第37話 『白銀の獅子』とミラ・ファンタジア3
『白銀の獅子』一同は急に真顔になった。
「あ……あはは。このあと美味しい焼肉店を予約しているんです。せめて、それだけでもどうですか?」
「いや、ワシは良いよ。ルミノールでちょっと観光して帰るわ」
ミラは眠そうに目をこする。
ゼルは冷や汗が止まらない。
「……ドッキリを仕掛けたことはすみませんでした……。前任者には、ミラさんとのコラボのことを話して引き戻そうとしたのですが、強情な奴で……」
「そうじゃったのか、それは残念じゃ。そいつは、今どこで何をしておるのかのう?」
「は……はい。『四星の絆』というパーティに加入しておりまして」
「『四星の絆』?なにやら聞き覚えが……あっ!先日、お前さん方が決闘で負けたパーティじゃないか!?」
ミラが笑顔でゼルの顔を見る。
「なるほどなるほど、だからパーティ吸収を条件に決闘を仕掛けたのじゃな。どうりで、通常あり得ぬパーティランク差じゃと思ったのじゃ。……しかし、なかなか強引な手を使ったものよのう。お主ら、何やら揉めておるのか?」
「い……いえっ、そういうことでは……」
「確か、相手の勝利報酬が『二度と関わるな』では無かったか?お主ら、随分嫌われておるのう」
かっかっかとミラは愉快そうに笑う。
「しかし、それで負けるとは立つ瀬がないのう。ワシの勘では、その『動画編集者』が勝敗に関わっているような気がするぞ。ますます興味が湧いてきたわい」
ミラが出口へ向かって歩き出す。
「……ミ……ミラさん!折角ルミノールに来たのに、俺達とコラボ動画を撮らなくていいんですか!?」
「ああ、構わんよ。お主らとコラボしたところで、再生数は伸びんしのう」
「……でしたら!ルミノール散策の撮影だけでも御供させてもらえませんか?」
「いやいや、ワシ一人の方が再生数伸びると思うぞ」
「……ミラさん!俺達皆、今日のコラボ撮影を楽しみにしていたんです!帰るなんてあんまりじゃないですか!?」
ゼルが必死で食い下がる。
ミラは困った表情を浮かべる。
「あ~……。本当に申し訳ない。ワシ、やりたいことしかできないタイプなんじゃ。それ以外のことは1ミリも興味が無くての……。そういうわけじゃ、ではの」
ミラは扉に手をかける。
「ミラ・ファンタジア!!」
ゼルが大声を上げる。
『白銀の獅子』の他のメンバーは、ゼルの突然の豹変に驚く。
「……ならば、お前に決闘を申し込む!」
「……ゼル!?何を言って……!?」
ゴリが慌てふためく。
ミラはピタッと立ち止まり、振り返らずに返答する。
「ほう……、決闘とな?」
「ああ。俺達が勝ったら、コラボ撮影をしてもらう。それでどうだ?」
「ふむ……そういえばワシ、決闘はまだ一度も経験したことが無かったのう」
ミラが振り返る。
顔には不敵な笑みが浮かんでいる。
「……いいだろう、少し興味が湧いた。ルミノールには明日まで滞在する予定じゃからな。決闘は明日でもいいか?」
「あぁ、問題ない」
「ワシが勝ったらそうじゃのう……30日間、毎日ワシの動画をSNSで宣伝してくれ♪ではの」
ミラは部屋を出て行った。
「……おい、ゼル!ミラは臨界者だぞ!?勝てるのか!?」
臨界者。
人間のレベル上限、レベル100に到達した者。
世界に僅か数十人しかいない。
「ビビるな。同じA級冒険者だ。例えレベル100だろうと、4対1なら勝機はある筈だ。善戦できれば、それだけで俺達の評価は回復する筈だ。万が一勝利すれば、世界中に俺達の名が知れ渡るぞ」
翌日、決闘場には満員の客が詰め掛けていた。
戦闘フィールドには『白銀の獅子』とミラ・ファンタジアが向かい合っている。
「なんとなんとなんと!!今週は一体どうなっているんだルミノール決闘場ッ!!?とんでもないカードが組まれているじゃないかッ!!!昨日突如鳴り響いたアラームに、3万人が詰め掛けたッ!!!PVは、なんと100万超え!!!これはルミノール決闘場史上最大のPV数です!それもその筈、こんなドリームマッチが組まれているのだから!通算18勝1敗18KO、『白銀の獅子』!!!対するは……決闘初参戦!!誰もがこいつの決闘を見たかったッ!!!登録者数1000万人のモンスター『Mtuber』!!ミラ・ファンタジアーーーーーーー!!!」
会場は大熱狂に包まれた。
「おーおー、盛り上がってるのぅ♪」
ミラは楽しそうに観客席に向かって手を振る。
対する白銀の獅子は完全に戦闘モードで殺気を充満させていた。
「いいか……俺達に舐めた態度を取ったあいつに、必ず一矢報いるぞ。……必ずだ。隙があれば、遠慮なく倒しに行くぞ」




