第82話 リゼとのデート
ムビは強引にリゼに連れ出され、ルミノールの時計台の頂上にある高級店に入店した。
ルミノールの夜景が一望できる、セレブご用達のデートスポットである。
入店するだけでチャージ料金2000円が発生した。
「かんぱ〜い!」
1杯5000円のワインでリゼは乾杯しようとしたが、ムビは応じなかった。
リゼは手を伸ばして、ムビのワイングラスにチン、と乾杯する。
「・・・どういうつもり?」
「だから言ってるでしょ、お礼よ。ほら、今日は楽しんでって♪」
ムビは今日習得した嘘探知魔法を発動する。
嘘ではないらしい。
「リゼと一緒で、楽しめるわけないじゃん」
リゼの笑顔が引き攣る。
「何よ〜。私が生意気って言いたいわけ?あんただって相当よ。私、男に奢るなんて初めてなんだからね?」
「そりゃ奢れるでしょ。俺達の宝横取りしてるんだから」
「あぁ〜、そのこと?」
リゼはワインを見つめながらグラスを回す。
「物凄い額だったわよ。1人100億円支給されたかしら」
「そうですよね。お金持ちのリゼさんになら少しくらい甘えてもいいですよね。店員さんすみません、このページの料理全部お願いします」
「あんた・・・少しくらい手加減しなさいよ」
リゼが苦笑する。
「あたしが貰った100億だけど、全部あんた達に返すわ」
「えっ」
ムビは驚きのあまり、ワイングラスを落としそうになった。
「ゼルには、全部返すように言ったんだけどね。なかなか聞いて貰えなくて。元の額には全然届かないけど、私の分だけでも返すわ」
ムビの嘘探知魔法には何も反応が無い。
本当に探知魔法を習得できているのか、ムビは自分を疑い始めた。
「・・・ねぇリゼ。最近太った?」
「は・・・はぁ!?レディになんて質問してんのよ!?そんなわけないでしょう!?」
嘘探知魔法に反応があった。
どうやら探知魔法は正常に作動しているようだ。
ならば、これは情報を得るチャンスだ。
「・・・なぁ、教えてくれ。なんで俺達の命を狙ったんだ?」
リゼはワインを飲み干す。
「狙ってないわ。私達、デスストーカーに遭遇したの。そのとき、ゼルが情報を売る代わりに『白銀の獅子』を見逃せって交渉して」
「デスストーカーと組んでたんじゃないの?」
「どういうこと?あんな化物と組めるわけないじゃない?変な冗談ね」
リゼはグラスにワインを注ぎ始めた。
「でも、あんた達が生きててよかったわ」
嘘探知魔法に何の反応もない。
ムビは予想していない展開に面食らった。
「デスストーカーが、『両面宿儺』経由で『白銀の獅子』から依頼されたって言ってたんだけど」
「はぁ?何のこと?リョウメンスクナって何よ?」
リゼが眉をしかめる。
「待って。なんか聞いたことあるわね・・・あっ!私達に接触してきた奴かも!?」
「いつ接触したの?」
「あんた達との決闘の後よ。そのとき、ヘンリーが殺されたの」
「・・・殺された?」
「本当よ!あんなことが起きたのに、全然皆に広まってなくて、私も驚いてるの!多分、相当ヤバい奴らだと思うわ」
ムビは都市伝説で『両面宿儺』の話を聞いたことがあった。
曰く、国を裏で操る存在。
曰く、暗殺を生業としている闇の組織。
曰く、最古の戦闘集団。
噂が真実だとすれば、情報操作やデスストーカーの派遣も可能かもしれない。
「そいつが『四星の絆』の暗殺を提案してきたんだけど、当然断ったわ」
「・・・その後は接触してないの?」
「そうよ。名刺を渡されたけど、連絡なんかしてないし・・・」
「名刺は、誰が持ってるの?」
「確か、ゼルが持ってたような・・・」
昨日からのリゼの態度と、嘘探知が全く反応しないことを鑑みるに・・・。
一連の事件は、ゼルの単独行動か?
少なくとも、リゼは関わってなさそうだ。
「・・・『幽影鉱道』には、何の目的で来たの?」
「あんた達の配信や動画を見て、ゼルがすぐに出発しようって提案したの。あんた達を助けに行くと思ってたんだけど・・・。多分、最初から宝物庫目当てだったんでしょうね」
リゼがワインを一口飲み、ニヤッと笑う。
「どう?少しは疑いは晴れたかしら?」
リゼのこれまでの言動に、嘘は含まれていなかった。
少なくとも、リゼは『四星の絆』の命を狙っていないようだ。
それどころか、一応は心配してくれていたらしい。
「そうだね。貴重な情報ありがとう」
ムビの顔が少し優しくなった。
「ところであんた、遠慮が無くなったら結構ズバズバ言うじゃない?大人しい唐変木かと思ってたのに。言いたいこと言ってる方が、全然面白いわよ」
「・・・そうかな?まぁリゼに気を遣うのも面倒臭いから、今後こんな感じでいこうかな」
「・・・あんた、ほんと言うようになったわね・・・」
リゼが笑う。
ムビもつられて、少しだけ笑った。
リゼは、ようやくムビの笑顔が見れて嬉しくなった。
「・・・ところで、あんた『四星の絆』とはデキてるの?」
前菜を食べていたムビは咽こんだ。
「そ、そんなわけ・・・」
「嘘よ。あんな可愛い子達に囲まれて、何もないわけないわ」
何もなかったわけではないが・・・。
少なくとも、デキてはいない・・・筈だ。
「俺なんかが、あんな良い子達と付き合えるわけないだろ」
「へー、まだ付き合ってないんだ。ふーん・・・」
リゼは少し表情が緩んだ。
「まぁ、もし相手にされなかったら、私が遊んであげるから安心しなさい?」
「何が安心なんだよ。普通に怖いよ」
「ふふふっ。あんたね~素直になりなさいよ。美少女に構ってもらえて嬉しいんだろー?」
「店員さん、この店で一番高い酒を」
「それはガチで払えないからやめて」
ルミノールの美しい夜景を眼下に、二人はずっと談笑した。
ムビはなんだかんだ言いつつも食事に満足して、リゼの恋愛話に延々と付き合わされた。
キャンドルの光が、怪しく二人を照らし続けていた。




