第92話 灰色の勝者
映像の中で、『白銀の獅子』は迷いなく宝物庫の方へと消えていった。
「ご覧ください。彼らが向かった先は、宝物庫です。画面右端の時刻は深夜二時。『白銀の獅子』がルミノールを出たのは前日の昼。移動距離を考えると、幽影鉱道に着いたのはおよそ二十二時頃でしょう。つまり、彼らは約四時間で最深部まで到達したことになります」
会場が静まり返る。
「いくらAランクのパーティとはいえ、これは迷わず最短ルートを急行しない限り、到達できない速度です」
「ち…違う!俺たちはデスストーカーを討伐するために来たんだ!たまたま最深部へのルートを選んだだけだ!」
「へぇ。それにしては、やけに一直線だったね?」
「当たり前だろ!デスストーカーを追うために、なりふり構わず急いだんだよ!」
ムビは動画を再び早送りする。
誰も映らない時間が過ぎ、やがて画面には再び『白銀の獅子』の姿が映る。
「次に姿を見せたのは深夜四時。つまり、彼らはボス部屋と宝物庫に、合計で二時間も滞在していたことになります。デスストーカーを急いで討伐したいはずなのに、なぜ敵のいない場所で、これほど長く足を止めていたのでしょうか?」
「休憩していたんだ!最深部まで急いで来たから…!」
「……じゃあ、これは何?」
ムビが動画を再生すると、ゴリの声が響いた。
「うひょー♪宝物庫の宝、全部俺たちのもん!これで俺も大金持ちだぜー♪」
記者席がざわつく。ゼルはゴリを睨みつけ、顔面がみるみる紅潮する。
(……このバカがっ)
ゴリは青ざめたまま固まっていた。
「お分かりいただけましたか?『白銀の獅子』の目的は、救助ではありません。最初から宝物庫を狙って幽影鉱道に入った。そして、その四時間後、彼らはミラのレイドパーティと入口付近で合流しました。つまり、僕たちの救出などそっちのけで、真っ直ぐ出口へ向かったということです」
「違う!横取りなんてしてない!俺たちは宝の存在なんて知らなかった!」
「ずいぶん流暢な言い訳だね。僕が救援目的で上げた動画を見て、宝物庫の存在を知ってたんじゃないの?」
「違う!その動画は見てない!ほんとに知らなかったんだ!」
ムビはゼルの元に歩み寄り、冷ややかな眼差しで見下ろす。
「それなら教えて。どうして“デスストーカーが宝物庫の宝を持っていた”なんて嘘をついたの?“休憩していた”って言ったのも、どうして?連続する嘘の中に、本当が紛れている可能性って、どれくらいあると思う?」
ゼルは言葉に詰まる。
苦しい――あまりにも、苦しい。
「ま、待ちたまえムビ君。少しは、信じてあげても…」
「ギルド長。あなたもですよ」
ゼルを庇ったはずのギルド長に、ムビの視線が突き刺さる。
ギルド長は言葉を飲み込むように沈黙する。
「僕たちの報酬、ピンハネしましたよね?」
「な、なな、何を言っているんだね!?」
「ファントムクリスタル1キロの単価は1億円。それが百キロ以上。他にも金喰いスライムの希少ドロップ、レア鉱石を加味すれば、報酬額は200億円を下回るはずがありません。それなのに、僕たちに支払われたのは、たったの30億」
記者たちの騒ぎが再び高まる。
公安の男が舌打ちした。
「な、な…何の事かね?ほ、報酬のことは部下に任せて…」
「ギルドの年間取引額に匹敵する規模の報酬です。トップであるあなたが、知らなかったとは言わせませんよ。どうしてこの額になったのか、この場でご説明いただけますか?」
ギルド長は汗にまみれて沈黙を続けた。
そこへ、弁護士が割って入る。
「宝物庫の宝は、保存袋に入れられていたわけでも、結界で囲まれていたわけでもない。無主物として放置されていたのなら、略奪には当たりません。また報酬額に関しても、素材の純度や状態に左右されるため、この場で正当性を断定するのは困難です」
ムビは、淡々と答える。
「仰る通りですね。法的には罪に問えないかもしれない。ですが――問題なのは、世間が信じていた“清廉潔白な『白銀の獅子』”という像が、事実と大きく食い違っていることです。ゼルは、自身の野心のために平然と嘘をつく、虚栄心の塊のような人間です。先日の記者会見での発言も、すべて嘘だった可能性が高いことを、ぜひご認識いただければと思います」
ゼルは、血が沸騰するような怒りを感じながらも、何も言い返せない。
記者がムビに質問する。
「では、ムビさんが“性犯罪者”だという報道も、嘘だったのでしょうか?」
「はい。僕はストーカー行為もしていませんし、リゼに迫った事実もありません」
「なぜ、そのようなレッテルを貼られたとお考えですか?煙のないところに火は立たないとも言いますが…」
「なぜ貼られたか。それは、ある大きな事件を隠すためです。僕たちを社会的に抹殺するために、印象操作を仕掛けてきた。それにはギルドも関与している可能性があります。ピンハネや嫌がらせも、それを隠蔽するための手段です」
記者が声をひそめて尋ねる。
「……大きな事件とは?」
ムビの言葉は、静かに、しかし確かに場を揺るがす。
「――幽影鉱道にデスストーカーを呼んだのは、『白銀の獅子』です」




