第62話 援軍、『白銀の獅子』
「『白銀の獅子』が!?」
「共に戦った仲間を見捨てることはできないと、危険を顧みず街を出たそうです。なんという無茶を・・・」
コメント欄は大盛り上がりだった。
決闘で結ばれた友情あちー
魂を失うリスクがあるのに
なんて勇敢なんだ!
ゼル様一生ついて行きます
なんて人格者だ
「私達のために来てくれるなんて・・・」
「最低だと思ってたけど、見直しちゃった。会ったら謝らなきゃ・・・」
ムビは信じられないという気持ちでいっぱいだった。
あのゼルが、危険を顧みず、俺達を助けに来る?
それに対しては感謝しなきゃいけないが・・・何か心変わりでもあったのだろうか。
「SNSは『白銀の獅子』の勇敢な行動に大盛り上がりのようです。ルミノールの複数のBランクパーティも、ミラや『白銀の獅子』と共に戦おうと、『幽影鉱道』に向かう準備をしているみたいです」
気になる点はあるが、とにかく、色んな人達が俺達を助けようとしている。
俺達も、絶望している場合じゃない。
必ず生き残らなければならない。
「情報ありがとうございます。配信はこのまま続けるので、一旦移動してみようと思います」
『四星の絆』は移動を始めた。
デスストーカーがいつ現れるか分からないので、周囲に気を配りながら慎重に歩く。
しばらく歩くと、ムビの探知魔法に反応があった。
「この先に、魔物がいます」
討伐推奨レベル24、ニトロロックが3体現れた。
「こいつらは自爆してくる!爆発する前に倒すんだ!」
Cランクの魔物だが、今の『四星の絆』の敵ではなかった。
「""氷嵐の咆哮""!」
サヨが魔法を発動し、一撃で全滅した。
「おーっ!やるな、嬢ちゃん!」
ガエンがサヨを誉める。
コメント欄も、サヨの活躍に湧き立つ。
「ムビさん、今のはスキルを使われましたか?」
「いえ、使ってません。MPの肩代わりだけですよ」
「ふふっ・・・。やっぱり、私達強くなってますね」
サヨが微笑む。
今の『四星の絆』はどんな相手にも通用する筈なのだ。
デスストーカーなんて化物が相手でなければ。
歩き出して30分、少し広い空間に出た。
「ガエンさん、どうでしょう、何か分かりますか?」
「ちょっと待てよ・・・。もう少し、右を映してくれんか?」
ムビは言われた通り右を映す。
「・・・あっ!分かったぞ!ここはかなり奥の方だな!集合位置まではかなり遠いが、場所は特定できた!このまま案内するぞ!」
「良かった!ありがとうございます!」
「任せておけ!ちょっとその前に・・・デスストーカー討伐に行く冒険者達のSNSアカウントに、裏ルートの地図と集合場所を送るか」
こうして『四星の絆』はガエンの誘導に従い、集合場所への移動を開始した。
「ねぇ、ゼル・・・本当に『幽影鉱道』に行くの?」
『白銀の獅子』の一行は『幽影鉱道』に向かっていた。
「デスストーカーがいるんだぞ?絶対ヤバイって、帰ろうぜ・・・」
「そうですよ、遭遇したら私達では敵いませんよ・・・?」
リゼもゴリもマリーも『幽影鉱道』行きに反対のようだ。
だが、ゼルは頑として聞かない。
「いいか、SNSを見てみろ。今、『幽影鉱道』の事件はトレンド1位になっている。世界中から注目されている状態だ。そこに、『四星の絆』と因縁がある俺達が真っ先に駆けつけてみろ?世間が大好きな友情ストーリーの出来上がりだ」
「確かに、救援に行くって投稿したら滅茶苦茶反響あったけどよ・・・。リスクとリターンが見合ってないぜ。それに正直、俺は可愛い子ちゃん達ならまだしも、ムビを助けるなんて気が進まないぜ・・・」
「分かってる。何も、本当に救出する必要はない。ダンジョン内で時間を潰して、ミラ達の到着を待って、肝心なところは奴らに任せればいい。まぁ、俺を信じろ。いざとなったら、俺がなんとかするさ」
そのとき、『白銀の獅子』のアカウントにメッセージが届いた。
「・・・ん?2通あるな。1つは、ギルドからのメッセージだな。何々・・・ルミノールのBランクパーティが俺達を追ってを街を出ただと!?くそっ、余計な事しやがって・・・。もう一つは、『岩砕の斧』か。何々・・・ほぉ、裏ルートへの侵入経路と地図、集合場所が書いてあるな。デスストーカーは裏ルートへの侵入経路を見つけられない可能性が高いから、速やかに裏ルートへ行った方が良い、か・・・。ふーん、なるほどねぇ・・・」
『白銀の獅子』は10時間程移動を続け、『幽影鉱道』に辿り着いた。
時刻は21時を回ろうとしていた。
「そろそろミラ達がルミノールを出発する頃合いだな。急ぐぞ」
ゼルを先頭に、『白銀の獅子』はダンジョン内に入っていく。
「ゼルの奴、なんでこんなに強気なんだ・・・」
禁忌指定の魔物が徘徊しているダンジョンだというのに、ゼルは速足で奥へ進んでいく。
「ほ・・・本当に大丈夫なんでしょうね?出くわしたら終わりなのよ?もう少し慎重に・・・」
「慎重に?どうせデスストーカーは探知できないんだ。ゆっくり進もうが早く進もうが、遭遇率は大して変わらないだろ」
「そ・・・そうかもしれないけど・・・」
「それに、Bランクの馬鹿どもが後ろから来ているんだ。あいつらと合流してみろ、それこそデスストーカーと遭遇したら戦闘を避けられないぞ。合流を避けるため、最深部に行くんだ」
「さ・・・最深部!?ちょっと、本当に大丈夫なの!?」
ゼルは仲間達の言葉を全く意に介さず、『幽影鉱道』の奥へと進んでいった。




