものだ。」
「…まあ、カピパラならかわいいか。いや、熊くらいの大きさって言ったよな。それじゃあ、人間は餌でしょ。それに、生物の絶滅って、隕石が落ちてきたり、気候変動とかのせいじゃないの? 」
「それは6600万年前の大絶滅な。シカゴ大学の先生が言った、俗にいうビッグ5の1つで一番新しいやつだね。」
「何、ビッグ5って。」
「地球上の全生物の多くが絶滅する大絶滅が5回も起きたことだよ。なかでも、2億5200万年前のペルム紀には史上最大の絶滅が起きて、全生物の95%が消えたと言われているんだ。他にもう一つ入れてビッグ6という説もあるけどね。」
登校しながら、成平の話は続く。
「そして今、人間に進出によって多くの動植物が滅んでいて、今もさらに増大している。そのため、今は地球上の生物の大絶滅バーゲンセール中だ。だから、人間は地球のガンだって言ってるの。」
「はいはい、学校に着いたぞ。今日も朝から歴史の授業ありがとう。」
「歴史から学ばぬ者は、愚か者だぞ。西ドイツだったころのヴァイツゼッカー大統領の『荒れ野の40年』での有名な言葉…」
「「過去に眼を閉ざす者は、未来に対してもやはり盲目となる!」」
二人でハモる。
「これぐらいは俺だって知ってるよ。あのさ、俺はそれより数学ができるようになりたいんだけど。」
「おお、数学の歴史についてなら、少しは話せるぞ。」
「いやいや、俺は私立理系だからね。数学の歴史は大学に入ってから暇なときに学ぶよ。それじゃあ昼休みに。」
「ああ、学食で。」
昼休み、学食で食べた後、さっちんとクラスメートで宇宙物理学の学者になると公言している小花一心と、少し離れた芝生でダンスの練習をしている女子たちを眺めながら、中庭のベンチに腰かけていた。
「宇宙には、ほとんど銀河の存在していない空間があるってさ。直径が1億光年もあるような空間でさ、ボイドって言うんだって。それを取り囲むように銀河の集団があるんだ。」
突然、一心が言い出した。
さっちんが女子集団から目を離さず、いちごミルクを飲みながら答えた。
「その空間って、ダークマターやダークエネルギーがびっしりなんだろうか。」
俺は少しぼうっとしていたため何の話かわからずに、
「何だよ。悪の帝王みたいなダークマターってのは? 映画の話? SF?」
と尋ねた。
一心が、のんびりした口調で、
「暗黒物質と未知のエネルギーだよ。物理の授業で、目に見えたり、陽子や中性子とか観測できる物質は、宇宙全体の5パーセントくらいで、あとの95パーセントは、人間が観測できない物質のダークマターと、未知の力であるダークエネルギーだって話してたじゃん。SFじゃなく、宇宙物理学の常識でしょ。」
「それ、理系だけの常識。俺、文系だから物理とってねえし。中学の頃から理科の時間は、意識がダークになってたわ。でも、暗黒物質ってなんか記憶あるなぁ。…あっ、国立ミュージアムの宇宙のとこで説明文にあったような気がする。」
俺がそう答えると、一心は俺を呆れた感じて見ながら話を続ける。
「確かに暗黒物質について書いてあったね。そのダークマターやダークエネルギー、そして未知の空間なんかを含めて、ビッグバンで生まれたこの宇宙って本当に1つだけなんだろうか。同時に他の宇宙もできていて、それとのつながりがボイドにはあるんじゃないかって思ったりもするんだ。どう思う?」
「多元宇宙ってことか?」
さっちんは、相変わらず女子集団から目を離さないまま、一心に尋ねた。
一心の口調が熱を帯びてきた。
「ビッグバンで俺らの宇宙と同時にできた他の宇宙は、一卵性の双子や三つ子のようなものだと思うんだ。
霊って、観測できないけど、何かの拍子に観測されているダークマターやダークエネルギーとかで、全く同じように構成された双子みたいな地球が、何かの拍子に次元が重なって視えたじゃないかって、俺は思っているんだ。」
一心の声が更に熱を帯び、早口になってきた。一心が興奮してきたときの癖だ。
「ビッグバンによって、俺たちのいる宇宙と同時に他の宇宙もできていて、それも俺たちのいる宇宙と同じように今も拡大しているというのはよく言われてるよね。
同じ時に、同じ要素でできた宇宙ってさ、もしかして全く同じものができていて、この地球とまったく同じ星もそれぞれの宇宙に存在しているんじゃないか、全く同じ人間が存在してるんじゃないかって考えることがあるんだ。」
「そんなこと、考えたこともないなぁ。」
と、さっちんは答える。俺はというと、一心が言っている意味自体がよくわからないでいた。
一心はため息をつくと、元の穏やかな口調に戻り、
「まあ、そんなことを考えていると楽しいんだよなぁ。
話は変わるけどさぁ、再来週の土曜日、九十九大学に行かないか。近藤先輩がいる研究室でダークマターの検出の研究をしてるんだけど、その実験を大学の研究施設でやるんだって。近藤先輩曰く、歴史が変わるすごい実験になるぞって。」
と、俺たちを見ながら言ってきた。
「塾のテストも終わった次の週だし、息抜きしたいからいいぞ。成平もいいよな。」
さっちんに誘われた俺も、九十九大は志望校の1つだったし、部活の2年先輩だった近藤先輩にも会いたくて、観光がてらならとOKした。ちなみにさっちんこと有田佐将は、高校では俺のことを『なりちゃん』とは呼ばない。
やってきた街は、スマホで検索しても高校生が遊ぶ場所、好む観光地が何もないところだった。さっちんと一心はわかっていたらしく、俺の何とも言えない表情を見てニヤニヤしていた。
ちょうど、近くの会場でバスケの試合も近々あるようで、駅前にはポスターが貼ってあった。ここの県をホームタウンにしているチームは強くないけどチーム一丸で戦っている感じがして、俺は好きなんだよな。いつもは地元チームを応援するけど、このチームを観戦するときだけはアウェー席で応援することを決めていた。ポスターを見れただけよかったかと気持ちを切り替えた。
朝食兼昼食にしようと、腹をすかして行った俺たちだが土地勘もなく、最初はゾンビのように彷徨った。
チェーン店ではなく、ここでしか食べられない美味しいランチの店はないかと地元の人たちに尋ねながら歩くと、みんな親切で人柄の良さを感じ、ちょっとうれしかった。
教えてもらったレストランに開店と同時に入り食べたランチは地元の野菜をふんだんに使いボリュームがあって、しかも美味かった。
三人とも満足して店を出て、冗談を言い合いながら実験を行う場所に向かって歩いた。
この楽しさがいつまでも続くと思いながら…。
明日からは隔日で朝8時頃には投稿しようと思っています。応援よろしくお願いいたします。