第60話 魔物の正体
きたーーー、魔物の特定成功!
これで討伐隊組めるぞ!
助かりそうだな!
コメント欄も『四星の絆』も色めき立った。
ムビはギルドアカウントの発言を許可した。
「特定ありがとうございます!魔物は、何でした?」
シノが明るい声で尋ねる。
「はい・・・。あの・・・」
ギルド職員の声が暗い。
「大変申し訳ありません。結論から申し上げますと、ギルドから救助隊を編成することはできません」
「えっ!?どうしてですか!?」
「・・・あの魔物は、禁忌指定でした」
なんだ、禁忌指定って?
討伐しちゃダメなのか?
Aランクパーティに討伐してもらえばいいじゃん
コメント欄はザワつくが、画面の向こうの冒険者達は全員凍り付いていた。
嘘だろ・・・禁忌指定って・・・
なんでそんなのと遭遇したんだ・・・
冒険者アカウントのコメントは絶望に満ちている。
「禁忌指定の魔物は、人類最強の臨界者でも討伐が難しく、危険過ぎるため、ギルドの規定により討伐依頼を出すことが禁じられた魔物です。通称、Sランクとも呼ばれます。魔物の名前はデスストーカー。討伐推奨レベルは240です」
シン、と静まり返った。
240 ! ?
えっ、なにそのレベル!?
チート過ぎワロタww
無理じゃんww
倒せる奴いるの??
「それは・・・もう討伐を検討するレベルではありませんね・・・」
仮に『四星の絆』が全員レベル100の臨界者になったとしても、討伐は不可能だろう。
「勝てるわけないじゃん・・・」
「戦闘を挑んだこと自体が、間違いだったということですわね・・・」
「デスストーカーの脅威は戦闘能力だけではありません。デスストーカーの皮膚に触れた者は、精神を蝕む呪いに掛かります。絶対にデスストーカーに触れてはなりません」
「え・・・それって、解呪は可能なんですか・・・?」
「数例、デスストーカーに触れられた者が生還したケースがありますが、呪いが強過ぎて、高レベルの神官でも解呪できた事例はありません」
『四星の絆』は皆、ユリを見た。
隅で蹲り、カタカタと震えている。
「それって・・・ユリはずっとこのままということですか!?」
「恐らく・・・。呪いは元凶を倒せば解呪できるケースが多いので、デスストーカーを討伐すれば或いは解呪が可能かもしれません。ただ、デスストーカーの討伐事例がギルド本部に問い合わせても存在しないため、なんとも・・・。それから皆さん、デスストーカーにマーキングされませんでしたか?」
「マーキングって・・・あっ!赤い光を受けたましたけど・・・」
「光を受けた部分を見てください」
ムビ達が服を捲ると、赤い紋様が浮き出ていた。
「その紋様は、デスストーカーのマーキングの証です。デスストーカーはマーキングした相手の居場所が分かります。そして、世界中のどこにいても、死ぬまで追いかけてきます」
「・・・嘘でしょう・・・?」
なにそれ、最悪じゃん
つまり、ダンジョンから脱出しても、その後一生追いかけられるってこと!?
詰んだ・・・
「ただ、デスストーカーの最も恐ろしいところは、戦闘力でもマーキング能力でもないんです」
まだあるの!?
もう既に絶望しかないのに
聞きたくない
一呼吸置いて、ギルド職員が話始める。
「デスストーカーは人喰いの化物で、食べた人間の魂を消滅させます」
『四星の絆』はしっかり話を聞いていたが―――意味が分からなかった。
否、頭が理解することを拒絶していた。
「人間は女神さまの加護により、死んでも魂を別の肉体に移して何度も転生します。魂は永遠に存在しますが、デスストーカーに喰われたら、魂が失われ、二度と転生できなくなります」
吐き気がしてきた
怖過ぎ
そんな化物が存在するなんて・・・
無理じゃん
えっ・・・どうすればいいの・・・?
「酷なことを言うようで申し訳ありませんが・・・皆さんには、自害をお勧めします。デスストーカーの追跡から逃れる方法は、それしかありません」
数分間、沈黙が流れた。
同時接続者数は7万と表示されていた。
コメント欄も、絶望に満ちていた。
「・・・折角これから、明るい未来が待っていると思ってたのに・・・」
呆然とした表情で、ルリが呟いた。
何故か、今までの楽しい思い出が頭を過る。
きっと人間は絶望したとき、精神を維持するために、楽しかったこと、嬉しかったことが思い出されるのだろう。
しかし、この絶望は、これまでの素晴らしい思い出を総動員しても、決して埋められることはないのだろうとルリは思った。
ムビは必死で考えた。
何か方法は無いのか・・・!?
何か方法は・・・!
絶望に満ちたコメント欄に、一つのコメントが流れた。
発言を許可してもらえんかのう
ミラだ!
ミラ・ファンタジアだ!
嘘!?本物!?
ミラだぁぁぁーーーーーー!!
コメント欄が一気に沸き立った。
ミラが登場しただけで、同接数が急激に伸びていく。
「ミラってあの・・・登録者数1000万人のミラ・ファンタジア・・・?」
「どうしてミラが私達に・・・?」
ムビはミラの発言を許可する。
「おぉー!はじめましてじゃのう!ミラ・ファンタジアじゃ♪」
絶望に染まり切った奈落の底で、ミラの明るい声が響く。
コメント欄は更に盛り上がった。
「は・・・はじめまして、『四星の絆』のシノです」
「朝起きたらお主達がバズっておってのう!さっき配信を見始めたばかりじゃが、何やら大変みたいじゃのう?かっかっか♪」
「そ、そうですね。大変というか、まぁ・・・」
「ところで、そこに『四星の絆』の『動画編集者』はおるかのう?」
「『動画編集者』ですか?はい、今カメラを持っていますが」
ミラは、にししと笑う。
「ちょっと代わってくれんか?そやつと話してみたくてのう」
「は・・・はい、分かりました」
シノは、ムビをちらっと見る。
・・・なんで俺なんだ?
ムビは首を傾げながら、カメラをサヨに渡し、サヨはムビを映した。
「は・・・はい、代わりました」
「おぉーっ♪お主か!元『白銀の獅子』の『動画編集者』というのは!?」
「は・・・はい、多分そうだと思います・・・」
「なんじゃ、ワシと大して歳が変わらんじゃないか?いやぁー、ずっとお主に会いたかったんじゃ!最近の『四星の絆』の動画も、全部お前が制作しておるのか?」
「はい、そんな感じです・・・」
「かっかっか!素晴らしいのう♪お主、名は何という?」
「ムビといいます」
「ほう、ムビというのか!」
なんだろう。
さっきまで絶望していたのに・・・。
ミラの明るさのせいだろうか、不思議と力が湧いてくる。
「助けが来なくて困っておるそうじゃのう?よし、ワシが助けに行ってやろう♪」
「・・・えぇぇっ!!?」




