第44話 金喰いスライム出現
金喰いスライム。
中級以上のダンジョンで稀に出現する超レアモンスター。
その名の通り、金を主食にしているスライムで、全身が黄金でできている。
戦闘能力はほぼ無いものの、もしも倒すことができれば莫大な経験値と財を手に入れることができる。
その代わり、圧倒的な耐久力とスピードを持ち、遭遇してもすぐに逃げてしまうため、討伐が非常に困難な魔物として知られている。
運良く討伐できた冒険者は、嬉しさのあまり一ヶ月は笑いが止まらないという。
『Mtube』でも金喰いスライム動画はたくさん上がっているが、その99%は逃げられたという動画だ。
しかし、討伐成功した1%の動画は例外なく大バズりしており、その動画1本で登録者数が数十万人増えると言われている。
ムビも『白銀の獅子』時代、一度だけ遭遇したことがある。
そのときは何の準備もしておらず、浮足立つばかりであっさり逃げられてしまった。
その悔しさから、次に会った時こそは……と日々作戦を考えていた。
―――何が何でも、絶対に討伐してみせる!!!
「時間が無いので、手短に作戦を伝えます!」
「わ……分かった!どうすればいい??」
『四星の絆』は全身に透明化魔法をかけた状態で通路の端に潜伏する。
しばらくすると、コツ、コツ、という金属の球が地面を跳ねるような音が近付いてきた。
黄金の体、エメラルドグリーンの瞳。
間違いなく金喰いスライムだ。
事前に接近を知らされていたが、いざ本物を目の前にすると『四星の絆』は足が震えた。
動画でしか見たことがない、全身黄金の塊。
凄まじい迫力だ。
もう目の前まで金喰いスライムが来ている。
ムビはカメラにバッチリ金喰いスライムの姿を捉えていた。
万が一にもバレないように、『四星の絆』は必死で息を潜める。
金喰いスライムが目の前を通過し、そのまま鉱道の奥へ向かう―――
ムビが、ルリの肩を叩いて合図する。
「”大地の要塞”!」
ルリが地属性の中級魔法を発動する。
”大地の要塞”は、本来守りの魔法だ。
目の前に大地の壁を作り、敵の攻撃を防ぐ目的で使用される。
現在いる通路は、鉱道内でも特に狭く、高さ・横幅ともに3メートルといったところだ。
そこにムビのスキルで倍化した”大地の要塞”を放てばどうなるか?
一瞬で通路を塞ぐことができる。
金喰いスライムは、目の前の通路が突然壁で塞がれて驚いた。
振り返ると、そこには『四星の絆』が武器を構えて立っていた。
完全に壁際に金喰いスライムを追い詰めた形だ。
通常の魔物ならば、壁を砕いて逃げることができるかもしれない。
だが、攻撃力の低い金喰いスライムにはそれができない。
「皆さん、攻撃はしないでください!このまま、後方に逃げられないように牽制に徹してください!」
これ程有利な形を作っても、『四星の絆』の現在のステータスでは金喰いスライムには逃げられるだろうとムビは考えていた。
金喰いスライムから3メートル程離れたところでユリとシノが、更に1メートル後方にムビとサヨが、その1メートル後方にルリが構え、通路を隙間無く埋める。
金喰いスライムは警戒しながらこちらの出方を伺っている。
いいぞ、このまま動かないでくれ……!
最後方でルリが”大地の要塞”の詠唱を開始する。
このまま後方の通路も塞ぎ、完全な密閉空間を作り上げるのがムビの作戦だ。
鳥籠が完成すれば、あとはじっくり料理すれば良い。
詠唱が終わるまであと10秒……5秒……。
このまま膠着状態が続けばこちらの勝ちだ。
そのとき、金喰いスライムが動いた。
猛烈なスピードでユリとシノの間に突進する。
「この……逃がす……かっ!?」
捕まえようとする二人の動きを見てフェイントをかけ、一瞬で壁際に跳躍しシノの横を抜く。
「は……はやっ……!?」
「このっ!」
ムビとサヨが通路を塞ごうとするが、フェイントをかけられあっさり抜かれる。
「ま……まずい……!」
最後尾のルリが詠唱を唱えながら道を阻むが、またフェイントをかけられあっさり抜かれる。
だ……駄目だ……終わった……。
抜かれたルリが絶望したそのとき、
「まてーっ!」
ユリが金喰いスライムの前に立ちはだかる。
「ユリ……!?はやっ!どうやって追いついたの!?」
「スピードを倍加させました!ユリさん、できるだけ粘って!!」
金喰いスライムがムビ、サヨ、ルリを抜くため一瞬止まっている隙に、ムビのスキルでスピードを倍加させたユリがギリギリ追いついた。
ユリと金喰いスライムは一瞬見つめ合う―――
来るっ……!
―――金喰いスライムが突進し、左右に何度もフェイントをかける。
抜群の戦闘センスを持つユリは、金喰いスライムのフェイントについていく。
「ユ……ユリっ!?すごっ……!」
横を抜こうとした金喰いスライムをユリは手で叩き落とす。
抜かせる……かぁっ……!
が、地面に落ちた金喰いスライムはそのまま大きくバウンドし、天井を蹴ってユリの頭上を抜き去った。
「何それっ!?くそっ、ごめん……!」
「”大地の要塞”!」
ルリの呪文が発動し、みるみる壁が出来上がる。
隙間を狙って金喰いスライムは突進する。
間に合え―――!!
ゴンッ!
鈍い音を立てて、金喰いスライムは”大地の要塞”に衝突し、地面にポテっと落ちた。
「や……やったぁ!!金喰いスライムを捕まえたぞ!!」




