第87話 不正行為
会見場が再びザワつく。
「不正行為とは・・・具体的にはどんな?」
「はい。決闘には、いくつか禁止事項があります。即死魔法の使用や、著しく決闘の趣向を損なうチートスキルの使用です。彼は、誰にも内緒でチートスキルを使用していました」
「どのようなスキルなのですか?」
「他人のステータスを奪い、自分や味方に移し替えるスキルです。僕達もステータスを奪われ、手も足も出ずに負けました」
「あまりの大番狂わせでニュースになりましたが、ルールに抵触する悪質なスキルが使用されていたんですね」
「このスキルは、はっきり言って対人戦においては最強です。このスキルを使用されたら、どんなパーティも勝てないと思います。これは、明確に禁止事項に当てはまると思います。僕達としては、大敗北を喫し、連勝記録も途絶えたことで、スポンサー契約の打ち切りなど、少なからず実害を受けています。決闘の運営には、ぜひとも何らかの対応をしていただきたいです」
そのとき、ムビのスマホが振動した。
スマホを開くと、『四星の絆』のSNSアカウントに大量の通知が届いていた。
この嘘つきが!
ゼルさんの信頼を裏切りやがって!
キモイんだよ性犯罪者!
死ね、ストーカー野郎!
お前らに人の心は無いのか!?
不正行為野郎が!
二度と決闘に出るな!
まずい・・・!
炎上している・・・!
ムビが焦っていると、ギルドからメッセージが届いた。
ムビはメッセージボックスを開く。
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白銀の獅子への聞き取り調査が終わりました。
どうやら、先日皆さんから受けた説明とは大きな相違があるようです。
ギルドとしては、四星の絆に、重大な虚偽申告の疑いがあると見ています。
明後日13時から、ギルド会議室にて聞き取り調査のご協力をお願いします。
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おいおい、何がどうなっている・・・・!?
更に、ムビのスマホに着信が届いた。
ルナプロダクションからだ。
「もしもし、ムビ君!?今、テレビ見てる!?」
声の主はエヴリンだった。
「はい、今記者会見を見ています!」
「会社の電話が鳴りやまないの!『四星の絆』にスポンサードを約束してくれていた企業も、次々に辞退を申し出てて・・・!会見の内容は、本当なの・・・!?」
「そんなことありません!ゼルが言っていることは、全てデタラメです!」
「そう・・・分かったわ。今は、ムビ君を信じます。とにかく、今は何も発信しちゃダメよ!?また連絡するわ!」
電話を切ると、ムビは『四星の絆』のグループチャットを開いた。
既に、他の四人がやり取りをしている。
なにこれ、どうなってるの!?
ゼルさんの言ってること、嘘ばっかりじゃん!
炎上しちゃってるよ・・・どうしよう
ムビはメッセージを書いた。
エヴリンさんと話しました。
今は、SNSの発信はNGみたいです。
とにかく、明日1回集まりましょう。
翌朝、ムビはルミノールの街へ向かう馬車に乗った。
一旦帰宅し、『四星の絆』が待つ時計台に集合した。
「おームビ君!久しぶりー♪」
ユリが手を振っている。
既に全員集合しているようだ。
「皆さん、数日ぶりですね。お元気そうでなによりです」
「はい、検査結果も特に異常はなかったです」
「もうバッチリお酒も飲めるよ♪」
「でも、色々と問題が発生しているみたいですね」
サヨが暗いトーンで話す。
「まずは一旦、報酬を受け取りにギルドに向かいましょうか」
『四星の絆』がギルド館内に入ると、周囲の冒険者から刺すような冷たい目線が向けられた。
どこからともなく、ヒソヒソと声が聞こえる。
「来たぞ、ヤリマンパーティが」
「この街の優秀な冒険者達を全滅させたパーティだ」
「よくギルドに顔を出せたな」
「次は誰をストーカーするのかねぇ?」
ムビがこれまで受けていた侮蔑や嘲笑とはまた違う・・・明確な敵意を含んだ視線だ。
少しのきっかけがあれば、殴りかかりそうな雰囲気だ。
冷たい視線を浴びながら、『四星の絆』は受付まで辿り着く。
「ようこそ。お待ちしておりました、『四星の絆』の皆さん」
受付嬢は、能面の様に冷たい表情をしている。
「報酬の件で伺いました」
「はい。時間がかかって申し訳ありません。こちら、今回の報酬になります」
受付嬢は、テーブルの上に明細書を置く。
ムビは、明細書を見て驚いた。
「30億・・・!?ちょっと待ってください、少な過ぎませんか!?」
ムビは困惑した表情で受付嬢に尋ねた。
ムビの見積もりでは、200億円は軽く超える筈だ。
「なんのことでしょう?報酬額は、厳正な審査を経て決定しています。審査結果に問題はありません」
シノが思わずテーブルに身を乗り出す。
「そんな筈ありません!キロ単価1億円のファントムクリスタルを100キロと、市場価格2億円の金喰いスライムのドロップアイテムを25個、数百キロのレア鉱石に、宝物庫の宝、他にも数多の魔物の素材に討伐部位ですよ!?」
「繰り返しますが、審査結果に問題はありません」
受付嬢は聞く耳を持たない。
「皆さん・・・失礼ながら、数日前までDランクだった、有象無象の冒険者ですよね?今まで高額買取の経験はおありですか?皆さんがAランクパーティで、普段から高額買取を経験しているならクレームにも意味を持つと思うのですが、今回が初めてでしょう?これが当ギルドの適正価格です。あなた方が素人目線でいくらを見積もったのか分かりかねますが、その見積が誤っていると解釈いただければ幸いです」




