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1 歴史大好き

全編において「世界の歴史 全12巻」(朝日新聞社)を参考文献にしています。今回は「やんごとなき姫君たちのトイレ」(桐生操著:TOTO出版)を参考文献にしています。あとは学校で学んだこと、これまでに読んだ本、TV番組などで得た使っています。

 俺の名は、東郷成平。高校3年生。4つ下の妹の里美、親父と母の四人家族だ。


 名前の由来は、在原業平と平成生まれに引っかけて付けられた。ついでに、鬼の何とかと呼ばれた江戸時代の人の名も入れ込んだんだと親父は言っていた。

 鬼の何とかはともかく、在原業平とは平安時代の歌人で、『古今和歌集』にも多くの歌が載っていて、六歌仙とか三十六歌仙とかにも選ばれている、イケメン&ナンパ歌人だ。

 生涯に3733人の女性と関係があったとされる、とんでもない男でもある。いったいどんなペースなのか、うらやましいというより、単なるパラノイアだと思う。


 親父はそれを知っててつけたのだろうか。


 親父は普通の会社員だが歴史好きで、しかも、亡くなった祖父は高校で世界史の教師だったこともあり、家には多くの歴史関係の本がある。

母親も図書館司書なので、生まれた頃から本に囲まれた生活をしている。本、特に歴史関係の本を読み解いていくのが俺の幼い頃からの唯一の趣味と言ってもよかった。



「お兄ちゃん、腹減った~! 何かない?」

「里美、お前、14歳にもなって、もう少し女の子らしい言葉遣いできないのか。…まあ、待ってろ。冷蔵庫にあるもので何か作ってやるから」

「ありがと! その間に着替えてくる」


 冷蔵庫を開けると、『夕食・弁当用さわるな』と母が書いた食材以外、目ぼしいものがない。ジャガイモ、ほうれんそう、スライスチーズ、小麦粉があったのでチヂミを作ることにした。

 ジャガイモを千切りにし、ほうれん草とチーズは細かく刻んだ。ボウルに小麦粉、だまにならない片栗粉をささっと振りかけて、水を入れて生地を作った。そこにジャガイモ、ほうれん草、チーズと入れて混ぜ合わせる。フライパンにごま油を入れて両面を焼けばチヂミの完成だ。

 夕食までの時間を考え、量は少なめで、それにいくら食べても太る気配のない里美には大丈夫だろう。


 里美の部活帰宅後の「着替え」には必ず軽くシャワーが入るので、十分に時間はあった。皿に盛るころにはドライヤーの音がしていた。


 里美は爽やかな女の子の匂いをまき散らしながら対面キッチンのカウンターに座ると、

「お兄ちゃん、ありがとう。いただきま~す!」

と笑顔の里美が食べ始めた。あっという間に完食し、もっと食べたそうに皿を見ている。


「里美、ジャガイモの原産地は知ってるか?」

「え~とね、シチューとかジャガイモ料理を考えると、ヨーロッパ?」

「違う。ヒントはコロンブス」

「えっと、アメリカだ!」


「正解。正確には南アメリカ、アンデス山脈付近だけどな。今じゃ世界中の食卓に出てくるジャガイモだけど、ヨーロッパに伝わったころは、食べるとコレラにかかるとか言われて、ほとんど食べられなかったんだ。青い部分を知らないで食べると中毒になるしな。でも、寒いとこでも育つし、栄養価が高いから、貧しい農家を中心にだんだん食べられるようになったんだよ」

「へ~、ということは、飢えて死ぬ人もいなくなったんだね」


「それがそうでもないのさ。19世紀の中ごろに、ジャガイモの病気がヨーロッパ中に広がって、アイルランドでは800万人いた人たちのうち100万人は餓死して、19世紀中に400万人以上がアメリカに移民したんだよ」


「8人に1人は死んだんだ。イギリスでもそんなに死んだの? 産業革命とかあって世界の工場と言われた時代だよね。豊かだったんじゃないの?」

「アイルランドがひどかったんだ。イギリスのせいでね」

「なんで?」

「その頃のアイルランドの農地って、イギリスの貴族が大部分を支配していたんだ。さて、ここで質問。日本だと米が農作物の中心だけど、ヨーロッパは何だと思う」


「そりゃ、小麦でしょ」

「そう、だから、アイルランドでも主に作られていたのは小麦。アイルランドの小作人たちは自分たちのほんのちょっとの農地でジャガイモを作って、何とか暮らしていたんだ」


「じゃあ、ジャガイモが病気で採れなくても、小麦を食べれば餓死しなかったんじゃない?」

「地主のイギリスの貴族たちはアイルランドが食料不足になっても、イギリスへの食糧輸出をやめなかったんだ」


「そんなぁ、ひどいよ。アイルランドの人たち、イギリスが大嫌いになったんじゃない」

「ああ、だからアイルランドで独立運動が起きたとき、過激な運動になっても支持する人が多かったんだ。IRAのテロがひどかった時代から、今はまだ50年も経っていないんだぜ」


「食べ物の恨みって大きいし、たくさんの人が餓死したなら、なおさらだよね。…私、食べ物を残すなって、お母さんに躾けられたけど、当たり前のことだし、大切なことなんだね。お兄ちゃん、ご馳走様。ありがとう」


 食べ終わった里美は、ソファに寝転がると、考古学に関する本を読んでいる俺に向かって、

「お兄ちゃん、ほんと歴史が好きだよね」

と、笑いながら言ってくる。


「人がどう考え動いてきたか、それがどのような結果をもたらしたのかという流れが好きなんだ。それに、年表に書いてある事項が多いから歴史的な動きが多くて、少ないときは動きが少ないということではなく、そのような時、後世には伝わらなくても、激動の事実があったのかもしれない。埋もれてしまった歴史的事項とは想像するだけでも楽しいじゃないか」


「お兄ちゃんさぁ、性格いいし、見た目もかっこいいけど、本ばっかり読んでて、そうやって、すぐにうんちくたれるから、女の子にもてないんだって、お母さんが言ってたよ」


「ちょっと待て! かっこよさって何だと思う。時代によって、見た目のかっこよさなんて変わるんだし、そんなものに惑わされるような女は俺は嫌だし」

「惑わされる…なんて。かっこいいものはかっこいいでしょ」


「ちょっと、この絵を見ろ」

「…何、この人。きもい」

「18世紀の男らしい姿だ!」

「えっと、髪の毛は女性より長くてぼわぼわだし、白いストッキングをはいて、変なポーズで気持ち悪いんですけど」


「なんて失礼なことを! これは太陽王と呼ばれたフランスの偉大なるルイ14世だぞ。それに髪の毛は地毛ではなくカツラだ!」

「なおさらおかしいでしょ」


「それに、今から300年前は、これが男らしさ全開のポーズだ!」

「いやいや、ありえない!」


「国王様の肖像画だぞ? バリバリ気合を入れてメイクしたんだ」

「ラノベ読んでて、私も転生して、素敵な王子様からプロポーズされたら…♡、と思ってたけど、実際、こんなかっこうの王子様から愛してると言われても、私、ドン引きしちゃうわ」


「わかっただろう、かっこよさなんて、その時代時代の幻想なんだよ」

「夢でいいじゃない! 芸能界だって、現代の王子様で、私たちに夢を与えてくれてんだから!」


「300年後の人類が、今のアイドルの映像を見たら、変な髪型、おかしな歌、意味の分からない踊り、きもいって言うに決まってるんだ」

「お兄ちゃん、きもいって言葉自体、300年後には完全に無くなっていると思うよ」


「そうだな。それに時代ごとの臭いってあると思うぞ。中世の頃のヨーロッパの都市は間違いなく悪臭だらけだ」

「あっ、それ知ってる。馬車の糞とか道路に落としっぱなしだし、水はけも悪いから、ハイヒールが発明されたって聞いたことがある」


「まあな、そもそも、家にトイレがないから、おまるで用をたして道路に捨てたりしたんだ」

「何それ、やだー」


「もっとも昼間に捨てると、人にかかるかもしれないから、マナーとして夜中に、『ガーディ・ロー』と声をかけて、人がいないか確かめてからな」

「いやいや、声をかけてもだめでしょ」


「街中がすごい臭いだったろうけど、人間は臭いに慣れるから、その時代に人たちは案外気にしなかったのかもしれないな。ルイ9世なんて、パリで夜中に尿瓶の中身をぶっかけられたことあったんだ。夜中で人なんか通らないだろうと思って投げる人が合図しなかったんだ」

「絶対やだー」


「ここで質問、ルイ9世はその犯人をどうしたでしょうか。1,火あぶり、2.絞首刑、3.ギロチンで首切り、4.島流し、5.奨学金をもらった」

「あの…1つ、全然違うのが混じっているんですけど。うーんとね、3のギロチン!」


「残念! ルイ9世は13世紀の人。ギロチンはフランス革命の頃の18世紀末から使われ始めたんだ。つまり、これだけは絶対にない回答」

「なんか腹立つ。だったら全然、残念じゃないじゃない。それじゃあ、島流し」


「ブー! 正解は5の奨学金をもらったでした」

「なんで、なんで、おしっこかけられて奨学金なの!」


「この犯人、実は寝る間も惜しんで勉強していた苦学生だとわかり感心して、奨学金を与えたんだよ」

「心の広い、すごい王様だねぇ」

「まあ、敬虔な信者で十字軍にはすごい資金を出して、自分も遠征に行って、イスラームの人たちを殺しまくったけどね」

「それ、だめじゃん…」


「価値観が今と違いすぎるからね。その時代のヨーロッパの人からすれば素晴らしい人だったとは言えるんじゃないかな。結局、人間って、その時代の社会や教育、考えなんかに大きく影響を受けながら生きてる生き物なんだよ」



 俺たちはそんな話をしながら毎日を過ごしていた。そう、あの日までは。

これまでに得た歴史の知識を使いながら書いていきたいと考えています。応援お願いします。

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