第53話 ダンジョンボス戦3
ゴーレムは大木のような腕を振りかぶり、ユリとシノに殴りかかる。
「 「”双星の交錯”!!」 」
二人の合体技はゴーレムの攻撃目掛けて放たれ、ゴーレムの攻撃をはじき返した。
反動でゴーレムは後ろに仰け反った。
……が……合体技でパリィ……!!?
何て無茶苦茶な……!!
ゴーレムは追撃を繰り出すが、それもまた合体技でパリィする。
怒りの雄たけびを上げながらゴーレムは怒涛の攻撃を繰り出すが、次々と合体技でパリィしていく。
「な……何やってるんですか!!もし合体技が発動しなかったら、二人とも死にますよ!!?」
それでも二人はパリィを続ける。
ムビの言葉がもう聞こえていないみたいだ。
二人の眼。
遥か格上のゴーレムを、獲物としか見ていない。
一歩間違えれば死に直結する状況で、薄く笑みを浮かべる。
動きは益々躍動感を増していき、ゴーレムは押され始める。
「「"双星の調律"!!」」
詠唱の完了したルリとサヨが合体魔法を放つ。
ゴーレムはまともにくらい、ノックバックした。
「「———ガラ空きいぃぃぃ!!」」
ユリとシノがゴーレムの懐に入る。
ムビは二人の眼に宿る狂気にゾクリとした。
「 「”双星の交錯”!!」 」
ゴーレムは吹っ飛び、支柱にぶつかりダウンした。
『四星の絆』は倒れたゴーレムに一斉に襲い掛かる。
「あはははは!本当にさっきより効いてるみたい!」
ユリはハイになっているのか、笑いながら何度もゴーレムを切り付ける。
「”奈落の泥流”!」
ゴーレムはまたも泥濘にはまり、立ち上がるのが困難になる。
たまらず、体を発光し始める。
「来るよ!回避!」
『四星の絆』はゴーレムから素早く距離を取り、衝撃波を回避した。
「くそー、ここで決めようと思ったのに!」
ユリが悔しそうに呟く。
衝撃波は回避したが、距離を取ったため、ゴーレムの起き上がりを許してしまうだろう。
「皆さん!ゴーレムが起き上がりに突進してきます!散らばって、全力で回避してください!」
ムビが『四星の絆』に警告する。
「えっ、何で分かるの?」
「ゴーレムはダウンからの復帰後、必ず突進してくる習性を持っています。この突進の威力は、ゴーレムの攻撃手段の中でも最大です。”双星の交錯”や"双星の調律"でもとても防げません!躱すしかないです!」
「躱すって……さっきの突進、とんでもない速さだったよ?ムビ君の転移があったから躱せたけど、生身で躱すのは難しそう……」
「それでも、躱すしかありません!当たったら即死です!僕がスキルを使って、狙われた1人の素早さを倍にします!」
それでも、躱せるかどうかは微妙だが、やるしかない。
ゴーレムは泥濘から抜け出し、今まさに立ち上がろうとしていた。
「皆さん、早く散って!」
『四星の絆』は互いに顔を合わせ、コクリと頷く。
ムビの前に立ち、四人全員が固まった。
「な……何を……!?」
「だーめ。そのやり方だと、ムビ君がゴーレムに狙われたら死んじゃうでしょ?」
確かにムビのステータスでは、例えスキルを使っても、ゴーレムの突進を回避する確率は低いだろう。
だが、確率は20%。
それに……最悪、『四星の絆』の誰かが欠けるよりはマシだ。
「見てよ、ムビ君。あいつの体」
ユリがゴーレムを指差す。
体中にヒビが入っている。
「ゴーレムも、もう限界が近いよ。次、強烈な一撃を当てれば、きっとそれで終わるよ」
『四星の絆』の魔力が混ざり合う。
これは……四人合体技!?
「ダメです!四人合体技なんて!失敗したら、全員死ぬんですよ!?」
「大丈夫。さっきうまくいったし」
「状況が違い過ぎます!絶対ダメです!」
一度成功したと言っても、金喰いスライムの時は失敗しても命の危険のない状況だった。
今は、失敗したら即全滅という状況だ。
極限のプレッシャーがかかる状態で、完璧に息を合わせないと発動できない四人合体技なんて、失敗するに決まっている。
自殺行為だ。
ゴーレムは立ち上がり、怒りの雄たけびを上げる。
「ゴオオォォォォォォッ!!!」
狙いを付け、突進の体勢に入る。
「ムビさん。私達は、誰か1人がゴーレムに殺される未来より、今ここで全員でゴーレムを倒す未来を選択したいですわ」
「……サヨさん……」
「ムビ君。———私達を信じて」
『四星の絆』の全員が、笑顔でムビを見ていた。
まるで天使のような美しさに、ムビは一瞬我を忘れた。
これが『四星の絆』―――。
相手が強大であればある程。
目標が大きければ大きい程。
研ぎ澄まされ、全力で向かっていく。
どれほどの逆境でも。
どれほどのリスクがあっても。
一切の迷いなく、自分と仲間を信じ抜く。
ムビが四人の笑顔から感じものは、美しさと、狂気と、底抜けの優しさ―――。
「……よろしくお願いします。最高にカッコいいシーン、あとで編集させてください」
ムビの言葉に、四人はニコッと笑って返事をする。
ムビは腹を括った。
ムビにできることは、もう動画を撮ることだけだ。
空中に浮遊させたカメラにのみ集中する。
「ゴオオォォォォォォッ!!!」
ゴーレムが突進してくる。
僅か数秒後に、『四星の絆』かゴーレムか、どちらかがこの部屋からいなくなるだろう。
ムビは時間がゆっくり流れているように感じた。
これが走馬灯か。
小さい頃の記憶だ……。
魔法にのめり込んだ少年時代。
『白銀の獅子』に加入した青年時代。
『四星の絆』との様々な思い出が思い出され―――皆の笑顔が浮かんだ。
「「「「"四星の輝き"!!!!」」」」
『四星の絆』から放たれた莫大な光の渦は、巨大ゴーレムをたやすく飲み込んだ。
「ゴオォッッ!!?」
突進を止められ―――押し戻され―――体が宙に浮き―――吹き飛ばされ―――。
ドゴオオオォォォォォォォォォォン!!!!!
天井が崩落するのではないかと思う程の衝撃が、部屋全体を大きく振動させた。
『四星の絆』の正面には、魔力により抉られた地面が続いていた。
そしてその向こうに……全身ヒビだらけのゴーレムが倒れていた。
「ゴ……ゴォ……」
ゆっくりと、『四星の絆』に向かって這いつくばっていく。
実に緩慢な弱々しい動きで―――ようやく部屋の中央に到達したところで、動きが停止した。
ピシッ
ゴーレムの体がヒビ割れ始める。
「ゴォ……」
ゴーレムは最後に小さく鳴き―――粉々に四散した。




