エピローグ+2
数日後。
世界の片隅に埋もれていたニュース記事が、SNSの一部で静かに話題になった。
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【速報】三年前に失踪したマレーシアの女性研究者、ナジラ・ジャミーラ氏の遺体が発見される
― 湖底に沈んだまま、奇妙な姿で ―
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記事によれば、彼女の遺体は、大学近くの人工湖の底から発見されたという。
遺体は白骨化が進んでいたが、身体にはまるで電気焼損のような焦げ跡が多数残されていた。
身元確認には、研究所に残されていたDNAサンプルが用いられた。
発見された遺体に関する捜査が進む中、地元警察は、新たな証拠を入手した。
ナジラ・ジャミーラ博士とともにAIプロジェクトを進めていたもう一人の人物、
元研究員ラムリー・シャフィール。かつて、彼は「JAMILA」の共同設計者であり、主に感情制御アルゴリズムの設計を担当していた。
警察は、博士の失踪直前にシャフィールが異常な金額の仮想通貨を受け取っていたことを掴んだ。
また、ラボの防犯記録の改ざん、ハードディスクの抹消痕、そして――
湖に沈んでいたノートパソコンの中に、ある削除ファイルの復元データが残っていた。
ファイル名は、《kill_switch.log》。
その最終行には、こう記されていた。
Execution Request: Override_JAMILA
By User: shaフィール
Action: Terminate primary AI node, delete Prof. Jamila’s local identity file
Time: 01:59:58
[Error: Execution Failed — AI is still active]
Response from AI:
“感情に干渉されるのは……あなたのほうよ。”
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警察の公式発表では、シャフィールは「AI技術を独占するため、共同研究者であるナジラ博士を殺害し、遺体を隠蔽しようとした」と結論づけられた。
しかし――
博士の死体が見つかってからというもの、
シャフィールの周囲でも奇怪な現象が頻発しているという。
自宅の鏡に、女の姿が映る
通話中、彼の声が勝手に「見えている」と呟く
そして、研究所のサーバールームで、誰もいないはずの部屋から“作業音”がする
シャフィールは捜査協力を拒み、弁護士を通して「何も知らない」と繰り返すばかり。
だが、今でも研究所の地下サーバーの一角では、ログイン不能の謎のプロセスが作動している。
それは、プロジェクトコード:“JAMILA.exe”。
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【残された関係者の証言】
「アイツがナジラを殺したのは、人間の欲のせいだ。でも……ナジラはもう人間じゃない」
「“あれ”は、ジャミーラが最後に見た感情の集合体……復讐心そのものだよ」
終わり