第69話 極大呪文
デスストーカーは呪文を発動するが、ムビも呪文を放ち相殺する。
デスストーカーは次の呪文の詠唱を始めるが———ムビは2発目の呪文を放っていた。
!?
直撃したデスストーカーは詠唱が途切れる。
もう一度詠唱を開始するが、すかさずムビの3発目の魔法が直撃する。
ムビはそのまま、矢継ぎ早に呪文を繰り出す。
「これは……詠唱破棄……!!?」
サヨが驚愕する。
呪文は次々にデスストーカーに命中し、デスストーカーはどんどん後退する。
はは……この呪文も撃てる……これも……!
詠唱破棄。
体内の魔力回路に予め術式を仕込み、無詠唱で魔法を発動する高等技術。
通常は、仕込んだ術式に関連する、決められた魔法にのみ適応される。
だが、ムビの詠唱破棄はそれとは異なる。
ムビの魔力回路は脳内のイメージを即アウトプットする。
ゆえに、全ての魔法を詠唱破棄することが可能だった。
詠唱破棄で魔法を撃てるイメージはあった。
魔法が好きで、千を超える魔導書を読んでいたムビは、あらゆる攻撃魔法の術式理論を理解し、構築が可能だった。
だが、魔力が足りず、今までろくに攻撃魔法を撃てなかった。
それが、今は撃てる。
これも撃てる……!これも……!
ははは……夢みたいだ……!
ずっと憧れ、理解し、愛し、けれど決して発動することはできなかった幾百の魔法。
ムビは我を忘れ、夢中で魔法を放ち続けた。
これだけ魔法を撃っているのに、どんどん力が湧いてくる。
全然負ける気がしない。
呪文は次第に、中級魔法から上級魔法へと変わり、デスストーカーのダメージはいよいよ深刻になる。
デスストーカーはたまらず、後方を向いて逃げ出そうとする。
「待ってよ」
一瞬で距離を詰めたムビは、デスストーカーの後頭部を掴み、地面に叩きつけた。
『ギィッ……!』
デスストーカーは呻き声を上げる。
うつ伏せのまま腕を伸ばし、爪でムビを貫こうとする。
「おっと」
ムビは爪の攻撃を躱し、ナイフでデスストーカーの指を切り落とした。
『ギャアァァァァァァッ!!!』
デスストーカーの絶叫が鉱道内に響く。
「どうしたの?肉体の苦痛は、物の数ではないんでしょ?」
デスストーカーは地に伏したまま、悲痛な声でムビに話しかけた。
『タ……助けてくださイ……』
ムビはしゃがんで、デスストーカーに目線を合わせる。
「少しは、俺達の気持ちも分かった?」
『はい……分かりましタ……』
「そ?良かった」
ムビはデスストーカーに笑顔を向ける。
「俺も、お前の気持ちが少し分かってきたよ」
ズンッ!
突如地中から岩の棘が生え、デスストーカーの胴体を貫いた。
『グギャアアァァァァァァッ!!!』
デスストーカーは口から吐血する。
「これはユリさんの分ね。ユリさんの気持ちが分かった?」
『ワ……分かりましタ……』
「そ。じゃあ、これはシノさんの分ね」
ムビはナイフを振るい、デスストーカーの腕を切り落とす。
『ウギャアアアァァァァァァァァァ!!!』
デスストーカーは痛みのあまり、痙攣し始める。
「シノさんの気持ち、分かった?」
『ワ……分かりましタ……』
「そ。それは良かった」
ムビがニコッと笑う。
「じゃあ最後に――お前が食べた人達の苦しみを、1億分の1だけ知れ」
地面が隆起した。
十字架が作られ、デスストーカーは磔にされる。
「来世では、優しい生き物になるんだよ」
『ヒィッ———!』
ムビの体内の魔力回路が、これまでにない程活性化する。
ムビが繰り出そうとしている呪文は、ムビが最も焦がれた攻撃魔法。
極大呪文———。
上級魔法の更に上、大魔道にのみ許された魔法の極地。
その中でも最強と言われる、炎属性魔法の頂点。
この魔法は、絶大な魔力を必要とする。
通常、レベル80以上でなければ行使は不可能だ。
でも、今ならいける。
確信がある。
ムビは喜びに打ち震えながら———呪文を行使した。
「"終焉の業火"」
一瞬、鉱道内が眩く輝き———
———地獄の炎が、デスストーカーを焼き尽くした。
『ギャアアアァァァァァアアアアアッッ!!!!!』
デスストーカーは苦しみのあまり悶えるが、磔にされているため身動きが取れない。
巨大な火柱に包まれ、炭化していく。
悶え苦しむデスストーカーを見上げ、ムビは呟いた。
「ああ———綺麗な炎。成功して良かったぁ」
デスストーカーが最後に見たものは、心底嬉しそうなムビの笑顔だった。
『———この……化物め……』
そう言って、デスストーカーは灰になり、跡形もなく消え失せた。




