第49話 奥にあるもの
「・・・?どうかしましたか、ムビさん?」
サヨが異変を察知し、ムビに話しかける。
「ちょ・・・ちょっと待ってくださいね・・・」
ムビはそのまま探知を続ける。
1分程壁に手を当て続け、すっと壁から手を離した。
「何か反応があったのですか?」
サヨが再度質問する。
ユリ、シノ、ルリは談笑していたが、ムビとサヨの様子に異変を感じ、黙って二人を注視した。
ムビはサヨの質問に答えない。
ムビ自身、今の反応が何なのか分からなかったからだ。
どういうことだ・・・?
この反応・・・考えられるのは・・・。
ムビはしばらく思考に耽り、一つの結論に至った。
・・・まさか、そんなことが!?
再び岩盤に手を当てて探知する。
・・・やっぱり、そうとしか考えられない。
「あの・・・ムビ君、何かあったの?」
ユリが恐る恐るムビに質問する。
「・・・この先に、巨大な金属の塊があります」
「そ・・・そうなんだ。巨大って、どれくらい?」
「縦幅は10メートル、横幅は5~6メートル。探知範囲ギリギリだったので、1回目の探知では厚みが分かりませんでした。2回目、更に探知範囲を伸ばして調べてみたら、厚みは2メートル程だと分かりました」
ムビの説明に、サヨは眉をしかめる。
「縦、横、厚み・・・?ムビさんの説明だと、まるで立方体のように聞こえますが?」
「そうなんです。立方体なんです。それも、精密な」
『四星の絆』に、ザワ・・・とした空気が流れる。
「立方体って・・・箱か何か、ということ?」
「いえ、縦長なので、箱ではないような気がします」
「精密な形をしているなら、自然物ではなさそうですね」
「ムビ君、それって巨大なレア鉱石ってこと?」
「いえ、レア鉱石ではありません。普通の金属、多分鉄か何かだと思います」
「そうなんだ・・・気になるけど、それなら掘らなくても良いかもね」
「いえ・・・問題は、その金属では無いんです」
「・・・どういうこと・・・?」
ムビは一呼吸間を開ける。
「その奥で、希少鉱石が動いたんです」
ムビの言葉に『四星の絆』は背筋が震えた。
「動いた?何らかの理由で、岩盤が移動したということですか?」
「俺もそれを考えたのですが、そうではないみたいなんです。」
ムビは言葉を選びながら話した。
「巨大金属の探知をしているときに、違和感を感じました。立方体の周辺だけ、岩盤を探知できないんです」
「岩盤を探知できない?どういうことですの?」
「恐らく、岩盤が無いのだと思います。巨大金属の周辺には、空間が広がっているのではないかと思います」
「空間・・・?500メートルの分厚い岩盤の向こうにですか?」
サヨが信じられないという表情をする。
「正確には、立方体の手前に僅かな空間と、その奥に広い空間があります。その空間の真っただ中に、
動く希少鉱石があるみたいなんです」
「どういうこと?全然分からん」
ルリが腕を組んでしかめっ面をする。
「同じような違和感が道中にもありました。金食いスライムのときです。鉱石探知、魔物探知の両方に反応し、ちょうど動く鉱石という印象でした。もしやと思い、立方体の奥に魔物探知を向けてみたら・・・魔物の反応がありました」
『四星の絆』に緊張が走る。
「・・・ということは、立方体の向こうに、金食いスライムみたいな、全身希少鉱石の魔物がいるってこと?」
「恐らく・・・そしてこれは推測なのですが・・・立方体は、扉なのではないかと思います」
「扉・・・・?それって・・・まさか・・・」
シノは驚嘆の声を上げる。
「ボス部屋の可能性があります。全て推測ですが、もしもこの推測が正しい場合、『幽影鉱道』は未踏破ダンジョンだったということになります」
ダンジョンには最深部にボス部屋が存在するケースがある。
必ず全てのダンジョンにボス部屋があるわけではないが、ボスの存在するダンジョンは魔物の出現率が異常に高くなる。
ボスは討伐されれば二度と復活することはなく、ダンジョンの魔物の数も減少する。
ボス部屋には必ず扉があり、ボスが健在の間は固く閉ざされ、ボスが討伐されれば開きっぱなしになる。
「た・・・確かに、それなら『幽影鉱道』の魔物の出現率の高さは説明がつきますわ」
「『幽影鉱道』くらい有名なダンジョンが未踏破だったなんて、そんなことあるの・・・?」
「・・・ムビ君、ボス部屋の中にどんな魔物がいるか分かる?」
『四星の絆』全員の冷や汗が止まらない中、ユリがムビに質問する。
「僕の魔物探知は魔物の強さや種類までは分からなくて・・・。ただ、全身希少鉱石でできているなら、恐らくゴーレムの類なのではないかと思います」
「ゴーレムって、さっき倒した・・・」
「ゴーレムの強さには段階があり、それは体の材質で決まります。最も弱いのは岩のゴーレムで、これが先程倒した討伐推奨レベル30のゴーレムです。レア鉱石の黒鋼の体を持つアイアンゴーレムは、討伐推奨レベルが40になります。希少鉱石の体のゴーレムは、それよりも更に強いです。ミスリルゴーレムなどがそれにあたります」
「ムビ君、さっき希少鉱石の反応があったって言ってなかったっけ・・・?」
「そうです。ミスリルかは分かりませんが、恐らく同レベルの希少鉱石です。もしもこのミスリルゴーレムと同程度の強さであるならば、推奨討伐レベルは50を超えます」
ユリがゴクッと喉を鳴らす。
討伐推奨レベル50は、Bランク冒険者の領域だ。
Bランクの魔物は討伐推奨レベル40~80で設定されている。
一流の冒険者のみが戦うことを許される、本物の怪物だ。
とてもDランクパーティが手を出して良い相手ではない。
「・・・どうする?やるの・・・?」
ルリが、周囲の四人に問いかける。




