第83話 再会
「今日は楽しかったわ!ありがとね♪」
退店し、時計台の下でリゼが放った第一声だった。
リゼはご機嫌のようだった。
「なぁ、リゼ。もしもゼルがまた『四星の絆』を狙うことがあったら、教えてくれないか?」
ゼルとリゼは付き合っている。
期待できないと思うが、ダメ元でムビは尋ねてみた。
が、返事はあっさり返ってきた。
「いいわよ。というか、私もゼルに『四星の絆』を狙うのを止めるよう言ってみるわ。あいつが聞くか分からないけどね・・・」
これも嘘ではないようだ。
ムビは昨日からリゼがやたらと協力的なのが不思議だった。
嫌いな相手でも、親切をすると良い事があるのかもしれない。
「それじゃあ」
軽く手を振り、ムビは去っていった。
リゼはムビの後ろ姿をずっと見ていた。
ふふっ、少しは信頼回復してもらえたかしら?
久しぶりに元気出たなー。
近いうちまた誘おうかしら。
ああいうのは多分押しに弱いだろうし。
「もし・・・『白銀の獅子』のリゼさんではないですか?」
裕福そうな中年男性がリゼに声をかけてきた。
「そうだけど?」
「おおっ!これはお会いできて光栄です!先程、店から出て行かれるのを見かけました。私、店のオーナーでございます。お土産をご用意しましたので、よろしければお持ち帰りください。今後ともぜひ御屓に」
紙袋にはワインボトルが入っていた。
「あら、どうもありがとう♪」
リゼは紙袋を受け取り、上機嫌で帰宅した。
リゼは家に帰り、ワインボトルを開けた。
ふふふ、上等そうなワインじゃない。
リゼはグラスに注ぎ、ワインを飲んだ。
さーて、そろそろ寝ようかしら・・・あれ?
リゼはベットの上に倒れた。
体が動かない。
これは・・・麻痺毒!?
「ふふふふ」
ベッドの下から男の声が聞こえ、リゼは恐怖する。
――ちょっ・・・誰!!?
ベットの下から這い出て来たのは・・・『蝦蟇蜘蛛』の頭領、ゲロッグだった。
「久しぶりじゃのう、リゼたん♡」
「ちょっ・・・何であんたがここに!!?」
「ふふふ、ダメじゃないか、人から貰ったものを簡単に口に入れては」
あのワイン・・・もしかして、こいつの仕業!?
「あの店のオーナーはワシの仲間じゃ。痺れ薬入りのワインは美味かったか?」
「あんた・・・よく私の前に現れたわね!殺してやる!」
リゼは体を起こそうとするが、痺れ薬の影響で全く動けない。
―――くそっ・・・最悪!
「無駄無駄。2〜3日はまともに動けんぞ?」
ゲロッグは勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「ワシはあの後、『Dtube』でそれなりの名声を得てのう。『両面宿儺』からスカウトされたんじゃ♪全部お主のおかげじゃ、感謝するぞぃ♪」
ゲロッグは動けないリゼの頭を撫でた。
「触るなっ・・・!殺すぞ!」
「おっと、お怒りのようだな。ところで、お主の人気が変態金持ち共の間で爆上がり中でな。お主を売るため攫いに来たんじゃ♡」
「はぁ・・・!?ふざけたこと言ってんじゃ・・・!!」
「どれどれ。攫う前に、久しぶりに味見させて貰おうかのう♪」
ゲロッグはリゼに馬乗りに跨り、胸元を開けさせた。
「ふうむ?呪いが解けておるのう?・・・どうやって解いたんじゃ?」
「はっ!あんたがヘボかったんじゃないの?」
「ふむ、まぁ良い。また呪いを掛けてやるからな?今日は朝まで楽しもうかのう??」
「やっ、やめっ・・・!」
深夜の密室。
一晩中、ベッドの軋む音が止むことはなかった。
―――前日。
ゼルは『両面宿儺』のノームと電話していた。
「おい、どういうことだ!?『四星の絆』は生きてるじゃないか!?」
ゼルが怒鳴り散らす。
「いやいや。こちらとしても想定外ですよ。まさか、デスストーカーが倒されてしまうなんてねぇ」
「お前らには高い金を払っているんだぞ!?失敗しましたで済むか!!」
ゼルが机をドン!と強く叩く。
「しかも、『白銀の獅子』が依頼した噂が広まってるぞ!SNSでも炎上中だ!どういう情報管理をしているんだ!?」
「・・・何を言っているんです?襲う前に、『白銀の獅子』が依頼したことをバラすよう、注文を付けたのはあなたではないですか?」
「それは、あいつらが死ぬ前提の話だろうが!生きてる上に、情報だけバラすなんてどういう神経してんだ!!」
「まぁまぁ落ち着いて。私らは、やるべきことをやりました。失敗したのは残念ですが、しょうがない。お金は、前金だけでよろしいです」
「・・・ふざけるなよ!?金だけ持ち逃げする気か!?今すぐこの状況をなんとかしろ!!」
「それには、別途依頼料が必要です。それなりに広まっているようですからね、お値段は今回の依頼の比ではないですよ?」
ゼルは自分の血管が切れるのではないかと思った。
「そんな金、あるわけ・・・」
「そうですか。それでは、話はこれまでです。またのご依頼をお待ちしております」
くそっ・・・!
なんとかならないのか・・・!?
そのとき、ゼルの脳裏に閃きが走った。
「・・・待て。金ならある。すぐに、この状況をなんとかしろ」
「ほう・・・。かなりお高いですよ?」
「構わない。いくらでも出す」
そうだった。
俺には、『四星の絆』から横取りした金があるじゃないか。
鑑定結果が出て、口座に振り込まれるのは明日だが、恐らく数百億は下るまい。
「俺達を完全に潔白にしろ。そして、『四星の絆』の評判を地に落とすんだ。いいな?」
「ほほほ。お安い御用で」




