第58話 ダンジョン配信
「Aランク上位……」
シノがゴクリと喉を鳴らす。
「あの黒いフードの魔物と遭遇せずに、ダンジョンから脱出する必要がありますわね」
「そうですね。ただ、正規ルートから完全に離れてしまったので、俺達はダンジョンで遭難している状態です。体力温存をするため、迂闊に動かない方がいいでしょう」
ムビはハンドカメラを取り出す。
「なので、救援要望の配信を行います。これで外部に状況を伝えて、救助が来るのを待ちましょう」
「配信って……。ダンジョン内は、魔法ネットワークの圏外なのでは……?」
「大丈夫です。俺の体内の魔力回路を、強制的に魔力ネットワークに接続します」
「えっ……そんなことできるんですか……!?」
「転移魔法の応用です。物体よりも、魔力回路の方が転移しやすいんですよ。まぁ見ててください」
ムビはハンドカメラを構え、配信をオンにする。
おっ、四星の絆じゃん
メインチャンネルの配信珍しいー
配信乙
コメント欄が反応し始める。
「凄いっ……!本当に配信できてる!」
「僕がカメラを持つので、シノさん、説明をよろしくお願いします」
「わ……分かりました!」
シノが咳払いをする。
「皆さんこんにちは、『四星の絆』です。私達、『幽影鉱道』でAランクの魔物に襲われて、崩落に巻き込まれ、今ダンジョン内で遭難しているんです。どなたかルミノールのギルドに、救難依頼を出していただけないでしょうか」
な……なんだって?
嘘でしょう!?
フェイクじゃね?
ギルドに連絡しなきゃ!
そのままシノは繰り返し状況説明をする。
リスナーの数は増え続け、1時間後には1万人に到達した。
SNSから飛んできた
みなさん頑張って!
Bランクパーティ『黒鉄の蠍』がいるぞ
『幽影鉱道』の地下なんてあったっけ?
きっと助かる
「凄い、同接1万なんて初めてだ……まだまだ増えてる」
「有名な冒険者達も、ちらほらいらっしゃいますわね」
こちらルミノールギルドです。
「きた!ギルドアカウントのコメントだ!」
「発言を許可するので、直接話してください!」
ムビはギルドアカウントの発言を許可する。
「……こちら、ルミノールギルドです。状況を教えてください」
「『幽影鉱道』内にてAランクの魔物と遭遇しました!魔物の魔法により足場が崩落し、現在遭難中です!メンバーは全員無事ですが、ユリが呪いを受けています!」
「呪い……?どんな呪いですか?」
「精神系の呪いで、酷く怯えているみたいです」
「状態異常ではないのですか?」
「エリクサーで傷は治しましたが、恐怖状態が治りません。それに、探知魔法により呪いを探知しました」
「……エリクサー?Dランクパーティが、エリクサーですか?」
「そうです!エリクサーです!間違いありません!」
しばらくまどろっこしいやり取りが続いたが、シノは懇切丁寧に説明を続けた。
「なるほど、状況は分かりました。Aランクの魔物の種類は分かりますか?」
「いえ、種類までは……。見たことのない魔物でした。黒いフードを被っていて……」
「黒いフード……。本当にAランクの魔物であれば、ギルドとしても簡単に救援隊を送るわけにはいきません。できれば魔物を特定できるような情報が欲しいところです」
話を聞いていたムビは、体内の魔力回路を使い瞬時に動画編集を行った。
「すみません、ちょっとよろしいでしょうか。『四星の絆』のメインチャンネルに、魔物の動画をアップロードしました。よろしければ、そちらで確認をお願いします」
「なるほど……わかりました。一旦確認してきます」
ギルド職員は配信から抜けた。
「ムビ君、どうやって動画編集したの?録画したカメラは全部壊れたのに……」
「僕の頭の中の記憶を動画にしました」
「そんなことできるの!?」
「はい。普段も、正確には動画を直接編集しているのではなく、動画を脳内で高速で読み取り、その記憶を動画化していたので、自分の記憶ならいつでも動画にできるんです」
「そ……そうだったんだ……」
ムビの声を聞いて、コメント欄がざわつき始める。
男?
男だよな?
えっ、四星の絆とダンジョンに一緒にいるの?
なんで男がいるんだ?
「ちょ……ちょっとどうしたんですか皆……」
裏切られた
ファンやめよ
マジで幻滅
『四星の絆』のチャンネル登録者数が減り始めた。
「ちょっと……!こんなときに……!」
「シノさん、落ち着いて。大丈夫ですわ。一部のユニコーンが荒れているだけです。それに、コメント欄の殆どは私達の味方ですわよ」
こんなときに何男とか言ってんだ
余計なことで四星の絆に負荷かけんなって
こんなんで幻滅する奴はさっさと出て行け
「すみません。私達を襲った魔物が何なのか、どなたか情報をくださいませんか。それから、『幽影鉱道』の地理に詳しい方、よろしければアドバイスをお願いします。たくさん情報を集めたいので、良ければSNSでも拡散をお願いします」
おっけー
調べてみる
拡散しとくわ
有識者の目に留まるといいな
「皆さん、本当にありがとうございます。時間も遅いので、一旦配信を切ります。明日の朝8時にまた配信を再開します。何か分かったらそのときに教えてください。それでは、また明日」
ムビは配信を切った。
「シノさん、ありがとうございました」
「いえ。しばらくは進展無いかなと思って一旦配信切っちゃったけど、良かったかな?」
「はい、大丈夫です。僕達も休息が必要ですし、魔石も限られていますからね。明日は丸一日配信をしましょう」
「ところで、皆さんスマホはやはり壊れていますか?」
「そうですね、落下の衝撃で……」
「ですわよね。ということは、このカメラだけが唯一外との交信手段になりますわね」
「そうですね。このカメラは死守しないといけません」
カメラの電源を落とすと、周囲は闇に包まれた。
暗視魔法のおかげで昼のように明るく見えるが、いつあの魔物が姿を現すかと思うと皆恐怖に襲われた。
「大丈夫です。外に助けを求めることができましたし、必ず助かります。明日に備えて休みましょう」
できるだけ目立たない物影の方で結界スクロールを展開し、『四星の絆』は横になった。
この結界もCランク以下の魔物にしか効かないから、あの魔物には無意味だろうな……。
皆、黒いフードの魔物の襲撃を思うと、なかなか眠ることができない。
「嫌だぁー!!怖いーーー!!」
ユリが泣き叫び、更に恐怖を駆り立てる。
ルリが睡眠魔法をかけ、ユリを眠らせた。
「皆も、今日は睡眠魔法で眠った方がいいかもね」
「ごめん……お願い」
ルリは全員に睡眠魔法を掛け、一人で見張りを始めた。
こうして、『四星の絆』の長い一日は幕を閉じた。




