第94話 ステータスウォッチの波紋
ムビがエントランスで待っていると、『四星の絆』が4人一緒にやって来た。
「お疲れ様です。皆さん、調査はどうでした?」
「ムビ君・・・!もう最悪だったよー!」
ユリが疲れ果てたように言った。
「狭い部屋に連れていかれてさー。ギルド職員と、公安のおじさん2人がいたんだけど。聞き取り調査っていうか、尋問っていう感じ?」
「私も、そんな感じでした。怒鳴られたり机を強く叩かれたり、凄く威圧的で・・・」
「そうそう!しかも公安のおっさんセクハラしてきてさ!ほんと最悪だった!」
「このまま逮捕してたっぷり取り調べるとか言ってましたわね。何故か早く終わったみたいで、悔しそうでしたが」
(皆、やっぱりひどい目にあってたんだな・・・)
「ムビくんの方はどうだった?」
ムビは、先程の大会議室での出来事を話した。
「なにそれー!私達以上に最悪じゃん!」
「でも、見事に切り返しましたね・・・。流石ムビさんです」
「よかったー・・・。私だったら、何も言えなくて世間的に死んでたよ・・・」
「ムビさんのおかげで、私達の尋問も早く終わったんですね。ありがとうございます」
公安はどうやら、あわよくば『四星の絆』をこの場で逮捕するつもりだったらしい。
命を狙うだけでなく、社会的な抹殺をも狙ってくる。
(『両面宿儺』・・・。ほんとに油断できないな・・・)
「あーあ。疲れたから今日はパーッといきたいな」
「そうですね。でも、周りの視線が気になりますね・・・」
「じゃあムビ君ちに集合だね♪」
「そうですわね、明日は出社ですからリフレッシュが必要ですね」
ムビは真剣に考え事をしていたので、話を聞いてなかった。
「・・・ん?えっと・・・僕の家ですか!?」
数秒遅れてムビが反応する。
「そうだよ。なんかムビ君ちが落ち着くんだよねー」
「まぁ、ムビさんがお邪魔でなければですが・・・」
「こないだは『白銀の獅子』の邪魔が入ったからねー」
「料理は私達がするから大丈夫ですわ」
まぁ、確かに、今世間の注目を集めている状態じゃ外食は気が引けるよな。
「分かりました。うち大丈夫ですよ。でも、僕もお料理は手伝いますね」
「おぉー!それはありがたい♪」
『四星の絆』は近所のお店で買い物をして、ムビ宅へ向かった。
料理は5人全員で一緒に作った。
皆でワイワイしながら作る料理はとても楽しく、ご飯もいつも以上に美味しく感じた。
お酒も進み、ムビの狭い居間は大盛り上がりだった。
気付けば22時を回っていた。
「皆さん、時間大丈夫ですか?そろそろ帰った方が・・・」
「なぁにぃ~?私達に帰ってほしいっての~?」
「こ~んなに可愛い子達に囲まれてるのに、甲斐性の無い男だわ~」
ユリとルリは完全にアルコールが回っている。
「ふわぁ~・・・。でも、確かに眠くなってきましたね・・・」
「それなら、今日はお泊りしましょうか」
(えっ・・・?)
サヨの一言に、皆乗っかる。
「おぉーいいねぇー、賛成ー♪」
「それじゃあちょっとシャワー借りるね♪」
ルリが風呂場に向かって走り出す。
「ちょ・・・ちょちょちょちょ・・・」
「ムビ君、お布団ってあるかな?」
「明日はとりあえず6時にアラームかけますね」
「お風呂はどういう順番で入りましょうか」
ムビがあたふたしている間に、どんどん話が進んでいく。
結局、『四星の絆』は全員、ムビの家に泊まった。
居間に布団を敷き、アイドル4人が横になった。
「ムビ君もこっちで寝たらー?」
と誘われたが、ムビは全力で拒否して自分のベッドで眠った。
その頃、ゼルはSNSを見て怒り狂っていた。
「くそっ!どいつもこいつも!」
夕方、ムビの会見の映像が流れた。
『両面宿儺』の圧力のおかげか、かなりゼルに偏った報道がなされたが、それでもムビに好印象を持つ者は少なくなかった。
ゼルがデスストーカーと組んでいた、という類の話はうまくカットされていたが、最後のステータスウォッチの場面は報道され、それを見た視聴者からゼルに批判の声が上がっていた。
《レベルを開示できないって、つまりそういうことでしょ》
《ゼル、信じてたのに裏切られた》
《白銀の獅子、だいぶヤバくない?》
《ステータス非公開とか信用できんわ》
SNSは炎上気味。
“#レベルを開示しろ”が、トレンドの上位に君臨していた。
くそっ・・・!
やっぱり最後の場面がまずかった・・・!
公式アカウントにも、“開示しろ”というメッセージが押し寄せてやがる!
ゼルは黒い名刺を取り出し、ノームに電話を掛けた。
「ほほほ。これはこれはゼルさん」
「なぁノーム・・・。どうすればいいと思う?」
「うちとしては、かなり圧力をかけてサポートしているんですがねぇ」
「分かってる・・・。あのムビのクソ野郎が・・・。あんなに口が立つとは思わなかった・・・。レベルを開示しろって声がどんどん増えてるんだ」
「私も会見を見ましたが、かなり押されてましたね。ふむ・・・。いっそ、レベルを開示されてはどうですか?」
ノームの提案に、ゼルは驚く。
「な・・・何を言ってるんだ!?俺はレベル40台だぞ??とてもレベル100には・・・」
「ほほほ。ご安心ください。私に策があります。もっとも、お代の方も、かなり弾みますが・・・」
「・・・なんとかなるのか!?金ならいくらでも出す、聞かせてくれ!」
「ほほほ・・・では・・・」
ノームの話を聞いたゼルの顔に、みるみる笑顔が広がっていく。
「可能なのか・・・そんなことが?」
「我々を誰だと思っているんですか?」
星空は、静かに、怪しい雲に覆われていった。




