第8話 Eランク討伐
森の奥へ向かう道中、スライムやゴブリンの群れとも戦闘になったが、『四星の絆』の四人は問題無く討伐していった。
討伐推奨レベルはスライムがLv.1、ゴブリンがLv.2、コボルドがLv.3なので、Lv.5の『四星の絆』ならば余程魔物の数が多くなければ大丈夫だろう。
なお、魔物のランクは、討伐推奨Lv.1〜5がFランクで、Lv6〜10がEランクとなっている。
「それにしても・・・今日はなんだか魔物との遭遇が多いですね」
シノが気になるのも当然だ。
通常、1度の冒険で魔物と戦闘になる機会は多くて5回と言われている。
今日はまだ目的のダンゴールと遭遇していないのに、既に戦闘回数は5回を超えていた。
「あぁ・・・、すみません。索敵魔法で探知して、わざと魔物に遭遇していました」
ムビが答える。
「えっ、ムビさん索敵魔法が使えるんですか!?」
「はい、レベルだけは高いので、結構広範囲に索敵できますよ」
「どおりで、さっきから急に道を外れたりしていたわけだ・・・」
ムビも『白銀の獅子』時代に影縫いの森に来ていたので、ムビの方が道に詳しいという判断により、『四星の絆』の進路はムビが細かく指示していた。
「でも四人での連携確認のためには、確かに戦闘回数が多いのは有難いですわね」
戦闘を何度か経験したため、四人での連携確認は十分に行えていた。
「それもあるのですが、ダンゴールと戦う前にレベルを上げておきたいと思いまして」
ダンゴールの討伐推奨レベルは10なので、可能ならば戦闘前に1つでもレベルを上げておきたい。
「おぉ、半年ぶりのレベルアップかぁ!いいねぇ♪」
「しかし、レベルアップとなると、かなりの数の魔物を倒さなければなりませんね」
レベルアップはなかなか簡単にはいかない。
弱い魔物を倒してもあまり経験値が溜まらないし、一度の冒険で魔物に出会う回数も限られている。
かといって強い魔物との戦闘を求めると、死のリスクも高まる。
「はい。なので、そろそろ強い魔物と戦おう思います」
『四星の絆』の間にピリッとした緊張が走る。
ムビの索敵によると、強い魔物の気配がこちらに向かっている。
あと10秒程で接触することになるはずだ。
「次の戦闘は、僕も後方支援しようと思います。5人での連携を確認しましょう。次の敵は強いので、MP消費は気にせず、全力で戦ってみてください」
ムビが話し終わると、草むらをかき分けて4体の魔物が姿を表した。
「オーク・・・!」
オークは人型の醜い顔をした豚の魔物で、人間の男を食料にし、女を性的な目的で連れ去る傾向にある。
Fランクの最強種で、討伐推奨レベルは5に設定されている。
パラメータも数も『四星の絆』と互角。
ブヒブヒと興奮していて、どうやら発情しているらしい。
オークは鼻が効くので、遠くから『四星の絆』の匂いを嗅ぎつけて来たのだろう。
『四星の絆』の姿を見ると、いやらしい顔でニタァっと笑った。
「オークかぁ・・・戦闘するのは二度目だね・・・」
以前『四星の絆』はオーク2体と戦闘になったことがある。
戦いは一進一退だったため、それ以上の戦闘は危険と判断して退却した。
今回の敵の数はそのときの倍である。
「行くよ、皆!」
シノの掛け声で、ユリとシノは武器を構える。
ルリとサヨも呪文の詠唱を開始する。
『エンパワーメント』、発動!
ムビは四人に対してスキルを発動した。
う・・・おぉぉ・・・!?
ユリとシノの体から力が漲る。
攻撃、防御、スピードのパラメータが大幅に強化された感覚があった。
これなら行ける・・・!
ユリとシノはオークに躍りかかった。
まずはシノが盾を構えて先陣を切る。
スピードが大幅に強化されているため、
あっという間にオークとの距離を詰める。
『マジックシールド』!
シノが魔力を消費し、盾を魔力で強化する。
そのまま、更に魔力を消費し技を繰り出す。
『シールドバッシュ』!
オークに力負けしていたシノは、以前の戦闘ではこの攻撃を受け切られ、戦線を崩すことができなかった。
しかし、今なら・・・
え・・・?
オークと接触する瞬間、シノは更に力が湧き上がるのを感じた。
ドゴオオォ!
シノの『シールドバッシュ』を受けたオークは吹き飛び、後方のオーク達を巻き添えにして倒れた。
よし、戦線が崩れた!
こうなれば勝ちパターンだ。
ユリが剣を魔法で強化しながら、倒れたオークに素早く接近する。
オークはユリの攻撃を防ごうと腕でガードするが、ユリの剣はその腕を両断した。
ギャアァァァ!
オークの叫び声が轟く。
「なにこれ!すっごい切れ味!」
更に魔法の詠唱を終えたルリとサヨが、腕を切り落とされたオークに魔法を放つ。
二人の魔法が直撃し、オークは倒れた。
「うっそ・・・!オーク倒しちゃった・・・!」
「いつもの魔法の倍ぐらいの威力ですわ」
勢いに乗った『四星の絆』は、前衛の二人が何度か攻撃を受けダメージを受けたものの、そのままオークを全滅させた。
「すごーい!オーク4体倒しちゃった!」
「戦闘中、今までにない力が湧いてきましたね」
「あれがムビ君のスキルなの?」
ルリがユリに回復魔法をかけながら質問する。
「はい。僕のスキル『エンパワーメント』で、僕のステータスを皆さんに振り分けました。攻撃、防御、スピードはユリさんとシノさんに半分ずつ、魔法攻撃力はルリさんとサヨさんに半分ずつ振り分けました。ちゃんと皆さんのステータスに反映されたみたいで良かったです」
「そんな一遍に細かく振り分けることができるのですね」
サヨが感嘆の声を漏らし、シノがスキルを受けた実感を話す。
「体感で1.5倍ぐらいステータスが上昇している感覚でした。でも、オークに攻撃を当てる瞬間は、もっと力が出たような気がするんですよね」
「そうですね。シノさんが攻撃を当てる瞬間だけ、ユリさんに割り振っていた攻撃力をシノさんに割り振り直しました。なので、攻撃の瞬間だけシノさんに僕の全攻撃力ステータスが割り振られていたので、倍ぐらいの力が出ていたと思います。ユリさんもそうですし、魔法を放つときのルリさんとサヨさんも同様です」
「てことは、実質殆どのパラメータ2倍ってことじゃん!凄すぎる!」
「ま、まぁ・・・皆さんのレベルが上がっていったら、段々パラメータの上昇率は下がってくると思うんですけどね・・・」
ムビは苦笑する。
こんなに効果を発揮するのは恐らく今のレベル帯だけだが、少なくとも今のレベル帯では通用するみたいで良かった。
「うわっ!レベルが6になってる!!」
前衛二人の回復を終えたルリが、自分のステータスを見て驚いた。
ステータスは、『ステータスウォッチ』という腕輪を嵌めることで、自分のステータスウィンドウが目の前に表示される。
「本当!?・・・あっ、私もだ!」
「私も上がってる!」
「私もですわ」
オークを倒したことにより、全員のレベルが1上がったみたいだ。
しかし、サヨが異変に気付いた。
「・・・あら?MPが減っていませんわ」
皆も確認したが、あれだけ魔法を連発したというのにMPが全く減っていなかった。
「そういえば、確かに、あれだけ魔法を使ったのに全然疲れてない・・・」
「あぁ、僕のMPを割り振っておいて、皆さんのMP消費量をゼロにしておきました」
ムビがさらっと言った。
「えっ!MPも割り振れるんですか!?」
「でも、ムビさん、動画編集や撮影もあるのに、そんなことをしていたらMPが尽きてしまうのでは・・・」
「いえ、それは大丈夫です。『白銀の獅子』のときも、皆のMP消費は僕が肩代わりしていたので」
数秒間静寂に包まれた。
「えっと・・・ムビさんって、ステータスが上がっていないというお話だったような・・・」
「はい。攻撃、防御、スピードは殆ど上がらなかったんですけど、MPだけは上がったんですよね。だから、MPの増加だけに一点集中して修行して、そしたらMP量だけはかなりのものになって・・・」
「Aランクパーティの総MP量を全て賄うって、相当なMP量なのでは・・・」
「そうなんですよ。『白銀の獅子』の皆、MP消費を気にせずガンガン大技を使うので、殆ど毎回魔力欠乏起こしてたんですよね」
「魔力欠乏!?立つことも困難になりますわよ!相当お辛かったのでは・・・!?」
「はい。最初はそうだったんですけど、修行や冒険で毎日魔力欠乏になってたら歩くぐらいはできるようになってきて・・・。でも、魔力欠乏ってMP増加に繋がるので、おかげでMP量は増えたんですけどね・・・」
シノ、ルリ、サヨは若干引いてたが、ユリだけは笑顔をムビに向けていた。
「ムビ君ってやっぱりとんでもない人なんだね!ねーねー、そしたらこれからも思いっきりMP使ってもいい??」
「はい、もちろんです!遠慮なく使ってください」
「ありがとう!よっしゃー、これならダンゴールも楽勝だぞー!」
「・・・確かに、レベルも上がったし、これだけのバックアップがあればダンゴールは倒せそうな気がしてきました・・・」
「というか、パーティの戦略の幅広がり過ぎじゃない??ほんとムビ君どうなってんの・・・」
一行はダンゴールを目指し、更に森の奥に進んだ。
「ねぇねぇムビ君、ダンゴールはどうやって倒すの?」
「ムビさんのバックアップがあるとはいえ、かなりの強敵だと思いますが・・・」
「ダンゴールは、実はコツさえ掴めば簡単なんです。」
「えっ!?そうなの!??」
「ルリさん、ちょっと良いですか?」
ムビの指示した方向にずっと進んでいくと・・・いた、ダンゴールだ。
まだこちらに気づいていない。
「皆さん、手筈通りにお願いします・・・」
ムビのヒソヒソ声に皆が頷くと、ユリがダンゴールの気を引くため、ダンゴールの前に飛び出した。
「お~いダンゴール!こっち来いやー!」
ダンゴールはユリに気付いた。
体を丸め、ユリに向かって猛スピードで転がってくる。
この状態のダンゴールに手を出しちゃダメだ・・・。
固い外皮に覆われていて攻撃が通らないし、この突進を受けたら骨が砕ける・・・。
ダンゴールを倒すなら、弱点の柔らかい腹部を狙う必要がある・・・。
ムビのスキルで素早さを倍加させたユリは、しっかりダンゴールを引き付けてこちらに向かって来る。
ダンゴールはユリを目掛け、ますます勢いを増して突進してくる。
「今です、ルリさん!」
ルリが呪文を発動する。
「”奈落の泥流”!」
ダンゴールの前に沼が出来た。ダンゴールはその沼に突っ込む。
勢いが止まり、回転しても泥を跳ね上げ泥濘にますますハマっていくだけだった。
ダンゴールはなんとか沼から抜け出そうと、丸まっていた体を解いて踠く。弱点の腹部が露になった。
「ここです!」
ダンゴールの腹部に、威力を倍加させたサヨの攻撃魔法が炸裂する。
ダンゴールは大ダメージを受け、身を捩って苦しむが、沼から抜け出すことができない。
「おりゃー!」
威力を倍加させたユリの一閃がまたしてもダンゴールの腹部に炸裂し、ダンゴールは倒れて動かなくなった。
「・・・やったーーー!!ダンゴールを倒したーーー!!!」
『四星の絆』にとって初めてのEランクモンスターの討伐だった。
しかも、Eランクでは最強クラスのダンゴール。
快挙達成の瞬間だった。
「レベルも7に上がったーーー!!一日で2レベルも上がったの初めてだよーー!!」
ユリはすぐにステータスウォッチで自分のレベルを確認していた。
「やった・・・ついにダンゴールを・・・」
シノは、やり切った顔をしてその場にへたり込んだ。
ルリも緊張の糸が切れて疲れ切った顔をしていた。
「すごい・・・こんな簡単に倒せるなんて・・・」
「いえいえ、ルリさんの呪文のおかげです。このダンゴールの討伐方法、『白銀の獅子』のときにもやっていたんです。リゼが”奈落の泥流”を使えたので、同じように嵌めて・・・」
ダンゴールは一般的にはDランクパーティでも苦戦する強敵として認定されている。
魔物の効率的な倒し方は、主に『Mtube』に載っていることが多いが、『Mtuber』は全員高ランクパーティのため、Cランク以上の魔物ばかりが動画のネタになりがちだ。
そのため、Eランクのダンゴールの効率的な倒し方はなかなか広まっていないのだろう。
「ムビさん、本当にありがとう・・・」
「いえいえ。そしたら、次行きましょう。本番はこれからです」
「・・・えっ?」
シノが頓狂な声を出した。
「ダンゴールはこの森に天敵がいなくて、冒険者からも『割に合わない』と狙われにくいので、影縫いの森の奥地にはかなり大量に生息しているんです。それにこの時期はちょうどダンゴールの繁殖時期で、余計に数が増えているんです。あっち行ってみましょう」
ムビに付いていくと、見晴らしの良い丘の上に出て、そこから下を見下ろすと、ダンゴールが大量にいた。
「このあたり、ダンゴールの巣がたくさんあるんです。100匹ぐらい居そうですね。狩り尽くしましょう」
「ええぇぇぇ~~~~~~~!!!」
ムビの指示により、そこから3時間の間、ダンゴールを徹底的に嵌め殺した。
周辺にいたダンゴールはほぼ全滅したが、『四星の絆』も全員汗だくで、精も根も尽き果てたようだった。
「もう・・・無理・・・」
「早く帰ってシャワー浴びたい・・・」
「お疲れ様でした!それじゃあ今日は帰りましょうか」
ムビは、良い動画が撮れて上機嫌のようだった。
「皆さん、レベルを見てください」
ムビに言われて、『四星の絆』の面々はハッとした。
これだけ大量のダンゴールを討伐したのだ。
一体、レベルはどれだけ上がって・・・。
「うわぁぁぁ!レベル12になってるぅぅぅ!!!」
全員、大幅にレベルが上がっていた。
「それだけじゃありませんよ。これだけダンゴールを討伐したので、Dランクへの昇格基準を十分に満たした筈です。証拠も、動画にバッチリ収めてますしね」
「本当ですね!ダンゴールの討伐に必死で忘れてましたが・・・これなら間違いなくDランク昇格です」
「私達、Dランクなの!?やったぁぁぁぁぁ!!!」
ユリが『四星の絆』の面々に次々と抱き着く。
そして最後に、ムビに抱き着いた。
うわっ・・・汗の匂いが・・・なんかエロい・・・
「いよぉーし、今日は帰ったら宴だぁーーー!!」
「祝いじゃーー!!飲みまくったらぁーーー!!!」
「明日は休みですし、今日は羽目を外しても良いでしょう」
「ただ、流石に一度お風呂に入りましょう。このままじゃ流石に・・・」
大きすぎる成果に、『四星の絆』の皆の顔からも疲れが吹き飛んだようだ。
ダンゴールの素材を持てるだけ回収し、ムビ達は意気揚々と帰路についた。
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