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第4話 歓迎会

 ムビは一旦帰宅し、シャワーを浴びてから時計台に向かった。

 ようやく仕事が決まった安心感からか足取りが軽い。

 それともこれから美少女達と会うためか。


 うう・・・何か緊張する・・・。


 時計台は18時40分を示していた。

 約束の時間の10分前である。


 時計台に辿り着くと、明らかに雰囲気の違う集団の存在に気づいた。

 遠目でも分かる圧倒的可愛さ。

 道行く人々が全員振り返っている。


「おー♪ムビさんこっちこっち!」


 ユリが笑顔で手を振ってきた。


「すみません、お待たせしました」

「いえいえ、集合時間前だから全然です!」


 か・・・可愛い・・・!

 4人共私服に着替えている・・・!

 私服も超可愛い・・・。

 あとやっぱりめっちゃいい匂いがする・・・。


「皆揃いましたし、少し早いですがお店に行きましょうか」


 シノが音頭を取って先陣を切る。


「ねーねームビさん、『箒星』行ったことある?」

「あ・・・、いえ、初めてです」


「そうなんだー!あそこのお店で美味しいのはねぇ〜」


 話をしながら、ムビは眼前の光景に驚いていた。

 人々が老若男女問わず、全員こちらを見ている。

 仮にムビー人で歩いていたならば、誰一人として見向きもしないだろう。


 この光景が彼女達の日常なのか・・・。




「それではムビさんの『四星の絆』加入、並びにプロデューサー就任を祝しまして、かんぱ~いっ♪」

「かんぱ〜いっ!」


 かんぱーいの声がもう可愛い。

 何なんだこの強制的に人を幸せにする空間は。


「ムビさんお酒飲んでるけど、お歳はおいくつなんですか?」

「えっと、ちょうど18歳です」


 この国の法律では18歳から成人で、飲酒が許されている。


「おぉ〜、私達とタメじゃん♪」

「そうだったんだぁ〜。じゃあ今度から『ムビ君』って呼んじゃおっかな」


 距離感の詰め方が早い・・・。

 あれ、でもタメだけど皆ノンアルだな・・・。


「皆さんは、お酒飲まれないんですか?」

「あー、私達、実はまだお酒飲んだこと無いんですよね。忙し過ぎて酒場に行くのも、3年前結成したとき以来で・・・」

「明日が3年ぶりの休みなんだよね」

「てかムビ君、タメなんだし敬語やめていいんだよっ!」


 そうは言われましても・・・。

 女子と話すことすらないのに、こんな可愛い子達とタメ語で話すなんて、ハードルが高過ぎる。


「じょ・・・徐々に・・・」

「でも良い機会ですし、初めてお酒を飲んでみてもいいかもしれませんわ」

「私も初体験する〜」

「ムビ君の前で初体験見せちゃうかぁ〜」

「こらっ、言い方!」


 結局、アイドル4人はビールを頼んだ。

 生まれて始めて飲むお酒の味に、目を丸くしていた。


「おぉ〜、これがビールの味かぁ!」

「大人の階段を上ったわね」

「喉に絡みついて苦いですわぁ」

「分かるぅ〜この白くて苦い液体が」

「だから言い方っ!」




 初飲酒だというのに酒豪の気質があるのか、『四星の絆』は次々とビールを飲み干した。

 色んなお酒を飲みながら折を見て会話に交わるサヨ、暴走気味にムビに絡むユリとルリ、それを窘めるシノという感じで、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。


「飲み放題ラストオーダーになりまーす」


 店員がやってきて注文を取り始めた。


「この店の酒全部ーー!!」

「飲み比べじゃーーー!!」

「ちょっと・・・、二人とも落ち着いて!・・・すみません、ウーロン茶5つで!」


 暴走するユリとルリをなんとか止めようとするシノ。

 それを見てクスクス笑っているサヨ。

 しかし、サヨも結構飲んでる筈だけど、全然赤くなってない・・・。

 こりゃ相当に酒強いな。


 と、ムビが思っていると、不意にサヨと目が合った。

 サヨはふふっと笑い、スッとムビの横に座る。


「そういえばムビさん、『白銀の獅子』のときのお話など聞いてみたいですわ」


 ムビはギクッとした。


 どうしよう、あんまりいい思い出がない・・・。


「あっ、それ聞きたーい!」

「私も興味あります!」


 ずっと暴走していたユリとルリも話を聞く体制に入り、シノも興味津々といった様子だ。


 うわぁ、皆目をキラキラ輝かせている・・・。

 どうしよう、皆の夢を壊したくないなぁ・・・。


『白銀の獅子』の動画で元気を貰っていたというシノの言葉が思い出される。

 そんな気持ちをわざわざ壊す必要はないだろう。

 ムビは少し考えて、『白銀の獅子』のときの、できるだけ楽しかった思い出などを語り始めた。

 しかし、あまり長くは続かない。

 最近の話になればなるほど、どうしても苦労話が増えてくる。


「———という感じで、僕結構役立たずって思われてて。お荷物ってことで、パーティをクビにされちゃったんです。正直、皆さんのお役に立てるかも不安なところがあって・・・」


 途中から、ムビは『四星の絆』の顔を見れなかった。

 こんなダメな奴をパーティに引き入れて失敗だった―――そう思われてやしないかと不安で仕方がなかった。

 話し終えて、チラッと『四星の絆』を見る。

 すると、皆心配するような、怒ったような顔をしていた。


「そうだったんですね。でも、ちょっとひどいですね」

「そうですわね。あんなに素晴らしい動画を作っているのに、戦闘面だけで評価するのもいかがなものかと思いますわ」

「ムビ君がかわいそうだよー」

「よしよし、苦労したんだねムビ君」


 ユリがムビの頭をよしよしと撫でる。


「えぇっ!ちょっ・・・」


 何をされているのかよく分からなかった。

 こんなに優しくされたのは初めてだ。

 それも、こんなに可愛い女の子に。

 ムビはなんだか泣きそうになった。


「大丈夫だよムビ君♪人生は一回しかないんだから、楽しまなきゃ損だよっ。これから一緒に仲良くやっていこうね♪」


 ユリが天使のようにニコッと微笑む。

 ムビはこの子達のために、一生懸命頑張ろうと思った。


「そういえば、ムビさんのスキルって変わった名前でしたよね」

「そうそう、説明は履歴書に書いてあったけど、確かにイマイチよく分からなかった」


 俺のスキルか。

 確かにそれはよく言われる。


「うん、確かに、あんまり聞かない言葉だよね」

「どんな名前だったっけ・・・・、もう一回聞いても良いですか?」


 シノが申し訳無さそうに手を合わせた。

 このやり取りはムビにとってあるあるなので、特に気にすることはなく説明した。


「『エンパワーメント』っていう名前なんですけど、効果は『認知した対象に力を分け与える』っていうスキルです」


 それを聞いて、シノが思い出したとばかりに膝を打った。


「そうそう!『エンパワーメント』だった!」

「何か少し周りくどい効果ですわね・・・。『力を分け与えるスキル』とは違いますの?」


 そこに着目するとは、サヨさん鋭いなぁ。


「そうなんです。このスキルの面倒なところがそこで、『認知した対象』に限られます」

「『誰にでも』とはまた違いますの?」

「はい。『認知』の定義が3つあって、①名前を知ること➁対象の姿がイメージできること③対象のことをわずかで良いので知ること、です。この3つを全てクリアすれば、スキルが発動可能です」


 アルコールがすっかり頭に回っているユリとルリは半分しか頭に入ってこない様子だったが、シノとサヨはふむふむという様子で聞いていた。


「なるほど・・・。③は、どの程度知れば良いんですの?」

「本当に、何でも良いんです。好きな食べ物でも良いし、趣味でも良いです。なんなら、ちょっと話しているところを見た、とか、本当にそれくらいで良いんです。なので、皆さんにはスキルを発動することができますが、この店の他のお客さんに対してはスキルを発動できない、といった感じです」


 それを聞いてシノが質問する。


「なるほど、スキルの発動条件は分かりました。効果についてですが、ムビさんのステータスを減らして相手のステータスを上げる、という認識で良いでしょうか」

「その認識でほぼ問題ありません。ただ、俺は戦闘の才能が全く無くて・・・。レベル43なのですが、攻撃、防御、スピードのステータスがレベル1の頃から殆ど伸びていなくて、一般的なバフの効果を相手に与えることができないんです。それが理由でパーティに残れなかったんですけどね・・・」

「でも、ステータスの譲渡自体は発動するのでしょう?『白銀の獅子』の場合、相手のステータスが高s過ぎてステータスを譲渡しても雀の涙かもしれませんが、私達はレベル5。私達にとっては、ステータスを何割か底上げできる、とても有用なスキルかもしれませんわよ?」


 なるほど、言われてみればそうだ。

 確かに、自分とステータスがそう変わらない相手になら、バフの効果が期待できるかもしれない。


「きっとそうですよ!ムビさん、今度Fランクの依頼で連携確認してみましょう」


 シノがまっすぐな眼でムビを見つめてくる。

 その眼差しには、『白銀の獅子』のメンバーのような侮蔑や嘲笑は一切含まれておらず、どこまでもムビへの信頼が込められていた。

 何だかやれそうな気がしてきた。


「そうですね、今度ぜひ試させてください」

「もし可能なら、今すぐ私の肝臓の防御力を高めておくれ~♪」


 ユリが突然ムビに抱き着いてきた。

 その拍子にユリの胸が腕に当たる。


 うわっ・・・でっか・・・!柔らかっ・・・。


「こらユリ、あんたは酔っぱらい過ぎ!」


 シノがパシッとユリの頭を叩く。


「いった!つっよ!ムビ君、シノの腕力上げてない??」

「いーから離れる!!!」


 騒いでいたら店員がやって来た。


「すみません、お会計のお時間です」

「分かりました。ほらっ、皆行くよ」

「よーし!2次会はカラオケ行くぞー!」




 カラオケボックスにアイドル4人と男子1人。

 なんという夢のシチュエーション。

 ただムビは、ユリの胸の感触にまだドキドキしていた。


「はーい!それではムビ君の歓迎会2次会ということで、臨時ライブを開催いたしま~す!」


 マイクを持ったユリが大声で叫び、耳がキンキン鳴った。


「では1曲目、僭越ながら私からいかせていただきまーす!↑↑」


 ユリがピョンと軽くジャンプした弾みで、豊かな胸が上下する。


 ・・・いかん、どうしてもユリの胸に目がいってしまう。

 そういえば、アイドルの生歌なんて初めてだ。

 一体どんな歌声・・・




 瞬間、世界が変わった。




 圧倒的な歌の上手さ。

 ノリではなく世界観を表現した、激しくも可憐なダンス。

 空間そのものを塗り替えてしまうような、情動を掴まれそのまま揺り動かされるようなーーーーーー

 ともかくムビは塗り替わっていく自分を止めることができなかった。


「はーーーい!1曲目、いかがだったでしょうか・・・ってムビ君!?」


 ムビは号泣していた。


「ムビさん大丈夫!?」


 シノが心配してムビの肩に手を添える。


「・・・ご、・・・ごめん、感動しちゃって・・・」


 アイドルの生歌、マジで舐めてました。


「あっははぁ♪ムビ君ったら可愛いのぉ♪はい、次シノだよーっ」

「わ、分かった」


 シノが前に出る。

 代わりにユリがムビの隣に座り、泣いてるムビの頭をよしよしする。


「じゃ、2曲目行きまーす」




 どこまでも透明な美しい風。吹き抜けた後に草花が咲き乱れるようなーーー




「ふー、歌ったー・・・ってムビさん!?」


 ムビは嗚咽を漏らしていた。


「あーあーシノが泣かすからぁ~」

「ちっ、・・・ちがっ・・・ムビさんごめんね?」

「はい、次私が行きまーす」


 ルリが前に出る。

 サヨがムビの横にスッと移動し、背中をよしよしする。


「ちょっ、ルリっ、それ泣き歌じゃん!?」

「いーじゃんいーじゃん、干乾びさせようよ♪」

「あら、ナニを干乾びさせるのでして?」

「サヨは黙ってて!」


 優しくされながら、激しく情動を揺さぶられながらーーー

 ムビはカラオケを退店するまで泣き続けた。

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