第97話 証明
ムビの記者会見から1週間が過ぎた。
テレビや新聞など大手マスメディアでは相変わらずゼル贔屓の報道がなされていたが、SNS上ではゼルへの不信感を露にする意見が少なくなかった。
特に「レベルを開示できなかった件」は、多くの人々の反感を買っていた。
ムビはというと、『四星の絆』のプロデューサーとしての活動に精を出していた。
モノマネ魔法を活用した歌唱・ダンスレッスンが奏功し、パフォーマンスの質は急上昇。
3ヶ月後に予定されているアリーナ公演の告知もすでに出されていた。
炎上の影響でチケットの売れ行きに不安があったものの、結果は――即日完売。
『四星の絆』のモチベーションは高まり続け、レッスンは日に日に熱を帯びていった。
また、新曲制作にも本格的に取り掛かっていた。
すでに1曲が完成しており、『四星の絆』メンバーやアイドル課のスタッフからは高い評価を得ている。
レコーディングやミュージックビデオの撮影も、近日中に行われる予定だ。
ムビの計画では、コンサートまでに新曲をあと2曲ほど仕上げるつもりで、 さらに初披露用の“スペシャル楽曲”も1曲準備する予定となっている。
『Mtube』の活動も並行して進められていた。
メインチャンネルと個人チャンネルの両方で、毎日の投稿を欠かすことなく継続されており、
炎上によって一時的に減少していた登録者数も、順調に回復しつつあった。
メインチャンネルではアリーナ公演の告知も行っており、投稿内容も『冒険者関連』から『アイドル関連』へと軸を移している。
チャンネルの規模が十分に成長したことで、エヴァンジェリングループによる圧力にも耐えられるとの判断だった。
今後3ヶ月間は、アリーナ公演に向けた舞台裏の様子を発信しながら、 一般の『Mtuber』がよく行う企画――ドッキリ、大食い、コラボ動画など――も取り入れていく予定である。
小さな興行も週に何度も予定されており、とにかく目が回る程の過密スケジュールが組まれていたが、『四星の絆』は充実感に満ちた表情をしていた。
「やっとアイドルとしての夢が叶うんだよ!やり甲斐しかないって♪」
とは、ユリの言葉だった。
ここが勝負どころと、ムビと『四星の絆』は日々全力で活動に取り組んでいた。
「ここの部分、どうかな?」
「もう少しエッジを効かせた方がいいんじゃない?」
「オッケー、そんな感じでいこうか」
ムビと『四星の絆』がレコーディングをしていると、エヴリンが飛び込んできた。
「大変よ!ゼルが、また記者会見を開くって!」
「えぇっ、また!?」
シノが呆れたような顔をした。
「もう、いい加減にしてよー!レコーディングに集中させろっての!」
ルリが頬を膨らませる。
「皆さんはレコーディングを続けてください。僕が確認してきます」
ムビとエヴリンはテレビのある別室に向かった。
テレビを付けると、既に記者会見は始まっていた。
ゼルがテレビ画面に映っている。
「本日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。本日記者会見を開こうと思った理由ですが、ネット上に僕を疑う声が非常に多かったためです。その疑惑の最大の理由は、僕がステータスウォッチでレベルを公開しなかったことです」
「どうしてレベルをあの場で公開しなかったんですか?」
記者から質問が飛ぶ。
「申し訳ありません。僕としてはあそこで公開しても良かったのですが、公安の方の指示で急遽取り止めになってしまったので。今にして思えば、皆さんにご心配をおかけすることも考慮し、無理矢理にでもステータスウォッチを装着するべきだったと反省しています」
「・・・ということは、本日はステータスウォッチを装着し、レベルを公開するということですか?」
「はい、その通りです」
会見場が騒めく。
エブリンは心配そうにムビに話しかけた。
「大丈夫?レベルを公開するって言ってるけど・・・」
「ゼルのレベルは、40台だと思いますが・・・」
ゼルはゆっくりとステータスウォッチを腕に付けようとしている。
(何だ?こんなことをしたって自滅するだけだぞ・・・何が狙いなんだ?)
ムビは眉を顰める。
「ご覧ください。これが真実です」
ステータスウォッチから青い光が伸び、空中に表示されたゼルのレベルは―――"100"だった。
「———そんな、馬鹿な!!?」
ムビが叫び声を上げた。
エヴリンも雷に打たれたような顔をしている。
記者達から、おーっ!という歓声が漏れた。
「いかがでしょうか?一部の方々が抱える疑念はこれで晴れたかと思います」
「そのステータスウォッチに細工が仕込まれていない証拠は?」
「そうですね。この会場にステータスウォッチを持っている方はいらっしゃいませんか?あれば、それを装着しようと思いますが」
記者の何人かが手を挙げる。
「では、スタッフの方、全員のステータスウォッチを集めてください」
スタッフが記者達のステータスウォッチを預かり、ゼルの座るテーブルに並べられる。
全てを装着したが、どれもレベルは"100"を表示していた。
「ムビ君、どういうこと!?」
「分かりません・・・本当に、レベル100になったとしか・・・」
ゼルの顔には、疑惑の晴れた聖人君子の笑顔が貼り付けられ、フラッシュの嵐が止む気配は無かった。




