第41話 幽影鉱道2
ムビ達は日が落ちる前に木の枝を集め、焚火を起こした。
全員でカレーを作り、焚火を囲んで食べた。
「んんー、美味しいー♪」
「カレーもほんと数年ぶりですね」
『四星の絆』は久しぶりのカレーの味に打ちひしがれていた。
カレーを食べながら明日の打ち合わせをする。
「『幽影鉱道』はDランクの魔物の巣窟です。他のダンジョンと比べても、極めて魔物との遭遇率が高いです。たくさん戦闘することになると思うので気を付けましょう。それから、今回は装備品の素材集めも大きな目的です」
「素材集め・・・新しい武器を作るということですか?」
「そうです。現在の装備は、Dランク冒険者としては少し物足りないです。今回の『幽影鉱道』探索でCランクへの昇格も狙うつもりなので、装備品の強化は最優先課題と言えます」
「ほえ~、一発でCランク昇格・・・」
「普通ならとても無理ですが、ムビさんが仰るなら可能なのでしょうね」
これまでの数々の実績を踏まえ、『四星の絆』はすんなりとムビの言葉を信じることができた。
「『幽影鉱道』は黒鋼、精霊鉱、白銀鋼、火炎鋼、水鏡石など貴重な素材が手に入ります。これらを大量に採掘できれば、皆さんの装備品をCランクパーティ用に一新することも可能だと思います」
「でも、『幽影鉱道』は古くから採掘されていて、そう簡単にはレア素材は手に入らないと聞きますが・・・」
「そうですね。岩盤も固いので、採掘するのはなかなか困難です。魔物の妨害もありますしね・・・。そこで、今回はこれの出番です」
ムビは魔法袋からつるはしを取り出した。
「ルミノールで一番高価なつるはしを買ってきました。1個2000万円です」
「2000万円!?」
『四星の絆』は驚愕した。
「はい。これを5個買ってきたので、皆で力を合わせて掘りましょう」
「えぇっ!?てことは全部で1億円!?今回の冒険のためだけに!?」
「そうですね。冒険の質を上げるため、魔法袋や高性能カメラ、回復アイテム、魔導書も買って、総額10億円くらい出費しました。でも、決闘で15億稼いだので、まだ大丈夫です」
ムビはニコッと笑う。
「Dランクの依頼に10億!?Aランクパーティの年間支出に匹敵する額だよ!?」
「ムビ君の金銭感覚やばいな・・・」
冒険者に出費は付き物。
つぎ込んだ分だけ安全・快適が保証されるのは重々承知している。
しかし、このペースでは15億もそのうち無くなってしまうのではないかと、『四星の絆』の全員が危惧した。
「それから今回、Dランクの魔物10体討伐によるCランク昇格を狙いますが、皆さんのレベルアップも目的です。レベル20以上を目標にしようと思います」
Dランクの魔物は討伐報酬1体あたり10万円、討伐推奨レベルは10~20に設定されている。
レベル20は、一人でDランク最強種の魔物と渡り合えるレベルだ。
「レベル20かぁ・・・。ふふふ、『Mtube』もまた盛り上がりそうだね♪」
『四星の絆』のチャンネルは『白銀の獅子』との決闘後、登録者数が爆発的に伸び、既に20万人を突破している。
ただ、ムビは懸念を抱く。
『四星の絆』は『白銀の獅子』を倒して、世間的には既にAランクパーティ並の評価を受けている。
実際はまだレベル15、Dランクパーティ並の実力しかない。
評価は高いに越したことは無いが、あまりにも現実とかけ離れた評価は『白銀の獅子』同様、いずれ身を滅ぼしかねない。
そのため、少しでも早く実力を高める必要があるとムビは考えていた。
「マシュマロ持ってきたから、これデザートね♪」
ユリが串にマシュマロを通し、焚火の周りに5本立てた。
「おぉー、美味しそうー♪」
「これはまた乙ですね」
ムビの心配をよそに、『四星の絆』はワイワイ盛り上がっている。
ムビはくすっと笑う。
そうなのだ。
レベルアップだの評価だの、本当はどうでもいい。
ただ、いつまでもこうして皆と一緒にいたいだけだ。
ようやく見つけた自分の居場所。
それを守るためならば、ムビはどんなことでもするだろう。
「はいムビ君、あーん♪」
ユリが笑顔でムビにマシュマロを食べさせようとする。
ムビは少し照れながらマシュマロを口に入れた。
「美味しい?」
「・・・はい、美味しいです」
ムビはこの幸せがいつまでもずっと続けばいいのにと思った。
翌朝、『四星の絆』は幽影鉱道の入口に立っていた。
山の中腹に、ぽっかり大きな穴が開いている。
入口の前で、『Mtube』用の動画をひとしきり撮影した。
「ここから先は魔物が出てくるので、注意して行きましょう」
中に入ると、鉱道内は意外と明るかった。
冒険者や採掘者が定期的に管理をしているらしく、あちこちに発光石が設置されている。
とても広い空間のあちこちに人が通れる程の穴が掘られている。
「あの穴はアリの巣みたいにそれぞれどこかに繋がっています。『白銀の獅子』時代にマッピングしたので、奥に繋がる道に進んでいきましょう。・・・ん?」
ムビがピタリと止まる。
「どうしたの、ムビ君?」
「探知魔法に反応がありますね・・・。ユリさん、そこの崖の上に登っていただけますか?」
「おっけー」
ユリは切り立った崖の上を上る。
「もうちょっと右の方・・・そう、そこです。そのあたり、ちょっと掘ってもらえますか?」
「わかったー」
ユリはつるはしで硬い岩盤を掘り出す。
「うっはーーー!このつるはしすっご!どんどん掘れちゃう♪」
ユリは物凄いスピードで岩盤を掘っていく。
「ムビさん・・・何を探知したんですか?」
シノがムビに質問する。
「はい。ドワーフ一族に伝わる鉱物の探知に特化した魔法です。魔導書を購入して覚えました。1億円したのですが、早速役に立ったみたいです」
「い・・・一億円!!?」
「追加で鉱物のレア度まで分かるようカスタマイズして、それが2億円でした。まぁ魔導書は数千万円が相場ですから、レア魔法となるとこんなもんでしょう。ははは」
高いお肉を奮発して買ったみたいなテンションが、シノには信じられなかった。
「おっ!なんか出てきたよー!」
ユリが大声で伝える。
「本当に出てきたわね・・・」
「でも、ここは入口ですよ?大したものはもう残っていないんじゃ―――」
「あーーーっ!これ白銀鋼じゃん!?すごーい!初めて見たーーー!」
『四星の絆』は急いで崖を上る。
美しい銀色の鉱物が岩肌から露出していた。
「み・・・皆さん、待ってください・・・」
レベル15の『四星の絆』は軽々崖を登ったが、パラメータの低いムビは時間をかけてようやく登り切った。
「あっ・・・ごめんね、ムビ君」
「いえいえ。おぉ、これは大きいですね。これだけで一千万円はすると思いますよ」
「えぇっ!?そんなに!?」
「まだダンジョンに入って5分も経ってませんわ・・・」
あまりにも早過ぎる素材獲得に、『四星の絆』は若干引いていた。
「一応この魔法、数百メートル内は探知するので、大体の鉱物は見逃さないと思いますよ」
「・・・この魔法凄過ぎませんか?」
「魔導書によると、本来は10メートルくらいだそうですが・・・。俺、探知魔法が得意なので、応用して範囲を拡張しました」
「ムビさんがもう何人かいたら、この世の鉱物は採りつくされてしまいますわ」
「そんな大袈裟な。ははは」
ムビが魔法袋に白銀鋼を収納すると、一行は崖下を目指す。
『四星の絆』はひとっ飛びで降り、ムビは少し時間をかけて降りた。
それにしても・・・
ムビは思う。
崖登りで露呈した、ムビと『四星の絆』のパラメータ差。
恐らく今後、差はどんどん広がっていくのだろう。
ムビはそれが悲しくもあり、恐ろしくもあった。
いつまで『四星の絆』の役に立てるだろうか・・・。
いずれ『白銀の獅子』のときのように役立たずになり、居場所を失うのではないか。
もしそうなったら―――。
一抹の不安が胸を過る中、『四星の絆』は『幽影鉱道』の奥へと進んだ。




