第88話 冷たい視線
受付嬢のあまりに理不尽な対応に、『四星の絆』は全員カッとなった。
「ふ、ふざけ———!素人目でも分かるくらい、おかしなことしてるのはそっちでしょ!?」
ユリが大声を出すと、周囲からクスクスと笑い声が聞こえた。
「おいおい、三流冒険者パーティが報酬に文句言ってるぜ」
「ああ・・・みっともねぇったらありゃしねぇ」
すると、ベテランCランクパーティが『四星の絆』に近付いて来た。
このパーティは元ゴロツキ達で構成されていて、パワハラ、セクハラ、暴力沙汰上等で、ルミノールの冒険者の中でも特に評判が悪い。
「おいおい、Cランクの先輩として言わせてもらうがよ。ギルドの査定に文句つけるなんて、おめぇら表彰もんのみっともなさだぜ?顔が良いから我儘が通るとでも思ったか?俺らも受付に用があるからよ、さっさとそこをどけ!」
『四星の絆』はベテランCランクパーティに押しのけられた。
その際、胸を触られる。
「ちょっ・・・ちょっと・・・」
「へへへ・・・良い体してんじゃねぇか♪」
ベテランCランクパーティに釣られ、ギルド内にいた冒険者達が次々に受付に集まってくる。
「そういえば、うちも受付に用があるんだった!」
「俺も!」
「俺もだ!」
『四星の絆』は次々に押しのけられ、ドサクサに紛れ何度も体を触られる。
「うへへ・・・」
「流石ヤリマン・・・発育だけは立派じゃねぇか・・・♪」
ニヤつく男達に揉みくちゃにされ、『四星の絆』はあっという間に集団の外にはじき出された。
受付にはあっという間に長蛇の列が出来上がっていた。
「もう・・・何なのよ!」
ギルドの受付終了時間まであまり時間がない。
この列は、それまで絶対に維持されるだろう。
「一旦引くしかないみたいですわね・・・」
『四星の絆』が外に出ると、後ろから冒険者達の歓声と、ハイタッチする音が聞こえてきた。
「私達、何も悪いことしてないのに・・・」
ユリが悔しそうに呟いた。
『四星の絆』はそのまま『箒星』に向かうことにした。
道中も、『四星の絆』に対する冷たい視線を感じた。
———昨日のゼルの会見、相当世間に広まっているみたいだ・・・。
朝と昼のワイドショーでも、各テレビ局が大々的にゼルの記者会見を報じていた。
どの番組も『白銀の獅子』を真の英雄、聖人君子と持て囃し、『四星の絆』を詐欺師、犯罪者として扱き下ろしていた。
SNSでも、記者会見の一場面が切り抜かれ、ずっとトレンド1位を継続している。
『四星の絆』のSNSアカウントには、大量のメッセージが秒単位で届くため、最早通知をオフにしている。
『Mtube』の登録者数の伸びも止まり、僅かに減少し始めた。
何とかしないと・・・。
このままじゃ、どんどん悪いイメージが定着してしまう・・・。
『四星の絆』は『箒星』の店内に入っても、周囲からの冷たい視線に晒され続けた。
「なんか・・・落ち着かないね」
「話ができる状態じゃないかも・・・」
「お店を変えましょうか。ちょっと探してみます」
ムビは近くの高級料亭に電話をし、一室を貸し切った。
「それでは、どうぞごゆっくりお寛ぎください」
座敷に座る『四星の絆』に対し、女将がお辞儀をして退出した。
「ふぅ・・・ようやく落ち落ち着いたね」
「なんか、悪い大人が料亭に行く気持ちが分かったわ・・・」
「ムビさん、これからどうしましょう?」
「ひとまず、明日ギルドの聞き取り調査が行われるので、そこで誤解を解きましょう。ルナプロから今は発信を止められていますが、いずれは声明発表、もしくは記者会見が必要でしょうね」
「・・・何でこんなことになっちゃったんだろう・・・」
ルリが頭を抱える。
「大丈夫です、俺達は何も悪いことはしていません。普通に話をすれば、きっと誤解は解けるでしょう」
「ていうか、ギルドもだよ!何あれ、完全にピンハネ屋じゃない!」
ルリが悔しそうにテーブルを台パンした。
「口座を確認しましたが、『四星の絆』の共有口座に20億、5人の個人口座に2億円振り込まれていたみたいですね」
「いや、2億もめちゃくちゃ凄い額だよ?凄い額だけど・・・あと10倍くらい貰えてたと思うと、ほんと許せないわ・・・」
「今後は、素材やアイテムはギルドに提出しない方が良いですわね」
「当然だよ!誰があいつらに売ってやるもんか!」
ルリがまた力強く台パンをした。
そのとき、襖がスッと開いた。
「失礼します。お料理をお持ちしました」
女将が料理を台に並べ、部屋を出ていった。
「それじゃあ、乾杯しましょうか。リーダーから乾杯の挨拶を」
シノが酒を持って立ち上がる。
「えー、皆さん、『幽影鉱道』での大活躍、本当にお疲れ様でした。なんかよくわからないことになっちゃって水を差されてしまいましたが・・・。でも、私達はこんな困難、今まで何度も乗り越えてきました!炎上なんて、デスストーカーに比べたら100倍マシです!」
『四星の絆』から笑いが起こった。
「何なら、この炎上を利用して、逆に知名度を上げてやりましょう!目指せドーム公演!目指せAランク冒険者!かんぱ〜い!」
「かんぱ〜い!」
シノの挨拶で、場の空気が一気に明るくなった。
流石リーダーだ。
「うまーーーい!!何これ、うまっ!?」
怒り狂っていたルリも、料理を食べた瞬間にご機嫌になった。
「高級料亭ですからね。味は間違いないですよ」
「流石ムビさん、良い店を選びましたね」
その後、徐々に緊迫した空気は解れ、『四星の絆』はどんちゃん騒ぎを始めた。
いくら炎上しているとはいえ、あれだけの死線を潜り抜けたのだ。
これぐらい騒いだって良いだろう。
しかし、普通のアイドルならば、炎上すればメンタルを病み、食事も喉を通らない筈だ。
『幽影鉱道』の冒険を経て、『四星の絆』は心身共に強くなった。
そして、ムビ自身も———。
この先どんな困難に直面しても、このメンバーならきっと乗り越えていける筈だ。




