第71話 温泉
これはギルドに報告すべきかどうか・・・。
臨界者であることが知られたら、メディアに取り上げられるだろう。
王都のギルドや、国から呼び出しがあるかもしれない。
そうなると面倒だなぁ・・・。
ムビはこれからも『四星の絆』の支援を続けたい。
ならば、あまり目立たずひっそりしておくのが良いだろう。
レベルのことは隠しておくことにした。
いや・・・でも、デスストーカー討伐したって言ったら、絶対レベルのことバレるよな?
・・・うーん、どうしよう・・・。
まぁ、そのことは後で考えよう。
ムビは晩飯の支度を再開した。
ドラゴン肉とケーキ、まだ半分残ってるな。
皆で半分こすれば良いかな。
ムビはドラゴン肉を焼き始める。
最高に美味しそうな匂いがする。
ムビは涎が出てきた。
「ふわあああぁぁぁぁぁぁぁっ!!?美味しそうな匂いがするうぅぅぅーーーーー!!」
風呂場の方から、ルリの叫び声が聞こえてきた。
ムビが晩飯の支度を終えて程なくして、『四星の絆』が風呂から上がってきた。
風魔法で髪を乾かしている。
「いやぁーーー良い湯でしたぁ♪」
「たっぷり1時間入りましたね・・・最高でした」
「お肌つるつるだよぉ♪」
この数日間の冒険により、皆泥まみれのボロボロだったが、今はすっかり綺麗になっていた。
「うわぁぁぁ!!ドラゴン肉だあーーー♪」
ルリは目を輝かせる。
「半分しかありませんけどね。皆で半分こしましょう」
「全然良いよ!うわああぁぁぁ美味しそうーーー!!」
皆、それぞれサラダや飲み物、ケーキを取り分けた。
「それでは、『幽影鉱道』攻略・・・!そして何より・・・皆がこうして生きていることに!かんぱーーーい♪♪」
「かんぱーい♪♪」
昨日から碌に飯が喉を通らなかったため、皆お腹ぺこぺこだった。
全員真っ先にドラゴン肉にかぶりつく。
「ぬはああぁぁぁぁッ!!!うめぇぇーーーーーーーッ!!!」
ルリは足をバタつかせる。
「うまぁぁぁぁぁ!ドラゴンってこんなに美味しいんだね!」
「今まで食べた中で一番美味しいかも・・・!」
「あれだけの激戦の後だと、猶更格別ですわ」
ムビもこんなに美味しいとは思わなかった。
間違いなく人生で食べた中で一番美味い。
「ムビ君!この肉また買ってきてね!」
「分かりました!でも、この肉出回らないので、なかなか手に入らないんですよ」
「そんなの、ムビ君がドラゴン倒せばいいじゃん!」
「えっ、僕がですか!?無理ですよ!」
「何言ってんの!デスストーカーに勝てるなら楽勝でしょ!!」
そういえば、デスストーカーに勝ったんだった。
長年自分は弱いと思って生きてきたので、ルリは何を言ってるんだろうと思った。
どうにも慣れない。
「そうですね。そのうち、ドラゴンクエストに出て、皆で食べましょうか」
「絶対だよ!?よろしくぅ!」
ドラゴンは最強の魔物で、様々な種類がいるが、最も弱い種でも文句なしのAランクに属する。
強いドラゴンになると禁忌指定になるが、Aランクのドラゴンならいつか討伐するのもアリかもしれない。
そのまま皆で談笑しながら、晩御飯を平らげた。
「ふいー♪食った食った♪」
「お風呂に入ってすっきりしましたし、生きてるって感じがしますね」
「ふわぁ~・・・なんだか眠くなってきましたわ」
「ほんとだね。なんか幸福感に包まれて幸せ・・・」
『四星の絆』はウトウトし始めた。
「今日はこのまま寝ましょうかね。僕はお風呂入ってくるので、皆さん先に寝ててください」
「ごめんね~ムビ君・・・瞼が重い・・・」
『四星の絆』は横になると、そのまま秒で寝始めた。
皆、相当疲れているのだろう。
無理もない。
ムビは食器を片づけると、温泉へ向かった。
ムビは衣服を脱ぎ、お湯を目視する。
赤湯だ・・・。
しかも、硫黄の匂いもほのかにする。
最高の泉質じゃん・・・。
ムビはまず、かかり湯をする。
おぉーっ、温度も丁度いい熱さだ!
頭に数回お湯をかけ、シャンプーで頭を洗う。
次に石鹸で全身を洗う。
はーっ、さっぱりした。
いよいよお湯へ入る。
ぬふぁあああああ!これは効く・・・!
数日間の疲れが一気に沁み出るような感覚だった。
温泉の効能で血流が加速し、手足がジンジンする。
あっという間に体がポカポカになる。
ムビはそのまま顔を洗う。
お肌がつるつるになるのが分かる。
「天国だ・・・」
ムビは浴槽の淵に頭を付けて目をつぶり、プカーっと浮かびながらそう呟いた。
ここ数日のことが頭を巡り、お湯で体を解されながら最高の達成感を味わう。
はぁー、最高だ。
皆寝てるし、このまま2時間ぐらい温泉を堪能しようかな・・・。
ヒタヒタ・・・
ん、足音?
誰か来る・・・?
「おぉー、満喫してるねぇームビ君♪」
ユリの声がして、ムビは目を開ける。
裸体にバスタオルを巻いたユリが立っていた。
「ユ・・・ユリさんっ・・・!!?」
バシャアッと音を立てて、ムビが後ずさる。
「えへへー、二度風呂しようと思ってね♪」
「あ・・・そうだったんですね!じゃあ、僕上がるのでごゆっくり・・・」
「あ、ムビ君も入ってていいよ?」
ユリがニッコリと笑う。
「えぇっ!!?」
「皆寝てるし、大丈夫大丈夫♪」
言いながら、ユリはお湯の中に入ってくる。
「ほれムビ君、こっちこっち!」
ユリが隣に来るよう促し、水面をパシャパシャ叩く。
「いや、俺ほんと大丈夫なんで!こっちの方にいますね」
ムビは真反対に移動し岩にもたれ掛かる。
「ん?そっちの岩も、もたれ掛かりやすそうだねー♪」
言うとユリは、水面から顔を出した状態で、スルスルとムビに近付いていく。
「ちょーーーっ!!?」
「あはは、逃げるなー♪」
ムビは逃げるが、ユリはどこまでも追いかけてくる。
数分程、グルグルと追いかけっこが続く。
「ほらー、捕まえたー♪」
ユリがバシャーンと音を立てて飛び掛かり、ムビに抱き着く。
「うわーーーー!!?」
「こらこら、大きな声を出すな♪」
ユリの体の色んなところが当たってる。
「ほら、おとなしくして・・・ね?」
ユリの顔が近い。
改めて見ると・・・いや、改めて見るまでもないが・・・とんでもない美少女だ。
「は・・・はい・・・」
ムビは逆らうことができなくなり、結局隣同士で岩にもたれ掛かった。




