第40話 幽影鉱道
早朝、ルミノールの街の関所で、ムビと『四星の絆』が待ち合わせをしていた。
「おっ待たせー♪」
ユリとシノが最後に合流し、全員揃った。
今日は、中級ダンジョン『幽影鉱道』の探索を開始する日だ。
「皆揃ったようですね。冒頭の動画を撮影して、さっそく出発しましょうか」
街を出てから2時間程歩き、一行は湖の畔を歩いていた。
天気は晴れていて風も穏やかで、朝日が湖面に照らされ美しい景色が広がっている。
「ここいらで、朝ごはんを食べましょうか」
『四星の絆』は湖畔に腰を下ろす。
今回は皆、前回の探索と比べてかなり多くの荷物を背負っていた。
それもその筈。
今回探索する『幽影鉱道』は、ルミノールの街から歩いて半日かかる場所にある。
更に『幽影鉱道』自体が広いため、探索には3日の期間を充てる予定だ。
よって、今回の探索のスケジュールは、初日に『幽影鉱道』までの移動、2~4日目が探索、5日目にルミノールに帰る、という予定だ。
必然的に水、食料、着替え、回復アイテムなど持ち物の量が増えるというわけだ。
「じゃじゃーん♪朝ごはんは、私とシノが手作りで作ってきましたー♪」
「おぉーっ!美味しそうーーー!」
ピクニック用のバスケットの中に、おにぎり、卵焼き、唐揚げ、ポテトサラダ、フルーツが詰め込まれていた。
「1回じゃ食べきれないと思うから、残った分は今日のお昼ごはんね♪」
一行はブルーシートの上で朝食を食べ始めた。
「んんーーー!この唐揚げ絶品!」
「でしょー?隠し味に蜂蜜が入っているのだよ♪」
ムビは美しい景色を見ながら、アイドル達の手作り弁当を食べれる幸せを噛み締めていた。
ワイワイと盛り上がり、冒険というよりはピクニックに来ているような感覚だった。
「少し前までなら、こういうものも食べることができませんでしたからね」
サヨがポテトサラダを見ながら感慨深げに話す。
シノやルリもそれに同調する。
「こういうピクニックも、アイドルでいるうちはできないと思っていましたからね」
「ほんとムビ君の脂肪吸引魔法さまさまだわ!炭水化物でも何でもドンと来いってんだ!」
ルリは言いながら唐揚げとおにぎりをどんどん頬張っていく。
「お腹にもまた脂肪が溜まってきたからな。ムビ君、冒険から帰ったらまた頼むよ♪」
「はい、分かりました」
ルリのウィンクにムビは苦笑する。
「ふふーん♪私の胸も目下成長中だし、この美味しいご飯を糧に早くユリを追い越さなきゃ・・・ん?」
ルリがシノを見て何かに気付く。
そのままジロジロとシノを見つめ続ける。
「・・・?どうかした?」
シノが不思議そうな顔でルリを見つめ返す。
「ふーむ・・・」
ルリが顎に手を当てながら、訝しげな声を出す。
しばらくジロジロとシノを見つめ続け、突然シノの胸を鷲掴みにする。
「ちょっ!?何やって・・・!?」
「・・・お前、やったな?」
ルリが現行犯逮捕した万引きGメンのような顔をしている。
「なっ・・・なななななな何のことかなっ!??」
「とぼけるんじゃない。この肉はなんだね。何故、真っ平だった大地に小山ができているのかね?」
言いながらルリは小山を捏ね繰り回す。
「・・・や・・・ほんの少し、出来心で・・・」
「なぁにが出来心だねトリプルAカップくん?こりゃCカップ以上あるじゃないか。また随分と思い切りよく盛ったもんだね、えぇ?」
ルリはちら、とムビを見る。
「やったのかねムビ君?」
「あの・・・確かに脂肪吸引魔法と、その・・・吸着魔法を・・・」
ムビが赤面して、バツが悪そうに下を見ながら答える。
ルリはぐるりと首を回し、再びシノの潤んだ瞳を見つめる。
「私ですら未だ1カップしか盛っていないというのに・・・。君はいつぞやの飲み会で、私に向かって『悲しいバケモノ』と言ったね?私がバケモノなら、君は一体何なのかね?」
言いながらルリは徐々に指に力を込めていく。
「あ・・・あの・・・」
「ん?なんだね?」
「まだ吸着の反動が少し残ってて・・・あんまりされると、その・・・」
「ほう、そうかい出来たてほやほやの乳かい!それは良かったな!」
ルリはぎゅっと強く手に力を込める。
「んんっ」
「まぁいい。私も別に盛ったことを責めているのではない。ムッツリの分際で正論を振りかざすその卑しい心を咎めているのだよ。以後、気を付けるように」
ルリはパッと手を放す。
シノは胸に手を当てながらはぁはぁと息を荒げている。
「ひゅーひゅー♪朝から熱いねお二人さん♪」
ユリが茶化しにかかる。
「ユリ。この女はね、嫌がっているフリをしながらも、憧れの乳繰り合いができてひそかに歓喜しているんだよ。私にはこやつの心底が見える」
シノがギクッとする。
「そ・・・そんなわけないでしょう!?」
「な~にいつまでも純情乙女を気取っているのだね。そもそも吸着の時にムビ君に揉まれて」
「い・・・言うなあぁぁぁーーーーーー!!」
シノは赤面しながらルリに飛び掛かる。
そんな様子を見てユリとサヨはくすくす笑う。
そんなこんなで盛り上がりながら、1時間程かけて朝食を終えた。
「そろそろ出発しましょうか。ここからは魔物との戦闘も想定して、皆さんの荷物を僕が持ちます」
ムビは空間魔法が掛けられた市販の魔法袋に、全員が持ってきた荷物をまとめて詰め込んだ。
重さは100キロを超えたが、今回の魔法袋には軽量化魔法が掛けられている。
体感20キロぐらいの重さだ。
1袋2000万円する代物だが、今のムビは金が有り余っている。
先日5袋購入したが、財布はまだまだへっちゃらだった。
それから一行は、途中昼食を挟みながらひたすら歩き続けた。
野を越え山を越え、日が沈みだした頃、ついに『幽影鉱山』に辿り着いた。
「ようやく着きましたね。今日は、少し離れた場所で野宿しましょう。探索は、明日の朝からです」
一行はテントを張り、野宿の準備をした。




