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第89話 聞き取り調査という名のハメ殺し

翌日、『四星の絆』は聞き取り調査のためギルドに向かった。

ギルドに着いてすぐに、異変に気付いた。


「何・・・あれ?」


ギルドの入り口に人集りが出来ている。

数十人のマスコミが詰めかけていた。


「あっ!『四星の絆』の皆さんですね!?」


マスコミが一斉に『四星の絆』に群がる。

フラッシュが焚かれ、報道用カメラを向けられる。


「どうしてデスストーカーを討伐したと嘘をついたんですか??」

「亡くなられた冒険者の遺族に対して何か言葉はありませんか??」

「『白銀の獅子』に謝罪の言葉はありませんか?」

「どうして性犯罪者をパーティに加入したんですか??」


数十人に囲まれ、全然前に進めない。


「ああ、もうっ・・・どいてくださいっ!!」


マスコミ達を振り切り、『四星の絆』はなんとかギルド館内に逃げ込んだ。


ギルド館内では、エントランスにギルド職員が5人、『四星の絆』を待っていた。


「『四星の絆』の皆さんですね。お待ちしておりました。本日の調査は、5名別々の部屋で受けていただきます」

「5人別々・・・?」

「今回の一件は、世間を大いに騒がせています。我々としても、早期に解決したい思いです。報酬受け渡しのときみたいな我儘は我慢していただいて、ご理解とご協力をお願いします」


相変わらず棘のある言い方だが、大人しく従うことにした。

5人はそれぞれ、別の部屋に案内される。

ムビが案内されたのは、ギルドで一番大きな会議室だ。


・・・やけに広い会議室だな?

他の部屋が予約でいっぱいだったのかな・・・?


ムビが扉を開けると、部屋には10人程の男性が席に座っていた。

ギルド長やギルド職員数名、ムビが知らない男も数名いた。

そしてなんとその中に・・・ゼルとゴリがいた。


―――なんであいつらがここにいるんだ!?


ゼルとゴリは、意地の悪い笑みを浮かべている。


「さてムビ君、かけてくれたまえ」


ギルド長がムビに着席を促した。

ムビは席に座った。


「ギルド長、なぜ『白銀の獅子』がここにいるんですか?」

「いやなに、双方の意見に食い違いがあるのでな。お互い同席した方が、事実確認しやすいと思ってな」


ムビは探知魔法を発動した。

嘘の反応が示された。


・・・だよね。

本当に事実確認が目的なら、『四星の絆』も『白銀の獅子』も全員同席させた方が良い。

それをわざわざ別室に分けたというのは、別の意図があるからに違いない。


「ギルド長。外に多くのマスコミがいるようですが」


ギルド職員の一人がギルド長に話しかけた。


「うむ。彼らもネタを探しにやってきたのだろう。外でずっと立たせておくのもなんだ。ここに呼びなさい」


ムビは自分の耳を疑った。


「ちょ・・・ちょっと待ってください!何を言っているんですか!?」

「何だね、何か不都合でもあるのかね?」

「不都合って・・・。調査結果を公表するならともかく、調査の過程をマスコミに公表するんですか!?」

「今回の件は、世間の注目度が高い。迅速な対応と透明性を図ろうと思ってな」

「僕は、ルナプロダクションから発信を控えるよう念押しされているんです!勝手なことをされては困ります!」

「まいったなぁ・・・。公安の皆さん、どう思います?」


公安・・・。

国の治安維持を担う組織だ。

一般市民では考えられない程のあらゆる権利が保障されており、捜査やプライベートで不祥事を起こしても一切責任が問われない。

上級国民とも呼ばれる。


「くく・・・いいんじゃないの?アタシらは事実が分かればそれでいいんでねぇ・・・」


3人組と思われる、公安の1人が口を開いた。


「公安の皆さんに、そこまでの権限があるんですか?」


ムビの一言に、公安の男は肩を震わせて笑った。


「くっくっく・・・。いいかい、坊や、よく覚えておくんだ。逆だよ。お前に、俺らに意見する権限が無ぇんだよ。下級国民は、黙って尻尾振ってワンワン吠えてりゃいいんだ。二度言わせたら、公務執行妨害で捕まえちゃうぞ?」


ムビは黙った。

公安・・・噂通り・・・いや、噂以上にヤバイ奴らみたいだ。


「オホン。公安の皆様の許可も下りたようだし・・・。記者の皆さんを呼びたまえ」

「分かりました」


ギルド職員は、部屋の外へ出て行った。

ムビは改めて、部屋にいる男達を一瞥した。


「公安の皆さんがここにいるということは、事件性を疑っているということですか?」

「くくく・・・おめぇが知る必要はねぇよ」


公安の男はムビを相手にしない。


「そちらの眼鏡をかけた方はどなたですか?」

「ああ、彼は弁護士だよ。俺達のな」


ゼルが初めて口を開いた。


「弁護士?なんのために呼んだの?」

「お前に教える必要があるのか?性犯罪者?」


ゼルがニヤニヤした。


・・・なるほど、これ以上話すことは無さそうだ。


ムビは改めて部屋を見渡した。


自分一人、壁際に単独で座らされている。

向かいには敵意に満ちた10人。

そしてその背後には、椅子がずらりと並べられていた。


(まるで・・・俺が主役の記者会見みたいだ)


準備時間もなく、状況説明もなく。

圧倒的に不利な構図。

――初めから、仕組まれていたのだ。


ゼルは内心ほくそ笑んでいた。


『両面宿儺』に金を払った途端、ギルドも、メディアも、公安も、面白いようにゼルの思い通りに動いてくれる。

これが世の中を動かす感覚というものか。


まぁ、正当な対価は払ったし当然だよな。

ここにいる奴らは全員、『白銀の獅子』の味方だ。

ムビ一人を除いて。


あいつは、俺一人にすら碌に意見できなかった腰抜けだ。

ならば、この状況で震えずにいられるはずがない。

マスコミの目、公安の圧、ギルドの偏見。

その全てが、ムビを沈黙させる檻になる。


醜態を晒させる――それが狙いだ。


この場で黙りこくれば、それは罪を認めたも同然。

報道はこう綴るだろう。

“デスストーカーの討伐者はゼル”、“ムビは犯罪者だった”。

世間が望むのは、簡潔でわかりやすい構図。

それを与えてやるだけ。


くくく・・・お前も終わりだなぁ、ムビ・・・。


部屋の外から、大人数の足音がする。

扉が開かれ、数十人の記者が一斉に部屋に雪崩れ込んできた。

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2025年9月10日、注目度 - 連載中で2位にランクインされました!
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