第59話 進展
翌朝、ムビ達は目を覚ました。
朝とはいえ周囲は真っ暗なので、朝という実感は湧かない。
暗視魔法をかけて周囲を見渡すが、魔物はいないようだ。
ムビは探知魔法を発動し、近くに魔物がいないことを確認した。
「そろそろ8時ですね。配信を開始しましょう」
ムビはカメラで時刻を確認し、配信を開始した。
映されたシノがカメラに向かって話し始める。
「皆さんおはようございます。『四星の絆』です」
おはようー
無事だったかー
配信乙一
心配で眠れなかったよー
配信を開始すると、あっという間に同接数が3万人を超えた。
まだまだ同接数は増えていく。
「皆さん、こんな朝早くにお集まりいただきありがとうございます。私達はまだ無事です。食料はあと2〜3日分というところですが……その後、何か進展などありましたでしょうか」
SNSでトレンドになってるよ
めちゃくちゃバズってる
「そうなんですか?」
ただ、炎上に近い感じ
フェイクかフェイクじゃないかで炎上してる
絶対フェイクだろwww
「えっ……フェイク?」
コメントを拾って大まかに状況を把握する。
どうやら今回の配信が釣りだと思われているらしい。
根拠としては、
①魔力ネットワークが届かないのにダンジョンから配信ができるわけがない
②『幽影鉱道』にAランクの魔物が出るわけがない
③Dランクパーティがエリクサーを持っている訳が無い
等が挙げられた。
「なるほど、確かにもっともな意見ですね……」
コメントも、よく見たらアンチコメントが何割かを占めている。
まずは、皆の誤解を解かなきゃだな……。
ムビは昨日編集した『幽影鉱道』の冒険の動画を全てアップロードして、カメラに話しかけた。
「横から失礼します。メインチャンネルの方に、今回の冒険の動画をアップロードしました。魔物と遭遇し、崩落するところまでの動画がありますので、それを見ればこれまでのいきさつが分かると思います。それから、これをご覧ください」
ムビは、保存袋からファントムクリスタルを取り出した。
「これは、ファントムクリスタルという希少鉱石です。『幽影鉱道』でしか採掘ができません。現在は市場に出回っておらず、購入するのが不可能な鉱石です。これを持っていることが、僕達が『幽影鉱道』にいる証拠です。どうやってこの鉱石を手に入れたのかは、メインチャンネルの動画をご覧ください」
なにこれ、そんなにすごいの?
うーん、わからん
誰か分かる人教えてくれ
ちょっと動画見てくるわ
「エリクサーは、『白銀の獅子』との決闘の報酬で購入しました。ブックメーカーでも『四星の絆』に大金を賭けていたので、購入は十分に可能でした」
確か、あのときとんでもないオッズだったよな
それなら可能かも
それでも普通エリクサーなんか買うか?
「最後に、どうやってダンジョンから配信しているかというと、特殊な魔法を使っています。企業秘密なので、これ以上はあまり言えませんが……」
コメント欄は戸惑っているようだったが、ある程度の信頼は得たらしく、アンチコメントの数は次第に減っていった。
またこの男か
でしゃばるなまじで
女の子達に喋らせろ
ムビが喋るとコメント欄が若干荒れるので、ムビは引っ込み、シノにバトンタッチした。
「えぇと……皆さん、魔物の情報は何かありましたか?」
コメント欄に色んな魔物の名前が挙がる。
ダメだ……どれもBランクやCランクの魔物ばかり。
姿は似ているけど、多分あいつじゃない。
調べたんだけど、分からなかった……申し訳ない
コメント欄がザワついた。
Aランクパーティの真紅の刃だ!
すげぇ!超大物じゃん!
恐らく、コメント欄に挙げられている魔物ではないと思う。ギルドの調査結果を待った方がいいかも。
雷鳴の牙だ!
またAランクパーティ!
配信を開始して1時間程経過し、コメント欄に高ランクの冒険者パーティのアカウントも散見されるようになってきた。
同接数は、5万を超えていた。
いいぞ……この調子でいけば、有益な情報が転がってくるかも……
幽影鉱道の裏ルートなら、俺詳しいぞ
きた!有識者からのコメントだ!
「Aランクパーティ『岩砕の斧』さんですね!発言を許可します!アドバイスお願いします!」
ムビは『岩砕の斧』のアカウントの発言を許可する。
「うはははは!ファントムクリスタルを入手するとは!やるじゃないかお前達!」
男性の豪快な笑い声が聞こえてきた。
「『岩砕の斧』のガエンだ。うちは鉱石採掘を主な生業にしているパーティでな!幻のファントムクリスタルを狙って『幽影鉱道』には何度も潜ったことがある!お前達がいる地下は庭みたいなもんだ!」
おお!なんて頼もしい!
これは生還の可能性が高まった!
流石Aランクパーティ!
「本当ですか!!?とても頼りになります、ありがとうございます!」
「なぁに、可愛い子達のためだ!この程度どうということはない!ワハハハ!」
コメント欄も頼りになる男の登場に大盛り上がりだ。
「まず、『幽影鉱道』について説明する必要がある。『幽影鉱道』は一般的に知られている表ルートの他に、地下へ続く裏ルートが存在している。表ルートは人の手が行き届いており、あちこちに発光石が埋め込まれている。対して裏ルートは、一部の高ランク冒険者にしか知られておらん。ゆえに人の手が入っていないため、発光石が埋められておらず、暗視魔法なしでは探索が困難だ」
コメント欄もムビ達も、初めて聞く情報に驚いた。
「まぁ、裏ルートへの侵入経路はそう簡単には見つからんからな。Aランクの魔物がお前達を追って来ることは、まず間違いなく不可能だと思って良いと思う」
「ほ……本当ですか!?」
最大の懸念事項が解消し、『四星の絆』の雰囲気が明るくなった。
「でだ、肝心の表への戻り方だが、2つのルートがある。ちょいとお前さん達、周辺を映してくれんか?」
ムビは周辺の景色をカメラに映した。
「うーむ、流石にこんな狭い道だと分からんなぁ。ちょいと、広い所まで行ってもらえんか?そうしたら位置を特定して、近い方のルートを案内してやるぞ。……そうだ、裏ルートはCランクの魔物が出るからな、気を付けろよ?」
「わ……分かりました!お願いします!」
そのとき、ギルドアカウントのコメントが表示された。
魔物を特定しました




