第42話 幽影鉱道3
カツンカツンと鉱道内に足音が響き渡る。
『幽影鉱道』の奥に進みながらシノがムビに尋ねる。
「そういえばムビさん、今回はあまり動画を回していないみたいですが、珍しいですね」
「いえ、動画はずっと回していますよ」
ムビが透明化魔法を解除すると、空中に浮かぶカメラが現れた。
「この高性能カメラ、魔力消費量が従来の半分以下で済むんです。なので、今回の冒険では回しっぱなしにしてます。さっきの白銀鋼の発掘のシーンもバッチリ撮影してました」
本当は食事中もこっそりカメラを回していたが、敢えて黙っていた。
「カメラ回ってたのかー恥ずかしいー」
ルリが不満げに口を尖らせる。
「あはは、都合が悪いところは編集で消しておくので」
今回の冒険では撮影だけの時間を極力設けない方針だった。
『幽影鉱道』は広い。
入口から最深部まで20キロある。
探索に時間がかかるし、達成すべきタスクも膨大だ。
Dランクの魔物討伐、レベルアップ、素材の採掘・・・。
いちいち撮影の度に足を止めてはとても間に合わない。
少しでも効率よくダンジョンを攻略するため、今回はマップの把握やスケジュールを練りに練ってきた。
探知魔法を全開にし最速でダンジョン攻略を目指す。
「あっ、すみません、ここ掘ってください」
ムビの指示通りに掘ると、またレア鉱石が出てきた。
「うおー!また出てきたよー!」
「黒鋼ですね。この量なら恐らく100万円というところでしょう」
その後も100メートルおきにムビの指示でレア鉱石を採掘した。
『幽影鉱道』に入って1時間程で、既に2000万円相当の鉱石を採掘していた。
「すごい・・・私達、どんどんお金持ちになっていくよ・・・!」
「こんなに簡単に採掘できると、イマイチありがたみが湧いてきませんね」
歩きながらムビは探知に集中する。
岩盤の奥にレア鉱石の巨塊がある・・・。
でもこれを採掘するのは時間がかかるな、スルーしよう。
10メートル圏内には鉱石がたくさんあるな。
でも小さすぎて割に合わないからスルー。
・・・おっ、これはそこそこ大きいから採掘しようかな。
「すみません、ここ掘ってください」
「おー!水鏡石だー!」
鉱石を保存袋に入れたところで、ムビがピクリと反応する。
探知魔法に魔物の反応があった。
「200メートル先に魔物が3体います」
『四星の絆』にピリッとした緊張感が走る。
先に進むと、ムビの言う通り魔物と遭遇した。
「ストーンバイターですね」
ストーンバイターはDランクの魔物で、討伐推奨レベル12。
全身が固い岩で覆われており、鋭い牙で噛みついてくる。
体は小さいがダンゴール以上のパワーと頑丈さを誇る。
ストーンバイターはこちらに気付き、襲いかかってきた。
しかし、前もって探知していた『四星の絆』は、既に呪文の詠唱が完了していた。
「”闇の波動”!」
サヨが中級範囲魔法を発動する。
ムビはスキル『エンパワーメント』により、ルリの魔法攻撃力をサヨに丸ごと振り分け、威力を倍増させた。
「ギイイイイイッ・・・!」
ストーンバイター3体は一撃で息絶えた。
「凄い、Dランクの魔物を一撃で・・・!」
「サヨさんも随分強くなりましたね」
「何をおっしゃいますやら。ムビさんのバックアップが無ければ、流石にこうはいきませんわ」
その後も、『四星の絆』は凄まじいペースでダンジョン攻略を進めていった。
鉱石を探知すれば数分以内に採掘。
魔物を探知すれば準備万端で戦闘を開始し、30秒以内に討伐。
魔物の討伐証明部位と素材の採取を数分以内に完遂。
4時間程で、ダンジョン最深部ルートの2割程度の地点まで到達していた。
「そろそろ休憩しましょうか」
4時間の間ぶっ通しで動き続けた『四星の絆』は汗だくだった。
「いやー、流石に疲れた!」
「もうへとへとだよ」
「でも、未だにMPが全く減ってないのは驚異的ですわね」
全員疲れていたが、その代わり成果は凄まじかった。
ここまでで採掘した鉱石は、全部でおよそ5000万円程の価値になる。
討伐した魔物の数は、Dランクが20体で、既にCランクパーティ昇格条件を満たしていた。
報酬にして200万円、素材を売ればもういくらか稼げそうだ。
更に、『四星の絆』全員のレベルが16に上がっていた。
ここまでは非常に良いペースで進んでいる。
今日はこのまま最深部ルートの半分は踏破したい。
「Cランクパーティ昇格条件は達成しました。あとはレベルアップと素材集めですね。このまま頑張っていきましょう」
ムビはそう言いながら、全員にスタミナポーションを渡す。
「そうか、私達、もうCランクパーティになれるのか!」
「一人前の冒険者達の仲間入り・・・感慨深いですね」
「おぉー!このスタミナポーションうまい!」
「高級スタミナポーションですからね。1個3万円です」
「これ3万もするの!?・・・ごめん、大事に飲むわ」
「いえいえ。たくさんあるので遠慮なく飲んでください」
ムビが笑顔で言う。
「ムビさんこそ、魔力は大丈夫ですか?鉱石と魔物の探知魔法を同時展開しながらカメラも常時回しっぱなし。おまけに戦闘時は私達の魔力を全て肩代わり。流石に魔力が持たないのでは?」
「大丈夫です。絶対に魔力切れを起こさないように、高級魔力ポーションを水筒代わりに飲んでます」
ムビが首にぶら下げた魔力ポーションをグビグビ飲む。
「魔力ポーションって、スタミナポーションの比じゃないですわよ・・・一体いくらしたんですか?」
「これは一個300万ですね」
「さ・・・300万を水筒代わりに!?」
「Aランクパーティの魔法使いの魔力を完全回復させるような代物ですからね。何本かあるので気にしないでください」
ポーションで体を回復させた後、そのまま昼食に保存食を食べた。
1時間程休憩した後、再び5時間ぶっ通しでダンジョンの探索をした。
「お疲れ様でした。今日はここでキャンプしましょう」
一日中採掘と戦闘を繰り返し、『四星の絆』は泥まみれの汗まみれだった。
本日の成果は、『幽影鉱道』最深部ルートの50%踏破。
鉱石およそ1億円分の採掘。
Dランクの魔物討伐50体分。
『四星の絆』全員レベル17にレベルアップ。
「めちゃくちゃ疲れたけど、上々の成果だね♪」
「明日もこのペースか・・・今日はしっかり休みましょう」
「うわーん、お風呂入りたーい」
「まぁ、あと数日の辛抱ですわ。ムビさん、見張りはどういたします?」
「今日は見張りは大丈夫です。魔物除け呪文のスクロールを購入したので、これを一晩発動しておきましょう」
「また高そうなものが・・・」
魔物除けスクロールを展開すると、半径5メートル程の結界ができた。
「この結界の中にはCランク以下の魔物は入って来れません。スクロール1つで24時間は結界を維持できるみたいです。今日はゆっくり休みましょう」
『四星の絆』は結界内で料理を作り、ゆっくり晩御飯を食べた。
疲れ切っていたが、皆で食べる料理は最高だった。
しばし団欒の時間を過ごし、『四星の絆』は泥のように眠った。




