第66話 真の狙い
『白銀の獅子』は『幽影鉱道』の最深部付近に到達していた。
「もう少しで最深部だな。ミラ達が来るまで、しばらく時間を潰すぞ」
ゼルとゴリは意気揚々と最深部への道を進むが、リゼとマリーは暗い表情をしていた。
「ゼル・・・あんなことして、本当に良かったの・・・?」
「ん?あんなことって何だ?」
「デスストーカーに、情報を売ったじゃない」
『白銀の獅子』は道中、デスストーカーに遭遇していた。
ゴリもリゼもマリーも、出会った瞬間震え上がった。
我先に逃げ出そうとしたそのとき、ゼルがデスストーカーに歩み寄っていた。
「交渉だ。お前が追っている獲物の居場所を教えてやる。その代わり、俺達のことを見逃せ」
3人はゼルの行動に心底驚いた。
魔物が、そんな交渉に応じる筈もない。
ゼルは殺される―――そう確信したとき、デスストーカーは交渉に応じたのだ。
「まさかデスストーカーが人語を理解できるとはな。お前の勇気には恐れ入ったよ、ゼル」
ゴリはゼルに感服していた。
「まぁな。言っただろう?いざというときは俺がなんとかするって」
ゼルはデスストーカーとの交渉に絶対の自信を持っていた。
当然だ。
デスストーカーを『幽影鉱道』に送るよう、『両面宿儺』に依頼したのはゼルなのだから。
このことは、他の3人には教えていない。
―――ノームの野郎、随分金をふんだくっていきやがって。
だがまぁ、これで邪魔者は消えるし、真っ先に駆けつけた俺達は世間の人気者になるだろう。
痛い出費だったが、元は取れる。
それともう一つ、ゼルには楽しみがあった。
オプション料金で、デスストーカーの腹の中が見れるしな。
地獄の数億倍の苦痛を伴うと言われるデスストーカーの腹の中で、あいつらの魂がどんな風にのた打ち回るのかとても興味深い。
最高のショーだ。
高い金を払う価値はあるな。
「・・・やっぱり、ヤバいよこれ。せめて、皆にデスストーカーにバレたことを知らせようよ」
リゼは不安な顔をしてゼルに提案する。
「皆って誰に?」
「そりゃ、ここに向かってる冒険者や、『四星の絆』によ」
リゼは『四星の絆』なんか大っ嫌いだ。
だが、いくら何でも、殺されるように誘導するなんてことはできない。
ましてや、魂の消失だなんて―――。
「リゼ。ここは魔法ネットワークの圏外だ。どうやってそいつらに伝えるんだ?」
「だから、デスストーカーに見逃してもらったとき、出口に向かうべきだったんじゃない?」
「おいおい。今更そんなこと言われても困るぜ。どうしてそのとき言わなかった?」
「はぁ・・・?あの化物の前で、ちんたら話し合えっての?」
デスストーカーの気がいつ変わるかも分からないのだ。
真っ先に奥に走り始めたゼルに、3人は付いて行かざるを得なかった。
「いいか、リゼ。今から引き返して、もう一度あの化物と遭遇してみろ。また見逃してもらえる保証は無いんだぞ?」
それはリゼも分かっている。
戻ればデスストーカーと遭遇する危険がある。
リゼもできればあんな化物に近付きたくない。
しかし、それは通常の場合の話だ。
『白銀の獅子』はデスストーカーに情報を売ったのだ。
放っておけば、『白銀の獅子』のせいで犠牲が出る可能性が高い。
「同じ街の冒険者が、私達のせいで危険な状況なのよ!?無駄足だろうと動くべきでしょう!?」
「仕方がなかった。あの場を、他の方法でどうやって切り抜ければ良かったんだ?皆仲良く、あの化物の腹に収まれば良かったのか?」
「そういうわけじゃ・・・!」
「いいか、俺達は仲間を売ったわけじゃない。冒険者として、生き残るために最善の手段を取っただけだ。ここに向かっている奴らも、『四星の絆』も、腕利きの冒険者だ。そう簡単にデスストーカーにやられたりはしない。あいつらが信じられないってんなら、それこそあいつらに失礼だ」
「そんな無責任な・・・」
「そんなに戻りたいなら、一人で戻ったらどうだ?」
リゼは納得していないようだったが、ようやく黙った。
リゼに多少不満を持たれようが構わない。
今更戻ってたまるか。
本当の狙いは、この先にあるのだから。
「着いたぞ、最深部だ」
『白銀の獅子』は最深部の広い空間に出た。
「久しぶりに来たな。・・・うぉっ、なんだこりゃ・・・!?地面に穴が開いてやがる」
「なんだろうなこの穴は。落ちないように気をつけろよ」
「了解・・・ん?あの道はなんだ?あんなの、前来た時あったっけ?」
ゴリが横穴を発見する。
ムビ達がボス部屋を発掘するために掘った穴だ。
ムビは『幽影鉱道』での出来事を動画で公開していたが、公開直後に出発した『白銀の獅子』は誰も動画を見ていなかった。
故に、最深部の状況を見ても何も理解ができなかった。
―――唯一人、すぐに動画を視聴していたゼルを除いて。
「なんだろうな。行ってみようぜ」
ゼルはほくそ笑んでいた。
500メートル程の穴を抜けると、巨大な扉が現れた。
「こ・・・これはボス部屋・・・!?」
「こんなの、前来たときは無かったのに・・・」
中に入った『白銀の獅子』は、真新しい戦いの跡と、巨大ゴーレムの亡骸を目の当たりにした。
「なんだよ、あのデカいゴーレムは・・・」
「ひょっとして、『幽影鉱道』のボス・・・?」
「亡骸が残っているということは、倒されてまだそれほど時間が経っていませんわね・・・」
ゴーレムに目を奪われている3人に、ゼルは声を掛ける。
「おい、あの扉は何だ?行ってみようぜ」
ゼルは宝物庫の扉を指差す。
もちろん、動画を見ていたゼルは、全て把握していた。
「もしかして・・・宝物庫!?」
「行ってみようぜ・・・!」
『白銀の獅子』が宝物庫の扉を開けると、中には金銀財宝の山があった。
「うひょーーーーーーーー!!!!!!なんだこれ!!??宝の山じゃねぇか!!!」
「嘘っ・・・!!?ナニコレ!!?なんでこんなのがあるの!!?」
「大方、ボス部屋を見つけた冒険者が、ゴーレムを倒すので精一杯ですぐに引き返したか、宝が多過ぎて持ち帰れなかったんだろう。保存袋の活用方法を知らない冒険者ならそうなるだろうな」
ゴリは見たことも無い程興奮していた。
「お・・・おい・・・これって、俺達持ち帰っていいのかな??」
「当然だろう。こんなところに放置した冒険者が悪い。俺達はたまたま運良く現れ、そしてこれを持ち帰る術を持っていた、それだけだ」
ゼルは、保存袋を10袋取り出す。
「まぁ、これだけあれば全部持って帰れるだろう」
「うひょーーーー!!流石ゼル、準備がいいぜ♪」
「まぁ、勇敢にも、いち早く危険なダンジョンに到着した俺達への、神様からのご褒美ってヤツだろうな。ほら、さっさと詰めるぞ」
ゼルは笑いが止まらなかった。
ムビには散々掻き回された。
役に立たないばかりか、恩を仇で返すような最低な奴。
おまけに自分だけアイドルと楽しくやりやがって。
―――最後の最後に、ようやく役に立ってくれたな。
これだけは褒めてやるぞ、ムビ。
「うひょーーー!どれだけ袋に詰めても全然減らないぜ♪♪」
「おいおい、そう急ぐなよゴリ?別に逃げやしないんだからな!はっはっは!」
これだけの宝があれば、億万長者確定だろう。
冒険者はもうやめだ。
わざわざきつい思いをしてまで、金を稼ぐ必要も無い。
明日からは、自由だ。
毎日遊んで暮らそう。
とりあえず、三日三晩豪勢にパーティでも開くか?
ゼルは自身の輝かしい未来に思いを馳せ、心の底から笑った。
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