第63話 集合場所
『四星の絆』は丸一日歩き続けた。
ユリが暗闇を怖がりなかなか進まなかったが、集合場所まであと少しという地点まで到達していた。
「もう少しだぞ、頑張れよ嬢ちゃん達!」
丸一日、ガエンがずっと励ましながら道案内をしてくれた。
同時接続者数は、一日中増え続け、現在はなんと100万人を突破していた。
「おっ、ミラからのコメントだ!」
コメント欄を見ていたガエンが気付く。
コメント欄に一文、ミラのコメントが流れた。
今から向かうから、待っておるのじゃぞ♪
「ミラがSNSに写真を投稿しているぞ。……おいおいこりゃ、冒険者100人以上いるじゃねぇか」
ガエンはミラの投稿を見て驚いた。
「この配信、世界ランキング1位だってよ。世界中の奴らが、お前らを応援してるらしいぜ」
リスナーも丸一日、『四星の絆』に応援コメントを書いてくれていた。
それが本当にムビ達の気持ちの支えになっていた。
「……ここだ!着いたぞ!よく頑張ったなお前達!」
ムビ達はついに集合場所に辿り着いた。
広い空間で、正面には表ルートへ続くであろう登り坂がある。
「……ありがとうございました、ガエンさん。おかげで無事に着くことができました」
「いいってことよ!あとは救助が来るのを待つだけだな!」
『四星の絆』は腰を下ろした。
シノがカメラの方を向き、リスナーに語り掛ける。
「リスナーの皆さん、応援ありがとうございました。皆さんの応援が心の支えになって、なんとかここまで辿り着くことができました。本当に本当に、感謝の気持ちでいっぱいです」
シノの言葉に、応援スパチャが乱れ飛ぶ。
「皆さんそんな、赤スパなんて投げないで!お金を大事に……あぁ、また!」
シノの反応に、『四星の絆』もガエンも笑った。
「そういえば、『白銀の獅子』やルミノールの冒険者達はどうなったのでしょうか」
サヨがガエンに尋ねる。
「SNSへの投稿は数時間前が最後だな。『幽影鉱道』一帯は魔力ネットワーク圏外だからな。もう既に『幽影鉱道』には着いていると思うぞ。彼らにも集合場所は伝えておいた。ひとまずは彼らと無事に合流したいところだな」
表ルートにはまだデスストーカーがいる可能性が高い。
彼らがデスストーカーと遭遇せず、無事にここまで来ることを願うばかりだ。
デスストーカーに数の利が通用するかは分からないが、やはり少人数よりも大人数の方が心強い。
あの『白銀の獅子』でさえ、今目の前に現れてくれたら、感謝のあまりキスしてしまいそうだ。
「ひとまず、晩御飯でも食べましょうか」
保存袋の中の水と食料も、残り僅かだった。
願わくば、次の食事はダンジョンの外で食べたい。
「ルリも昨日から寝ていないでしょう?私達が見張っていますから、ゆっくり寝てください」
「うん、そうだね、そうする……」
ルリは目の下にクマができていた。
疲労と緊張と睡魔で重くなった瞼をこする。
ユリはガタガタと震えて座り込んでいた。
「ユリさん、もうすぐ助けが来ますよ。大丈夫ですからね」
「ほ……本当にそうかな……」
ユリは歯をカチカチ鳴らしながら、か細い声で話す。
「あの魔物から……あと半日も逃げ続けるなんて……無理だよ……。あいつはもう、私達のすぐ傍にいるかもしれない……いやだ……いやだ……」
「大丈夫だよ、ユリっ!あと少し。あと少しだからね」
シノがユリを抱き締め、震える背中を優しく撫でる。
と、その時。
おーい
ムビはピクッと反応した。
「……?どうしたんですかムビさん?」
「今、声が聞こえませんでしたか?」
遠くから微かに、人の声が聞こえた。
『四星の絆』は息を潜め、耳を澄ます。
おーい
今度は、確かに聞こえた。
「助けが来たんだ!!?や……やったーーー!!!!!」
ルリは歓喜の声を上げた。
「皆さん!救助隊が来たみたいです!本当に良かった……!」
「っし!!やったな!!嬢ちゃん達の粘り勝ちだ!!」
声聞こえた
助かった!?
おめでとうーーー!
ワイ、大歓喜
おめでとうーーーーー!!
おめでとうーーーーー!!!
コメント欄は祝福のコメントで溢れ、スパチャが乱れ飛んだ。
おーい
この声はムビも聞き覚えがある。
ルミノールのベテラン冒険者の声だ。
間違いない。
「おーーーい!!こっちだよーーーーー!!!」
ルリはありったけの声で叫ぶ。
おーい
返事が返って来た。
「良かったぁ、あとはミラさんを待つだけですね……」
シノは安堵の涙を流しながらユリを優しく抱き締めた。
おーい
ルリは両手を口に当て、大声で確認をした。
「皆さーん、大丈夫ですかーーー??」
おーい
しん、と静まり返った。
なんだか様子が変だ。
おーい
声は段々近づいてくる。
こちらの声も聞こえている筈だ。
―――なのに、どうして、さっきから……
おーい
ムビは探知魔法を使って―――背筋が総毛立った。
「……皆さん……逃げる準備を」
「えっ」
「探知魔法を使いました。―――声のする方から、何も探知できません」
おーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーいおーい
全てが止まった。
コメントも、ガエンの励ましも。
ユリを優しく撫でる手も、重くなった瞼も。
呼吸も、瞬きも、血流も―――そしてきっと、心臓も。
おーい
声が近付いてきて―――
―――坂の上から現れたのは、黒いフードに身を包んだ魔物、デスストーカーだった。




