第36話 『白銀の獅子』とミラ・ファンタジア2
「なぁなぁ、いつもどんな風に編集しておるのじゃ?」
「いや、特段変わったことは何も・・・」
「ちょっとコツを教えてくれんかのう」
「コツ!?・・・いや、ははは、どうでしょう、適当に作っているだけなので・・・」
「あの動画を適当とな!?つくづく天才よのう♪確かに口では説明しづらかろう。ちょっと編集風景を見せてくれんか?」
「えぇッ・・・!?今からですか・・・!!?」
「うむ、今からじゃ♪構わんじゃろう、ゼル?」
ゼルは苦笑いした。
「まぁまぁミラさん。今日はスケジュールが詰まってますし、それはまた今度にしましょう」
「えー嫌じゃー!ワシはそれを楽しみに今日来たんじゃ!見せてくれないなら帰るぞい」
ミラが頬を膨らませて可愛く駄々をこねる。
ミラのことだ、機嫌を損ねて本当に帰ってしまう可能性がある。
「・・・分かりました。おい、編集風景を見せてやれ」
「・・・えぇっ!?ゼルさん!!?」
「おぉ!楽しみじゃのう~♪」
新人は不安な目をしてしばらくゼルを見つめるが、観念したのか、PCを持ってきた。
「い・・・いつもこのPCで作業しています・・・」
「おぉ!この編集アプリはワシも使っておるぞ!お揃いじゃ♪」
「ははは・・・そうですか、それは良かった・・・」
「じゃあちょいと、今日制作予定のを編集してみせてくれんかのう」
「・・・わ・・・分かりました・・・」
新人はゴクリと唾を飲み、適当に未編集の動画を選択して編集を開始する。
「・・・ふむ。ここまでは、ワシと変わらんようじゃな」
新人は手を震わせながら動画を編集していく。
ミラは無言で編集画面をじっと見つめ続ける。
「・・・いやーしかし、動画編集に興味を持つなんて、ミラさんも勤勉ですねー!」
「いやー全くだ!流石トップ『Mtuber』!俺も見習いたいぜ、ははは・・・」
ゼルはさり気なくミラに話を振るが、ミラは編集作業を見つめたまま全く答えない。
撮影の間を持たせるために、ゼルとゴリで会話のキャッチボールを続ける。
「いやー、ミラさん真剣ですねぇ!ははは・・・」
ミラは答えない。
そんな状態で10分程時間が過ぎる。
「お主」
ミラが突如口を開く。
「その文字フォントを使うのか?」
「えーと、はい・・・。そうですが・・・」
「いつものフォントと違うのではないか?それに、そのフォントは少しダサくないか?」
「あっ・・・!ははは、間違えてました・・・いつもの使いますね・・・」
新人は文字フォントを探す。
「いつも使うフォントなら、お気に入りに登録しておるはずじゃろう?」
「・・・あぁ、このPCは買い替えたばかりで、実は設定が初期化してるんです・・・。また設定するのが大変で、ははは・・・」
「お主、手が震えているようじゃが、大丈夫か?」
「・・・えっ!?アッ、ハイ、ダイジョウブです・・・」
新人の手がカタカタ震えている。
手汗でマウスがビショビショだ。
「えぇっと、どれだったっけ・・・。すみません、いつも登録してるのを選んでたから、忘れちゃって・・・」
「・・・まぁよい。続けてよいぞ」
新人は震える手で動画編集を続ける。
「お主」
またミラが口を開く。
「その編集は少々甘くないか?」
「・・・あっ、すみません・・・。これは後程、更に手を加えようと思ってまして・・・」
「後程手を加えるだと?もう15分程経過したが、まだ30秒分しか編集しておらんではないか。『白銀の獅子』の動画は平均30分以上の尺じゃぞ?15時間以上かけて編集したあと、また手を加え直すというのか?そもそも、編集した30秒の動画も、いつものクオリティと比べたら天と地ほどの差があるぞ?そのペースで毎日2本の動画を投稿できるのか?」
「・・・あ・・・あはは・・・今日はどうも調子が悪いみたいで・・・」
「お主、本当に『白銀の獅子』の動画を作っておるのか・・・?」
新人は、もう限界とばかりにゼルの方を見る。
ゼルはゴリに目配せして合図を送る。
ゴリは、ソファーの裏からテロップを取り出して、大声を出す。
「・・・じゃじゃーん!ドッキリ大成功ーーー♪」
ゴリが満面の笑みを浮かべて「ドッキリ大成功」と書かれたテロップを頭上に掲げていた。
ミラは口を開けてゴリの方を見ている。
ゼルがすかさず笑顔で説明する。
「いやーミラさん。実は、一人で動画編集をしていたというのは本当なのですが、そいつが止むに止まれぬ事情によりパーティを抜けてしまいまして・・・。こいつは、新人なんです。『動画編集者』が入れ替わっていたらミラさんは気付くのか?という検証を実はしていたんです。いや、流石ミラさん!あっという間に見抜かれましたね、ははは♪」
『白銀の獅子』は全員笑顔で拍手をする。
ミラもそれに釣られて笑顔を浮かべる。
「かっかっか!なんじゃ、ドッキリだったのか!道理でな、ワシより数段動画編集が下手なもんで、おかしいと思ったんじゃ♪」
「いやー、参りました!よっ、流石トップ『Mtuber』♪」
和気あいあいとした雰囲気になり、新人もようやく安心したようだ。
「もう!ほんと昨日、ゼルさんが前担当者のフリをしろって言うから、緊張して夜も眠れなかったんですからね!」
「いやー悪かった!ははははは♪」
どうやら上手くいったようだ。
ミラのドッキリなんて、『Mtube』初なんじゃないか?
この動画はきっと伸びるぞ、楽しみだ。
ミラは笑顔のままソファから立ち上がり、背伸びをした。
「それじゃ、ワシは帰るとするかのう」
「えっ?」




